隣の部屋の前に黒ずくめがいたから金○を蹴り上げてやった   作:ハッピーエンド大好きクラブ

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恐怖のお泊り会

 

 

現在時刻は19時48分。夕食は残していた鶏だしたまごお粥をあかねに食べさせてもらい、不味い薬も飲んで朝に比べると調子がマシになっている虎次郎だが、一つ問題が生じていた。

それはお風呂に入るか入らないか問題。あかねは構わないとして、風邪を引いている虎次郎が入浴しても大丈夫なのかどうかを二人は討論していた。

 

「お前の後で入る………ごほっ………!シャワーだけなら問題ねぇはずだ」

 

虎次郎の意見をあかねはピシャリと否定する。

 

「湯冷めしたらどうするの?熱測ったけど38.2℃あったよね。平熱に戻るまではお風呂には入らない方がいいと思う。ていうか顔真っ赤で汗かきまくってて肩で息してるくせによくシャワー浴びたいって言えるね!」

 

「いや…………だって……気持ち悪いから」

 

汗でベタベタするのは不快極まりない。でもシャワーくらいなら大丈夫だろともう一度言ってみると、あかねが詰め寄ってきて母親のように怒りだした。

 

「今日はぬるま湯で濡らしたタオルで体を拭きます!虎次郎君が良くなるまで私がお世話するから文句言わないで下さい!」

 

「あ…………は、はい」

 

あかねに怒られた虎次郎は縮こまって頷いた。

 

「じゃあ準備するから。大人しくしててね」

 

「お前最初の頃はもうちっと静かじゃなかったか?」

 

「君が素直じゃないから強めに出てるんだよ?」

 

「す、すみません…………」

 

あかねは寝室を出てから浴室に入り、桶にぬるま湯を注ぐ。

虎次郎は一言で表すと素直じゃないに尽きる。悲惨な家庭環境のせいだが辛いときは頼ってほしいものだ。

ほぼ育児放棄に近い状況下で育ったならああなってもおかしくはないし、そもそもあそこまで他人を思いやれる性格になれたのが奇跡に等しい。

 

「私が傍にいないと………絶対に幸せにしなきゃ…………虎次郎君には私が必要だから…………」

 

蛇口を捻り湯を止める。タオルを2枚持って寝室に戻ると虎次郎は大人しく横になってくれていた。

 

「あかね、体拭くのは自分でやるから背中だけお願いしてもいいか?」

 

「あー、うん。分かった」

 

眠ってくれていたら全部してあげたのに。少し残念に思いつつあかねは濡らしたタオルを虎次郎に渡した。

虎次郎は衣服を脱いでまずは首に濡れタオルを当てる。ほんのり温かく、気持ちがいい。首のあとは腕、腹部と綺麗に拭いていく。

 

「………………わぁ」

 

腹筋が見事に割れていてバランスの良い筋肉があかねの目を釘付けにする。

アクションドラマに出演していただけあって体はしっかり鍛えていたようだ。

シックスパックに触れてみたい欲求を抑えつつ、虎次郎から濡れタオルを貰い背中を丁寧に拭く。

じんわり汗ばんでいて虎次郎の香りがふんわり漂ってきた。

 

「────────う"っ」

 

「ん、どした?」

 

「な、なんでもないよ!」

 

慌ててタオルを再度濡らす。今のは危なかった、良い香り過ぎて理性が吹き飛びかけた。

普通汗臭いはずなのにどうして好きな匂いの類に入るのか。あかねは自分の嗅覚がぶっ壊れてるんじゃないかと疑問に思った。

 

ここであかねはとある思考を浮かべせてしまう。

 

 

今の私────めっちゃ彼女っぽくね?

 

 

体調を崩した彼氏のために自宅に向かって栄養のあるかつ食べやすいお粥を作り、あーんして食べてもらって色々お世話して、体を清潔にするために背中を濡れタオルで拭いてあげた。

こんなこと彼女以外出来るはずがない。 

 

 

つまり私は────虎次郎君の彼女!?

 

 

ブンブンブンブンッ!!!!!(頭を振って邪念を飛ばす音)

 

 

「お、おい…………どうしたんだよ」

 

振り返り虎次郎にタオルを渡す。あかねは騒ぎ立っている心を落ち着かせるために深呼吸を繰り返す。

 

「なんでニヤニヤしてんだよ…………」

 

「な、なんでもないよ………?大丈夫だから!」

 

虎次郎の役に立てていることが嬉しくてニヤケが止まらない。彼の顔を見れば見るほどやましい考えが浮かんでくる。

 

「わ、私お風呂に入ってくるね!」

 

「お、おう。ジャンプーとかリンスとか、好きに使っていいからな」

 

「……………ありがとうっ!」

 

逃げるようにお風呂へ向かったあかね。虎次郎は不思議に思いながらも体を隅々まで清潔にして新しいパジャマに着替えた。

欲を言えばシャワーを浴びたいがあかねが許してくれないし怒らせるのは嫌だから大人しくしておこう。

 

「付き合ってもねぇ女が家にいて風呂に入ってる……………」

 

考えれば考えるほど不思議な状況だ。劇団ララライの天才エースが凡人の自分を世話するために泊まりに来るなんて。

アクアとルビーの二人が泊まりに来たことは何度かあったが、それとは違う状況になんとも言えない感情を抱く。

 

彼女のファンやパパラッチとかにバレたら炎上どころでは済まない。大分危険な状況なのでは?と思考が巡るが高熱のせいで一瞬の間に焼却された。

 

「……………ゲームでもしようかな」

 

