隣の部屋の前に黒ずくめがいたから金○を蹴り上げてやった 作:ハッピーエンド大好きクラブ
ディズニーシーには摩耶花や他の友達と遊びに行ったことが何度かあったが男友達と行くのは今回が初めてだ。
アクアと待ち合わせ場所を話し合い、「JR舞浜駅」前で集合することにしたものの、当日になるとかなは鏡の前で何度も衣服を着替えていた。
「どっち………?どういう服がアイツの好み!?」
Cute路線かSexy路線か。アクアはどっちが好みなのか。
自称元天才子役と自信ありげに思っているが中身は唯の女子高生。好きな男の子との初デートとなると少しでも好印象を持たれたいものだ。
相手がアクアなら尚更。かなはクローゼットからありったけの洋服を引っ張り出して順番に着込んでいく。
一着目。
清楚かつ体のラインも綺麗に魅せながら生地感は高級なワンピで、大人っぽく王道なデートスタイル…………でも気合い入れすぎとは思われたくない、次。
二着目。
タレントの私服と言えばスポーツミックスにダッドスニーカー。キャップを添えて空港ファッションスタイル…………キメすぎないクールな感じもイケると思われたいギャップを狙うか。
でも気合い入れすぎだと思われてしまう。次。
三着目。
有馬かなという最高級素材をMAXに生かすならロリ&ガーリー路線で魅せるか。
個人的に気に入っている洋服だがこれは女子ウケを狙ったものなのでアクアに効くかどうかは分からない。
確証のないものを着ていく勇気はない。洋服一つで好感度は大幅に上がれもすれば下がったりもする。
かなは服を脱ぎ捨てて頭を抱えた。何を着ていけばいいのか全く分からない。集合時間が着々と迫っているのに、こんな調子では一日経っても決まらないだろう。
ここは第三者の意見が必要だ。ということでかなは虎次郎へ電話をかけた。
『なんだよこっちは黒────』
「虎次郎!ヘルプ!アクアが好きな洋服ってどんな感じなの!?」
『あ、ああ!?知るかよ!お前が一番気に入ってる服着て行けばいいじゃねぇか!もう切──』
何やら急いでいるようだがそんなこと知ったことじゃない。
「女子は身だしなみ一つで嫌われる繊細な世界を必死に生きてんのよ!アクアと古い付き合いならアイツの好みくらい知ってるでしょっ!」
何気に自分よりも虎次郎のほうがアクアのことをよく分かっていることがムカつく。
こっちは子役時代にしかまともに会ったことがないっていうのに。
『…………認めたくねぇけどお前は童顔で可愛いからそれを存分に活かしたファッションコーデでいけばいいんじゃねぇの?』
世界に一つしかない綺羅びやかなこの顔の存在価値に気づいてくれていることに好感を抱き、助言通りにロリ&ガーリーで攻めることにした。
「バカなアンタでも私の魅力には気づいてくれてるのね。ちょっぴり嬉しいかも」
『反吐が出るわ』
「──────死ねっ!!」
指を画面に叩きつけて通話を切ってやった。物言いがいちいち癇に障る野郎だ。
「私に弟がいたらこんな感じだったのかな」
きっと飽きるくらい口喧嘩をするに決まってる。かなはフフッと笑って立て掛けてある時計に目をやった。
時計が指し示す時間は集合時間五分前だった。
「んぁあああ!んなことやってる内に待ち合わせの時間!二時間前から準備してたのに!」
電車はもう間に合わない。タクシーを呼んで大至急向かわないと。服を着てバックに財布とスマホを入れて玄関で靴を履き、駆け足で外へ出る。
タクシーを拾ったあとは行き先を伝えてからアクアに遅れることをラインで送った。
ラインを開いた際に虎次郎から一文だけメールが届いていた。
『アクアと楽しんでこいよ、妖怪重曹ペロペロ女』
かなは思わず笑った。心の中で、今日だけはその名前で呼ぶのを許してやろうと呟いて。
────────
「ごめんね遅れて………!タクシー渋滞しちゃってて……!」
舞浜駅に到着し、タクシーを降りて直ぐにアクアの元へ駆け込んだ。
アクアは本を読んで時間を潰していたらしく、かなに気づくと肩に下げていたバックへ入れて遅刻した彼女へ気にしてない旨を口にした。
ディズニーシーへはリゾートラインへ乗り換えても行けるが、徒歩でも大丈夫なので話でもしながら向かうことにした。
「舞台は上手くいってるのか?」
先に話題を振られたかなはぎこちなく「上々よ!」と答える。
「適応型」の演技を得意とするかなにとっては一流の役者だらけの稽古場はかなりやりやすい。
絶対に負けられない相手もいるが、それ以上に──
「どうした?」
「ううん。なんでもない」
今日はデートを思う存分楽しまないと。
