隣の部屋の前に黒ずくめがいたから金○を蹴り上げてやった 作:ハッピーエンド大好きクラブ
「皆さんご迷惑おかけして申し訳ありませんでした。頑張りでお返したいと思いますので宜しくお願いします!」
黒川あかね復帰。番組スタッフやカメラマンは彼女を拍手で迎えた。元々過激なネットユーザーのせいで起きた炎上だ、あかねに非はない。
現場の全員が彼女の復帰を心から喜んだ。今日の収録で「今ガチ」は最終回を迎える。
カメラが回り、あかねは虎次郎と二人で校庭に設置されているベンチに座って「あの動画」のことを話題に持ち掛けた。
「虎次郎君、あの動画見たよ。みんなの気持ちが伝わって、すごく嬉しかった」
「だろ?俺は何も手伝えなかったけどアクア等がお前のために頑張ったんだよ」
虎次郎が風邪から復活した日、アクア達は「今ガチ」公式アカウントに5分弱の動画をアップした。虎次郎とあかねを主体に置いたストーリー動画で、MEMちょが暇さえあれば撮っていた写真をふんだんに使い、バックにはケンゴが提供した涙を誘う音楽を。番組が用意してくれた映像データを織り交ぜながらストーリーは進み、最後はあかねをおんぶした虎次郎の写真が映し出される。
この動画は24時間後には7万RTを達成。黒川あかねのイメージを変革すると同時に、低迷していた「今ガチ」の人気を決定づけるものとなった。
動画により炎上騒ぎはある程度の収束を見せた。そういう歯切れの悪い言い方になるのは、炎上に完全な解決はないからだ。
事故だったとはいえ、悪質なユーザーから蒸し返されることがこの先何度もあるだろう。
それでも、あかねは立ち向かえる勇気をこの動画から貰った。
「もうこの番組も終わりだね。虎次郎君は気になる子はいないの?」
「んー、元々進んで出たわけじゃねぇからなぁ。どうだろ」
歯切れの悪い返答だ。なら好きな女性のタイプはないのかと気になったあかねは言葉を続ける。
「タイプの女性はいないの?」
「タイプ………かぁ。そうだなぁ…………明るくて、めっちゃ元気で天真爛漫な奴が好みかな」
頭の中に凶悪な嘲笑を浮かべるルビーの顔が浮かぶ。
「あとは…………俺の好きなところとか、嫌いなところとか、駄目なところとか、そういうの全部ひっくるめて…………ちゃんと愛してくれる人、だな」
ルビーの顔が陽炎のように揺らめいて、消えていく。そこから母親の姿が現れた。園児だったときに帰り道で見つけた良い感じの花を引き千切って、母親にあげたときに見せてくれた温かい笑顔を思い出した。
思えば母らしい笑顔を見たのは、あの日だけだ。
「俺からしたらMEMちょみたいなアホ面全開の奴も嫌いじゃな────」
アクア達とキャッチボールして遊んでいたMEMちょが地獄耳で聞きつけた「アホ」に反応し、ボールを虎次郎へ向けてフルスイングで投下した。
ボールは鼻先ギリギリを掠めて飛んでいった。
「ごめ〜ん!虎くん大丈夫?ところで何の話してたのぉ?」
「ナ、ナンデモアリマセンヨ」
震えつつもカタコトで返事をし、敵意がないことを示す。
あかねはそんな様子の虎次郎を見てクスクスと笑いだした。
「虎次郎君可愛い」
「────ッ!?ばっ、な、ななな、うるせぇっ!いきなり何言いやがるんだ!!」
「なになに〜?あかねに褒められて嬉しいの〜?」
「う、うるせぇ!これくらいで喜ぶほどガキじゃねぇぞ俺はっ!」
とは言いつつも顔を真っ赤にして口角が徐々に上がっていく時点で喜んでいることが隠せていない。
MEMちょがゆきを焚き付け、颯爽と現れた彼女と二人で虎次郎に本心はどうなんだと詰め寄る。
逃げられないことを悟った虎次郎はこの際だから言いたいこと全部言ってやろうと口を開いた。
「はいはい!嬉しいですよっ!黒川みたいな綺麗な女に可愛いって言われて喜ばねぇ男はいるはずもねぇからな!けどどうせならカッコいいって言ってほしかったよ、可愛いってのは俺よりも黒川のほうが似合ってる言葉だからな!えぇ!なんか文句あんのかっ!?」
