『普通の人間になりたい』
心から笑え、涙し、感情をぶつけ合える存在に。
人間とはそういうものだと知っていた、だが、自分は違った。
「…そう、良いわよ。最後に勝つのは私だもの」
「どうせライダーの討伐までだ。それが終わり次第、お前のサーヴァントは殺す」
殺意や悪意というのもは何処からともなく溢れ出る。
だが、俺は一貫して目的は変わらなかった。
翌日、学校で俺は隠し事はせず親友、間桐慎二の前に立つ。
「屋上で話なんて…なんだよ、衛宮」
「慎二……そうか、これが哀しみか。其れ程までに俺はお前を親友だと思っていたのか」
「あっ?なんだよ、衛宮のくせに。お前は人を嘲笑う堕天使だろ?何時ものノリはどうしたよ」
会話が弾む、軽口と軽口の語り合い。だが、俺は何も変わっていない。
「…悪く思うな。せめて、お前への安らぎを」
「シンジ!」
黒鍵を構えた俺にダガーが振るわれる。
無論、慎二じゃない。間桐の呼び出したサーヴァントライダー、メデューサだ。
「…衛宮!お前」
「外道を殺すもの神父の努め。主よ…いや、俺の様な傭兵が神に祈るのは違うな。友としてお前に死を贈ろう」
「ライダー!」
「…セイバー」
慎二は叫ぶようにクラスを叫ぶが、俺はただ淡々とした声で呼ぶ。
「まさか、本当に慎二がライダーのマスターだなんて!あり得ないわ、魔術回路も無しに」
「マスター!話している場合じゃないぞ、ライダーを仕留めるのだろう!」
「衛宮、お前も僕を侮っていたんだな!魔術が使えないこの僕を!」
「侮る?いや、お前を最も警戒していた。桜を利用し、常に変わりない日常を送らせる。だが、元々間桐の存在を俺が知っていたからだ。判るか、俺は今ここで安堵している。お前という障害を排除できること。そして、お前に間桐臓硯の死を手向けに送れることを」
「……衛宮、一つだけ。お前は間違ってる、僕は魔術は使えない。でも、お前は常に僕に言ったな」
「流石だ、慎二。俺もこの結界には気付かなかった」
慎二は天才だ、魔術の才能はない。
俺は人を殺す事、人以外を殺す事にはスペシャリストだ。
絡めても勿論使う、だがソレは魔術を使用しない物に限る。
だが、慎二は魔術回路がないなりに魔術を研究し、隠し通す術を見つけたらしい。
「慎二!アンタ…何考えてるのよ!こんなの……生徒全員の命が」
「親友、だが俺がその程度で止まるとでも?俺は生徒全員の命を捨ててもお前を殺す」
「あぁ、衛宮。お前ならそうするだろう、ライダーのコレも発動にあと一手必要だからな。でも、衛宮。お前じゃなくて遠坂なら?」
「セイバー、アーチャーを牽制!」
「……あぁ、最高だ。親友、お前は……俺の最大の障壁だよ」
「ちぃ……衛宮君!!私は冬木のセカンドオーナーとして」
「雇われ代行者としては倒さねばならない。そこに、何れ程の犠牲が成り立つかは勘定に入っていない」
俺の心が動くのはやはり、慎二と戦っている時だ。
怒り、妬み、負の感情をぶつけられ競い合う。
そして今、その境地、殺し合いと言う立場にいる。
「ライダー、僕を連れて逃げろ!」
「逃さんさ」
「ちぃ…」
俺は鎖を投影し、遠坂を封じ込め慎二の前に立つ。
「なぁ、慎二。俺がお前を侮辱した事が一度でもあったか?
