隣の部屋の前に黒ずくめがいたから金○を蹴り上げてやった   作:ハッピーエンド大好きクラブ

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嘘まみれの愛情

 

 

狂喜乱舞。まさにこの一言に尽きる。病室から当然のように現れた虎次郎を目撃したあかね一行は元気な彼の姿を見て絶叫し、なりふり構わず抱き着いた。

ルビーに頬ずりされ、あかねに「体はもう大丈夫なの?」と泣かれつつ頭を撫でられる。

メルトは嬉しさのあまり膝から崩れ落ち、アクアは上を向いて何かを誤魔化していた。

一通り落ち着いたあと、虎次郎は当初の目的だったトイレを済ませて病室に戻る。

 

担当医の話によると傷口は塞がったが内部の損傷は完全には治っておらず、リハビリはまだ先になるらしい。短い距離の歩行なら問題ないようだ。

だがちょっと動くとお腹の奥がかなり痛むらしく、撃ち抜かれた左肩も上手く動かせない。

 

「我慢すりゃあ全然だけどな。ほら────」

 

「ダメッ!!」

 

試しに左腕を振り回そうとしたら明美に止められた。お腹は別として左肩の傷口は閉じてるんだから、どれだけ動かそうが痛むだけでそんなに心配されるようなことじゃ────

 

「虎次郎君。良い子だから止めて。ね?」

 

「う…………ウス」

 

「退院日が長引くだけだよ、虎」

 

「虎、お前はもう少し自分を大切にしろ」

 

「右に同じく」

 

ガチめに怒られた虎次郎は調子に乗りすぎたと反省する。

 

「悪かったよ。あ、そうだ。黒川、舞台って今どうなってんだ?」

 

代役で話が進んでいると思っていたら、黒川の口から舞台は虎次郎が復帰するまで公開延期になったことを伝えられた。

 

「あー、そっか。そうなったんだな」

 

「脚本の件なんだけどよ。新しい脚本ができてさ、持ってきたから渡しとく」

 

「マジで?脚本変わったんだな。サンキュー」

 

貰った脚本を確認しようとしたら明美に取り上げられてしまった。

 

「今は舞台のことは忘れて、体を休めることに専念しないと」

 

「ちぇっ、なんだよ…………」

 

反論できないことを言われたので唇を尖らせて不貞腐れる。明美はフフッと微笑み、指先で虎次郎の頬へ触れて反応を楽しむ。

あかねの表情が一瞬黒く染まる。それに気づいたのはメルトとアクアの二人だけで、ほぼ同時に背筋をピンと伸ばした。

 

あかねは椅子に腰掛けて虎次郎の手を包む。虎次郎は母親の手を払い除けてあかねの頭を撫で始めた。

 

「心配かけたな…………黒川」

 

「ホントだよ……目が覚めて本当に良かった」

 

二人は抱き合う。あかねの瞼にはじんわりと涙が滲んでいて、それは虎次郎もだった。

 

「わぁ〜アチチだねぇ〜」

 

周りの目など気にせず抱き合う二人を前にルビーはゲヘヘと気色悪い笑みを浮かべて写真を撮り出した。

 

そこからは時間を忘れて雑談に没頭した。主に中学時代の虎次郎のやらかしをアクアとルビー視点で語られ、授業中に突然席を立ったと思ったらジュースを買いに行って怒られたり、真夏の日に教室のクーラーの温度を勝手に20度まで下げて教師達と一時間口論をしたり、生徒に嫌がらせをする教員を投げ飛ばしたり等々。

少なくとも虎次郎は優等生ではなかった。どちらかというと問題児だ。

 

態度こそ壊滅的に悪かったもののテストではほぼ満点、英語に至っては100点しか取ったことがなく一部の教員にはかなり嫌われていた。

 

「お前……………よく停学にならなかったよな」

 

「一回なりかけたことはあったけどな」

 

途端に明美の表情が苦々しいものに変わった。気になったメルトはそれとなく聞いてみると、簡潔にこう言われた。

 

「中1のとき3年のイジメっ子共を引き摺り回したことだよ」

 

「「ああ〜、あったあった」」

 

星野兄妹が納得したように頷いた。放課後、学校を探検していると誰もいない空き教室で貧相な見た目の女子が複数人に殴られているのを発見し、虎次郎はその場に乗り込んで全員を袋叩きにしたあと殴られていた女子を担いで保健室に突き出した。

 

「その後自宅謹慎になりかけたけどイジメがバレて、イジメっ子共が逆に自宅謹慎になった話だよ。人を下に見ようとする奴等の末路さ、笑えるだろ」

 

人を理不尽に殴る奴は言葉による説得なんて無意味だ。

 

