隣の部屋の前に黒ずくめがいたから金○を蹴り上げてやった   作:ハッピーエンド大好きクラブ

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恐怖のはい、あ〜ん

 

 

「うー……………ぁー…………」

 

風邪を引いた。激しい頭痛、吐き気、倦怠感、38度近い高熱。若干の喉の腫れ。

恐らく極度の緊張状態が暫く続いていたのと雨風に晒されたことが原因で免疫力が低下し、体調を崩してしまった。

食事を取ろうにも重力に強く引っ張られているみたいで全身が重く、料理する過程すらこなせない。

仕方ないので冷蔵庫に大量に買っていたゼリー飲料で食事を済ませることにした。

 

体調を崩したことは母親には伝えていない。ラインで風邪を引いたと送っても「そう、お大事に」的なことしか返ってこないはずだから。

ミヤコが連絡しているとは思うが、様子を見に来こない時点でそんなに心配していないということだ。

息子が風邪引いたときくらいは仕事なんて放ったらかしにする度胸を見せてほしいものだ。

 

「どうでもいいや……………あんなクソババアなんて」

 

虎次郎はSNSを開いて今トレンド入りしているワードを検索する。

そのワードは「黒川あかね自殺未遂」。

アクアが警察署にある記者クラブという各報道機関の記者へ今回の自殺未遂をリークしたことでニュースに報道され、界隈では様々な議論が巻き起こった。

 

それであかねへの批判から引く者もいるが、新たな火種に中傷は加速。

アクアがなぜこんなことをしたのか、その真意は定かではないが、少なくとも虎次郎には何か策があることを見抜いていた。

黒川あかねの炎上を、完全ではないにしろ鎮火させる策を。

 

自分も協力したいがこんな状態だと足を引っ張ることになるし、アクアからは「俺達のことは気にしなくていいからしっかり療養しろ」とラインで送られてきた。

 

「ひぶっしゅ!……………あー、頭痛ぇ……」

 

────ピンポーン。

 

チャイムの音が鳴った。誰かがインターホンを押したんだ。虎次郎はあくびをしながら配達か来たか?と考える。

 

しかしなにか注文した覚えはないから配達員ではない。またインターホンが押される。

もう面倒臭いから居留守して無視しようと決め込んだ。

 

──────ピンポーン。

 

 

 

──────ピンポーン。

 

 

 

「うざっ…………!」

 

体を起こしフラつきながら玄関へ向かう。チェーンロックを外し、鍵を開けて扉を開くとなんとあかねが立っていた。

 

「はぁ?…………黒川、なんで」

 

気の抜けた声を出して驚く。あかねは何やら食材が一杯入った袋を見せて小さく微笑んだ。

 

「看病しに来たよ。虎次郎君」

 

「…………………お前どうやって住所特定した?」

 

「アクアさんから教えてもらったんだ、体調悪くしたことも」

 

「あの中二シスコン野郎が………」

 

なんだが目眩がしてきた。復活したらアクアの顔面にエルボーをしないと。

 

「風邪移すから帰れよ。俺は大丈夫だから」

 

「でも凄く辛そうだよ?顔色悪いし……栄養のあるものろくに食べてないんでしょ?」

 

ここ三日間ゼリーしか食べてません。付け加えると二口程度で厳密にはまともな食事摂っていません。

母親でもあるまいしそんな心配必要ない。あかねに風邪を移してしまってはこっちの居心地が悪くなる。

だから帰れと突き放すが、あかねはそれでも食い下がってきた。

 

「虎次郎君のおかげで私は今生きてる。だから私なりに恩返しがしたいの、これは私の我儘」

 

「…………分かったよ。じゃあ入れよ。熱出しても知らねぇからな」

 

あかねの顔に花が咲いた。余程嬉しいのか二回くらい軽くジャンプした。

折れた虎次郎はあかねを自宅に招く。

 

「自由にしてくれて構わねぇからな。俺は寝るから」

 

命を救ってくれた相手が体調を崩したとなると自分に負い目を感じるし、世話をしたい気持ちは分からんでもない。

でもあかねはそんな負い目感じなくてもいい。どうせ夕方に帰るだろうし、寝て時間を潰そうと虎次郎は寝室へ戻ろうとした。

 

「虎次郎君、お腹空いてない?ご飯はいつ食べたの?」

 

