隣の部屋の前に黒ずくめがいたから金○を蹴り上げてやった 作:ハッピーエンド大好きクラブ
「陽東高校受験、合格おめでとうー!」
苺プロダクション社長斉藤壱護の掛け声の後で社長夫人斉藤ミヤコとアイ、アクア、ルビー、虎次郎のみんながグラスに入った飲み物を掲げて乾杯する。
今日はアクア、ルビー、虎次郎の高校受験合格発表日で、三人共問題なく合格したのだ。
これで四月から高校ライフを送れると虎次郎は両手を上げて喜んだ。
合格した暁に社長夫婦の自宅で焼肉パーティーをすることになり、今こうしてみんなで朗らかに喜びを分かち合っている。
「ん!このお肉美味しー!」
ルビーが口に入れたのは松阪牛の特上カルビ。初めて食べる高級肉の美味しさにルビーは飲み込むのが勿体無いと感じた。
「じゃんじゃん食べろよお前ら!今日は無礼講だ!ガハハ!」
社長はよほど楽しいのか次々と酒を呷る。
「このお酒美味しいね。ミヤコさん、なんてお酒なの?」
「えっと……凰って名前の日本酒ね。子供に飲ませちゃだめよ、アイ」
「分かってるってば。アクアも食べないと、はいあ〜ん」
あまり箸を進めないアクアにアイはタレをつけたハラミを持っていく。
アクアは「いや、自分で食べるから……」と遠慮するが、ずいっと押されると観念してか恥ずかしそうに食べてくれた。
「美味しい?」
「うん………美味い」
「ずるい!ママ!私にも食べさせて、はいあーん!」
「もう、ルビーは甘えん坊さんだなー。あーんして?」
「虎、お前は食わないのか?無くなっちまうぞ」
「俺肉苦手なんだわ」
母親も誘ったが、仕事仕事と来てくれなかった。
別に不貞腐れているわけじゃないが、昔から肉は好きじゃない。
金を惜しまず、大量に高級肉を買いに行ってくれた社長に感謝はしてるがこればかりは申し訳ないと思う。
虎次郎は野菜を食べてお腹を満たす。
焼肉パーティーは長い時間続き、完全に酔っ払った社長はあんなに小さかったアクア達がいつの間にか大きくなってと浸りだし、嗚咽を漏らして泣き出した。
こうなるともう面倒くさい。何言ってもアクアがどうのルビーがこうの、虎次郎があれだのととうとう酔い潰れた。
「あーあ、社長潰れちまったな。おいルビーちゃん、落書きしてやろうぜ」
眠っている社長の顔面にマジックペンでイタズラすることを思いついたがミヤコに叩かれて止められた。
「アクア、ルビー、ちょっとこっち来て」
程よく酔いが回っているアイは頬を赤くしながらもアクアとルビーをソファに座るように誘った。
アクアは右側へ、ルビーは左側へ座り、アイは真ん中に。
徐ろにテレビの電源を付けて何やら入力する。すると、テレビ画面に映し出されたのはどこかのリビング。
壁にはハッピーバースデーの文字のバルーンが飾られていた。
『撮れてるかな?……うん、こういうの残しておくのもいいと思ってね〜』
画面の中のアイがカメラの位置を少し動かした後、画面の外へ出ていった。
戻ってきたときは両手にアクアとルビーを抱えていた。
『大人になったとき、これ観ながらお酒でも飲めたらいいなって思って。流石に私はその年でアイドルはやってないと思うけど』
ふたりともよく眠っている。アイは愛おしそうにふたりを見て、はにかむように笑った。
『あっ、そのときは君たちがアイドルとかになってるかもね。私の子だし、全然ある話だよね』
『なんにせよさぁ、元気に育ってください。母としては、それだけだよ』
場面が変わり、アクアとルビーが虎次郎と一緒に公園で遊ぶ姿が映された。
これは二人の成長を記録した映像。幼い頃の思い出を映像として観ていると、何故かルビーの瞼からは涙が溢れ出した。
「ここ!虎がお兄ちゃんに飛び蹴りをしようとして滑っちゃって頭ぶつけたの!」
「覚えてる覚えてる。あのとき虎大泣きしてたもんな」
小さい頃は虎次郎がよくアクアにちょっかいをかけてた。ルビーに物理的な反撃をされて泣きながら立ち去ることが多かったが、気が付けば家族のような関係になっていった。
産まれた瞬間から今に至るまでの思い出を映像で遡り、三十分ほどして終わる。
最後に、アイはアクアとルビーを抱き締めた。
「産まれたときはあんなに小さかったのにさ。こんなに大きくなって。やっと言える。アクア、ルビー」
妊娠から始まったこれまでの日々は苦しいこともあったけれど、それ以上に幸福に満ちていた。
アイは誰からも愛されずに育った。自分の母親からも見捨てられ、児童養護施設で育つ。自分には誰かを愛する資格はないと思っていた。
アイドルになって、嘘こそが本物の愛だと信じ頑張ってきた。