一度でも、お前を下に見た事があったか?俺がお前を親友と呼んだのは、お前が天才でありながら努力し常に俺の先を示したからだ。俺は天才ではない、衛宮切嗣という男のスペアとして造られただけだ。そんな俺が、お前にだけは負けたくなかった」
「あぁ、衛宮。でも、何時も僕が最後には勝っていた」
「…黒鍵は外道を殺すための物。だが、神父たるもの話を聞かないで殺すことはせん。何故、魂喰いを行う。何故分かり易い事をする。この術が使えるのであれば、それこそ交差点や駅で人身事故として処理される様に仕向ければ良かった。学校に仕掛ける事はおかしい。更に、高度な隠蔽までしていてな」
「衛宮、お前の方が外道だぞ!僕も思いつかなかった!最低最悪だ!」
そう叫ぶ慎二だけでなく、遠坂も睨み、セイバーも何処か暗い顔をしていた。
「あぁ、慎二。俺は最低最悪の人間だ、幼少期から桜、藤姉、お前、皆の居る日常の裏側で魔術師を殺し、化物を殺し、たった一つの目的の為に生きてきた。そうだろ、親友」
「……そうかよ、桜は、彼奴はお前を本気で思ってるぞ」
「こんな壊れた男をか……だが、それとコレとは別だ」
「……ライダー、くそ……これで僕は敗者だな」
「何を」
「桜を守れ!あの悪魔みたいな爺から!
そして、生かせ、あの生人形を!普通の少女として!」
「…シンジ、貴方は」
慎二の持っていた偽臣の書が燃え上がった。
「待って、お兄ちゃん。そのギシンノショ?って何?」
「あぁ、クロエ。そうだったな、令呪…の説明も必要か。
サーヴァントに対する絶対命令権が令呪だ、遠坂。見せてやれ」
「はいはい、これよ」
遠坂Cは自身の右手の甲に現れている令呪を見せた。
何故か、二画しか残っていない。
「何よ、言いたいことでもあるの?」
「…何故か一画消えているが、令呪は本来奈良三画あるんだ。
その一画を利用して作るのが偽臣の書だ。これがあれば魔術師でなくてもサーヴァントを使役できる。だが、キャパシティがあってな、令呪1画以上の命令をされると燃えるんだ」
「…あの時、慎二は本気で桜を」
「俺は慎二の親友だったから解るが、彼奴はまともだった。
間桐という悪魔の家で、出来損ないと言われながら、魔術師でないと劣等感を抱きつつ、最後まで善性は捨てなかった」
「でも、そのシンジさんは」
「あぁ」
ライダーは慎二の命令で何処かに転移された。
その目的地は予想できた、だが俺の目的はライダーの敗退だけじゃない。
「…シロウ、止めろ。もうこの男は」
「陛下、具申申し上げます。私は、神を信仰も、信頼も、信用もしておりません。しかし、たった一つだけ、代行者として変わらない契があります」
俺は巨大な鎌をその時に投影した。
まるで、死神が命を刈り取るときに使うような大鎌を。
「外道を生かすことはしないことです」
「…あぁ、だよな。ほら、せめて一思いにやってくれ」
「…恐怖もなしか」
「衛宮、桜を救え。お前ならできるだろ、桜を救って…あの、蟲を!間桐臓硯を殺してくれ!」
「…地獄で待っていろ、必ず送ってやるさ」
「あぁ、約束だ」
俺はその言葉を慎二に伝え、首を取った。
一撃だ、苦しませず、死んだことも思わせない。
俺にとって、間桐慎二は親友だったんだ。
「シロウ、判るか。今、お前は泣いている。泣いているんだ」
「…そうか、そうか……コレが…コレが悲しみ。あっ…ぐぅ……くそ……何故だ。何故、俺に話さなかった。何故だ…!」
俺は泣いた、初めて感じた感情だった。
キャスターに感じた親愛でもない、この時仮初の友情が真の友情に昇華した。
「……マスターの間桐慎二は死んだか、だが」
「うそ…じゃあ、桜が」
「陛下、ご許可を。我が友の最期の頼みを聞くことをお赦しください。我が日常を守る事をお赦しください」
「…シロウ、わかりました。イリヤスフィールとも話さなければ。それに」
「救うのであれば彼女(キャスター)の協力は不可欠です」
「何よ、二人で密談?」
「別に、そう言うわけではない。」
「じゃあ、」
「……遠坂凛、セイバー陣営衛宮士郎から冬木のセカンドオーナー違うな、遠坂桜、間桐桜の姉である貴女に同盟を申し込む。報酬は間桐の魔術の全て………目的は桜の救出と、間桐臓硯の殺害だ」
俺はこの時、本心から遠坂凛個人に対して同盟を申し込んだんだ。