「はっ?普通の家?……クロエ、来なさい」
俺の前でクロエが普通の家という話題で話しかけてきた。
覚えているからか、胸が締め付けられる程に苦しい。
「辛い事を思い出したのか?今日は一緒に寝るか?」
「ちょっ!違うの!あの、同人誌で」
「同人誌?」
クロエに手を引かれ、ジャンヌ・ダルク・オルタと合流し食堂で会話をすることになった。
「普通の家ってどういうのかしら。
クロエがこんなの普通の家じゃないって」
「……俺に普通を求めるな。」
「そうだった……お兄ちゃん、家に居ないんだった」
「俺にとっての普通はクロエ、美遊、イリヤ、アルトリア、
そして忌々しいがカレンが居る日常だ。
戦い、傷付いて血を流し、その度にお前達に言われ、
カレンに治療される。それに」
「俺はまだ……子供を殺したことを忘れない」
クロエは申し訳なさそうな顔を俺に向ける。
いや、仕方ない。お前は悪くないのに。
「……魔術師もゴミだが、
子供殺しに普通の生活を送る価値は無い」
「……あぁもう!なんかムカつく!
僕だけは世界の闇を知ってますよって?
アンタねぇ、私なんて元は作り出されただけの偽物よ!
子供を殺したぐらい何?私もってか、
此処に居る大半が人殺しよ!
いちいちウジウジしてんじゃないわよ!」
「だが……時代が」
「時代なんて関係ないのよ!どうせ人一人殺せば殺人者!
アンタは話聞く限り、人形からあの騎士王様とかの
おかげで情緒1年生になれたってだけなの!
ガキなんだから!どうせここらへんには年増ばっかり
なんだから甘えなさいよ!」
「んぐ……しかし……」
「だぁぁぁ…面倒くさいわね、クロエ。聖女様呼ぶわよ!」
「えっ?ちょっ…オルタ?!」
「聖女?あぁ、ジャンヌ・ダルクか。
そうだな、神は信じないが、
先人に懺悔するのは良いかもしれ」
「はい!お姉ちゃんです!!」
一瞬、ほんの一瞬めを瞑った時後ろから声がした。
水着姿のよくわからない女性、だが見覚えがある。
「姉ビーーーーム!」
よくわからないが嫌な予感しかしない。
「なっ……………」
「オルタ、コレで彼は元の弟属性に」
「………あの……貴女の名前は」
「ジャンヌ・ダルクですよ、弟」
「…ならば、俺は貴女の盾となり鉾となりましょう」
「……え?」
「…聖女、事と次第によっては殺す」
「いくら愛しい君とは言え、
姉さんに手を出すなら俺は戦う」
「……死ね」
「待ちなさい!黒い私!!」
「離せ!!シロウが…シロウがおかしくなったんだぞ!!」
「ぐっ……ジャンヌ・ダルク!貴女は何をしたのです!」
「その……辛そうだと聞いて姉ビームを撃っただけなんです!
そしたら」
「……嗚呼、我が姉にして聖女ジャンヌ・ダルク。
我が剣は貴女の為、平和の為に振るわれる。
嗚呼、俺を求めてくれる。俺に居場所をくれる人、
ならば護るべき存在、俺はその為にあるのだから」
「………最悪だ、昔話はしたな。
今のシロウはキリツグのスペアとしてイリヤを守護し、
アインツベルンを滅ぼす為の人形であった時代に他ならない。
聖女、お前の姉ビームなるもので精神状態が最悪な時期まで
逆行した挙句、お前に仇なす者を鏖殺する事を是とする
一人の兵士の誕生だ。貴様、催眠でも持ってるのか!」
「そんな」
「……姉さん悲しまなくて良いさ。
俺はどうせ喜びも、哀しみも感じない怪物。化物。
だから、命じてくれ。敵を殺せと。仇なす者を鏖殺する事を」
「………何でこうなるんですか」
「オルタが姉ビーム撃てなんていうから!」
「知らないわよ!情緒1年生ってレベルじゃないわよ!
何よこれ!作り物の私よりも酷いじゃない!!!」
そして、食堂にてイリヤスフィール、クロエ、美遊の
衛宮家の家族とアルトリア・ペンドラゴン二人、
アーチャーエミヤ、エミヤ・オルタ、ランサーなど
衛宮士郎を知っているサーヴァント達が姉ビーム解除に
ついてどうするかを考えていた。
「んなの、破戒すべき全ての符か令呪で」
「出来ないのよ。破戒すべき全ての符をしようとしたら、
なりふり構わず暴れ出したのよ」
「なら、令呪を使えば」
「えっと……腕を斬り落とされるところでした」
「……マスター、私事ながらすまん」
「黙れアーチャー、貴様が死ねばシロウも」
「黒い私!アーチャーに対するその」
「ふん…それよりも、シロウだ!