「あ、聞けよメルト、黒川。アクアのやつ中学んとき毎日のように女子から告白されてたんだぜ」

 

「え、マジで!?」

 

「ファンクラブとか出来てたりして……」

 

「あったあった!コイツが登校する度に女子からキャーキャー言われてたんだよ!」

 

星野兄妹は美男美女という言葉が非常によく似合う。

アクアは両耳を手のひらで押さえて何も聞こえないようにした。

 

「ルビーちゃんも男子にモテモテだったもんな」

 

「告白されたことは一度もないけどね。一度も!」

 

「それ俺とアクアで阻止してたからな」

 

「はぁ!?それホントなの!?」

 

「虎、悪いけど用事を思い出したから俺は帰──ぐぅっ」

 

「お兄ちゃぁぁぁん!!」

 

中学時代に男子からチヤホヤされなかった原因をここで明かされたルビーは逃げようとしたアクアを捕まえ、ヘッドロックをかけた。

虎次郎はその様子を眺めてゲラゲラ笑う。退院したら間違いなくヘッドロックを受ける運命にあるというのに。

 

 

──────コンコン。

 

 

扉が開いて看護師が顔を覗かせた。もう一人面会に来た人がいるようだ。虎次郎が「大丈夫です」と言うと扉は完全に開いて見覚えのある男性が入ってきた。

 

スラリとした体型、高級感漂うスーツを着こなし、爽やかな印象を感じさせる見た目の男性は虎次郎を目にした途端安堵したように表情を崩した。

虎次郎は目を点にして腹の底からこう叫んだ。

 

「親父っ!?」

 

親父と呼ばれた男性はウンウンと頷き、柔らかい物腰で口を開く。

 

「ああ。お前の親父だ、虎次郎。本当に無事で良かった。心配したんだぞ?」

 

明美が席を立ち男性の前まで近づいた。

 

「何しに来たの…………匠海(たくみ)

 

「何しにって、息子が不審者に殺されかけたんだぞ?見舞いに来ない訳にはいかないだろ」

 

「巫山戯ないで。虎次郎のことなんて愛していないくせに、また気持ちの悪いことを吐きながら殴るつもり?」

 

「待て、落ち着いてくれ明美。私は変わったんだ。あの時は確かに父として最低なことをした。反省してる。だからこそ父親として虎次郎のことを心から愛したいんだ」

 

 

────────嘘だ。あかね達は目の前にいる匠海という男は嘘に塗れていることを見抜く。

黒い塗料を頭から被ったように「嘘」で固められた存在。

 

彼の名前は竹澤匠海(たけざわたくみ)。明美の元夫で、父親の警備会社を継ぐまでは俳優の仕事をしていた。

現在は警備会社の社長として忙しい日々を送っているようで、今日はスケジュールを切り詰めて無理やり休みを取って来たらしい。

 

「貴方は虎次郎の視界に入っちゃいけない人よ。早く出ていきなさい」

 

明美からすれば彼は自慢の息子に暴力を振るった卑劣極まりない男だ。

こうして会話をするのも、虎次郎の名前を彼から聞くのも生理的に受け付けられない。

早く出ていけと怒りの眼差しを向けて口にする明美の袖を、虎次郎は軽く引っ張った。

 

「母ちゃん母ちゃん。コイツ等に俺達のみっともねぇ姿を見せてんじゃねぇよ」

 

「と、虎次郎?でもこの人は────」

 

「母ちゃんだって俺のことまともに愛してくれなかった癖に人のこと言うんじゃねぇよ。親父、いいから座れよ。俺だって良い息子とは言えねぇけどな」

 

「すまないな、虎次郎」

 

「虎次郎…………私は」

 

「分かってる。分かってるから、母ちゃん」

 

折角あかね達が見舞いに来てくれたのに家族の揉め事を見せるなんて馬鹿げてる。

虎次郎はルビーが暗い表情をしていることに気づき、近くに置いてある果物籠からりんごを一つ手にとって「ルビー、やるよ」と投げ渡した。

 

「わ、わわ。あ、ありがと」

 

「二百円な」

 

「これ持ってきたの私だよ!?」

 

華麗なツッコミが入り、虎次郎がハハッと笑うとそれに釣られてルビーも可愛げな笑顔を見せた。

 

ここで虎次郎はとあることを思い出す。

 

「そういやあの片無し野郎ってどうなったんだ?」

 

何気なく呟く。すると空気が凍りついたのを肌で感じた。

辛うじて覚えているのはリョースケが手に握っていた拳銃を奪い、動けなくするために太ももを狙って引き金を引いたこと。

 

