しかし、ばーさーに吹き飛ばされ、姉であるイリヤから衝撃の一言が飛び出した。
「……シロウ、なんであんな事したの」
「アーチャー陣営は邪魔だ、アサシンの居場所はわかったがアーチャーは不明だった。それに間桐なら俺とイリヤスフィール姉さんだけで倒せる」
俺はイリヤスフィール姉さんから視線をのがし、淡々と真実を述べる。
「でも、同盟を」
「それに、宣戦布告をしたのはアーチャー。セイバー陣営である俺は死にかけていたんだぞ」
バーサーカーに紐で縛られ、石斧を背中に突きつけられた状態では流石に正直に話すしかない。
それに、我が姉は実に容赦がないのだ。
「私の目を見て話しなさい」
「何処か似てる雰囲気の存在と、学校でクー・フーリンと馬鹿した女にムカついた。姉さんの隣に居るし、アーチャーは外にいた。殺すチャンスだったからやった、後悔はない」
「シロウ、貴方は」
俺は悪びれるつもりもなく、言い切った。
「俺の目的はイリヤスフィール姉さんの生存だ。そして、セイバーの願いを叶えること。さっさと大聖杯の魔力を使って願いを叶えれば問題ない」
「なっ…なんですって!聖杯戦争は」
「知らないのも無理はない、遠坂時臣は敗北者だ。自身で御せるとし、人類最後の王を呼び出した間抜け、そうだろう?」
「アンタは!」
俺は遠坂凛に打たれた、その瞳には激しく怒りが滲んでいる。
「……馬鹿なんだよ、俺は……聖杯戦争に備えてきた。父親に、衛宮切嗣に全てを話された。判るか、あの泥の中で本来の俺は死んだ。残ったのは怒りと憎しみ、憎悪、悲しみ、万物を全て平等にしか見れない存在。真っ平らの世界で、変化がおきた。俺は託された。衛宮切嗣からイリヤスフィール姉さんを。そして、始めて見たんだ、光を。俺を息子の様に思い愛してくれている女性、そして……気高き女騎士を」
「なら…桜や……藤村先生は」
「……彼女達もそうだな、俺の守るべき日常だ。俺、衛宮士郎が雇われ代行者や魔術師殺しではなく、穂群原学園のルシファーで居られるファクターだ」
「……わかりました。シロウ、貴方に」
与えられた一言が俺の運命を決めたんだと思う。
殺ししかしていなかった俺の始めての勲章なのだから。
「貴方に、円卓の騎士としての役目を与えます。我が騎士として、共に戦いなさい」
「………陛下の身心のままに」
「なっ!そんなのおかしいじゃない!なんで…なんで…サーヴァントが」
「リン、シロウの存在は歪だ。だが、判る。シロウには導くものが必要なのだ。私に…私にそんな価値はないかもしれない、だがシロウに呼ばれた。求められたのなら、騎士王としてそのすべてを使おう」
俺は導きを求めていたんだ、イリヤスフィール姉さんを救ったあとの事。
全てだ、殺し合いも、聖杯戦争に備えるのも、全てイリヤスフィール姉さんの為だった。救ったあとの事など考えていなかったんだ。
「シロウ、ライダーのマスターは知っているか」
「…………話せません」
「つまり、知っていると?」
「ちょっとシロウ!お姉ちゃんの私にも話せないの?!」
「イリヤスフィール姉さん、話してもいいが遠坂凛が何もしないことが条件だぞ」
「ちょっと、それどういう意味よ」
俺はこの時に全てを話した。
「陛下、イリヤスフィール姉さん、俺がこの聖杯戦争の為に備えてきた事は知ってるな?」
「えぇ、シロウ。貴方は何度もそう話していた」
「全ての聖杯戦争の状況を調べ、今回の聖杯戦争が異常であることも理解している。本来なら後50年は後だったのだから」
そう、聖杯戦争は60年おきに起こるのだ。それが、たかが10年でおきた。
「ライダーのマスターは……間桐だ」
「なっ!」
「マキリ・ゾォルケン……アインツベルンにはそちらの方が良いか」
「……シロウ、続けて」
