隣の部屋の前に黒ずくめがいたから金○を蹴り上げてやった 作:ハッピーエンド大好きクラブ
アイドルに求められるのはパフォーマンスの高さと一定の歌唱力、そして容姿の可愛さ。
主に容姿が最も求められるものだが、ではアイドルに必要となるものは何か。
それは体力である。 言い換えるとスタミナ。
もうじき開催されるジャパンアイドルフェスでファンを獲得するために圧倒的なパフォーマンスを見せなければいけない。
新生「B小町」のサポートを頼まれたアイは、ルビー達へ体力をつけるためにトレーニングを始めることを提案した。
「どんなにヘトヘトになってもパフォーマンスを落とさないための体力が大事!それじゃあ坂道ダッシュ十本、始めるよ!」
因みにトレーニング内容は苺プロで年収一億を稼ぐ超人気ユーチューバー「ぴえヨン」から知恵を借りたものとなっている。
「ひぃ……!はぁ………はぁ…………!キツい!これしんどい!」
「ちゃ、ちゃんと毎日……運動しとくんだった………」
「まだ六本目だよルビー、メムちゃん!ほらほら、足を前に突き出して!腕をしっかり振って!」
「「ヒィー!」」
坂道ダッシュで疲れ切った後は「B小町」の曲三連続の振り付け練習。かなは毎朝走り込みをしている分体力がまだあるため、二人より余裕はあるが、正直キツイ。
十分の休憩と水分補給を挟んでまた坂道ダッシュから振り付けと繰り返し、レッスン室に戻る頃にはルビー達は糸が切れた人形のように床へ崩れ落ちてしまった。
「もう…………無理………動けない…………マ……アイ、これホントにトレーニングなのぉ?」
「拷問のほうが………まだ納得できた……かも」
疲れ果てているルビー達を他所にアイは久しぶりに体を動かせて解放的な気分になっていた。
三人にはもっともっと頑張ってほしいし、これくらいで音を上げられては困る。
取り敢えず午前のトレーニングはここまでとして、午後からは振り付けの特訓をしないと。
サポート役のアクアはタオルとポカリスエットを三人に順番に渡していく。
「お疲れ様、有馬」
「うん。ありがと、アクア」
「お兄ちゃん、腕に力入らないから代わりに開けてよー」
「それくらい自分で開けろよ」
「お兄ちゃんのケチ!」
かなは渡されたポカリスエットを見つめて、アクアの方へキャップを向けた。
「開けてくれない?」
お願いされたアクアは珍しいものを見るような表情を浮かべるが瞬時にすまし顔に戻ってかなの代わりに蓋を開けてあげた。
「ありがと」
「どういたしまして」
かなは頬をやんわり赤くしてポカリスエットを喉へ流し込む。
ひんやりしてて気持ちがいい。一口のつもりが半分も飲んでしまった。
「後悔してるか?アイドルになったこと」
「後悔はないわ。でも、自分には向いてないと思う」
全然アイドルをやれる気がしない。子役時代が終わって、何をしても売れることはなかったかなはアイドルになったことに疑念を隠せないでいた。
────今この瞬間にも。
「俺はさ、アクアとして産まれたときからアイが好きでずっと応援してきた。本当なら引退なんてしてほしくなかった。ずっと究極無敵のアイドルで居てほしかったんだよ」
「────何?推しの自慢?」
「そんなんじゃない。今のアイは元アイドルってだけの一般人。過去の栄光が大きいだけの、」
アクアとルビーの母親だ。アクアは前世の記憶を持ちながらずっと「B小町」のアイを推してきた。
好きなアイドルは?、と聞かれれば即答で「アイ」と答えられる。
でも、ルビーのためにアイドルになってくれて新生「B小町」のメンバーとして努力している有馬かなを見ていると、何故だか彼女から目が離せなくなっていた。
「…………必死に練習する有馬かなから目が離せなくて、気づけば心の中で応援してた。アイを初めて目にしたときみたいに」
これはアクアの本心。かなを持ち上げようとする気なんて全く無い、心からの言葉。
「頑張れ有馬かな。応援してる。他の誰よりも」
その言葉を聞いたかなは頬を少しだけ赤くしてまたポカリに口を付けた。
「なによ、どうせ私がチョロいから適当なこと言ってやる気出そうとしてるんでしょ。もう引っかからないわよ」