熱に浮かされると変にゲームがしたくなる。Switchライトで「モン○ン」をプレイしているとあかねがパジャマ姿で部屋に戻ってきた。

 

「お風呂ありがと、さっぱりした」

 

お風呂上がり特有のふんわりした女の子の香りが漂う。

少し湿った髪の毛、紅潮した頬、柔らかい表情、純粋に可愛いと感じた虎次郎は怪しまれないように視線を外した。

 

あかねは桶を片付けて畳まれた衣服を洗濯機へかける。

 

後は冷蔵庫からポカリを出して寝室のテーブルへ置いておく。

時計は21時を回っていた。あかねにはルビー専用の折りたたみベッドを使ってもらう。

Switchライトは案の定取り上げられ、もう寝るように催促されてしまった。

 

「風邪引いてるやつの隣で寝るのはどうかと思います」

 

「知りません。一人にすると何しでかすか分からない君をみすみす一人には出来ません。私がそばにいれば君になにかあったときに対応できるでしょ?」

 

「そうっすね…………」

 

だからベッドをくっつける。あかねにやましい気持ちなんてない、急変したときにすぐ対応できるよう近くにいないといけないからだ。

 

繰り返す、あかねにやましい気持ちなんて無い。

 

「電気消すね」

 

部屋の明かりを消してベッドに横になる。虎次郎は不服そうにしているが表情は既に眠けを訴えていた。

 

「もう寝たら?疲れてるでしょ?」

 

「あぁ…………ふわぁ……」

 

「ふふ、大きなあくび」

 

「…………あかね?」

 

「どうしたの?」

 

「────ありがとな」

 

虎次郎の口から淀みのない感謝の言葉が聞こえた。

 

「こんな俺の面倒見てくれて…………マジ、嬉しい…………俺はずっと……………ずっと……」

 

「知ってる。だから言わなくてもいいよ。君の辛い気持ちは……もう分かってるから」

 

虎次郎は「ありがとう……」と呟いて目を瞑る。少しして寝息が聞こえ始めた。頬を伝う一筋の涙を、あかねは指で拭った。

 

「意外と…………泣き虫さんなんだね…………虎次郎君は」

 

あかねは寝落ちするまでずっと虎次郎の寝顔を眺め続けた。

 

 

 

 

二日後、あかねの看病のおかげか虎次郎の体調は瞬く間に回復していった。

熱も平熱に戻り、風邪の症状が殆ど消えたことで虎次郎のテンションは爆上がり。

体の軽さを喜び、ベッドの上でジャブを繰り返す。

 

「軽い軽い!まるで重力から開放されたようだぜ!ははは!俺はついに究極のパワーを手に入れたんだー!」

 

何日もベッドの上で過ごした影響か体力がほんの少し低下している気がするがそんなものは単なる誤差だ。

走り込みを再開すれば直ぐに取り戻せる。ベッドの上で暴れているとあかねがやってきて額をお玉で叩かれた。

 

「いでっ!なにすんだよぉ」

 

「もう、風邪治った途端に調子に乗って、そんなことしてたらぶり返すよ?朝ご飯できたからリビングに来て」

 

「あいあい…………折角良い気持ちだったのに…………」

 

白だしの味噌汁にだし巻き卵、焼き鮭に味付け海苔とあかねの作る料理は全部美味い。

だし巻き卵を食べながら虎次郎は「今日で帰るんだろ?」と口を開く。

 

「────────ッ」

 

あかねの箸が止まる。言われてみればそうだ、虎次郎はもう元通りになった。あかねの顔色がみるみるうちに青くなっていく。

 

「うん…………そうだね」

 

「なんだかんだ世話になったからな。ありがとな、黒川。借りができちまった」

 

「借りだなんてそんな…………でも、偶にでいいから遊びに来てもいい?」

 

「おう、いつでも来いよ。歓迎するぜ」

 

朝食を食べ終えたあかねは帰る準備を整える。荷物を入れた鞄を肩にかけて玄関で靴を履く。

 

「じゃあ…………またね。私、次の収録から復帰するから」

 

「おう。風邪引かねぇように気をつけろよ。あと、今日は暇さえあればSNSでも見てみろよ。面白いのが見れるからよ」

 

「…………?うん、分かった」

 

外へ出てあかねは自宅への帰路へつく。虎次郎の家から離れていくと分かると自然と涙が溢れていた。

あかねは涙を流しながら前を歩く。彼のそばを離れて分かった感情がある。

 

それは──────────

 

「あぁ……………私…………虎次郎君のこと好きなんだ」

 

憧れよりも、確かな好意を抱いていた。それは、黒川あかねの「恋」。

 

 

 

絶対に離したくないし、誰にも渡したくない。虎次郎は幸せにならなきゃいけない人間だ。彼を幸せにできるのはあかねしかいない。

胸の奥に揺らめく「恋心」は、あかねにある決意をさせた。

 

「今ガチ」は次の収録で最終回。前シーズンの最終回は男女のキスシーンで幕を閉じた。

 

 

 

あかねの覚悟はもう決まっている。

 

 

 






え?38度以上の高熱出てんのにまともに会話出来てるし頭パッパラパーじゃないのおかしいだろって?
そんな貴様らには虎次郎の長所の一つを教えてやる。

耐えて耐えて、ひたすら我慢して普通のように振る舞う。

これが長所の中の一つだ。高熱如きでまいる虎次郎君ではないのだよ。
それは誰にも頼れなかった裏返しでもあるんだけどね。


次回、ついに最終回を迎える「今ガチ」。あかねの決意とはなんなのか、虎次郎の身に巻き起こる衝撃的な展開!


感想、いっぺぇくれよな!!

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