隣の部屋の前に黒ずくめがいたから金○を蹴り上げてやった 作:ハッピーエンド大好きクラブ
新生「B小町」のセンターの座を決めるため、ルビー達はカラオケ店に足を運んだ。
一曲目はルビーがマイクを手に歌う。歌う曲はルビーの十八番だ。確実にMEMちょとかなが「あなたこそB小町のセンターに相応しいわ!」と讃歌を送るはずと意気込む。
【49点!あっ、うん。もうちょっと頑張ろ?】
画面に映されるのはあり得ない点数。そして無慈悲なアドバイス。
ルビーは立ち尽くし、呆然としていた。
続いてのチャレンジャーはMEMちょ。最年長の彼女は幼い頃からアイドルに憧れを抱いていた。アイドルに必要なのは容姿だけでなく、歌も求められることをこの中で一番理解している。
【57点!あとちょっと頑張ろ!】
しかし採点は彼女に現実を叩きつける。
二人の結果を目の前にしたかなは呆れて物を言えなかった。
「よくその点数で勝負を挑んできたねぇ!」
「そ…………そっちだってヘタの部類じゃん」
ルビーは中学の時から歌の特訓をしてきていたが一向に上手くなる兆しが見えず、それっきりだった。
対してMEMちょはルビーよりも遥かに上に立つ実力者と言っても過言ではない。スケールは小さいが、まあ二人共要特訓には変わりない。
ヘタなことを盾にあーだこーだ言い合っている二人を放っといてかなは曲を一曲入れる。
音楽が流れ、マイクを手に持って歌い始めた。
【97点!すっごーい!!】
結果だけを見るなら間違いなくかながセンターに選ばれるだろう。
MEMちょとルビーは目を血走らせて画面が映している点数を食い入るように見つめた。
少しの沈黙の後、タイミングを合わせたように口を開いた。
「「う、嘘だァァァァアアアア!!!!」」
現実は非情である。
「くっ…………勝負を持ちかけたのは私……!有馬先輩、B小町のセンターを宜しくお願いします………」
まだ納得できない表情だがこの勝負はルビーから持ちかけたものだ。
かなの圧倒的な歌唱力を前にした彼女は文句なんて一言も浮かばず、センターの座を明け渡そうとする。
「私はパス」
それをかなは即座に断った。
「えっ……でも」
「馬鹿ね。センターはグループの顔なんでしょ?私をセンターになんかしたら人気でなくなるわよ?」
「何を根拠にそんな………」
「エビデンスが十分すぎる位あるのよ」
有馬かなは十数年の芸能業界を演技だけで生きてきた訳ではない。
「色んな分野に手を出したけど人気は出ず、子役時代の名声で仕事をくれた会社に赤字を出させまくったくせにちゃっかりギャラ貰ってご飯食ってきた私よ?詰まるところ有馬かなに客はついてこないワケなのよ!こんなクチ悪くてズレてる女に金出したくないってのはめちゃくちゃ同意!あっ、そういえば「今日あま」のドラマも赤字だったんだっけ!?」
笑いながら早口で捲し立てる彼女に口を挟む隙はなく、ルビーとMEMちょは凄く気まずい表情を浮かべる。
「MEMちょは登録者数めちゃくちゃ多いし、アンタも顔だけはすこぶる良いからその初々しさがウケると思うわよ?」
子役時代の天下も過ぎ去れば手元に残るのは極僅かなファンだけ。様々なコンテンツに手を伸ばしてもほぼ全てが爆死する結果となり、まともに売れたものは「ピーマン体操」というかな自身が黒歴史と語る曲だけだった。
「人から好かれるのってアンタ達みたいに素直で可愛い子なのよ。私みたいに面倒で捻くれた女じゃなくてね」
「でも私は先輩にセンターを……」
「私は賑やかし程度に思っててくれればいいから。あとはアンタ達でもう一勝負でもして決めればいいわ」
かなはルビーの制止も聞かず帰ってしまった。
もうセンターの話を進める気にもなれず、適当に歌ったあと二人は解散した。
帰路に着いた後も、ルビーは「B小町」のことで頭が一杯だった。自室でどうすればかなを説得できるか考えていると、突然アイが扉を開けて入ってきた。
「ママ、どうしたの?」
「ルビーが落ち込んでるような顔してたから、心配してるの」
「え、私そんな落ち込んでた!?アハハ、私は大丈夫だよママ!」
何も悩みなんてないと元気な声を出す。こんなことでアイに心配はかけたくない。するとアイはルビーのほっぺに手を添えて瞳を覗き込んできた。
「ママには全部お見通しなんだよ?ルビー、悩みがあるなら聞かせてほしいな。なんてたって私はママなんだから」
娘が落ち込んでいれば、その訳を聞く。一人で抱え込ませるなんてことはさせない。
アイは大切なルビーの力になるべく話を聞こうとした。
そんな母親を前にしてルビーは顔を俯かせ、本当のことを話し出す。
新生「B小町」が直面している問題を全て聞いたアイは何だそんなことかと安心した様子でルビーを胸に引き寄せた。
「私としてはやっぱりルビーがセンターに立ってほしいと思うけどな。ルビーはセンターに立ちたくないの?」
「立ちたい…………でもそれじゃあ有馬先輩が……」