「なんか恥ずかしくなってきたからそう思ってくれていい。やっぱり言うんじゃなかった」
恥ずかしそうに頭を掻くアクアを見ると、自然と笑顔が溢れた。
飲み慣れたポカリスエットの味がいつもより美味しく感じた。
新生「B小町」はアイ直伝のハードなトレーニングにより少しずつ体力を付けていく。振り付けをただ覚えるのではなく、アレンジを加えたりそれぞれがカッコよく見えるポーズ等を真剣に話し合っていくことでアイドルグループとしての三人の一体感が高まっていった。
アイは新生「B小町」の仲睦まじい姿を見て、自分がセンターだった頃の「B小町」と重ねる。
センターに立つルビーはまるで自分の生き写しだ。きっとアイの再来として大活躍するだろう。
けれどルビー=「B小町」にはなってほしくない。
ルビーと、かなと、MEMちょの三人で「B小町」になっていってほしい。
独りでアイドルグループは成り立たないから。
今日は一日を通して振り付けの練習をみっちり行う。
ルビーのダンスは元々仕上がっているし、MEMちょは周りを見ながら器用に立ち回れている。かなは実直で飲み込みが早く、歌いながらのダンスもミスらしいミスもなくやれている。
クオリティはそこら辺の地下アイドルに差をつける程だろう。
「みんなお疲れ。水分きっちり取らなきゃダメだぞ」
アクアのサポートもありルビー達は特に体調を崩すこともなく目の前のことに集中することが出来た。
「いやー、アクアはホント優しいわ!どっかの虎次郎とは大違いね!」
あのクソ生意気な後輩と違ってアクアは先輩としてかなを立ててくれる。
そんな彼女へMEMちょが気になっていたことを質問する。
「有馬ちゃん、アクたんのこと好きなの?」
「は、ハァ!?べ、べべべ、別に好きなんかじゃないし!子供の頃はまだ、可愛げはあったけど……」
「あれ?付き合い長いんだ」
「そうよ小さい頃現場でね!私とアクアが3つか4つの頃!?あんなヤツ一度会ったら忘れられるわけないじゃない!」
「えっ…………うん…………」
なんか勝手にヒートアップして聞いてもないことを語りだす。
「昔からずっとアイツが脳裏に居たのよ!あの頃は天使みたいだと思ってたのにあんなに憎たらしく育っちゃって!私の思い出を穢さないでほしいんだけど!」
「ん?ん〜〜〜〜?」
それはつまり────好きなのでは?
MEMちょは心の中で思っても口に出すことはなかった。
「明日は待ちに待ったジャパンアイドルフェス!新生B小町のみんな、今日は夜ふかしせずゆっくり休むこと!寝不足だと体に悪いし、パフォーマンス低下に繋がるからね。明日は私も観に行くから、特訓の成果を見せつけてやりなさい!」
アイの応援に胸を打たれるルビー。明日に控えたデビュー戦を大成功で収めるために120%のコンディションで望まないと。
それはそれとして、アイはアクアとかなの関係が物凄く気になっている様子だった。
〜おまけ〜
トレーニングのために事務所で寝泊まりすることになったルビー達は川の字で布団に潜る。かながハワイで楽しい思いをしている虎次郎を妬み、通話をかけてやると言い出したのでルビーが止めておいたほうがいいと声をかけた。
「今ロケ中なんじゃないの?」
「日本時間は21時過ぎ。あっちだと深夜の2時前後のはずよ。問題ないわ、アイツが出るまで掛けまくってやるんだから」
性格悪〜、とルビーとMEMちょは同時に思った。
通話はなんと2コールで繋がった。かなは驚きつつも試しにビデオ通話にしてみると、虎次郎の方もビデオを付けてきた。
画面に映るのはグラスに注いだグレープジュース片手に椅子に座ってこちらを眺めている虎次郎の姿。
「おやおやこれはこれは。誰かと思えば有馬かなさんじゃありませんか。こんな真夜中に電話をかけてくるだなんて相変わらずデリカシーのないお人だ。やはりアレかな、妖怪重曹ペロペロ女だから他人の迷惑が考えられーーーー」
通話を切ってやった。
「アイツ殺すわ」
「「こっわっ」」
因みに虎次郎はかなが通話をかける直前まであかねとビデオ通話で話していました。