隣の部屋の前に黒ずくめがいたから金○を蹴り上げてやった   作:ハッピーエンド大好きクラブ

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推しに捧げるサイリウム

 

ジャパンアイドルフェス────

 

アイドルに特化した大規模同時多発的音楽フェスで今回新生「B小町」が立つステージはスターステージと言った地下アイドルが多いものとなっている。

欲を言えばメインステージが良かったがそれは望み過ぎというものだ。

どんなに小さなステージであっても、太陽のように光り輝ける自信がルビー達にはある。

 

しっかりと睡眠はとった。体の不調はない。コンディションは万全。それぞれがそれぞれの思いを胸に会場へ赴く。

 

「なんでアンタがここにいんのよ」

 

有馬かなは凄い不機嫌だった。それもそのはず、虎次郎が意気揚々とアイドルフェスに来ているのだから。

数日前にハワイロケから戻ってきたばかりでいい感じに日焼けしているのが余計癪に触る。

かなに睨まれながらも虎次郎は面倒臭そうに口を開く。

 

「おれがここにいちゃ悪いかよ。ルビーちゃんの晴れ舞台なんだ、来ない理由がねぇ」

 

「アンタいいわけ?こういうの、彼女からしたら十分浮気になるんじゃないの?」

 

「お前バカか?家族同然のルビーちゃんと人として完成されてるメム先輩を応援することの何が浮気なんだよ。お前は………………どうでもいいわ」

 

虎次郎への挨拶代わりに鳩尾へ正拳突きを放った。

 

少なくともかなからすれば、アクアが知らない女のライブに行ったその時点で浮気判定となる。

 

「〜〜〜〜〜〜!!?」

 

かなはなんでアクアが例えに出てくるんだと頭を左右に振って煩悩を振り払う。

ついでに道端に転がっている虎次郎の尻を引っ叩いてやった。

 

 

 

──────────

 

 

 

ステージの多いフェスとなると楽屋の人口密度は必然的に多くなる。

出演者や関係者数百人が詰め込まれて荷物の置き場もなく、着替え部屋がないからパーテーション裏で着替えたりしたり。想像と違った楽屋の空気をかなは「地獄」と揶揄した。

フェスが始まると順番に応じて楽屋からステージへとアイドルグループが行ってしまう。

時間の経過と一緒に新生「B小町」の出番が近づいてくる。

 

「先輩……めちゃくちゃ緊張してきた」

 

「えぇ?」

 

ルビーはこの日のために努力を重ねてきた。それがこのジャパンアイドルフェスで余すことなく発揮できるかが不安で仕方がない。

不安は全身に伝播して緊張として表へ出てしまう。

 

かなはそんな彼女を励ますために手を握った。ルビーの手はとても冷たい。だがかなもそうだった。

 

「私の手、冷たいでしょ」

 

「先輩も緊張してるんだ……」

 

「そうよ。でも大丈夫、私達は一人じゃない。でしょ?」

 

「そうそう!ルビーちゃんには私達が付いてるよ!」

 

MEMちょはルビーとかなをぎゅっと抱き締めた。

 

「精一杯、全力で頑張ろうよルビーちゃん!」

 

失敗しても別に構わない。だってここにいる新生「B小町」は、ただの新人アイドルグループなんだから。

何も恐れなくていい。二人の言葉にルビーは強く頷いた。

 

 

そしてやってきた新生「B小町」のデビューステージ。

 

 

 

衣装を身に纏ったルビー達はステージに立つ。

新人アイドルのデビューは最初の一曲目で観客の心を掴まなければならない。

 

歌う曲は「サインはB」。

 

観客側からすれば新生「B小町」は伝説と謳われた「B小町」の名を冠しただけのもの。

だからこそ、現在の「B小町」に過去の幻影を重ねてしまう。

 

まるで味を吟味するように彼女達を見つめる眼差しは鋭く、厳しい。

 

誰しもが思った。「B小町」はアイという一番星がいたから成り立っていたわけで、木っ端を三人集めたところで売れるわけが────

 

 

星野ルビーが見せる満面の笑顔。それだけで、観客席に座る人々が魅せられた。

余計な思考が吹き飛ぶ。ルビーから目が離せない。気づけば彼女を表す赤色のサイリウムを両手に握って振っていた。

声を出し、ルビーを応援する。まるで条件反射のように。

後方の席はほとんどが赤一色に染まっていた。

 

 

 

 

──────ルビーは歌い踊り舞う。

 

 

 

 

