俺は姉さん達の了承を取り付けた。
自分の力さえあれば、該当する人物の願いは叶えられるからだ。
「ほぉ、サーヴァントを連れてなお……」
「アサシンですか、シロウ」
「セイバー、止めてくれ。昼に来た意味が無い」
「ねぇ、シロウ。本当に私を……」
「可能性がある、あの人なら」
当時の俺は藁にも縋る思いだった。
だからこそ、母親と思える女性に話をつけに来たのだ。
「来たのね、坊や」
「うん、キャスターさん」
当時のキャスターはコルキスの王女メディア。
ギリシア神話の魔術師だ、詳しく知っているはずなんだ、魂のことなら。
「わかっているのかしら、いくら坊やでも」
「俺は……キャスターと葛木先生をもう一人の母親、父親だと思ってる。だからこそ、死んでほしくないし、殺したくない。だから……」
「坊や、何を」
俺は自分の持てる知識をすべて使った。
「投影開始」
自分の血を媒体にし、魔力を捻り出す。
手にするのは、黄金の果実。その模倣品。
女神ヘラの果樹園「ヘスペリデスの園」に生えている、かの果実の模造品。
「坊や!」
魔力だけでない、命すら持っていかれる。
だが……俺の生命など惜しくない。
俺が俺になった時点で、既に
「……それは」
「待って、お兄ちゃん……それって」
「ヘラクレスの試練、その11番目。黄金の果実。俺がやれれば姉さんにも、でも悪い。これは、キャスターさんへのだ。それに……俺よりも、キャスターさんの方が詳しい」
「そうね、模造品だけど私が限界し続ける力はあるわ。良いでしょう、坊や。何故来たのかしら」
俺は目的をすべて話した、この人に獺は付きたくないから。
「……できなくはないわ、でも、」
「……材料がない」
「えぇ、アスクレピオスが居れば宝具で」
「……待てよ、母さん。母さんの魂食いって吸血か?」
「……シロウ?」
「坊や、なんと?」
「……失言だった、忘れてく」
「へぇ………シロウはキャスターみたいなお母様が……へぇ………」
「ー!!!!!!!」
何故か言葉が話せないヘラクレスすら笑っている気がする。なんだ、この嫌な雰囲気は。
「魂食いはしてるわよ、ガス漏れ?アレがそうね」
「なら、吸血鬼は違うか。取り敢えずだ、アインツベルンはバーサーカーのヘラクレス、衛宮はセイバーのアーサー王、キャスター陣営はアサシンを召喚し、ランサー陣営はクーフーリン、遠坂はアーチャー、間桐は不明だな」
「真名も言うものでないぞ、シロウ」
「だがな、セイバー。姉さんにはバレているし、バーサーカーは姉さんが、キャスターの真名も正直わかった気がする」
「え?シロウ、キャスターの真名わかったの?」
「あぁ、ヘラクレスとアスクレピオスそれをまるで旧知の仲の様に話す存在は少ない。女性ともなればな」
「なら、何故真名を」
「俺は、キャスターに信じて欲しいからだ。キャスターも俺の灰色の世界に色をくれた一人なんだ。セイバー、無論君もだ。何もない俺に意味を……」
俺は理解したくなかった、自分には何もない事を。でも、藤ねぇ、桜、慎二、そして、キャスターが意味をくれた。
衛宮切嗣の願い、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンの救出さえ終われば、俺に意味はない。
「坊や、本気なの?」
「キャスター、スペアとして育てられている俺に、何の意味がある。俺は、この聖杯戦争の最中に死ぬことになる。姉さんなら、セイバーの願いを叶えられ、なおかつヘラクレスを裏切りもしないだろう」
イリヤ姉さんは俺に驚きの表情を向ける。
「わかるの?バーサーカーの言葉が……」
「姉さん、言葉じゃない。バーサーカーの目的は姉さんを守り抜くことだ。バーサーカーはその為なら、命すら惜しくない。その筈だ」
「バーサーカー?」
「ぐぉぉぉぉ」
頷くように首を動かし、そして吼える。
「バーサーカーの願いはイリヤスフィールの生存。しかし、私のマスターはシロウだ!それに……私はまだあの盾の」
