彼はまるであの時のように柳洞寺で待っていた。
並行世界の自分を撃ち抜き、そして並行世界で再び聖杯戦争をやり直そうとしている。
彼自身、それが無意味だと理解している。
だが、自分が知りながら自分の知らない衛宮士郎。
まったく別の未来に行き着いた衛宮士郎に興味すらあった。
だが、蓋を開けてみればありえない存在と成り果てていた。
かつて、何処かの衛宮士郎が自分の座にアクセスしてきたが、あの衛宮士郎は違う。
関わりのある英霊の座にアクセスしている。
それどころか彼等と言葉すら交わしている。
だが、それだけなら得意性で済ませることが出来たかもしれない。
「なぜ、並行世界の記憶すら読み取れる」
それは根源である。
アカシックレコードから受け取るのなら、今の衛宮士郎はどの衛宮士郎よりも強力であり凶悪だ。
「……まさか…あれで生きているだと」
「あぁ、アーチャー。シロウは生きている」
アーチャーは思案に深けっていた為か、それとも元マスターのうっかりが移ってしまったか。
「投影開始」
「貴様を殺す」
「墜ちた騎士王か、そのまま沈め記憶の中に」
干将莫耶と約束された勝利の剣がぶつかる。
セイバーの中にはアーチャーを殺すというドス黒い感情が渦巻いている。
(これが彼女だというのか……コレは………)
「跪け、アーチャー」
「ぬっ!」
干将莫耶が同時に砕かれる。
アーチャーは即座に干将莫耶を投影し直すと、セイバーに向けて投げた。
「知っている」
壊れた幻想、いくらセイバーでも壊れた幻想から逃れるのは困難だ。
しかし、最初から警戒していれば別である。
「やれやれ、このまま倒れていれば衛宮士郎の死を見ずに済んだものを」
「黙れ、私はシロウを守る。シロウは約束した、共にアヴァロンへ向かうと。共に進むと……ソレを今度こそ」
「ふっ……」
鼻で嘲笑ったアーチャー、そして冷酷な目をセイバーに向けた。
「その幻想を抱いて消えろ」
「何が!」
偽・螺旋剣。
それは通常よりも小さく投影されていた物であった。腸を抉られ、その場に蹲るセイバーをアーチャーはただ見下したのだ。
「全て遠き理想郷も無く、その傷。私が手を出すまでもないが……宝具は邪魔だな」
「ぐっ…ぐぁぁぁぁ」
セイバーの両腕を折り、アーチャーは静かに柳洞寺の入り口を見た。
「貴様……アーチャー!!!」
「殺さないのは慈悲だ」
アーチャーは高台に登ると赤原猟犬を投影し、魔力を溜める。
衛宮士郎を確認するため、一撃で仕留める為に。
「セイバー、ごめん……ゴメンな、俺が必ず殺すから」
「なんだとだが!」
赤原猟犬が志戸を狙う。だが、
「……無意味だ、アーチャー
『I am the bone of my sword
(体は剣でできている)
Steel is my body,and fire is my blood.
(血潮は鉄で心は硝子)
Standing on many corpses
(いくつもの屍の上に立ち)
Imprisoned for eternity
(悠久に囚われる)
Still I seek meanin in my life
(それでも我は生涯に意味を求める)
That’s my why this body
(だからこそ、この体は)
”Infinited sword works”
(無限の剣でできていた)』」
アーチャーとセイバーの飲み込む固有結界、ソレを見たアーチャーは怯えすら忘れていた。
放った赤原猟犬はそこら辺の死体に突き刺さり、何度目の前の存在を射抜こうとも矢は当たらない。
「ここは俺の心象世界、だが今は違う。ここの死体全てが……衛宮士郎なのだから」
「なっ!」
「シロウ!それは!」
「お前に殺された俺、セイバーに裏切られて死んだ俺、イリヤ達に殺された俺、ここに居る屍は今だけはすべて衛宮士郎だ」
「止めろ」
「そして…お前と俺が合わさった事で……見ろ。あれがお前の最後だ」
それは自分でない自分、そう言いたかった。
だが、アーチャーはできなかった。
「まさか……遠坂」
「何よ、こんな牢獄に囚われて……こんな事のためにアンタは」
「言わないでくれ」
「なんで……なんで…私を頼らなかったのよ」
「違う……遠坂俺は」
「なんで……」
「面会終了だ」
「まて!遠坂!遠坂!凛!!!」
アーチャーの風景が変わった。
それは絞首台
「…遠坂」
誰も見ていない、薄暗い部屋。
執行官の生暖かい手の感触だけが首から伝わる。
(俺は…満足だ)
違う
こんなの望んでいない
「なら、何故こうなった」
「遠坂は泣いていた、桜もだ」
「アーチャーいや、衛宮士郎。死ぬのはお前自身だ」
「貴様!」
アーチャーの目の前で執行官の顔が衛宮士郎となる。それと同時にアーチャーは首を絞められ、最後まで苦しみながら
「はぁ……はぁ……コレは」
「セイバー、大丈夫か」
「えぇ、シロウ」
アーチャーの前では全て遠き理想郷でセイバーを治療する衛宮士郎の姿がある。
「今のは……今のは何だ!」
「判らないか、なら教えてやる。お前の記憶だ、摩耗したと言いながら、失ったと言いながら、お前が最後まで刻み続けた涙だ」
「私は……」
「お前も所詮俺だ、お前の記憶も俺にはある。アカシックレコードさ、俺は俺だから、接続し、そして…今がある」
「…衛宮士郎」
「だからな、衛宮士郎。原点に帰ろう、貴様は正義の味方。俺は悪の敵、来いよ。人形」
「ふっ…良いだろう。行くぞ、衛宮士郎。最も夢に遠き男」
「「I am the bone of my sword.
――― 体は剣で出来ている」」
「永久に遥か黄金の剣
エクスカリバー・イーマージュ!!!!」
「唯一つ忘れられない絆の剣
エクスカリバー・ブライダル!!!!」
2つの贋作がぶつかり合い、光が冬木を包んだ。
それは贋作でありながら、贋作でない光の剣。
「……貴様、セイバーの剣にブライダルとはな」
「そういうお前は何だ?イーマージュ?想像?」
消えかかるアーチャーと軽口を言い合う。
「最後にだ」「なんだ」
「…俺はお前が嫌いだ、お前は正義の味方だからな。俺とは相容れない」
「ふっ……私はお前が気に入ったぞ。所々言峰のような雰囲気さえ無ければな」
「黙れ、さっさと消えろ。座に帰れ」
アーチャーが消え去るとクラスカードが落ちてくる。憎たらしい存在のクラスカード、ソレを懐にしまう。
「シロウ、大丈夫なのか」
「セイバー、大丈夫だ。アカシックレコードを見たがここで死ぬ未来は無い。ここで死ぬなら、それはある種の……いや、どうでもいい事だな」
この力も美遊から与えられたのか、それとも俺が……いや、俺は衛宮士郎だ。
それ以前など、有りはしない。
俺は、俺なんだ。