「…………ゼリーしか食ってねぇな……多分朝飯は食ってると思う」

 

「まず熱計ろっか。はい、これ体温計」

 

わざわざ買ってこなくても…………。虎次郎はソファーに座って体温を計る。

 

ピピピッ…………『38.4℃』。まだまだ高熱だ。

 

あかねに体温計を渡すと目を点にして直ぐ様買い物袋から冷えピタの箱を取り出した。

 

「虎次郎君、これ貼ろっか」

 

「断る。袋に氷詰めて額に乗せときゃいいだろ」

 

「だいぶ古いね………冷えピタ苦手なの?」

 

「苦手じゃねぇけど……………そこまでする必要はねぇってこと────」

 

言い終わる前に額に冷えピタを貼り付けられた。ヒンヤリとした感覚が広がって虎次郎は眉間にシワを寄せる。

 

「お粥作るから、出来上がるまで寝室で休んでて。出来たら持っていくから」

 

「要らねぇよ…………」

 

「虎次郎君、無理しなくていいから。辛いなら辛いって言ってもいいからね」

 

「うるせぇよ。母親でもあるまいし、俺は大────」

 

意識が遠のく寸前で持ち直し、虎次郎は倒れそうになるのをなんとか堪えた。

あかねは言わんこっちゃないといった表情を見せた。

もう素直になろうと決めた虎次郎は大人しく寝室へ入ってベッドに潜った。

 

 

 

「虎次郎君、虎次郎君。お粥できたよ」

 

「──────ぁ」

 

いつの間にか眠っていた。寝ぼけ眼のままあかねを見るとクスクスと笑っていてティッシュで口元を拭ってきた。

 

「涎出てた」

 

「あぁ…………ありがとう」

 

お腹がぐぅ〜、と空腹の合図を出した。虎次郎はあかねに体を起こしてもらう。

時計の針は14時過ぎを指している。あかねはお茶碗によそった鶏だし玉子お粥を虎次郎に見せる。

とても美味しそうだ、お腹がより強く音を鳴らした。

 

「美味そうだな。これなら自分で食べ」

 

「ふーっ、ふーっ、ふーっ」

 

目を疑った。あかねは今、レンゲで出来立てのお粥を一口分掬い、冷まそうとふーふーしている。

 

 

────ふーふー!?ふーふー!?ふーふーだとぅ!!?

コイツ正気か!?なんでこの状況でカップルがやることを平然とやってのけるんだよ!俺は風邪ひいてっけどそこまで弱ってねぇぞ!?飯くらい掬えるぞ!?

 

 

などと考えている内にあかねが「はい、あーん」とレンゲを近付けてきた。

これはあかねの純粋な善意からくるものだ。恥ずかしいからという小生意気な理由で断るのは彼女の優しさを踏み躙るようなもの。

だから虎次郎は断腸の思いでパクッと食べた。

 

「あ、うめぇ」

 

「ほんと?良かったぁ不味いって言われたら殴ってた」

 

女に殴られるのはルビーで嫌というほど経験しているから結構だ。

だが冗談抜きでこのお粥は美味い。鶏だしをベースに作っているから味に深みがある。

その後もあ~んをされて、恥ずかしさで一杯だった。半分ほどしか食べられなかったが虎次郎は十分に満足できた。

 

「さ、ご飯も食べたし睡眠を取ってゆっくり休んで」

 

横にして布団を被せる。久しぶりにお腹が膨れたせいか、睡魔に襲われて虎次郎は一分もしないうちに眠りに落ちた。

 

残ったお粥はラップをして冷蔵庫に置いておく。これは夕方に出そう。食器を洗ったあとは寝室に入ってあかねはキョロキョロと首を動かす。

 

本棚にはいくつかの映画作品が飾られていてどれも海外のヒット作ばかりだ。

英検一級の参考書が三冊、あとは漫画本や雑誌がいくつか。

 

立川明美の出演作品が一つとしてここにはない。リビングにも無かった。

一つくらいはあってもいいはずなのに。あかねはなんとなく察しがついていた。

 

警察署で事情聴取を受けた後、待合室に出たときに偶然虎次郎の口から聞こえた言葉。

 

『あのクソババアが俺に愛してるなんて、俺が死んでも言えねぇだろうよ』

 

