「投影開始」
「ほぉ、正面から殺しに来るか。雑種?」
俺はその時、初めて怒りに任せて戦うという事をした。
怒りに任せて言うが、正確には違う。
本能に、野生に任せて戦うことにしたのだ。
獣とは本能に準じて生きているものを指す。
そして、本能、特に危機察知能力と狩りにおいて、
人間はその本能を忘れてしまっている。
だが、遺伝子の奥底には常に本能が眠っていた。
俺は黒鍵で本能の叫びに任せ、英雄王と戦った。
「雑種ではなく、まるで獣だな!
良い…良いぞ!道化だ!くくっ…フハハハごぶっ…」
「慢心してんじゃねぇ」
高笑いをあげた英雄王の顎にメリケンサックをつけた
状態でアッパーカットを入れた。
黒鍵だけで戦う馬鹿は居ないんだ。
二手、三手先を読むことが必須だ。
「ふふっ…良いぞ!良いぞ!あのフェイカーとは
違う!貴様、その拳、その力!
己の肉体を鍛え上げて手に入れたものか!」
「貴方に言われ、神を信じもしない異端者だ。
神ではなく己を信じる、己が信じる者を信じる。
俺を導いてくれる者を信じる!
俺に愛をくれた人たちを信じる!
そして!そんな人達を奪ったお前を…殺す為に来た!」
それは正面から王の生命を奪いに来た殺戮者。
英雄王にとって、それは泥臭く、意地汚い。
だが、その輝きはかつてのウルクの民の怒りに等しい。
復讐、しかしその復讐が人形を人間にしたのだ。
俺はそれだけは感謝している。
「吠えるか!」
英雄王は宝具を全方位から射出しながら俺を殺そうとした。
でも、何故か当時の俺はそれを回避できたんだ。
まるでわかっているかのように、最小限の動きで、
宝具と宝具の合間を縫って、英雄王を殴り続ける事が出来た。
英雄王も自身に被害が及ぶ距離じゃ、宝具の射出はできない。
常にゼロ距離で、俺は拳を英雄王に叩き付けていた。
「貴様…何故だ!何故、貴様のような」
「俺は今スッキリしている。
考えるまでもない、お前を殺して、
俺の何もかもが綺麗になるんだからな!」
「貴…さま!」
ーあの時は本当に貴方に負けっぱなしだった。
なんであんな事になったのか、
自分自身も理解できなかったんですからね。
その通りだ。
何故、我は負けたのだ?途中から慢心も捨てた。
エアを抜けばよかったのか?
抜かせると思うのか?英雄王共
そう、俺は常に英雄王の邪魔をし続けた。
乖離剣エアの存在を当時は知らなかったが、
それでも俺は本能的に真の宝具がある事は理解していた。
英雄王との戦いは俺に軍配が上がるはずだった。
「……悪かったわよ」
そう、遠坂が来るまでは。
「……衛宮君」
「それ以上はよして貰おうか、衛宮士郎」
「…言峰……」
「アーチャー!貴様ッ!」
そこのクソ野郎は何を血迷ったか、
言峰のサーヴァントになっていた。
桜の姉である遠坂を俺は見捨てることが出来なかった。
いや、復讐に燃える前なら出来ただろう。
敵対者としていた時なら出来た。
だが、感情を理解していた為俺は出来なかったんだ。
「コトミネッ、貴様我の邪魔を」
「邪魔ではない、ギルガメッシュ。
その衛宮士郎の存在はお前にとっても想定外だろう。
ここで脱落させるのも一興だと思ってね」
「……フンッ」
両手両足の感覚が無くなっていくのが理解できた。
だが、俺の血溜まりの中には生があった。
「……我がセイバーは何処に」
「約束された勝利の剣!」
その一撃で、セイバーは遠坂を救った。
「……アーチャー、まがりなりにも主に尽くす姿勢。
良いと感じていましたが、裏切り、
あろうことか売るとは」
「ふん、私達はサーヴァント。
勝てる方に付くのが正解だろうに」
「…リン、私と契約を。アーチャーも、英雄王も、
私達で倒します」
「出来ると……思っているのか?」
「そうよ!セイバー、敵は2騎だし言峰も」
「シロウ!何時までねている!
貴方は私の騎士ではなかったのか!
主君に戦わせるだけの騎士なのか!」
それは俺にとって激励に等しい言葉だった。
心の底から勇気と活力と希望が湧いてくる。
それだけじゃない、力を貸してくれる人達がいた。
「……ほざけ、エヌマ・エリ」
「この剣は太陽の映し身。
もう一振りの星の聖剣!
あらゆる不浄を清める焔(ほむら)の陽炎!