「ルビー。いい?嫌なことを強要されたら、人は何もできないんだよ。だって嫌なんだから」
「……………………うん」
「ルビーは可愛いから。絶対センターが似合ってるよ。娘としての贔屓じゃない、アイドルとしての素質があるから自信を持って言える。新生B小町のセンターは、ルビーしかいない」
「ママ……………!」
もうすぐ新生「B小町」のデビューが控えている。大規模なステージの上でルビーがセンターで歌い踊る姿を見るのを、一番楽しみにしているのは紛れもなくアイ自身だ。
アイがアイドルだった頃は、センターの座は実力でもぎ取ったというよりも、彼女の全てを引き寄せる天性の才能があったからこそ得られたものだと言える。
ルビーにはそれがある。人を引き付けて離さないアイドルとしての才能がたっぷり詰まっている。
センターとして前に立てば、その才能は遺憾なく発揮されるだろう。
だからこそ見たい。娘の晴れ舞台を。アイドルとしてのルビーを。
「すぅ………………くぅ…………」
「寝ちゃったか…………ずっと頑張ってるもんね。ママはちゃんと見てるよ、ルビー」
ルビーをベッドに寝かせる。寝息を立てる娘の頭を優しく撫でたあと、アイは静かに部屋を出た。
「ルビーは大丈夫だった?」
心配していたのはアイだけじゃない。アクアも帰ってきてからの妹の暗い雰囲気に疑問を抱いていた。
アイはアクアに向けて両手でピースサインを出した。
「大丈夫だよ。ルビーならきっと自分で答えを出せるはずだから」
「そうだといいけど。母さん、ジャパンアイドルフェスまでもう一ヶ月をきった。元アイドルとして、力を貸してほしいことがあるんだ」
「勿論!ルビーとアクアのためなら、なんだって力を貸すよ!」
────────────
「あれから色々考えまして…………新生B小町のセンターは私がやりたいと思います!」
翌日、事務所でルビーはMEMちょとかなへ声高らかにセンターをやることを宣言した。
母親から背中を押されて、娘として応えないわけにはいかない。
やる気に満ち溢れたルビーに対してMEMちょは何かを察したのか、反論することなく頷いた。
かなも当然それでいいと反応を見せて、こうして新生「B小町」センター問題はあっさりと決着を告げた。
問題が解決した次に待っているのは曲の振り付け練習。
ジャパンアイドルフェスまで一ヶ月を切った今、これから追い込みをかけなければいけない。
やることが山積みだ。ミヤコはそんな彼女達にサポートをしてくれる人物を呼んでくれた。
「サポートしてくれる人?」
「それって、もしかしてアク……………」
そのまさかのアクアが入ってきた。かなは気まずそうに目を逸らして前髪を指でくるくるしだした。
「アクアだけじゃないわ。本命はこの人よ」
「「「本命?」」」
ルビー達は首を傾ける。ミヤコはフッと笑みを浮かべて扉の方へ顔を向けた。
もう一人の助っ人は、なんと──────
「やっほー!元B小町のアイです!新生B小町の皆、私が手取り足取り鍛えてあげるから覚悟してね!」
「マッ──むぐぅ!!??」
「えぇ"ぇ"────!!」
「うわぁ!?ア、アイだぁ!!?本物だっ!!」
まさか元B小町センターのアイが助っ人として来てくれるとは思ってもいなく、ルビーはママと叫びそうになってアクアから口を抑えられた。
かなとMEMちょは全身に衝撃が迸り目が飛び出るくらい見開いて口をあんぐりと開けていた。
「本当なら虎次郎も呼ぶつもりだったんだけど明日から仕事入ってるから」
「あ、あんなクソ生意気なやつ呼ばなくて正解ですよ。仕事ってなんの仕事なんです?」
「海外ロケ」
「はぁ!?」
アクアが答えた返事に正気を取り戻したかなは声を荒げる。どうやら「ディアボロ」で共演した数名のキャストとハワイへロケにいくようだ。
未だ未経験の海外ロケがよりにもよって虎次郎に先を越されたなんてかなのプライドは許せなかった。
「アイツ英語話せんの!?」
「英検一級持ってるし、なんなら中学の時ALTの先生が引くぐらい流暢に話してたぞ」
「────ハイ終わった」
かなは膝から崩れ落ちた。あんな生意気で態度がデカければ口も悪い後輩が英語ペラペラなんて誰が想像できようか。
「くそー!虎次郎の奴、今度あったらぶん殴ってやるんだからぁ!!」
理不尽な暴力が虎次郎に降り掛かることにアクアは黙って十字を切った。
こうして新生「B小町」のセンターはルビーと決まり、そしてサポート役としてアクアとアイが来てくれた。
新生「B小町」のデビュー戦まで、あともう少し。
プライドを傷付けられたかなは立ち直るのに時間を要した。
一方その頃虎次郎はというと、カラスに喧嘩売って追いかけ回されてました。
次回は新生B小町の特別合宿だよん。感想いっぱいくだちぃ。
あと、もうちょっとしたら「星野家の日常」なる別作品を投稿するからそれも楽しみにしててね。