隣の部屋の前に黒ずくめがいたから金○を蹴り上げてやった 作:ハッピーエンド大好きクラブ
皆さんこれ知らないと思うんですけど、人って一年に一つ歳を取るんですよ。
今日はMEMちょにとって非常に緊張する一日だ。ずっと追いかけていた夢を掴むチャンスが舞い降りてきたのだから。
虎次郎の案内で苺プロの事務所に入る。応接室には既に苺プロ社長の斉藤壱護と彼の妻、斉藤ミヤコが座っていた。
これから始まるのはMEMちょが「新生B小町」に如何に必要な人材かを見極める面接。
社長に促され、MEMちょは用意された椅子へ座った。
「ウチのガキ共はスカウトマンとして雇うべきだったかな」
かなのメンバー加入も、アクアからのスカウトで決まったことだ。そして新たなメンバー候補として虎次郎がMEMちょを連れてきた。
壱護社長の言葉に虎次郎は飲もうとしていたジュースの手を止める。
「俺はスーパースターになる夢があるから無理だな親っさん」
「分かってるよ。ていうかお前そのジュースどこで買ったんだ?」
「下の自販機。新発売のやつ」
「マジで?後で買いに行くわ」
「俺ので最後だぞ。もう売り切れてる」
「はぁ!?一口寄越せ!」
「ざけんな!誰がやるかよ!」
面接そっちのけで新発売のジュースの取り合いを始めた社長と虎次郎。
ミヤコから怒りの拳骨を貰い、二人は頭にたんこぶを浮かべて大人しくなった。
「あ、あはは………」
流石のMEMちょもこれには苦笑い。社長の代わりにミヤコが進行を務める。
「ごめんなさいメムさん。まず聞きたいのだけれど貴女の事務所は?」
「私は一応個人事業主として配信業やっていて、今はファームって事務所でお世話になっています。所属じゃなくて業務提携の形でやっています」
契約としてはMEMちょ本人が自由に仕事を取ってきても問題ないため、この場合は苺プロがMEMちょに「アイドル業務」を依頼する形となる。
「うちはネットタレントも多いし、その辺りの契約は問題ない。渡りに船って感じだけれど」
ミヤコはMEMちょが言わなければならない事情があることを見抜く。
「メムさん、貴女年齢、サバ読んでるのでしょう?」
「………………分かりますか」
サバを読む、というのは数字をごまかすときに多く使われる言葉だ。
MEMちょは骨格や容姿の綺麗さでいけば高校生と偽っても誰も疑問に思わないが、人生経験豊富なミヤコには通用しない。
図星を突かれて怯えるMEMちょに対して壱護社長が声をかける。
「サバ読むことくらいそこら辺のタレントなら誰だってやってることだ。ビビらなくても大丈夫だよ」
「個人でやってる子が年齢を若く言うなんてよくあることよ。別に気にしないわ」
「本当ですか………?良かったです…………!」
芸能界において年齢を偽ることは特段珍しいことじゃない。
MEMちょは受け入れられたと安心し、胸を撫で下ろす。
正直年齢詐称のことで詰むんじゃないかと心配していた。
「で、本当はいくつなの?」
「あの………その………」
ミヤコの耳元に近づいて、こっそり実年齢を伝える。
「────────ガッツリ盛ったわね!!」
「申し訳ございません────!」
「幾つ盛ったんだ?2歳くらいだろ?」
虎次郎はジュースを口にしつつMEMちょへ尋ねる。
一呼吸間をおいてから、かなり言いにくそうに答えてくれた。
「…………その3倍」
「ブフゥッオッ!!!!」
まさかの3倍の年齢に盛大にジュースを吹き出した。
因みにMEMちょの公称年齢は18歳。
これには壱護社長も口をあんぐり開けて衝撃を受けていた。
「はぁ!?え、てことは24ってことか!?」
「24…………だったよ、春頃までは」
「つまりアレか?立派な社会人の癖に女子高生演じてたってことか?うわぁ……スゲェな全然気付かなかったわ」
ゴリゴリに年齢詐称してたのも驚きだが、「今ガチ」の収録のときにそれを感じさせない自然な女子高生を演じていたMEMちょの実力の高さに感激を受ける。
彼女自身の明るい性格も相まってか誰がどう見ても女子高生としか思えなかった。
虎次郎はこんな近くにずば抜けた演技力の持ち主がいたことを嬉しく思う。彼女の演技力、とても勉強になる。
「後で今ガチ見直すわ。お前演技スゲェよ」
「その発言は胸に突き刺さるから止めて!これには事情があるんだから!」
MEMちょは何故7歳も年齢を盛ったのかを語りだす。
「私は……昔からアイドルになるのが夢で、でもうちは母子家庭で弟も二人居て、アイドルになるより働きに出たほうが良いよなあって思って」
それでもMEMちょの母親は、彼女の夢を応援してくれた。
気にせず自分の夢を追いなさい、ママも応援するからと背中を押してくれた。
母親の期待に応えるべくオーディションに応募し、数ヶ月経って大手の最終審査まで残った高校3年のとき、母親は倒れてしまった。
