隣の部屋の前に黒ずくめがいたから金○を蹴り上げてやった   作:ハッピーエンド大好きクラブ

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次回の更新は遅いと言ったな。あれは、嘘だ。

ウワァァァァァァ……………



別に、一日に二話投稿しても構わんのだろう?


愛情

 

 

 

「黒川あかねバチボコに燃えてるわね〜、まああの内容なら無理もないか」

 

苺プロダクション事務所でルビーとダンスの稽古をしていたかなはスマホをつつきながらあかねの炎上の件に触れる。

 

「こういうのって人前に出るようになったら慣れるものなの?」

 

「多少はね。でも個人差があるから慣れない人はずっと慣れないものよ。それに今回の炎上は特殊だし」

 

今回の件は故意に相手を傷付けたりして当人がバッシングを受けて起こる炎上とは違う。

倒れそうになったあかねを、虎次郎が受け止めた結果として生まれた「事故」に過敏なネットユーザーが反応し、あかねを徹底的に批判した。

 

そもそも炎上なんてものは呆れる理由から起きることもある。

食事のマナーがなってないとか、声がキモいとか、存在そのものが気持ち悪いとか、背が高いとか、ネット配信をしているからとかで大勢の人間に批判される芸能人も世の中にはいる。

 

「私だってその日のメンタル次第では本当に死んでやろうかって思う日もある」

 

ことさら、耐性のない十代が初めて罵詈雑言の集中砲火に晒される心境は、ルビーには想像もできないだろう。

 

人生が終わったと錯覚するほどの衝撃が精神を踏み躙る。

 

恋愛リアリティショー番組は世界各国で大人気なコンテンツだが、今まで50人以上の自殺者を出している。

国によっては法律で出演者のカウンセリングが義務付けられている程だ。

それだけ死ぬほどの思いをした人達がいる。恋愛リアリティショーは自分自身をさらけ出す番組、叩かれるのは作品どうこうではなく本当の自分。

SNSは有名人への悪口を可視化し、表現の自由と正義の名の下に毎日誰かが過剰なリンチに遭う。

とても若者が耐えられるようなものじゃない。

真面目な子なら尚更だ。

 

「お兄ちゃんと虎は平気かな……」

 

「気を付けてても無駄よ。無くて七癖、有って四十八癖って言うでしょ?誰にだって癖はある。必ず燃える要因は持っているものなんだし」

 

事務所の固定電話が着信音を発した。資料を整理していたミヤコが受話器を取って耳元へ近づける。

 

「えっ、本当ですか?はい…………直ぐに向かいます」

 

ミヤコは狼狽えている様子で受話器を置いた。

 

「どうかしました?ミヤコさん」

 

気になったかなが電話の内容を尋ねてみる。

 

「虎次郎が…………」

 

「虎がどうかしたの?」

 

「虎次郎が警察のご厄介になったみたい………」

 

「「えぇ────っ!?」」

 

 

──────────

 

 

警視庁渋谷警察署で保護されたあかねは自殺未遂を図ったとして彼女の母親を交えての事情聴取が行われた。

あかねは泣きながらも我慢していたことを言葉にする。母親は番組を見るなと言われていてネットに疎いこともあってか、娘の苦しみに気づけなかった。

あかねが家族に相談しなかったのは心配をかけたくなかったからだ。

もう何もかもが嫌になって死ぬことで終わりにしようとしたとき、虎次郎が助けに来てくれた。

 

「ぶえっくしゅっ!」

 

当の本人は待合室で盛大にくしゃみをかます。

 

「あー、クッソ寒い」

 

毛布を貸してもらったが体が芯から冷えていて体が震えて止まらない。鼻がムズムズして我慢できずにまたくしゃみをすると、丁度事情を聞き終わったミヤコがやってきて頭にポンと手を置いて撫でてくれた。

 

「馬鹿……呼ばれたときは色々覚悟してたけど、よくやったわ虎次郎。誇らしいわよ」

 

「あいあい。クソババアは来てねぇんだな」

 

普通警察沙汰のことが起きたら家族がすっ飛んでくるものだが…………何気なしに言ってみるとミヤコは暗い表情を浮かべた。

 

「ついさっき連絡したけど撮影の仕事で忙しいって。社長は会議に行ってるから後で伝えておくわね」

 

「まあ予想はしてたけどな。家を離れて正解だったぜ」

 

陽東高校入学に合格したときに虎次郎は半ば強引に家を出て一人暮らしを始めていた。思いの外自炊生活は楽しいし、糞みたいな母親の側から離れられてハイになっていたが、こんなときになって来てくれないのは既に解っていたことだ。

 

解っていたからこそ腹が立つ。糞みたいな母親の息子として産まれたことに。

 

「あのクソババアが俺に愛してるなんて、俺が死んでも言えねぇだろうよ」

 