お望み通り本心をぶち撒けてやるとゆきとMEMちょは手を合わせて黄色い声をあげた。
容姿を褒められたあかねは目を点にして徐々に徐々に顔の熱が高まり、ボフンッ!と煙を上げた。
気恥ずかしさが限界に達したので虎次郎は隠し持っていたシマウマの被り物を被って素顔を隠す。
「ヒヒーンッ!!」
「あ!おいアクア、野生のシマウマが出たぞ!捕まえろ捕まえろ!」
「ケンゴ、あのシマウマをノブユキ諸共ギターで殴り飛ばしてくれ」
「いや酷いなお前!?」
シマウマになって暴れた後は手洗い場で冷水を顔面に浴びて火照った頭を冷却する。
「虎次郎君、これ」
あかねがタオルを持ってすぐ近くに立っていた。ありがたくタオルを貰い、濡れた頭を拭いていく。
この収録が終われば、もうあかねとは暫く会えないかもしれない。
風邪を引いたときにわざわざ看病しに来てくれた優しいあかねに、虎次郎は確かな愛情を感じた。
家族から一度も貰ったことのない、彼が渇望しているものを。
「──────寂しいな」
心の何処かで呟いた言葉が、何故だが喉を通り口から飛び出してしまう。
「────え?」
あかねは彼の言葉に込めた意味を知ろうと聞き返す。
「寂しい。お前とはもう会えないかもって思うと。なんか…………嫌だな」
アクアの手回しのせいで半ば強引に出演した恋愛リアリティショー。けれど虎次郎にとってはどれをとっても楽しい思い出しかない番組だった。
炎上こそ起きたものの、あかねは乗り越えて前を向いている。
役者としても人としても立派なあかねにこんなことを言っても仕方がない。
そもそも虎次郎はルビーのことが好きなんだから。けれどルビーには、別に好きな人がいる。
年上か年下か、クラスメイトかどんな男かは知らないが、ルビーと一緒になって、どうか幸せになって欲しい。
だから虎次郎は恋心を抱いたままルビーを諦めた。
彼にとっての「愛」は、人の幸せを願うこと。
自分がルビーを好きなせいで彼女が幸せになれないのなら、喜んでこの気持ちに蓋をする。
虎次郎はそういう人間だ。何処までも優しくて、何処までも他人を想う馬鹿な奴。
だからきっと、あかねへのこの気持ちは、あかねにとって迷惑になる。勝手にそう思って踏ん切りをつける。
親から愛されなかった自分に人を愛する資格はない。けれど好きな人の幸せを願う権利くらいはあるはずだ。
バレないように、滲んだ涙をタオルで拭き取って、あかねの方へ顔を向けた。
「悪い。変なこと言っちまって、忘れて────」
首に手を回され、あかねの顔が近づいた。唇と唇が触れ合う。柔らかい感触が直に伝わって、二人の吐息が重なる。
ほんの数秒のキス。突然のことで驚くことも忘れた虎次郎は暫し惚ける。
「忘れない。虎次郎君が何を思っているのかはよく分かるよ。だって私は……………君が大好きだから」
闇の底から救い出してくれた虎次郎に抱く恋心。それをキスに乗せて、言葉で伝える。
「虎次郎君。私は君が大好きです。だから私と付き合って下さい。私に君を、愛させて下さい」
「──────────っ」
とてつもない量の情報が一気に脳へ押し寄せ、キャパシティの限界を超えてしまい虎次郎は失神した。
バタンッ!!!!!(直立不動で床に倒れる音)
「えぇー!?ちょ、と、虎次郎君!?だ、なんで、え、し、失神!?失神したの!?え、えと、目を覚まして虎次郎くーん!!」
はい、カップリング成立です。これはまだ序章みたいなもんです。こっから、ここからあかねのドロドロ依存ルートへの汽車が発車されました。
次回からは「新生B小町編」が始まるよん。その次は「東京ブレイド編」かな。ワイはメルトくんがかなりしゅきなので、虎次郎と存分に絡ませていきたいと思います。
さて、そろそろアク✕かなを愛する皆のために頑張ろうかな。
楽しみにしててねん。
鬱回なんてないよ。