疲労の蓄積。娘のために身を粉にして働いたために、体を悪くしてしまったのだ。
二人の弟を大学にいかせるためにMEMちょはオーディションを辞退し、高校休学してバイトに励んだ。
ガールズバーで働いたりもして、必死にお金を稼ぎ、おかげで弟達を大学に行かせられて母親も元気になった。
その時MEMちょは、23歳になっていた。
どこのオーディションも、満20歳までの女子を求める応募要項が載っていて夢を追える環境が整ったときには、夢を追える年齢じゃなくなっていた。
行き場を失ったMEMちょは配信に手を出し、当時は高校休学中だったため現役JKのノリでやっていたら思いの外ウケがよく、登録者数が増えに増えたせいで引っ込みがつかなくなった。
「そっから二年くらいずっと……そして今に至ります」
もう年齢詐称してましたなんて言えない状況になってしまった。
後悔はあるが、食っていくためには嘘を貫かなきゃいけない。
ユーチューバーとしてやっていけても、アイドルになるなんて不可能な歳だ。
「やっぱり駄目ですよね……7つもサバ読んでてアイドルやるなんて。25がアイドルなんて…………」
「いや、やるべきだろ」
MEMちょの気持ちに虎次郎が口を挟む。
「でも…………私なんか」
「なんかじゃねぇ。いいかMEMちょ、アンタはアイドルをやるべきだ。夢を応援してくれる母ちゃんのためにも、アンタ自身のためにも」
アイドルになりたい夢を否定もせず、信じて背中を押してくれたMEMちょの母親の想いに応えるために。
虎次郎は真っ直ぐMEMちょの目を見つめて口を開く。
「アンタは立派だよ。体悪くした母ちゃんと弟二人のために死にものぐるいでバイトして、夢じゃなくて家族を優先してさ。アンタの優しさは報われなきゃいけないって思ってる。新生B小町に入ってくれよ、MEMちょ」
「虎の言う通りだよ!」
応接室にルビー、かなの二人が入ってきた。ルビーはMEMちょの側へ駆け寄った。
「話は聞かせてもらったわ」
「妖怪じゅ……有馬先輩」
「私も年齢でウダウダ言われた側だからちょっとだけ気持ち分かる………」
ちょっとだけと言いながら大粒の涙を流して号泣していた。
「おーい、目から重曹が垂れてんぞ」
「社長、どうしますか?私は反対しませんけど」
「俺も反対しないさ。サバ読んでるくらいどうってことない。ウチはもっとヤバい爆弾抱えたことあるからな」
全員が賛成の意を言葉にする。
「アイドルをやるのに年齢なんて関係ない!だって憧れは止められないから!」
ルビーはMEMちょへ手を差し伸べる。MEMちょは目を輝かせてその手を握りしめた。
「有馬先輩、MEMちょとルビーちゃんをよろしくな」
「ええ。言われなくてもこのグループは私がなんとかする」
かくして新生「B小町」にMEMちょが新たに加入。新生「B小町」は正式なスタートを決めることとなる。
ルビー達はMEMちょを連れてご飯を食べに行って、残された虎次郎は深々とソファーに座り直した。
「俺これからはMEMちょのことメム先輩って呼ぶわ。あの人は人として尊敬できる」
「アンタも少しは明美さんに向き合えばいいのに」
そう言われた虎次郎は不味いものを食ったときのような苦しい表情になり、手を横に振った。
「クソババアに歩み寄れだぁ!?無理無理!アッチが歩み寄るなら考えてやらねぇこともねぇさ。ていうか俺帰るぞ?じゃあな親っさん、ミヤコさん」
虎次郎は事務所を出て人混みを歩きながら自宅へ帰る。
ふと立ち止まって、スマホを取り出す。電話帳を開いて試しに母親に電話をかけてみた。
出ないと思っていたのにツーコールで着信がかかった。
『何か用?』
まさか繋がるとは思っていなかった。今は撮影の仕事で忙しいはずなのに。話題を用意してなかった虎次郎は何を話せばいいのか分からず、無意識に頭に浮かんだ言葉を口に出した。
「なぁ母ちゃん。俺のこと息子として愛してくれてるのか?」
『そんなこと聞くためにわざわざ連絡かけてきたの?』
即座に通話を切った。
「何が歩み寄れだ。向こうが全力拒否してるんじゃどうしようもねぇだろ」
MEMちょの母親の爪の垢を煎じて飲ませたい気分だ。虎次郎はムカムカした気持ちのまま帰宅した。
前話の感想で虎次郎がカミキヒカルの息子説が浮上しているのでここで訂正しておくね。
虎次郎はカミキヒカルの息子じゃないよ。けどカミキヒカルが虎次郎のことをぶっ殺したいってのは否定できないかな。
アイ殺害計画を邪魔されたからね。虎次郎のパパと繋がってるかも。
あと、ワイの思い描く虎次郎の絵を書いてみたからよかったら見てみてね。
下手っぴだけど許して。
【挿絵表示】
あと、アイ生存してるくせに全然出てこないじゃんと思ってる人もいるので、別作品扱いとして星野家の日常をメインに置いた話を書きたいと思いますね。
だがまずはこの作品に集中させてくれ!!!!
感想、沢山待ってるぜぇええ!!!!