隣の部屋の前に黒ずくめがいたから金○を蹴り上げてやった   作:ハッピーエンド大好きクラブ

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ふぅ………ゆっくり休んだぜ(久しぶりの更新)


叶えたい夢

 

 

 

 

「──────ぁ?」

 

知らない天井だ。虎次郎はどうして知らない天井が視界に入ってるんだと考える。さっきまで「今ガチ」の収録をしていたのに。眠気が限界に達して気絶でもしてしまったのか、そんなことを考えているとあかねの顔がひょいと覗き込んできた。

驚いて体を軽く起こし、視線をずらすとあかねが直ぐ近くで椅子に座っていた。

 

この瞬間、虎次郎の肉体に電流が走る。思い出したのだ。目の前の黒川あかねから受けた告白を。彼女から受けた温かなキスを。

思い出しただけで顔が真っ赤になって、あかねの方へ手を伸ばして目を隠そうとする。

 

「こっち見んな!あっち向け!」

 

あたふたしてあかねの視界を遮ろうとするが、紙一重で躱されてしまい失敗に終わる。

逆にそっと抱き締められて、抵抗する術も思いつかず硬直した。

 

「目が覚めて良かった……倒れちゃったからびっくりした…………心配したんだからね」

 

「あ、あうあぅ……………」

 

「虎次郎君…………私じゃ駄目かな?」

 

抱き締めたまま、あかねは尋ねる。彼女として傍にいてもいいかと。

 

目が覚めて早々告白の返事をしなきゃいけないなんて、虎次郎はまだ整理しきれてない頭でなんとか口を開く。

 

「お、俺は…………人を愛する資格がないんだ…………家族に愛してるなんて一言も言われたことがなかったから。産まれた瞬間から、今の今まで、愛されてねぇから」

 

辛うじて覚えている。父親が自分を恨んでいたことを。虎次郎の父親は嫉妬深い人だった。母親の明美の愛情は自分だけのものだと思っていたのに、たまたま避妊しなかっただけで出来た子供なんて愛せるわけがなかった。

何度も明美に堕胎しろと迫ったこともあり、説得も意味を成さず産まれたのが虎次郎だ。

 

望んだ出産じゃない。明美の愛は自分だけのもの。子供を愛するのは絶対に許せない。

虎次郎が泣けば殴るし、殴って泣けば更に殴る。父親としての責任なんて端から放棄していたも同然だった。

 

「俺さ、幼稚園の頃から好きな人がいてさ。でもソイツには別に好きな奴がいて……だから俺さ、諦めたんだよ。二人がくっついて幸せになれるのを願って、そのために出来ることがあったら全力で手を貸すって決めてさ」

 

「虎次郎君は………本当に優しいね」

 

「うるせぇよ…………好きな女の幸せを願うなんざ普通だろ」

 

「それは普通じゃないよ。他人の為に恋を諦められるって、普通は出来ないことだから」

 

それは虎次郎の優しさの裏返しでもある。親から愛されなかったことが心に癒えることのない傷を残し、成長と共に大きくなっていった。

人を好きになることはあっても、心から愛そうとしたら拒絶反応が起きる。

自分が相手に釣り合わないから。虎次郎は人を愛する資格がないと激しい強迫観念に囚われているんだ。

 

「でも…………今ガチに出て、お前と仲良くなって……お前に…………その、アピールされてさ。全然、嫌じゃなかったんだ」

 

「────────え?」

 

「嬉しかった……めっちゃくちゃ嬉しくてさ。お前のことばっかり考えるようになって、意識して。俺中一の時にな、先輩に無理矢理チューされそうになったことがあったんだよ。もう嫌すぎてさ、逃げ出したんだよ」

 

地元でも有名なガラの悪い三年の先輩に絡まれて、無理矢理キスを迫られたことがあった。

虎次郎は吐き気を催し、嫌悪感を抱いてその場から逃げ出した。

あの時抵抗していなければ、恐らく性交渉まで至っていただろう。

 

それ以来虎次郎は「キス」に苦手意識を持つようになった。

 

でも、それでも────────

 

「お前がくれたチューは、嫌じゃなかった」

 

温かくて、ほんのり甘いような、初めての感覚だった。

 

「俺さ……初めてだったんだよ。こんなにあったけぇ気持ちになったの。初めて……愛されてるんだって感じたのは…………」

 

「私は……虎次郎君のことが世界中の誰よりも大好きだよ」

 

「お前のチューが嫌じゃねぇってことは、もう、そういうことだよな」

 

泣きそうになるのを我慢して、あかねを痛くないようにそっと抱き締めた。

 

