隣の部屋の前に黒ずくめがいたから金○を蹴り上げてやった 作:ハッピーエンド大好きクラブ
超久しぶりの更新です。皆様長らくおまたせしてすんません。今回は短めですけど勘弁。
生きた心地がしない。血の気が引いて、冷や汗が背中を伝うのが分かる。
虎次郎は中学時代に住んでいた実家へあかねを連れて訪れていた。
現在、広いリビングで母親と対面する形で座っている。
出されたロイヤルミルクティーは一口も飲む気にはなれない。
隣に座っているあかねはソレを飲みながら「またお会いできて光栄です、お義母様」と余裕綽々でいる。
そんな彼女に対して明美は眉間に皺を寄せつつも毅然とした態度で返した。
「虎次郎から大事な話があるとメールであったけれど、それは貴女にも関係あるのかしら。あかねさん」
昨晩虎次郎から一通のメールが届いた。内容は「明日大事な話があるから予定空けといて」。
明美は即座にスケジュールを見直し、半ば強引に休みを取った。
もう仕事最優先な母親にはならない、息子を第一に考えて行動すると決めた明美はこの日が来るのを楽しみにしていた。
しかしどうだろうか、「今ガチ」で虎次郎の彼女の座を勝ち取った女々しい女も付いてきてるではないか。
つまり、虎次郎の大事な話に彼女も関係していることは明白。
でなければわざわざ彼女を連れてくるなんてことはしない。
揺すりをかけるべく柔らかい口調で尋ねてみると、あかねはカップをソーサーに置いて口を開く。
「はい。私と虎次郎君にとって大事なことなので」
「大事なこと………ねぇ。虎次郎、説明してもらえる?」
「あ、ああ。えっと…………その、あー……」
歯切れの悪い返事に明美は訝しむ。虎次郎はチラリとあかねの方へ顔を向けた。
あかねは何も言わず、ただ頷いて虎次郎の手を優しく包み込んだ。
「…………よし。あのな、母ちゃん。今回の舞台が終わったらさ、俺達…………同棲しようと思ってるんだ」
「却下よ」
予想的中。明美はあかねも付いてきた時点で大方同棲のことを話題に出してくると踏んでいた。
恐らく虎次郎が契約しているアパートで一緒に暮らそうと彼女が言い出したんだろう。
虎次郎は恥ずかしがりやで照れ屋で素直じゃない、だから自分では判断を付けれず、こうして母親を頼ったわけだ。
許可を貰う形での同棲。そんなの却下に決まってる。
「それはどうしてですか?」
微笑みを絶やさないあかねは困惑している虎次郎の肩に手を置いたまま却下の訳を聞く。
「不純異性交遊よ。貴女達にまだ早いわ」
「彼氏と彼女が一つの部屋で一緒に暮らす、これのどこが不純異性交遊になるんですか?」
「──っ。と、虎次郎には刺激が強いからよ!」
「虎次郎君は私と同棲したいと言っていましたけど」
「え!?ほ、本当なの虎次郎!」
声を荒げながら息子を問い詰めると、頬をほんのり赤くしてそっぽを向かれてしまった。
この反応、言わされたのではなくマジなやつだ。マジであかねと同棲したいって思ってる反応だ。
あかねは勝ち誇ったように微笑んでいる。この魔女め、息子を誑かした挙げ句、心までも懐柔してやがる。
なんて卑怯で下劣な女だ、こんな奴が息子の彼女だなんて認めるわけにはいかない。
同棲を許可してしまったらおはようのキスからおやすみのキスを取られてしまうではないか。
そんなの許せない。
行ってきますのハグすらしたことがないのに。
勝手に恨みを募らせる明美を他所にあかねは飲み干したカップを見つめながら淡々と言葉を続ける。
「お義母様は虎次郎君のことを大切に想っているんですね。それは当然のことだと思います。ですが私はお義母様以上に虎次郎君のことを愛しています。この気持ちは誰にも負けません。私は守りたいんです、虎次郎君を愛する一人の女として、隣に座る人を、ずっと」
「い、言うじゃない……息子を唆した尻軽が……」
「いけませんお義母様、そんな汚いお言葉をお使いになられては。それに尻を振るのは虎次郎君だけで十分です」