ディズニーシーのアトラクションは29個あり、レストランも原作に登場する食べ物や飲み物、キャラをモチーフにした豊富なメニューを用意している。
園内でしか味わえない景色を堪能するのもまた醍醐味だ。
かなはアクアの手を取って絶叫系アトラクションの一つ、【レイジングスピリッツ】へ向かう。
アクアは拒否していたが、怖いのが嫌なのかと挑発するとポーカーフェイスに切り替えて先導を切っていった。
【レイジングスピリッツ】は崩れかかった古代神の石像の発掘現場を舞台にしたジェットコースターアトラクション。
グネグネ曲がったコースを猛スピードで走り抜け、視界が逆さまになる「360℃ループ」が恐怖心を煽る仕組みとなっている。
アトラクションが始まり、走り抜ける途中で視点が逆になるとかなは思わず叫び声をあげた。
アトラクションが終わったあと、アクアはぐったりと気分が沈んでいた。
「アハハハハ!アンタが絶叫系苦手なんてちょっと意外ね!」
「360℃ループ」、異常なまでのカーブ、この二つがアクアを苦しめた。
「ああいうので楽しめる奴等の神経が分からん…………」
「ごめんごめんってば!じゃあ次は…………」
【ヴィネツィアン・ゴンドラ】、【トイ・ストーリーマニア】、【アリエルのプレイグラウンド】等々、時間が許す限り二人はアトラクションを楽しんだ。
ツーショット写真も山程撮って、もうこの時点で大満足なかなだが、アクアともう少し距離を縮めたいのでレストランでご飯を食べようと提案を持ちかけた。
「丁度夕方だし、じゃああそこにするか」
二人は【セバスチャンのカリプソキッチン】で晩ごはんを食べることにした。
アクアが選んだメニューはシェフのおすすめセットで、かなはソーセージとベーコンのピザとドリンクを注文した。
カウンターでメニューを受け取ったあと、空いている席に腰掛ける。
「今日は虎次郎に感謝しなきゃね、アンタとハメを外して遊べたわけだし」
「アイツ一昨日チケットを急に渡してきたもんだからなんか企んでるなって思ってたけど、ディズニーシーってかなり楽しいな」
「私もすっごい楽しい。私達…………周りから見たら付き合いたてのカップルに見えるんじゃない?」
ツッコまれる前提で声に出したのにアクアは何も言葉を発しなかった。それどころか、ほんの一瞬頷いたような反応を見せた。
それはつまり…………周りにそう思われても良いってこと?
カップルだと思われても良いってことは…………アクアの好きな人は──────
「ア、アクア!口開けて!ほら、早く!あーん!ほらあーん!」
脳内にお花が咲き乱れたかなは顔を真っ赤にピザを食べやすいようにナイフで切ってからフォークで突き刺し、アクアの口元へ運ぶ。
「い、いいのか?」
「いいから!大口開けて食べなさいよ!恥ずかしいから早くして!」
なら遠慮なくとアクアはパクっと頬張った。
これで周りの目にはよく強く自分達の姿がカップルのそれだと伝わったはず。
恥ずかしくて心臓が破裂しそうだ。
「有馬、ほら」
「────ふぇ?」
アクアがポテトを一つ差し出してきた。
「え、えぇ!?い、いいの!?食べていいの!!?」
「いいから。ほら、早くしろ」
「あ、あーん……………」
「塩気が効いてて美味いよな」
「う、うん…………美味しい」
まさかお返しをもらえるだなんて。好きな人から食べさせてもらったポテトはとても美味しく感じた。
有意義な食事を済ませたあとは園内を歩いて景色を楽しむ。こんな機会は暫く来ないだろう。かなは隣を歩くアクアへ目をやった。澄ました顔だがとても整っていて名前通りの蒼い瞳はずっと眺めていられるくらい綺麗だ。
自然と笑顔が溢れていた。こんなにカッコいい人と一日中一緒に居られたことが嬉しいからだ。
また自然と、アクアの手を握っていた。振りほどかれると思っていたのに、ギュッと握り返された。
「景色が綺麗だな」
「………………うん」
恥ずかしさはなく、こうしてアクアと手を繋いで過ごしているこの時間が幸せで堪らなかった。
ずっと手を繋いでいたい。我儘を言うなら抱きしめてほしい。
アクアの温もりで全身を包んでほしい。
けど二人は付き合ってはいない。かなはこんなに距離が近いのに、見えない壁で阻まれているのがもどかしく感じた。
「アクア……………私────」
「舞台が大変なことになってるけど、頑張れよ有馬。応援してるから」
「────────」
かなは迫り上がっていた言葉を呑み込んだ。コレはまだ言ってはいけない。
ここで言葉にしたら、舞台に集中できなくなる。だから、かなは大袈裟に表情を明るく見せた。
「言われなくても頑張るわよ。黒川あかねにも、虎次郎にも、誰にも負けないんだから」
自信しかない返事にアクアは笑顔を浮かべた。