その姿を、アイは後方の席で瞬きもせずに見つめている。瞳は涙に濡れて、抑えきれずに口に手を当てる。

かつて自分が立っていたセンターを、娘のルビーが受け継いだ。

アイドルになりたいと物心つく頃から口にしていたルビーの夢が今、叶った。

 

「…………私……生きてて良かった」

 

右隣の席に座るアクアの手を握って、センターに立つ娘を指さしながら湧き上がる歓喜の感情を言葉にする。

 

「見てアクア……ルビーが歌ってる。私の自慢の娘が……私と同じセンターで、歌ってるよ………………あ!」

 

ルビーが左手を前に突き出し、人差し指をまっすぐ伸ばした。

 

 

人差し指の先にいるのは────アイ。

 

 

「あなたの────アイドル!サインはB!」

 

「B小町」を代表する曲の一つ「サインはB」の歌詞を、ルビーはアイに向けて歌う。

 

 

"ママ、私なったよ!ずっと夢見てたアイドルに!"

 

 

実際にルビーが言葉に出したわけじゃないのに、アイにはそう聞こえた。

アイはとびっきりの笑顔になって赤色のサイリウムを握る。

 

 

 

────ああ、この子は眩しいな。

 

 

 

有馬かなは心のなかで呟く。ルビーはアイドルが好きで、ずっと楽しそうで、アイドルになるために生まれてきたような子だ。

今この瞬間にも誰かの心を奪ってどんどんファンを増やしていく。

 

────MEMちょもそうだ。

 

一番手前に座る人達は黄色のサイリウムを手にMEMちょを応援している。

自分にはない魅力がこの二人にはある。

 

 

羨ましい。

 

 

みんなに見てもらえて。求められて。有馬かなを見てくれる人は誰もいない。

家族もマネージャーも、ファンですら見てるのは天才子役と呼ばれた昔の面影だけ。

 

 

 

────誰か私を見て。目の前の二人のように。

 

 

 

誰か、誰か。私はここに居ていいって言ってよ。

 

 

 

鬱屈としたかなの視界に、三つの白いサイリウムが見えた。

白のサイリウム。あれは有馬かなを表すカラーだ。

 

それを握っているのは、アイと、虎次郎と、アクアだった。

 

 

「うし!そんじゃまぁ始めるか!」

 

「ああ」

 

「うん!」

 

なんと、三人が凄まじい勢いでヲタ芸を踊り出した。周りの観客がドン引きするほどのキレと勢い。恐らく何ヶ月もかけて練習を重ねたんだろうと説得力のあるヲタ芸が炸裂した。

ご丁寧に新生「B小町」全員のペンライトを握って踊る姿に、かなは吹き出しそうになってしまった。

 

「ルビーちゃーん!頑張れぇえええええ!!!!」

 

「私のルビー!!愛してるー!!!!!」

 

「…………………」

 

踊りながらルビーを応援する二人を脇目にアクアはかなへ向けてスました顔を保ちペンライトを振り続ける。

 

 

あくまでも箱推しの姿勢を見せるアクアへかなは『浮気者め』と心のなかで口にした。

 

同時に決意を固める。目にものを見せてやると。アクアが見てくれるのなら、ここに居てもいいと言うのなら、必ずアクアのサイリウムを真っ白に染め上げてやる。

 

 

────私のこと、大好きにさせてみせる。

 

 

「あなたの────アイドル!」

 

 

 

──────アンタの推しの子になってやる!

 

 

 

「サインはB!────chu!」

 

 

かなの真っ直ぐな瞳に、アクアは見惚れてしまう。かなの顔つきが一変し、新人アイドルとして全力で歌う。

 

奥から赤、白、黄色の順にサイリウムが振られ、歌い終わる頃には新生「B小町」へ向けて会場全体に響き渡る歓声と拍手喝采の音色が届いた。

 

 

 

ここから新生「B小町」は始まる。かなを除いて歌の下手さは目立つけれどそんなの些細なものだ。

このアイドルグループは人気になる。彼女達に心奪われた人達は確信していた。

これからの快進撃が楽しみだ。

 

「ちゃんと見てるよ………有馬」

 

ステージ裏へ降りていく新生「B小町」を見つめながら、アクアは小さく呟いた。

 





はい、これにて新生「B小町」編終了でございます。次回からは「東京ブレイド」編ですね。
虎次郎君の演技における才能とかそういうのを皆が思い知らされることになります。
あとあかねとのイチャイチャ回もふんだんに入れるつもりなのでお楽しみに。

舞台を通じて、虎次郎と母親はどうなるのか、それも期待していて下さい。

因みにですがハワイロケに行く前に虎次郎はカラスを従える謎の少女に出会っています。
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