「坊や、それに……聖杯戦争は英霊を聖杯に焚べないと」
「必要ないんだ」
俺の一言はイリヤ姉さんすら知らなかったようだ。それに……セイバーすら。
「なぜです、シロウ」
「衛宮切嗣から聞いた、冬木の災害とは彼がセイバーに聖杯に対して宝具を使わせたことで、聖杯の泥が溢れた為に起こった事だと。そして、俺は調べた。今までの聖杯戦争で、勝者は居ない。
あの中身は知らないが、泥というのはおそらくは溜まりすぎた魔力の事だろう」
「つまり、これ以上だと溢れ出る?」
「そうだ、最悪の場合は冬木の壊滅。どうなるかはわからない、ここら辺で勝者を作らないと、後々面倒だ」
「しかし!私はシロウ!貴方と共に勝ち上がると」
「……王ならば、目的を見誤ってはいけない。
王ならば、その力、そして、仲間を信じなければいけない。セイバー、俺を信じてくれ。必ず、必ず君を聖杯に導こう。例え、死んでも」
悪の敵になる、その目的は衛宮切嗣の死と共になくなった。失われた。
意味のない、空の夢となった。
だからこそ、俺はセイバーを導く存在となりたい。
「今夜、今夜よ。バーサーカーのマスター。貴女を人間にして上げる。この、コルキスの王女がね」
「…ありがとう、ねぇ、シロウ。さっきのまた出せる?バーサーカーの為に」
「ぐろぉ?」
姉さんはバーサーカーを家族だと、ならば願いに答えなければいけない。だが、まだ無理だ。
「せめて、あと2日。まだ、まだ万全じゃない。だから……それまで待ってて欲しい」
「うん、ありがとう。シロウ」
そして、俺達が向かうのは墓地。
寺の裏手に存在する衛宮家の墓。
「キリツグ………嘘つき」
姉さんは泣いている、俺はそれを慰めるすべはなく、ただ見守るだけだ。
「……ねぇ、シロウ。シロウに家族は」
「存在しない、記憶に無い両親など、存在しないと同義だ。俺は、衛宮切嗣のスペアなのだから」
「……そう、もう良いわ」
寺を出れば姉さんと別れる事になる。
無意味な事だが、それでも………
「ねぇ、シロウ。シロウも私と過ごそう、セイバーの願いを叶えればシロウは」
「……何故?」
「私はアインツベルンの当主になる、決めたわ。私はドイツの、御爺様を滅ぼす。だから……その時は手伝って。そして……一緒に暮らすの」
「あぁ、そうだな。イリヤ姉さん」
俺が振り向けばセイバーと姉さんは立ち止まっていた。
「……キリツグ」
「俺は……衛宮士郎だよ」
思えば、あの時はセイバーから見ても似てたのかもしれないな。
「……それで、なんでこっちに二人が居るんだよ」
「衛宮の名前はそれ程我がアインツベルンにとって重いのです。リーズリット」
「セラ、気にし過ぎ」
「……どうやって入ったかは聞かない。ここで生活するなら、好きなようにしてくれ。ただし、藤村大河は巻き込むな」
「良いでしょう、貴方の交友関係は既に調べています。何故、そこで彼女の名前が出ないのかも」
「……知りすぎれば死ぬのはお前だぞ」
切嗣の形見のトンプソンコンテンダーをセラに向ける。そして、ホルスターにしまうと同時に握手を行う。
「よろしく頼む」
「えぇ、エミヤシロウ」
そして夜、俺達はキャスターのいる柳洞寺に向かう途中、出会いたくない一派と出会う事になった。
「ここで出会うとはなぁ……坊主」
「舐めるなよ、俺をな」
「マスター、応戦するぞ」
俺の前に現れたのは英霊クー・フーリン。
同じように、鎧と盾を構える。
「姉さん、先に行け。俺とセイバーが戦う」
「でも」
「……バーサーカー、姉さんを守るならお前の元仲間のところへ」
「ぐらぁ」
バーサーカーは頷き、姉さんを抱えて飛び上がる。
「何故待っていた、ランサー」
「セイバー、俺もな……戦う意志のないガキを殺すつもりはねぇ。それにな、俺はそこの小僧に興味があんだよ」
「……マスターは守る」
「守られる必要はない、俺も戦えるのでな」