「図に乗るんじゃないわよたかだかララライのエースの分際で!アンタじゃぁ虎次郎には相応しくないのよ!それにアンタにお義母様って呼ばれる筋合いはこれっぽっちもないわっ!!」
突然の激昂に虎次郎はビビってしまう。こんなに怒った母親を見るのは初めてだ。
怒りを向けられているあかねは臆すること無く立ち向かう。
「私達はお義母様の許可を貰わなくても同棲出来るんですよ?ですが私は虎次郎君の気持ちを尊重してこうして許可を頂きに来ているんです。この意味わかりますか?」
「知ったことじゃないわ。虎次郎はここに戻って私と一緒に暮らすのよ。私はアンタなんかより虎次郎のことを解っているし、愛しているんですからね!」
「虎次郎君を愛しておきながらその愛情を注げず嫌われた貴女に言える言葉ですか?」
「────カッ」
的確な返しに錆びた釘を打ち付けられた金属バットで殴られたような衝撃を感じて明美は床に倒れ込んだ。
先のあかねの一言、ぐうの音も出ず、言い返せることすらできない。
言い訳の余地のない完全な反論を叩きつけられた明美は悔し涙を流して子供のように泣きじゃくった。
「分かってるのよ虎次郎に嫌われてるってことぐらい!でもしょうがないじゃない!子供は小さい時の方が可愛いって言うけれど虎次郎は年々可愛さが上がっているんだから!アンタに言われなくてもこうなったのは全部私のせいだって理解してるんだからぁぁあ!!」
小学一年生のように泣き叫ぶ明美の姿に流石のあかねも身動きが取れず固まってしまう。
もうすぐ37歳になる大人が高校生相手にレスバ負けして豪快に泣く姿は滑稽と呼ぶに相応しい。
この状況で一番可哀相なのは明美ではなく息子の虎次郎だ。
母親の醜態を彼女に目撃された。虎次郎は死んだ魚の眼で二時の方向を見つめている。
母親の姿を視界に入れたくない固い意思を感じる。
「うぅ………ひっぐ……私が……私がちゃんとしてれば、虎次郎はアイツに殴られなかったし、辛い思いをすることはなかった。私は母親失格よ……でも虎次郎には幸せになってほしいのよ……ただそれだけなのよぉ」
虎次郎はこれまでのことを全て許して歩み寄ってくれた。正しい家族になろうと手を差し伸べてくれた。明美は今度こそ間違わないと、その手を握った。
息子の前では、正直でいようと決めたのだ。
あかねは静かに腰を上げて泣きじゃくる明美の側まで近づいた。膝を付き、彼女の両肩に手をおいて体を起こすよう促した。
「私も同じです。虎次郎君に幸せになって欲しいんです。明美さんは何も間違ってなんかいません。母親失格だとしても、やり直すチャンスを虎次郎君はくれたじゃないですか。虎次郎君はちゃんと分かってくれています、明美さんの気持ちを。ね?虎次郎君」
確認するように虎次郎へ声をかける。虎次郎はバツの悪そうな表情を浮かべるも、明美の顔を真っ直ぐ見つめてこう言った。
「母ちゃん以外の母親が何処にいんだよ」
息子の言葉に、明美はまた泣き出してしまう。あかねは再度泣いてしまった明美を抱きしめてフフッと笑った。
「泣き虫さんなところってお義母さんからもらったんだね」
「俺のどこが泣き虫なんだよ」
「フフ。明美さん、私と虎次郎君の同棲を認めてくれませんか?」
明美は顔を手で隠し嗚咽を漏らしながらも何度も何度も頷く。
「ごめんなさい……あかねさん。酷い事を言って…………」
「いいんです。怒られるのは覚悟してましたから」
こうして無事同棲の許可を貰うことに成功したあかねは明美からの信頼も勝ち取ることが出来た。
大事な話が済んだ後、虎次郎は苦しそうに表情を歪ませながらもあるお願いを明美に持ちかけた。
「なぁ母ちゃん。舞台のことなんだけどさ、公開日はまだ決まってねぇけど…………決まったらさ、観に……来てほしいんだ」
「は?仕事投げ捨てても観に行きますけど?」
「────あ、そう。うん、ならいいわ」
なんだか丸くなった母親は違和感がある。そう思う虎次郎だった。
事が終わったあとのあかね
「…………計画通り」(ニチャァァ)
次回はあかねと虎次郎の才能に嫉妬する重曹のレスバ対決、そして舞台「東京ブレイド」開幕となります。