アクアとかなの初デートは終始楽しさを残して終了した。
「あー!楽しかったー!アクア、今度はランドの方でも行こうよ!」
お土産をたくさん抱えたかなは次のデートの予定も予約しておこうと口を開く。
アクアはランドの方じゃなくてUSJをプランに出した。
「また虎次郎にチケット出してもらう?」
「文句言いつつも買ってくれると思うぞ」
「あぁ!?なんで俺がテメェ等の為に金出さなきゃいけねぇんだよっ!」、と文句を並べつつもチケットを買いにいく虎次郎の姿が浮かんできてかなは吹き出してしまった。
「素直じゃないのよ、虎次郎は」
「それを言うなら有馬だって」
────────耳を劈く発砲音が響いてきた。かなは驚いて土産物を全部手元から落としてしまい、反射的に耳に手を当てる。
──────まただ。次は連続して二回聴こえてきた。
音の出処は恐らく舞浜駅周辺。また一発鳴った。それに被さるように女性の悲鳴が聴こえた。
「え、な、なに?アクア、今の音って……」
「間違いなく銃声だ。有馬、行こう」
銃声が起きたということは、誰かが撃たれた可能性がある。アクアはスマホを手に持って舞浜駅へ急いだ。
──────アクアは目を疑った。
ぞろぞろと集まってきた人集りの中心には股間を押さえてもんどり打っている見覚えのある男がいた。
問題はそれではない。男から1メートルほど離れた距離で虎次郎が倒れていたのだ。
あかねが必死になって呼びかけているを目にして、アクアは冷や汗を浮かべて駆け寄った。
「──────虎っ!!!!」
意識を失っているのか声をかけても返事がない。まずは右手首に指を当てて脈があるかを確認する。脈は微かに触れている。
次は外傷の確認に移る。
左肩には小さな穴が空いていてそこから出血が起きている。腹部内臓付近にも同じような穴が二つ、更にナイフが根本まで突き刺さっていた。
アクアは近くを見渡し、倒れている男の側に警官が所持する小型のリボルバーが落ちていることに気がついた。
「まさかアレで………」
「ごふっぁがぁ…………!」
「虎次郎君!」
虎次郎が目を覚ました。口から微量に血を吐いて、アクアの顔を不思議そうに見つめた。
「あれ?俺……………あ、そっか。有馬とのデートは楽しかったか?」
苦しそうに声を出す。アクアは泣きそうになるのを我慢して冷静に対応する。
リボルバーを回収した後は救急車への連絡。虎次郎を殺そうとした男の方へ目をやると、アクアは背筋が凍り付いた。
見覚えがあるどころの話ではない。あの男、アイを殺そうとした当時大学生だったリョースケじゃないか。
彼の股間からは血が流れていて口から泡を吹いていた。
「虎、今救急車呼んだからな。もう大丈夫だ」
上着を脱いで虎次郎のお腹に当てて強く圧迫する。内蔵付近からの出血が止まらない。それに突き刺さっているこのナイフ、角度的に腹部大動脈に触れているかもしれない。
アクアの脳裏に最悪の事態が過ぎった。
「あの男が襲ってきたのか!?」
「う……うん…………発狂してナイフを振りながら襲ってきて…………それで…………」
「もういい……!虎、絶対に助かるから、諦めんなよ!」
「ハッ…………!こんなとこで死ねるかよ………………」
かなは呆然としてその場に立ち尽くす。虎次郎の顔色がみるみる間に青白く変わっていく。救急車のサイレンが聴こえてきた。
突然、アクアは背後から鋭い視線を感じた。
まさか、リョースケが目を覚ました──!?圧迫を続けたまま振り返る。
しかしリョースケは依然として意識を失っていた。
彼のすぐ近くにこちらを睨みつける少女が立っていた。
睨んではいるが、衝撃を受けているとも取れる、あり得ないような表情だった。
その視線は、アクアではなく虎次郎に向けられていた。
「あ〜クソババア病院に来んのかなぁ………」
〜おまけ〜
①リョースケ、「何者」かにリボルバーを貰う。
②リョースケ、「何者」かに虎次郎の居場所を教えてもらう。
③リョースケ、リボルバーとナイフを持ってデート帰りの虎次郎へ襲いかかる。
④ナイフは受け止められ、股間を蹴り上げられたが隠し持っていたリボルバーで左肩一発、腹部二発の順に発砲。その後ナイフをお腹に突き刺した。
⑤虎次郎ブチ切れ。リボルバーを持っていた右手首をへし折られ、奪われたリボルバーで膝を撃たれる。
⑥膝を撃つつもりだったが手元が狂い、放たれた弾丸はリョースケの残り一つの大切な金○を貫いた。ご愁傷さま。
因みに「何者」かは謎の少女でもカミキヒカルでもありません。
虎次郎はゴキブリ以上にしぶといのでみなさんご安心下さい。
次回は遂に虎次郎のおとっつぁんが登場するかも。