ランサーが消える瞬間、当たりが変わった。
「ちっ……やってくれたな坊主」
「……ランサー」
「てめぇ、俺が本気を出してたら負けてたぞ。いくら強くてもな、良いな?お前は結局はアーチャーの野郎と同じだ、それを忘れんなよ」
「本質はどれもこれもか……ランサー。アンタの力、借りる」
「その槍使って負けたら承知しねぇからな」
気付くと俺はランサーのクラスカードを所持していた。今のは記憶なのだろうか、それとも全く別の何かなのだろうか。
「お兄ちゃん、怪我はない?!」
「美遊、大丈夫。俺はな………隠れてるんだろ。既にサファイアから話は聞いてる、ランサーのクラスカードは渡す」
「……貴男、何者ですの」
それは俺が俺(衛宮士郎)だった頃に付き合いのあったルヴィアだった。でも、今の彼女が俺に向けるのは警戒だ。
「…衛宮志戸、魔術使いだ」
「……それで、カレイドステッキは」
「ルヴィア様、私の主は美遊様です。凛様と喧嘩ばかり続ける貴女様にはもうついていけません」
カレイドステッキに見限られたルヴィアは苦々しい顔をする。
「あの!私を貴女と契約させてください!!」
「美遊?」
「……今のカレイドステッキの契約者、確かに遠坂凛も私と同じはず。………ふふっいいですわよ!その代わり、シド!貴男の事も」
「ルヴィア、魔術師が自分の魔術を話すか?
悪いが、俺は話せない」
「…仕方ありませんわ。しかし……ふふっ美遊はまだ判りませんがシドの実力は私達よりも遥かに上!見ていなさい遠坂凛、必ずや私が、私達が全てのクラスカードを」
俺と美遊はそんなルヴィアを冷めた目で見ていた。俺達は契約する相手を間違えたと理解した。
夜、美遊も疲れたのか寝てしまう。
それでも、俺はあの時の爺さんのように縁側に座りなら星を眺めていた。
「夢幻召喚(インストール)」
持っているアーチャーのカードを肉体に呼ぶ。
だが、いや俺だからこそだろうか。正義の味方にはならないと、切嗣の理想も継がないと、それでもカレン・オルテンシアと過ごしながらも、戦い続けたせいだろう。
「…まさか……私がお前に使われるとはな」
「アーチャー、いや、オルタの方が良いか?」
「確かにな、貴様は正義の味方にはけしてならん。かと言って、俺のように全てを忘れる運命もない。貴様は…言うなれば第4の可能性だ」
「月の裏側に渡す事もない、全く別の衛宮士郎か。だからか……俺の固有結界がこんななのは
『I am the bone of my sword
(体は剣でできている)
Steel is my body,and fire is my blood.
(血潮は鉄で心は硝子)
Standing on many corpses
(いくつもの屍の上に立ち)
Imprisoned for eternity
(悠久に囚われる)
Still I seek meanin in my life
(それでも我は生涯に意味を求める)
That’s my why this body
(だからこそ、この体は)
”Infinited sword works”
(無限の剣でできていた)』
数多の骸の上に剣が刺さった世界。
月光が照らし、俺が殺した化物や魔術師の死体が無惨に放逐されたような世界。
「貴様は、何処の俺よりも酷いようだな」
「……それでも、力は貸してもらうぞ。アーチャー」
「判っているさ、クライアントの意向には従う」
オルタの意識が消えた。
だが、確信する、彼奴はもう彼女の記憶もないのだろう。
俺は、彼女の、笑顔も、剣も、全てを憶えている。
月光に照らされて、この世界では一本の剣だけが血に汚れず、美しく輝きを放っていた。
「■■■■、君に会えたなら」
俺は固有結界を解き、静かに眠りについた。
「お兄ちゃん……」
「美遊?」
まだ春先、少し肌寒い。だが、それよりも俺の腕に抱きついて眠る美遊に驚きが隠せない。
毛布がかけてあるのは、美遊がしてくれたのだろう。ガッチリと腕を掴まれ、俺が起きるには美遊を起こすしかない。
「美遊、美遊?」
「あっ……お兄ちゃん」
「おはよう、サファイア。いるんだろ」
「はい、志戸様。エーデルフェルト嬢に連絡してくれ。今夜18時、----にて夕食をと」
「わかりました」
「?」
「美遊も行くぞ」
「え、でも」
「安心しろ、服も買おうな」
俺は自分の貯金で買ったバイクを出す。
「え?学校は」
「美遊、この世界には2つの人間がいる。勉強の必要のない人間。そして、妹の方が自分の幸せよりも大切な人間だ」
「理由になってないよ!」