でも、嘘は今日で終わり。
お腹を痛めて産んだアクアとルビーには、嘘じゃなくて本物の愛を言わないと。
だからアイは口にする。愛する息子と娘に。ずっと伝えたかった愛の言葉を。
それは────────
「愛してる」
たった五文字の言葉。なのに、こんなに嬉しい。
「あぁ……やっと言えた。これは嘘じゃない。何度でも言える。愛してるよ、アクア、ルビー」
アクアとルビーは母親を抱きしめる。力一杯、彼女の愛情に応えるために。
「俺も愛してる……母さん」
「私もだよ……愛してる、ママ」
前世なんて関係ない。ここにあるのは本物の家族。本物の愛が生まれたのだ。
「…………………ほんとっ、良いよな。家族って」
抱きしめ合うアクア達を見つめる虎次郎は今にも泣きそうな辛い顔をしていた。
気を紛らわすために子供ビール(リンゴ味)を飲み干す。
「明美さんに何度か貴方との時間を作りなさいって伝えてるけど、あの人は」
「聞く耳持ってくれないだろ。知ってるよ、あの人見知りクソババア、俺なんて好きじゃねぇんだ。ここまで育ててくれる分マシだけどよ」
言葉だけが全てじゃない。行動で示す愛情表現もあるけど、一回くらいは「愛してる」と言ってほしい。
見つめているとアイが虎次郎と目を合わせて手招きしてきた。
こっちへ来いって意味だろうか、なんだろうと思いながら席を立つ。
「虎君。正座して下さい」
「う、うす…………」
言われた通り正座する。ちょうど頭の位置がアイの胸の辺りに。何をされるんだろうかと考えていると、ふわりと良い香りが漂ってきた。
何が起きたのか理解できず、数秒思考停止する。アイに抱きしめられている。この事実に気づいたのは彼女が口を開いたあとだった。
「あの日、君がいなかったら私死んでた。アクアとルビーに愛してるなんて言えなかった。だからね、ありがとう虎君。私達を助けてくれて。私に、愛してるって言わせてくれて」
「………………いや、俺は…………」
────────温かい。これが、母親に抱きしめられた感覚?
いや、違う。この人は俺の母親じゃない。アクアとルビーの母ちゃんなんだ。
勘違いするな、俺にはちゃんと母ちゃんがいるじゃねぇか。でも…………こうやって抱きしめられたことも、頭を撫でられたことも、手を繋いだことも、愛してるって言われたことも、一度もない。
だから俺は──────────
虎次郎はアイの肩を掴み、引き離す。
「礼なんていいよ。俺は…………そうだ、ルビーちゃんとの婚約考えてくれました?」
「うーん……それはちょっと難しいかなぁ」
「私ヤダよ、こんな奴と結婚なんて」
「ぐぼはっぁあああ"あ"あ"!!???」
ど直球過ぎるお断りな返事に虎次郎は血反吐を撒き散らしてのけ反った。
────────
陽東高校入学式。待ちに待った芸能界への道への第一歩。道のりは長いが、確実に一歩を踏み込んで進むために虎次郎とアクアは決意を胸に抱く。
「入学おめでとう、アクア。あとルビー、虎次郎」
三人の入学を有馬かなが歓迎してくれた。そして語る。ここ陽東高校は授業日程の融通が利くくらいで普通の高校と大した違いはない。
テストで赤点を取ったり出席日数が足りなければ当然留年する。
唯一違う点があるとするなら、学生の皆が芸能人であること。
グラビアアイドル、俳優、声優、配信者、ファッションモデル、歌手、女優、アイドル、歌舞伎役者。
数え切れない数の芸能人がこの陽東高校には在席している。
つまり、日本で一番観られる側の人間が多いということ。
「歓迎するわよ後輩、芸能界へようこそ」
辛いことや逃げ出したいことがあるかもしれない。それでも諦めずに頑張ってほしい、という先輩としての気持ちを言葉に乗せる。
「アクアきゅん、ルビーちゃん!早くしないと授業に遅れちゃうわよっ!わたくちお先に行ってますからね!」
そんなもの汚泥に捨てる勢いで無視する虎次郎。
「待ってくださいよ虎次郎先輩!お兄様、早く行きましょう!」
続け様に汚泥ごと火炎放射器で焼き払うルビー。
「もうアクアきゅんったら恥ずかしがっちゃって!そんなとこもきゃわい────」
「死ねぇえええええ!!!!!」
かなの全身全霊の飛び蹴りをモロにくらって吹き飛ぶ虎次郎。アクアは他人のフリをしながら教室へ向かった。
どうか何事もなく一日が終わりますようにと願って。
アクアきゅんはまだ虎次郎に恋愛リアリティショーの話を伏せています。
次回でその話を虎次郎に持ちかけます。虎次郎のガチファンが登場するかも!?
感想いっぱい送ってね!!待ってるから!!