「お前のことをいっぱい好きになるから、俺を彼氏にしてほしい。俺のことを好きになって良かったって、ぜってぇ思わせるから」

 

虎次郎は、自分が定めたルールを破ってでもこの気持ちをあかねに伝える。

 

「うん……うん………!私頑張るから、君が私を好きになって良かったって……思えるように頑張るから………これから宜しくね…………!」

 

「…………ああ」

 

我慢していた涙が、大粒になって流れ落ちた。あかねは虎次郎が泣いていることに気付き、嬉しそうに微笑んだ。

 

「ほんとに泣き虫さんだね、虎次郎君は」

 

「うるせぇよ、バーカ」

 

晴れてカップルとなった二人。ふと何処からか視線を感じ、虎次郎は入口の方へ目をやった。

扉はちょこっと開いていて、隙間からノブユキ、ケンゴ、アクア、ゆき、MEMちょの順で縦に顔が見えた。

 

「────────ぁあ"!!?」

 

見られていた。一部始終を。あかねの方を見るが、彼女も驚いている様子だ。なるほど、ここが保健室だというのは理解したがそれ以上にやるべきことが見つかった。

 

「何覗いてんだテメェらぁあぁぁあああ!!!!」

 

「ヤベッ、虎がキレたみんな逃げろっ!!」

 

ブチ切れた虎次郎はアクア達を追いかけ回した。

 

 

 

──────────

 

 

 

「今ガチ」収録も全て終わり、打ち上げも大いに楽しんで寂しさを残しながらもお別れとなった。

それぞれタクシーで帰ることになり、あかねは虎次郎の頬へ軽くキスをして、何か言われる前に乗り込んだ。

 

「虎、お前はタクシーで帰らないのか?」

 

「俺は電車で帰るわ」

 

「そうか、じゃあまた明日な」

 

「おう。ルビーと母親に宜しく言っといてくれや」

 

アクアもタクシーで帰って行った。虎次郎はあかねからのキスで火照った頭を冷やすために歩いて帰ることにした。

付き合うことになったはいいが、やはりいきなりのキスはビックリする。

 

「MEMちょはタクシーじゃねぇの?」

 

「私近所だから。歩いて帰れる距離なんだ」

 

「ふーん」、と納得する。するとMEMちょは寂しげな声色で口を開いた。

 

「寂しいな。私この現場めちゃくちゃ好きだった」

 

紆余曲折あったものの、楽しい現場だったことには変わりはない。

 

「お前これからどうするんだ?」

 

「あいも変わらずユーチューバー続けるかな!登録者数も結構増えたし、これからが頑張り所だと思うんだよね私!」

 

「ユーチューバーね。それがお前のやりたいことか」

 

そう言い終えると、MEMちょが立ち止まった。虎次郎は何か気に障ることを言ってしまったのかと、自分の発言を振り返る。

MEMちょは自嘲気味に笑って、虎次郎へ顔を向けた。

 

「私ね、こう見えてアイドル志望だったんだ」

 

「なんで過去形なんだ?」

 

「色々あって、挫折しちゃってさ。まあ今は元気にユーチューバーやってますけど!」

 

「アイドルになる夢、諦めたのか?」

 

「そりゃあなれるならなりたいよ?けど現実はそんな甘くないし、第一アイドルで売れる歳じゃ」

 

「ウチの事務所、新生B小町を結成しててメンバー募集してるんだよ。お前さえよかったら来いよ」

 

現在「新生B小町」のメンバーは星野ルビーと有馬かなの二人。アイドルグループとして活動するにはあと一人は欲しいと社長がボヤいていた。

MEMちょが過去にアイドルを目指していたのなら、人材としては申し分ない。彼女の明るい性格はルビーとも直ぐに仲良くなれるはずだ。

苺プロはMEMちょを大歓迎するだろう。

 

彼女にとって魅力ある提案を持ちかける。MEMちょは信じられない様子でぎこちない笑顔を浮かべた。

 

「B小町に私が?あはは、そんな冗談………」

 

「無理強いはしねぇよ」

 

それを決めるのはMEMちょだ。しかし、彼女の表情を目にして虎次郎は快活に笑う。

 

「明日事務所に来いよ。社長には話、通しとくから」

 

 

 

翌日、虎次郎はMEMちょが隠し通していた衝撃の真実を目の当たりにすることになる。

 

 

 






虎次郎のパパは離婚したあと小さな会社の社長やってます。何やら悪い計画を練っているようですね。

皆さんは初恋の人に他に好きな人がいたら諦めて応援できますか?
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