「兎に角、サイドカーに乗れ!サファイアもだぞ、美結に渡した鞄にでも入っておいてくれ。美遊はその鞄を離すなよ」
「了解しました」
「お兄ちゃん?」
「風になれるぞ」
「む?こらぁ!しどー!!!学校来なさい!!!」
「貴様!衛宮!!!どういうつもりだァァァァ!!!」
「藤ねぇ、一成、悪いな!今日、俺はサボらせて貰う。じゃあな!!!」
「衛宮ぁぁぁぁぁ!!!!」
「シドーーーー!!!!」
お目付役的な二人から逃げ俺はデパートに来た。
勿論、ブティックにだ。
「俺のスーツとこの子に似合うドレスを頼む」
俺はさり気なくブラックカードを店員に見せる。
「しっ…失礼します!此方でお待ち下さい!!!」
すぐに奥へと通される、これも自分で稼いだからだ。
「お兄ちゃん、どうして」
「そうか、美遊は知らないか。サファイア、教会の雇われ代行者は知っているか」
「はい、黒鍵を使い数多の……まさか」
「それが俺だ、勿論雇われだから使い捨てだ。その代わり、報酬は多い」
カレンと言峰がいる世界だ、以外と簡単に話が通った。無論、親父達に話が行かないようにはしてある。別人の戸籍で、別人の名前でだ。
「こちらです」
「美遊、行くと良い」
「うっ…うん」
「さて、俺の服も見せてもらおう」
「はっ…はい」
素晴らしい出来栄えだった、美遊は笑顔で頬を赤らめている。
「お兄ちゃん」
「あぁ、綺麗だぞ」
俺は自身のタキシードと純白のドレス。
もし、美遊の花嫁衣装を…………
お前もだろう衛宮士郎、美遊のドレス姿を見たかったはずだ。必ず俺がバージンロードを歩く美遊の姿を見せてやるからな。
「あの、値段は」
「一括だ」
「はい!」
美遊と俺は私服に着替え、今度は普通に服のコーナーに向かう。ここで下着や私服類を買い揃えないと行けない。
「お兄ちゃん、恥ずかしい」
「本当はもっと買わないとだけど今は良いか。しかし、どうしよう。布団は早くても明日だからな……」
「なら……」
「どうした?」
「………なんでもない」
静かに美遊の頭を撫でて家に戻る。
と言っても衛宮家じゃない、武家屋敷だ。
ここは俺が親父から正式に借りている。
まだ学生という事で値段は月3万、光熱費及び水道代ガスは自腹。学生が終わったら、制式に買うかとも思う。
「時間か、美遊」
「うぅ……」
「そうだよな、手伝うさ」
美遊にドレスを着せてやる。流石に一人では難しいからだ。
「ありがとう」
「お綺麗ですよ、美遊様!」
「サファイアもありがとう!」
「さて、タクシーを呼ぼう」
俺と美遊はタクシーにのり指定した場所に向かった。
「良い場所ですわね」
「冬木の街が一望でき、最高の料理もある」
「えぇ、同意しますわ」
「………美味しい」
ウェイターがノンアルコールワインを空け、俺とルヴィアのグラスに注ぐ。
美遊にはオレンジジュースだ。
「…乾杯」
「えぇ」
共に一口だけのみ、話を始める。
「貴男を調べましたわ、衛宮志戸。だからこそお聞きします、何者ですの?幼い頃に魔術師殺し衛宮切嗣に引き取られる。でも、そこからは一切魔術師として生活していた様子はない」
「そうだね、俺は名前も戸籍すら変えて活動していた。そうだな、通り名だけなら聞いた事があるはずだ。キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグの教え子ならね」
「お見通しという訳ですか、ならば聞かせてください。その通り名を」
「雇われ代行者」
「……良いんですの?」
「君達が魔術協会だからか?生憎、雇われだ。危険な任務を高報酬で受けるだけのフリーランス。まぁ、魔術協会からの依頼を受けた事はないけどな」
「…わかりました、改めてMr.ご協力お願いしますわ」
「えぇ、Mrs.あと一つ、実はこの子の戸籍がかなり面倒でな。俺の妹なんだが……Mrs.そちらでどうにかならないか?」
「お兄ちゃん?」
美遊が悲しそうな目を向けてくるが、現在美遊に戸籍がないことはまずい。
「わかりましたわ、エーデルフェルトの名にかけて必ず。そしてMr.と……美遊さんでしたわね」
「はい」
「今夜0時にあの学校に向かってもらいますわ。最初の仕事です」
「なら、せめて夕食は楽しもうか」
「えぇ…ふふっ……しかし……雇われ代行者……遠坂凛。くくっ……今に見ていなさいですわ」
「…ルヴィア様」ハァ
サファイアが柄を曲げて溜息を付いている。
……改めて、俺達は契約者を間違えたのかもしれない。
「お兄ちゃん」
「大丈夫、大丈夫だ。お前は強いし、第一俺がついてる」
そう、並行世界の衛宮士郎(俺)、美遊は俺(志戸)が必ず守るから。