こんなの…こんなの…見ている私があんまりだ!」
「あぁ…姉さん、姉さんは……きっと俺に救いをくれる。
俺に居場所をくれる、俺に全てをくれる女性なんですね」
「……坊やのこれ、もう魅了の域じゃないの」
「シロウ!お前は私の騎士で、鞘で」
「セイバー……」
「いや、そうだ!シロウ、分身しろ!前したろ!」
「そんなの……簡単にできたら」
「いやまぁ、分身っていうか
……2つの心が肉体を一時的に得るそんなイカれた現象だが」
「……お兄ちゃん?」
「…出てきたのか」
「姉ビームってなんだよ。
まぁ、心に闇しかない頃に戻されたらたまったもんじゃない。
俺は前になかなか出られないし」
そう、出てくるのはイリヤ、美遊、クロエの兄の俺。
セイバーの騎士、彼奴の夫であるかつての俺は
姉ビームにやられ、完全に終わってる。
「まったく同一の精神が2つに別れる。本来あり得ない。
緊急事態が多すぎる、俺の心に対してのな」
「黙れ、わかってるだろ!
姉さんは素晴らしい!愛しく、美しく!
あぁ!我が聖女、我が導き!我が運命!」
「いや……えぇ……どこの異能生存体だよ。
いっぺん死ぬか?イリヤ姉さん、もといシトナイ姉さん、
割と冗談じゃないぜ?英雄王に腹貫かれてくれね」
「何言ってるのこの馬鹿は?!」
シトナイ姉さんはイカれているとしか思えない俺の発言に
直ぐ様返答する。でも、この状態をどうにかするには、
もうこれしかないのだから。
「いやぁ、バーサーカーも居るしシトナイ姉さんも居る。
んで、英雄王に姉さんが殺されるあの日を再現するんだ。
今の此奴は無力な事を嘆き、哀しみ、堕ちた。
だから…此奴の力で姉さん救えたら」
「貴様……俺なのによくもそんな事を!」
「お前が壊れてんだよ!
いきなりジャンヌ・ダルクを姉とか言い出して、
私は貴方の騎士ですだと?!
俺はセイバーの騎士であり、鞘であり、番だ。
俺が仕えるのはセイバーのみだし、
何で異能生存体みたいな事言ってんだよ!落ち着けよ!」
「ジャンヌ・ダルクこそ!我が定め!我が運命!
あぁ、そうだ。きっと彼女こそ、姉にして俺にとっての
イブになってくれる女性だ!」
「本当に何された?!何だコレ!
俺ってここまで壊れるのかよ!本当にどうすれば良いんだ?!」
下手な告白じみた言葉を言い始めた自分に俺はもう、
頭がこんがらがってどうしょうもない。
「くっそ……ならお前と戦えば良いだけだ!」
「させない、僕はお姉ちゃんに…
ジャンヌ・ダルクお姉ちゃんに抱かれて眠りたい!」
「は?幼児退行もし始めやがった!?
これ以上、俺の株を下がらせて溜まるか!」
「僕はたたかう、お姉ちゃんと一緒にいる為に」
幼児退行どころか、段々と若返っている気がする。
見た目が小学校高学年程度で、聖堂教会の制服。
なんでこうなった。
「お兄ちゃんが……ちっちゃくなった」
「お前、シミュレーター来い。殺す」
「行かせません!シロウ君は私の弟です!!」
「何いってんだこの尼?!」
遂に壊れ始めたジャンヌ・ダルク。
本当になんでこうなった、同人誌の話から理解できない。
「おい、アーチャー!お前も見るに堪えんだろ!
彼奴を一度殺す、手伝え!」
「当たり前だ、このような姿これ以上見たくもない!」
「させません!弟を護るのがお姉ちゃんの務めです!!」
「俺に姉は一人しか居ない!
ましてや、貴様のような頭が残念で、
理解不能なビームを撃てるような女ではない!!」
それは俺がカルデアにきて初めて放った慟哭だった。
「令呪を持って命ずる!ジャンヌ、士郎さんを治して!」
結局、殺し合いは藤丸のおかげで無しとなった。
俺の精神の片割れは一週間、表に出てこなかった。