「行くぜ、セイバーとそのマスター!」
「はぁ!」
円卓の盾でランサーの槍を防ぎ、その隙をついてセイバーが剣戟を入れる。
この時、ランサーには真名はバレて居なかったからな、優位に立ち回れた。
「はい!あの、真名って」
「イリヤ、真名とはつまり、その英霊の名前だな。セイバーならアルトリア・ペンドラゴン。そこの見せ筋色黒クソ野郎は不本意ながらエミヤシロウという名前がある」
「ふん」
「ジークフリートやアキレウスならクロエ。お前は何処を狙う?」
「ジークフリートなら背中、アキレウスならアキレス腱っそういう事ね。弱点が」
「そうだ、真名は弱点を示す物でもある。因みにそこのエミヤシロウの弱点は遠坂凛、間桐桜、藤村大河、その他大勢だ。いやはや、エミヤシロウ。私よりも毒牙にかけた女性の数は多いと見える」
「ぐっ……貴様は!さっさと話を戻せ!」
……セイバーと俺対ランサーという図式ができていた所に邪魔をするように矢が飛んできたのだ。
現れたのは遠坂陣営、つまりアーチャーだ。
「ランサーに、セイバーとそのマスターまで?!」
「マスター、気を付けろ!コイツラは糸筋縄ではいかない」
「ちっ!アーチャー!一時休戦だ、お前はセイバーを狙いな!俺はセイバーのマスターをだ!
刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)」
「舐めるな!顕現せよ、
『偽・いまは遙か理想の城
(フェイク・キャメロット)』!」
俺が真名を解放した盾、そして背後には巨大は白亜の城が出現する。
「これは……マスター!!」
「セイバー!!行けるか!!!!!」
俺の気持ちが、言葉が伝わってくれたのだと感じた。
彼女を、俺自身を守るために存在した城。
「束ねるは星の息吹、輝ける命の奔流。受けるが良い!
─約束された勝利の剣!!!!
(エクスカリバァァァァ!!!!)」
セイバーの宝具はアーチャー、そして、ランサーを飲み込んだ。しかし、殺し切る事はできなかったのだ。
「セイバー、今のうちだ」
「えぇ、シロウ」
俺はセイバーに抱えられながら柳洞寺に向かった。そこでは既にバーサーカー、イリヤスフィール姉さん、キャスター、アサシンが待機していたんだ。
「酷くやられたのぉ、セイバーのマスターよ」
「あぁ、流石は赤枝の騎士だ。だが、お前も相当だろ、アサシン」
「ふむ、その目、死にたい男の目ではないな」
何処か此方を見透かすような若いアサシンになんとも言えない感情を抱きながら、キャスターとセイバーに手当をされる。
「英霊とやり合うだなんて……坊やは自分の身は大事になさい」
「…そうです、シロウ。それに!あの城の事も私はまだ聞いてませんよ!」
「シロウ、お説教だよ」
「まったく、怒る女は怖いとはいやはや」
霊体化して消えたアサシンを恨みつつ、反省を述べた。
「ごめんなさい。……あと、セイバー。君の、質問の答えだけれど、俺は宝具の投影もできるんだ。あれは」
「ギャラハッド卿の」
「使い勝手が良かったんだ、鎧はイメージだぞ?」
「だが……私は嬉しい、かつての仲間達と居るようで」
「…お似合いね、二人共」
「……!」
この時、キャスターに言われた一言に赤面するセイバーの写真を何故収めなかったのか。
かつての俺に対して怒りが隠せないさ。
「シロウ、あのそういうのは」
「……止めてくれ、シロウ」
二人のセイバーがたじろぎ、俺の心は壊れそうになるほどの……
「お・兄・ちゃん」
「ク……クロエ」
「話しなさい、速く」
「……忠犬、ん」
「?!」
「貴方は私のものです」
「こいつは」
「何故かしら、ここで殺したほうが後々」
「やめろ、お前たちの世界の事を俺に巻き込むな。アルトリアも、カレンも後で話すぞ。色々とな」
取り敢えず!俺達はそこから距離を縮めていった。
「良い夜ね、衛宮くん」
「………遠坂」
なのに、怒り心頭の遠坂と出会ったんだ。