最初は聞き間違いだと思った。けれど頭の中に残って離れず、気になったあかねは虎次郎が口にした「クソババア」とは誰かを調べることにした。

言葉通りにいくと祖母ということになる。けれど立川明美は過去のインタビューで母親は虎次郎が中学の時に脳梗塞で亡くなっていることを明かしていた。

 

なら「クソババア」=祖母説は無い。次にあかねは明美のことを指しているのではないかと仮定した。

カメラに映される彼女は基本無口で番組等にも出たがらない。

しかし十四年前にバラエティ番組に出演したことがあり、その際に司会からお子さんが役者を目指すとしたらどうしますか?と尋ねられて彼女はこう答えていた。

 

『応援することはできません。きっと挫折しますから』

 

母親が虎次郎の夢を否定している。それはなぜ?彼女は虎次郎の才能を見抜いていた?自分の立場が危ういと危険視し、役者の道から遠ざけようとした…………。

 

「虎次郎君はとてつもない演技の才能を持ってる」

 

劇団ララライエースのあかねですら嫉妬で狂いそうになるくらいの才能がある。

 

子役時代、虎次郎は一度だけ作品に出演し、以降は姿を消した。

 

 

「虎次郎君…………お母さんに夢を否定されてたの?」

 

それも、ずっとずっと、長い間。自分よりも演技の才能があると感じた立川明美は虎次郎を演技の道から遠ざけることで、自分の立場を優位にしようとした。

そのせいで虎次郎は母親に怒りを抱き、「クソババア」と呼ぶことにした。

 

統合性を取るために無理やり繋げた設定だが、自分でも驚くほど納得してしまう。

 

詳しく調べていく内に、あかねはとんでもない事実を目の当たりにした。

立川明美は夫とは既に離婚しており、その理由がまだ一歳だった頃の虎次郎に元夫が暴力を振るっていたからだった。

 

 

虎次郎は父親から虐待を受け、数え切れないほど夢を母親に否定され、愛してるの一言さえ言われずに育った。

それがどれだけ耐え難いほどの苦痛だったか。あかねには想像もできない。

 

 

『母親を泣かせていいのは、親孝行したときぐらいでいいんだよ』

 

 

地獄の環境で育った子供が果たしてこんな優しい言葉を言えるだろうか。

人を救うためになりふり構わず走って、手を差し伸べることができるだろうか。

あかねは虎次郎の傍に座って、眠っている彼の頭を撫で始めた。

 

「私が………………支えないと」

 

 

 

────────────

 

 

 

 

ふと目を覚ます。心なしか体が軽い。虎次郎は起き上がると傍であかねが座っていることに気がついた。

 

「あか……ね…………」

 

彼女は泣いていた。こっちを見つめて静かに涙を流していた。

 

「あかね、俺が側にいるから。思いっきり泣いていいぞ」

 

「君はそうやって…………自分のこと棚に上げて…………誰にも言えずに……………孤独だっただろうなって」

 

「俺は独りじゃねぇよ。お前等が居てくれるからな」

 

あかねは虎次郎を抱き締めた。抱き締められた虎次郎は慌てる素振りを見せず、彼女の腰に手を回す。

 

「私は何があっても虎次郎君の味方だよ。辛い事は、一緒に抱えてあげるからね」

 

「………何の話だよ。お前風邪でも引いたんじゃねぇのか?」

 

泣いてばかりなあかねへ、笑いながら言った。

 

「うん…………虎次郎君のがうつったのかも」

 

 

胸の奥に広がる温かい気持ちは、風邪のせいじゃないことは確かだ。

 

 

「もう真っ暗になりそうだし、今日はもう帰ったらどうだ?」

 

「ううん。私泊まっていくよ?」

 

「────────ハァ?」

 

 

 

どこぞの小兎のような声が出た。

 

 

 






順調に依存ルートを辿っていますよあかねちゃんはぁ………。
お気に入り登録者数2000人突破記念として、虎次郎への疑問や気になっていることを活動報告で受け付けるよん。
みんな何でもいいからコメントくれよな。

例えばこんな感じ。
Q虎次郎は夏休みの宿題はどうしますか?

A毎日コツコツやって二週間ほどで終わらせる。最終日は宿題に手を出してなかったルビーのお手伝いをさせられる。

的な感じのコメント待ってます。偏見でもいいですよ。

次回は恐怖のお泊り会だじぇ。
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