「ぐっ……」
消えていったランサーの攻撃で身体はボロボロであった。
いくら蘇生魔術を仕込んでいたと言っても、
肉体そのものにダメージはある。
「うそ……英霊を……現代の人間が」
「あは…凄い!凄いわよ!シロウ!
クー・フーリン、バーサーカーでも本気なら苦戦する彼を!
アハハハっ……良いわ!良いわよ!」
投影していたロンギヌスの槍が霧散する。
今回、真名の解放はしていないが本気で魔力を込め、
ランサーに一撃を放ったはずだ。
だが、返り討ちに遭い卑怯な方法で生き延びた。
「……」
「衛宮君?」
「……クー・フーリンよ、安らかに」
宗教も異なっており、神を信仰もしていないが、
それでも戦った相手への敬意を忘れることはしない。
ランサーは偉大な先人であった。
そんな彼と刃を交える事が出来たのだ。
感謝し、いっときの平穏を祈るのも構わないだろう。
「………衛宮君、貴方は」
「遠坂、桜をお前の家に置いてはいけないか?」
「それは」
「……俺は彼奴の兄を、慎二を殺した。
そんな奴と共に居るよりも、実姉と共に生活する方が良い」
これは俺の本心だ。
「わかったわ、それで聖杯戦争はどうするの?」
「それは………」
「バーサーカーの願いは姉さんを護ること。
聖杯戦争が無くとも、姉さんはバーサーカーの維持も出来る。
キャスターは俺が投影した禁断の果実で対応可能だ」
「となると、私か貴方ね」
「俺の願いは人間になる事。
悲しみ、笑い、怒れる人間になる事。
破綻者ではなく、ただの一般人と同じ感性を持ちたい」
「……それは」
「そして、その願いは捨てられる。陛下の願いが叶うのなら
俺の願いなど捨て置く」
「……お前は正義の味方に」
「…正義の味方か、そんな存在が居ても世界は変わらんさ。
必要なのは悪の敵だった。だがな、正義の味方も、悪の敵も、
どこにも居ない。そんな人間は居るはずがない。
成れるはずがない」
「……本心か?」
「正義の味方だった男は結局、俺をスペアにした。
俺の繋いだ物は姉さんに渡した。俺には不要だ」
このときのアーチャーの顔は何処か驚愕しながらも、
笑っていた様に感じて見えた。
「その答えは忘れるなよ」
「……今夜は終わりだ。姉さん、古城まで」
「そうね、今日は古城に泊まりなさい。
幸い、客間もあるし」
「姉さん、それはできない。飢えた虎の為にも武家屋敷に
居なければ」
「ししょーね、確かに飢えた虎だわ」
「ししょー?」
この時、本当に驚いた。
知らないうちに知らない関係が出来上がっていたのだから。
「私は戻るわ。宗一郎様が待ってるから」
キャスターが帰り、そのまま遠坂の方を向く。
「……ブルジョワジーめ」
「遠坂、明日食べるものが無ければ来ると良い。
食事は出そう。君との決着もあるしな」
「……私のアーチャーが勝つわ」
「……シロウ、あのアーチャーの相手は私がします。
貴方は私の臣下として十分以上の働きをしました。
次は私が、王が示す番です」
「はっ…」
あの時、受けた言葉。立ち振る舞い、全てが理想の君主だった。
陛下のやり直しという願いを知っているが、それでも判る。
円卓の騎士は騎士王の配下となれた事を喜んだ筈だと。
そして、翌朝。案の定、飢えた虎が訪ね、気づくと衛宮家に
葛木夫妻、遠坂姉妹、衛宮家、アインツベルン家、藤村。
俺の知り合いが大集合していたのだ。
その時、聖杯戦争もなくただ教師と学友。家族。
そんな魔術の入り込む余地のない日常があったのだ。
「……こうしてみると、葛木先生がマスターとは思えないわね」
「そうね、宗一郎様に魔術の才能は無いもの」
「……遠坂が魔術師とはな」
「俺は知ってましたもんね、先生」
「……戦い方を教わりに来たからな」
「……暗殺者に師事するって衛宮くん。貴方、何してるのよ」
「世界中を股に掛け、人を害する人ならざる者達を殺している。
ついでに義理母さんに料理を教えている」
「義理母か?」
「メディアさんは……その、母性が凄いので。
葛木先生も義理父さんと呼びましょうか?」
「…かまわん」
「ちょっとシロウ!お義父さんはキリツグでしょ!」
「……ちょっと違うかな?」
そんな日常が続く、続けば良いと思っていた。
「夜中に酒か?不良め」
「……やけ酒だ。
一番殺したい相手の正体を気付いちまった」
テキーラの酒瓶を煽りながらの月見酒、
隣には赤い見せ筋がいる。
「ほぉ……」
