隣の部屋の前に黒ずくめがいたから金○を蹴り上げてやった 作:ハッピーエンド大好きクラブ
たまには息抜きに番外編的な話も書きたい。てことで、こちらは25.5話の扱いです。
虎次郎がハワイロケに行く前日に謎の少女と出会った回です。
感想で舞台「東京ブレイド」にアクアは出ないのかとあったけど、今回はアクアはお休みです。その代わり、途中でアク×かなのデート回を挟むつもりです。お楽しみに。
神は信じるかと問われれば、虎次郎は間違いなく「居ない」と答えるだろう。
そんな非科学的なものが存在するなら今頃世界は平和になっていて親に愛されない子供なんて一人も居ないはずだからだ。
神は存在しない。だから苦しみがある。父親に殴られる。母親から「愛してる」の一言も貰えない。子が親から貰わなければならない愛情を貰えない。
しかし、虎次郎は不思議な少女と出会った。ハワイロケに行く前日、コンビニで買い物を済ませた帰り道で一匹のカラスにつけられていることに気づいた虎次郎はちょっぴり苛立ちを覚え、そのカラスへ向けて小石を投げつけた。
追い払う程度の力加減で投げた小石だが、まるで軌道が見えているかの如く易易と避けられてしまった。
血圧が上昇し、もう一回、次はさっきより一回り大きい石を投げた。
それも躱されてしまい、カラスの怒りを買って追いかけ回されてしまう。
慌てて逃げた先で見たこともない神社に辿り着いてしまった。
そこで少女と出会った。
漆黒の鴉を従える人外じみた雰囲気を纏う彼女と。
「こんにちわ、虎次郎さん」
可愛らしいような、聞き慣れたような、妙な感情を抱く声色。少女はニッコリと笑って、虎次郎を歓迎した。
「…………………お嬢ちゃん、こんなとこで何してんだ?」
「何も。強いて言うなら貴方を待っていたの。少し話をしない?」
「まあ……………いいか」
迷子という風には見えないし、遊び場は子供によって変わるものだ。
虎次郎は少女に案内されて縁側に腰掛ける。すぐ隣に少女が座り、やけにニコニコした様子でこっちを見上げてくる。
「お前と会ったことあったっけ?」
「ううん。今日が初対面。でも不思議だね。貴方とは初めて会った気がしない」
「なんか俺もお前のこと知ってるような気がすんだよな。なんでだろ。あ、そうだ、これやるよ」
「…………ジュース?」
コンビニで買ってきたミルクセーキを少女に渡す。彼女は華のような笑顔を咲かせて貰ったミルクセーキを一口飲んだ。
「美味しいね」
「だろ?俺ミルクセーキ好きなんだよな」
「ねぇ虎次郎さん。どうして貴方は人に優しくするの?」
「えらい急だな。なんでか…………か。なんでだろな。俺にも分かんねぇ」
「他人に優しく接することで自分のアイデンティティを保つため?違うね。貴方はそれを当たり前だと認識してる。自分を捨てても他人のことばかり考える。人が無意識に呼吸するように、貴方にとっては他人への思いやりは呼吸と同じ」
虎次郎は少女が口にする妙なことにもちゃんと目を見て聞いていた。最近の子供は難しいことを考えているんだなと、自分の幼少期と比べると目の前の少女が天才に見えてしまう。
幼かった頃はルビーの気を引こうとあらゆる手を尽くしていた。
「でもそれでいいのかな?他人に尽くす人生は、本当に人生と言える?私は違うと思う。貴方は……そうだね、まるでロボット。主の命令を絶対に破らない忠実な機械人形」
「それでいいんじゃね。俺の彼女や親友、家族の役に立てるってんなら」
自分の人格が無くなったとしても、虎次郎は誰かの為に有りたいと願う。それがロボットのようだと言われても、虎次郎の心にはなんのダメージもない。
「手遅れだね。貴方は普通の人間にはなれない。どう足掻いても他人に利用されるだけ利用されて、捨てられる。貴方が求めるものは何も得られない」
「ガキの戯言に耳を貸すほど大人じゃねぇんだ。それにな、俺の欲しいものはもう手に入ってんだ。彼女だろ、親友だろ、それで……………」
「──────親の愛情」
親の愛情だけが、虎次郎の心には存在しない。
「目を背けていても、現実からは逃れられない。でもそのおかげなのかな、貴方はどれだけ優れた天才が百人並ぼうとも敵わないたった一つの武器を持っている」
持って生まれた才能。母親から受け継いだ天性の演技力。それは普通では考えられないほど高く、成長速度も常軌を逸している。
天才という言葉では語れないほどの天才。
少女は語る。
演じるという勝負において虎次郎を超えられる者は誰一人として現れないと。
「役者、俳優という言葉はまるで貴方のためにあるような、誰も真似できない才能を貴方は持っている。もしそれが、神から授かったものだとすれば?」
神が────その才能を返せと現れたら、どうする?
「地面に引き摺り降ろして泣くまで殴る」
「────────え?」
「いやだから、殴る。殴って蹴って投げて絞めて叩き付けて俺の前に出てきたことを後悔させる」
「ああ────そう。そっか。うん…………貴方はそういう人だもんね。仕方ないね」
「俺神とかそういうの嫌いなんだよな。お前もしかして……………神ってやつか?」
軽く拳を握ってみせると、少女は口を一文字に結んで両手を上げ、首を左右にブンブンと振った。
虎次郎は少女の反応にゲラゲラ笑って「冗談に決まってんだろ」と口を開く。
「俺もう行くわ。あ、そこのカラスに気をつけとけよ。嘴で突かれたら堪ったもんじゃねぇからな。暗くならないうちに早く家に帰るんだぞ」
「うん。話に付き合ってくれてありがとう」
「ああ。割と面白かったしな。賢いガキもいたもんだな…………」
そういえばアクアも小さい頃から頭が良かった。虎次郎は少女に手を振って鼻歌交じりに帰って行った。
残された少女は虎次郎の背中を見えなくなるまで見つめ続ける。
「立川虎次郎。貴方は一人の少女の運命を変えた。大学生位の男に殺されるはずだった」
「それが彼女の運命だったのに。命を落とし、星へと巡って天へ還るはずだった。それを貴方は、理由もなく捻じ曲げてしまった」
「運命を捻じ曲げるなんて普通なら出来ないことなのに。貴方は平然とやり遂げた。それが何を意味するか分かる?死するはずだった魂が生き延びれば、起きるはずだった「絶対の死」はどうなるのかな?」
「誰かに降り掛かる。他人の運命を変えた代償は────貴方が取らなきゃね。虎次郎さん」