「俺が桜が間桐だと知って付き合っているのには理由がある、偽りの日常を俺に与えてくれる存在の一人だから、そして…だ。マキリ・ゾォルケンによって作られた偽りの聖杯だから。もし、危うくなれば聖杯戦争が消える、代行者なんでね、マキリ・ゾォルケンごと、間桐桜を殺そうとも考えていた」
その瞬間、平手打ちが迫った。だが、俺は逆に遠坂の手を強く握り締め、苦しませる。
「衛宮君…貴方は」
「馬鹿だなぁ、捨てた妹の事を…桜が間桐でどんな生活をしているかも知らないくせに」
「!」
「……知ってるか?桜はな、幼少期から虫に陵辱され、辱められ、心すら壊れている。救ってやりたいが、力が無かった」
「アンタは……なんで…なんで…そこまで」
「情報収集は大切だ、敵を仕留めるにもな。だから教えてやる、サーヴァントは知らんがマスターは間桐桜、だが慎二も怪しい」
「何を…彼奴に魔術回路は」
「…イリヤスフィール姉さん、この馬鹿。やはり脱落させよう、仲間にしていても、使い道はない」
「シロウ、駄目よ。いくら滑稽でもね」
「シロウ、どういう事です?」
「陛下、サーヴァントの方々はご存知でないと思います。聖杯をアインツベルンが、冬木の管理を遠坂が、令呪を作ったのはマキリなのです。つまり、抜け穴もある。令呪を作った本人がいるんだから、死なずに、何百年も生きながらえている。マキリ・ゾォルケンが」
俺は遠坂に落胆した、うっかりではなく落胆だ。
もう少しマシだと思っていたんだが………
「…どうするつもりだ」
「マキリ・ゾォルケンの弱点も調べた、桜の助け方も頭の中で計画ができている。後は戦力なんだ」
「待ちなさいよ、慎二は」
「生憎だが、慎二には死んでもらう。親友だが、やり過ぎた」
「何を」
「俺は救いを知らない、殺すことでしか救えない兎に角だ。サーヴァントの敗退は精々一で終わらせたい、まぁ、ランサーでだ」
「…シロウ、」
「キャスターも味方である。守る、救うは全てに与えるものではない。限りある一部の存在に与えるものだ。慎二はその一部から外れた。それだけだ」
正義の味方は既に死んだ、残ったのは殺戮マシーン。
「さて……聖杯戦争も長引かせるつもりはない、俺はこの件を素早く終わらせたい。そして、アーチャーと殺し合う」
「シロウ、まだ言うの?」
「仕方ないだろう、残った敵対サーヴァントはアーチャーだけだ」
その時だった、俺は頬を打たれた。
「ねぇ、シロウ。私、言ったわよね。家族として、弟として貴方をアインツベルンに連れて行くって。ふざけないで!まだ、まだキリツグのスペアだと思ってるの!いい加減にして!私を救ったのは…お母様やキリツグじゃない!シロウ!貴方なの!貴方は私の弟!弟なら姉であるこの、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンに従いなさい!」
「……」
このとき、俺は何故か鎧を投影しイリヤスフィール姉さんの前に跪いていた。
「やめて!私が欲しいのは忠誠じゃない!騎士じゃない!家族なの!お願い………やめて…………」
「…イリヤスフィール、シロウは恐怖や悲しいといった感情がわからないそうです。シロウは私のマスターですが、イリヤスフィール。決めました、私はシロウを生かす。そして、イリヤスフィール、貴女も生きるべきだ。貴方達二人は、この世界で幸せになる権利がある」
「■■■■■…」
バーサーカーもそうだと言うように頷いている、それをアーチャーは辛そうに見ていた。
「……今、できたな。俺は……人間らしく……笑いたい……泣きたい…人間になりたい」
この願いが俺の『原典』だ。この日に人形である衛宮士郎から人として生きる事を願った衛宮士郎という個人になった。
それが叶うかどうかは判らないが、当時の俺はただ真っ直ぐにそれを聖杯に願おうとしていたんだ。