「お前は随分と弱い、投影の精度も俺より下だ。
なぁ、衛宮士郎」
「黙れ、衛宮士郎。貴様がおかしいのだ」
「……おい、弓兵。お前は正義の味方ってか?」
「そうだな、私は……正義の味方を選択した」
「くだらない、正義の味方も悪の敵も、無価値だ。
結局、衛宮切嗣のスペアに過ぎない」
「……それだけお前が私にならないと想像できる」
「おい、俺は聖職者でもあるんだぞ」
「聖職者が酒か?」
「違う、神の水だ。神聖な物だ」
本来ならワインだろうが、酒は酒だ。
「……ふぅ……」
考えたら、この時点で正義の味方になるはずが無いんだ。
だからアーチャーの機嫌が良かったんだろう。
「…うそ」
「ほお……お前がデレるとは」
「え?お兄ちゃんの何処がデレてるの?」
「私のことをアーチャーと呼んだ。機嫌が悪い時や普通は
見せ筋、色黒野郎、性格下半身、他には」
「…此処で脱落するか?正義の味方」
「と、この様にアーチャーとは呼ばない」
「………スピア・オブ・ディスティ」
「ガンド!」
「……遠坂を俺が傷付けられる訳が無い。
話を戻す」
そこから聖杯戦争は一時、停滞していた。
まぁ、それを絶対的に許さない陣営が一つだけあったのさ。
それが、英雄王ギルガメッシュとそのマスター。
言峰綺礼と言う奴等だ。
「どうなったの?」
「……翌日にイリヤ姉さんが殺された」
「え?」
その日の朝、笑顔で街を共に歩いていたイリヤ姉さんは
その日の夜に殺された。何があったのか、
何が起きていたのか、それは想像に難くなかった。
いくつもの刃物によって行われたであろう傷跡。
両目を抉られ、『バーサーカー』『バーサーカー』と、
ただ己のサーヴァントを呼んでいたのさ。
「姉さん……姉さん!」
「しろ……ご…………ね」
「…………シロウ、それは」
「泣いている……悲しい………そして、
これが……憎悪か」
俺はその日に心の底からの怒りを理解した。
普段のように演じるだけの怒りではない。
アーチャーに感じた嫌悪感からの敵意ではない。
明確な怒りと憎しみ、殺したいという殺意。
「衛宮くん、決着を」
「遠坂凛、そこを退け。義理母さんに会う。
そこを退け!」
「なによ……何が」
「………姉さんが殺された。
俺は、俺は殺した奴に心当たりがある。くそ……
くそ……………クソぉぉぉぉぉ……
怒り、憎悪、憎しみ、アハハハ……そうか……そうか……
これが闇か………嗚呼だからこそ、守らなくては。
悪魔から……」
黒鍵を投影し、護るために柳洞寺へ向かったが遅かった。
だが、山門に居るはずの男が居なかった。
折れた刀だけが残り、山門は痕跡すら残っていない。
嫌な予感は直ぐ当たった。当たってしまった。
柳洞寺は既に血塗れだった。親友らは無惨に死に、
義理母と尊敬していた女性とその夫は抱き合いながら死んでいた。
「坊や………遅かったわね……」
「待て…消えないでくれ……俺はまだ」
「宗一郎様が居ないのに……………私は」
キャスターは俺の腕の中で死んだ。
愛する人を思いながら、絶望して死んだ筈だ。
この時、俺の中に有ったのは報復心だけだった。
感覚で知っていた、感覚でわかっていた。
誰が犯人で、何故この様な無価値なことをするのかを。
俺は令呪に破戒すべき全ての符を突き刺し、陛下に手渡した。
「えぇ、私に令呪を移植しパスだけを繋ぎ己で後を
過ごせるようにと」
「今思えば、大切な家臣いや男を失うところだった」
二人のセイバーからお叱りの視線が向けられるが、
俺は変わらない。
「やはり来たか、衛宮士郎」
「言峰………お前じゃないな。あの人は何処だ」
「あの人?誰の」
「金髪の王、あの人は何処だ」
「ほう、我の事を王と言うか」
それはジャケット姿ではない。
金色の鎧を身に纏い、全てを威圧する王。
「懐かしいですね、あの時。
僕は貴方を見てると素晴らしいと思いました。
偽物さん」
「……今でも殺したいな」
話を戻す。
「王、いや暴君か。何のためだ、王よ。
何故、王ならば民を殺す。国あっての王だろうに」
「ほぉ、貴様はセイバーの従者に落ち着いたと思ったが」
「……導きが欲しかった、スペアで居るのが辛かった。
だが、もう俺はスペアじゃない。金髪の王よ、俺は
己の報復心により貴様を討つ」
「くっ…クハハハ!我を討つと?雑種、良く吠えた!」
「俺は神も、悪魔も信じない。
俺が信じるのは、俺の力と身体。そして、この身体の奥底から
湧き出る報復心だ」