ミヤコは不貞腐れて俯く虎次郎の頭を撫で続ける。

事情聴取が終わったあかねが取り調べ室から出てきた。

 

「あかね!」

 

丁度、「今ガチ」のみんなが駆け付けてくれた。事情聴取の間、虎次郎がグループラインでこの事を知らせていたのだ。

ゆきは目に涙を浮かべてあかねの頬を思いっきり引っ叩く。そして言葉を詰まらせながらも抱きしめる。

 

「このば………なんでこ………ん!心配させて!なんでもぉ!相談してよぉ!」

 

号泣するゆきを目にしてあかねはもらい泣きしそうになる。

 

「アクア、お前も来たんだな」

 

「来ないわけにはいかないだろ。タクシー代は後で請求する」

 

「お前それで恥ずかしくねぇのかよ」

 

あかねの母親が遅れて取り調べ室から出てきて、虎次郎に深々と頭を下げた。

 

「この度は娘の命を救って下さって……本当にありがとうございました。なんてお礼をすればいいか………」

 

「あー、ちょいちょいちょい。お母さん、頭上げてくれよ」

 

そんなに礼儀正しく頭を下げられるとなんだが背筋がムズムズして変な気分になる。

頭を上げてもらうと、あかねの母親は目を赤く腫らして頬には涙が伝った跡がくっきりと残っていた。

自分の子供が自殺を図ったなんて知ったら、親であれば誰だって涙を流す。

虎次郎は、自分が死のうとしたら明美はこの人のように泣いてくれるんだろうかと心のなかで呟く。

 

「あかねは真面目で人に気配りが出来る優しい奴だ、でも嫌なこととか、辛いことは誰にも言わずに抱え込む。だからさ、これからはあかねの様子が変だなって思ったらしつこくても声をかけてやってくれよ。一番心配かけたくない人は、友達じゃなくて家族なんだからな」

 

「はい…………本当に、ありがとうございます」

 

「あかね、お前にも一つ忠告しといてやる」

 

あかねの方へ振り向いて、虎次郎は人差し指で彼女の額をツンと小突く。

 

「こんなことで母親を泣かせるな。泣かせていいのは、親孝行したときぐらいでいいんだよ」

 

最初に産まれた時点で、母親にとってはこれ以上の幸福なんてないんだから。

母親から授かった命を無駄にすることだけはしてはならない。

虎次郎は、母親に愛されているあかねが羨ましく感じた。悪いことをすれば怒ってくれるし、テストで満点を取ればしつこいくらいに褒めてくれる。

愛されていることを自覚できるくらいの愛情を注がれて育ってきたんだなとなんとなく察して、気づけば、虎次郎は泣いていた。

 

「──────あ、悪い。目から鼻水が」

 

拭っても拭っても、止まってくれない。

 

「ちっ……鬱陶しい…………あかね、お前はこれからどうすんだよ。番組、続けるのか?」

 

もう放っといて話を続ける。そうしたらあかねが指で涙を拭ってくれた。

 

「私………もっと有名な女優になってこれからも演技続けるために頑張ってきた。皆にもいっぱい助けてもらって………でもこんなことになっちゃって、でも、それでも続けたい」

 

怖さはあれど、立ち向かいたい。皆がいてくれるから。虎次郎が側にいてくれるなら、あかねは番組を降りる訳にはいかないと訴える。

理不尽なSNSに負けるわけにはいかない。あかねは力強い表情を浮かべた。

 

「……………うし!お前らも文句ねぇよな?」

 

「当たり前だろ」

 

「最初からそのつもりなんだけどなー」

 

「私達も出来るだけフォローするから…………」

 

みんなの励ましの言葉があかねのすり減った心を癒やしていく。

ここにあかねの敵はいない。全員が大切な友達だ。

 

「虎次郎君…………私を助けてくれて、ありがとう」

 

あかねは最大限の感謝を言葉に乗せて伝える。虎次郎は照れ臭そうに笑って頬を掻いた。

 

 

 

ああ────俺は救えたんだ。あかねの命を。

 

 

 

頭の中でプツリと糸が切れた音がした。途端に足の力が抜けて、虎次郎の意識は機能を停止する。

前のめりに倒れ込んであかねが慌てて受け止めた。

 

「え、ちょっ、虎次郎君!?だ、大丈夫!?」

 

声をかけて体を揺さぶっても返事がない。緊張の糸が切れた虎次郎は気を失ってしまった。

 

 

 

翌日、虎次郎は派手に風邪を引いたのだった。

 

 

 






くくく、次回は、次回はぁ…………風邪を引いちゃった虎次郎の元へ看病をしに来たあかねの話を書いてやるぜぇぇ………ウィヒヒヒヒヒ……………。
(二話連続投稿により肉体と精神に甚大なダメージを負ったワイ)


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