――転輪する勝利の剣
(エクスカリバー・ガラティーン)!」
約束された勝利の剣の姉妹剣、
それを気づいたら俺は持っていた。
「シロウ、その剣は」
「先輩方が力を貸してくれています。
皆、貴方と共に戦うと。王の為に戦うと。
行きましょう!陛下!!」
「あぁ!シロウ!」
「きっ……貴様ぁぁぁぁ!!!」
怒りで真名を解放することなく、
エアにて魔力砲をしてきた英雄王。
だが、護り手なら此処にいたんだ。
「真名、開帳───私は災厄の席に立つ……」
「其は全ての疵、全ての怨恨を癒す我らが故郷──顕現せよ、
『いまは遙か理想の城(ロード・キャメロット)』!」
「アーチャー!ここでアンタをぶちのめすわ!」
「良いだろう、元マスター!」
「リン、行きますよ!」
この時の俺は、言わば円卓の騎士達の依代だった。
紛い物の宝具じゃないんだ、彼等、
円卓の騎士達がアルトリアに力を貸すため、
英霊の座から直接干渉してきたんだよ。
「なんだと!!!!」
「知っているか、
俺達人間にとってギルガメッシュ叙事詩が
有名になり始めたのは19世紀の事だった。
バビロンの名はより知られているが、
英雄王ギルガメッシュの名は無名だったのだ!」
「きさ…ま………」
「そして、アーサー王伝説は5世紀。
知名度で言えば遥かに高く、歴史だと?笑わせる。
人間を紐解けば、ギルガメッシュは19世紀に誕生した
とも言える!」
「何をした……なにをした!!」
「アンタを俺と同じ土俵に落とした。
我が義両親、義姉の仇、ここで撃つ!!」
「この剣は太陽の映し身。
もう一振りの星の聖剣!
あらゆる不浄を清める焔(ほむら)の陽炎!
――転輪する勝利の剣
(エクスカリバー・ガラティーン)!」
夜の世界に太陽が現れた。
そう、英霊の座いや英霊とは結局生きる人間が
創り出した文章を過ぎないのだ。
俺はそれをテクスチャーとして植え付けた。
「馬鹿な……馬鹿……な」
「…死んだか?いや年の為に」
――転輪する勝利の剣
(エクスカリバー・ガラティーン)
完全に霧散したのかトドメをさし、
その場にしゃがみ込む。血が止まらない。
「くっそ………身体が重いな」
もう、回復も間に合わず血が広がっていく。
だが、そこには大切な主君がいた。
「シロウ!」
「……」
―陛下
―この少年と共に貴方様と戦えた。この喜び。
―我々も彼を助けます、ですが
俺には周りに13人の騎士達が立っているのが見えた。
アルトリアも何故か泣いている。
「そうか……私は」
もうその時何を言っていたか理解できなかった。
だが、アルトリアは俺の唇に口付けを交わしてくれた。
「……陛下、俺は」
「シロウ、貴方のおかげで私は騎士達とも逢えた。
貴方のおかげだ。私は……私は答えを得た」
「……俺は」
その後、勝者は遠坂凛として聖杯戦争は終幕した。
俺は既に人間になれていた。悲しみ、怒り、笑える。
「待ちなさいよ!言峰は」
「言峰は私とセイバーが殺したわ。
遺言が、自分の遺品を衛宮士郎に渡してくれ。
魔術回路も頼む、だからね……一応私がやったわ」
「その後からはまぁ、
アルトリアとの別れやアルトリアの墓参りをしたり
教会の代行者として過ごしていたのだが……
色々とあって、桜、凛と関係を持ってしまい…
二人と距離を置くように」
「えぇ!アンタ、子供ほっぽり出してね!」
「……養育費も払っているし、
そもそも俺を父親と言うなと話したのにお前達は」
「そうね、その頃から忠犬は私のもの。
私との子が二人、貴方方は1人よね?」
「はっ!どうせすぐ捕まえてやるわよ!」
「一応聞くが、シロウ。何があった」
「……酔った勢いでガンドされた。
そのまま、凛と桜に喰われ、当時同僚だしパートナーだった
相手に相談したら薬を盛られた」
「えぇ、そのまま結婚しました」
「そして、シロウ・衛宮・オルテンシアとなり、
俺は内縁の妻二人と正妻から逃げようとしているうちに、
老衰で死んだ。最後はカレンの腕の中だったな。
そして、気付くと衛宮士戸として魔術も何も知らない。
一般人の衛宮士郎の双子の兄として生きていた。
まぁ、何故かカレンは俺の事を知っているし、
そこのアーチャーは殺しに来るし、最愛の主君にも
会えて、新たな妹も出来た……が………
悲しい事に寿命が近い、死にかけだ。
魂食いをするまでにも堕ちた。戦えば強いが、
戦うたびに命を削る。何時死ぬかもわからん。
それが俺だ」
最後が重くなってしまったが、
それぞれの衛宮士郎が己の築いた歴史を話した。
アーチャー、原作の衛宮士郎。
美遊兄士郎、悲しい物語。
衛宮志戸、一人の人形が幸せになる物語。
「こうして話してみると、同じ衛宮士郎の癖に違いがあるな」
「あぁ、お前は一番酷いぞ。アーチャー」
「仕方あるまい、当時はそれが正しいと信じていた」
「そう考えたら、私達のお兄ちゃんは4人になるの?」
そう呟いたのはクロエだ。
衛宮士郎、衛宮志戸、アーチャー、美遊兄士郎。
「それはない、3人だ。俺は帰れるか判らん」
「おい!お前、妹にそんな言葉」
「なら希望を見せろと?俺はもう判らん。
俺はクロエの兄として、イリヤの兄として、
お前のかわりに美遊の兄としても、
俺は戦ってきた。俺は最後まで戦う。
例え、あの子達の紛い物の兄であろうと
お前も守り、俺達の世界へと連れて行く。
それが俺の覚悟だ、俺が衛宮士郎ではなく、
衛宮志戸として見せる覚悟だ。
だからこそ、アルトリア。何かあれば、
カレンと共に後を頼む」
「…………」
俺の言葉に誰も返事はしてくれなかった。