怪我の度合いはリョースケの方が軽いから今頃独房の中で三つ指ついていじけているかもしれない。

それを想像すると笑えてくるが、匠海から出た言葉は想定外のものだった。

 

「彼は……リョースケだったかな。死んだよ」

 

「────────はぁ?」

 

「ショック死だったそうだ。弾は股間を貫いて、それで…………」

 

太ともを狙ったはずなのに、照準が逸れてリョースケの股間に直撃した。

虎次郎はまさか死んだとは思っておらず、何を言えばいいのか困惑してしまう。

 

唯一つだけ明確なことがある。それは────

 

「俺が殺したようなもんか」

 

「虎次郎、それは──」

 

匠海が何か言おうしたら、それを遮るように明美が虎次郎を抱き締めた。

 

「貴方のせいじゃない。当然の報いよ。あんな屑は死んで当然なんだから…………だから虎次郎、何も気にしなくていいの。お母さんが付いてるから…………!」

 

「………………すまない。まだ伝えるべきじゃなかった」

 

「いや、いいんだ親父。俺は大丈夫」

 

「そうか……」と返事をして、匠海は視線をあかねへ向けた。

 

「君は劇団ララライの……」

 

「俺のコレ」

 

虎次郎が小指をピンと立てた。

 

「ああ、今ガチから付き合っているんだったな」

 

「観ていたんですね」

 

「娘が虎次郎のファンでね。君に凄い嫉妬しているよ」

 

離婚したあと、匠海は2年ほどして新しい女性と再婚した。娘というのは再婚相手の連れ子で、彼の口から虎次郎の大ファンだと告げられた。

 

「虎次郎、お前さえ良かったらこの色紙にサインを書いてくれ。娘に見舞いに行くならサインを貰ってきてとしつこく頼まれてね」

 

「再婚したんだな。娘のこと殴ったりしてねぇのかよ」

 

「同じ過ちを犯すはずがないだろう。神に誓うよ」

 

「………………ほい、書けたぜ」

 

サインを書いた色紙を匠海に渡す。

 

「ありがとう。虎次郎、私はここに住んでるから、落ち着いたら遊びに来てくれ。娘が喜ぶ。さてと、私はもうお暇するよ」

 

虎次郎は名刺を受け取った。裏返すと匠海の家族が住んでいる住所が書かれている。

 

「もう帰るのか?」

 

「私が居ていい空気ではないからね。次は遅い時間に見舞いに来る」

 

「そっか。じゃあな親父」

 

 

匠海が病室を出ていって少ししたあと、虎次郎が眠たくなってきたと言うので明美達はもう帰宅することにした。

話したいことは山ほどあるが、それはまた明日でいい。

 

「じゃあね虎次郎君。あんまり看護師さんを困らせちゃ駄目だよ?」

 

「分かってるよ。ガキ扱いしてんじゃ」

 

チュッ、とあかねからキスをされた。突然のこと過ぎて思考がどこかへ吹き飛び、動けなくなってしまう。

してやったりと小悪魔のように笑ったあかねはそそくさと病室を後にした。

 

「────────」

 

「あー、ダメだ。意識飛んでるわ」

 

「あかねさんってあんなに大胆だったっけ?」

 

明美はキスなんて息子のほっぺにしかしたことがないのにと放心状態になっていた。

 

 

 

 

 

 

皆が居なくなった病室はやけに静かに感じる。昼頃だとテレビはニュースしかやっていない。虎次郎はテーブルに置かれた新しい脚本を手にとって中身を確認する。

 

「簡単すぎねぇかコレ」

 

コレは役者の動きでほぼ全てを表すものだ。変更前の脚本はキャラの心情がセリフとして描かれていて演じるのが難しかった。

だがコレはこれで面白い。やり甲斐がありそうだ。

 

「早く退院してぇな〜」

 

早く復帰して、母親に舞台での演技を観てもらいたい。

そのために療養して退院しないと。体はまだ本調子じゃないが一週間くらいゆっくりしていれば直ぐに復活できるはずだ、左肩の痛みも我慢できる範疇だし。

看護師さんがお薬を持ってきたから退院日はいつなのか虎次郎は聞いてみることにした。

 

「俺の退院日ってもう決まってるんですかね」

 

「全治5ヶ月なので退院はまだ先ですね。リハビリもしないといけませんし」

 

「────ハァ?」

 

 

頭の中で考えていたものが全部吹き飛んだ。

 

 






全治って病院に入院してから退院するまでの期間じゃなくて退院して通院が終わるまでの期間らしいよ。
調べてビックリしたね、ワイは。

ということで今日から更新再開となります。皆さん良ければ拍手を、ぱちぱちぱちぱち!!

次回はお見舞いラッシュということで、星野家族がやって来てアイの気持ちが語られます。


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