隣の部屋の前に黒ずくめがいたから金○を蹴り上げてやった   作:ハッピーエンド大好きクラブ

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聞かなくても聴こえた言葉

 

 

「新宿クラスタ」の前に現れたのは圧倒量の殺気を放つ剣主「刀鬼(虎次郎)」。

匁を下がらせ、じっとブレイド(姫川)を見つめる。先ほどから武者震いが止まらないブレイドは両頬をパンッ!と叩き、盟刀・風丸を抜刀。

切っ先を刀鬼に向けて、力強く叫ぶ。

 

「大将のお出ましとは探す手間が省けたぜ!さぁ語ろうか!俺達の刃でよぉ!」

 

勢いのままに刀鬼へ斬りかかる。これは台本にはない突発的なアドリブ。本来なら刀鬼が刀を抜いてから戦闘が始まる流れだった。

つるぎ(かな)は「こんな急に仕掛ける!?」と驚く。

 

 

 

 

 

 

だが気持ちは分からないでもない。虎次郎のヤバさを真に理解しているのは姫川、かな、あかねの三人。

無理やりでも自分の土俵に持ち込まなければ虎次郎の演技に呑まれる。

それを避けるために姫川は先に攻撃を仕掛けたのだ。

 

 

 

 

 

 

ヒュッと空を切る音が鳴った。ブレイドの刃は、刀鬼が鞘から抜いた盟刀によって受け止められていた。

 

抜刀する瞬間が視えなかった。ブレイドは不敵に笑い、荒々しい猛攻へ打って出る。

ブレイドの動きには一つ一つの所作に感情が乗っている。

まるで情報量の塊。これが彼の得意とする感情演技。

 

 

"ほら"

 

 

"どうした"

 

 

"楽しもうぜ"

 

 

刀に感情を乗せ、叩きつける。燃え盛る烈火の如く、熱い眼差しが刀鬼を射抜いた。

 

 

お互いの視線が重なる。刹那、ブレイドの背筋が凍りつく。咄嗟に後ろへ跳んだ。

 

「──────ッ!?」

 

不味った。判断を間違えたことに歯噛みする。何故なら後ろへ跳ぶと同時に刀鬼は前へ飛び出していた。

刃は首を捉えている。不味い、このままでは斬られる。

 

「せやぁっ!!」

 

「つるぎっ!助かったぜ!」

 

二人の間につるぎが割って入り、間一髪刃を弾いた。

刃を跳ね返された刀鬼は仰け反った反動を利用して距離を取る。

 

「退け女。命を賭して戦うのは男だけでいい。去れ」

 

「わ、私は戦える!」

 

猪突猛進、一直線に刀鬼へ突っ込むつるぎ。しかし簡単に背後を取られてしまった。

 

『バカ虎!私が上手く繋げるから合わせなさ────』

 

ここまで全てアドリブ。一旦台本に合流しなければ整合性が取れなくなる。

視線で伝えるべくつるぎは刀鬼を見上げた。

 

 

 

──────────「違う」

 

 

 

──────────虎次郎じゃない。

 

 

 

今つるぎが見上げているのは虎次郎ではない。

 

刀鬼を演じている虎次郎でもない。

 

刀鬼だ。刀鬼そのものが、今目の前に立っている。あの馬鹿で生意気で口の悪い後輩は何処にも居ない。

冷や汗が頬を伝う。ほんの1秒にも満たない僅かな時間、かなは役を忘れてしまった。

身体は固まり、思考が働かない。頭が真っ白になって、次のアクションを起こせない。

 

「戦う意思がないのならこの場を去れ」

 

背中を突き飛ばされたかなは倒れ込んだ痛みでつるぎの役を取り戻す。

 

「そんな柔らかい身体をして何を守れる。女は男に守られればいい」

 

つるぎは直ぐ様起き上がり、息を吸って声を張り上げた。

 

「勝手に乙女の魅惑ボディーに触っただな!何すんだあんた!」

 

台詞に若干違いはあれどなんとか軌道修正に成功。

後々長い因縁となる刀鬼とつるぎの初会話シーンも問題なく通過できた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シーンは変わり、刀鬼、つるぎ、ブレイドは舞台袖へ。身に纏っていた役を下ろし、かなはポカリを口にする。

 

「アンタねぇ、アドリブ入れるにしてもあんな大雑把にやる?合わせんの大変だったんだけど?」

 

「おう、悪い」

 

姫川を睨みつつ悪態をつく。当の本人は平謝りで反省など微塵も感じさせない。

 

「有馬、気づいてるか?」

 

姫川は離れた場所でじっと立っている虎次郎に目を向けた。傍にあかねもいるが、何やら困っている様子だ。

 

「ええ。今のアイツ、虎次郎じゃない」

 

あかねが何度も「虎次郎君、虎次郎君?」と声を掛けるているが舞台の方に目を向けてこちらに一瞥もしない。

激しいアクションをこなした後だから水分補給をしてほしいのに。肩を揺すってみても反応がない。

 

何か察したのか、あかねは一呼吸置いて口を開く。

 

「刀鬼?」

 

虎次郎はあかねへ顔を向けた。落ち着いた表情からは「鞘姫」の命令を待つ刀鬼の姿に視える。

 

「アイツ…………役に呑まれてんのか?」

 

「あり得………るわね」

 

演者の世界では演技を突き詰めた末に元の自分に戻れなくなるケースが稀にある。

虎次郎が正にそれだ。役を魂に刻み、自我を極限まで抑え込む。

それは己を痛めつけるのと同じだ。やり過ぎれば殺してしまう。自我が死ねば、二度と本当の自分に戻れなくなる。

 

 

 

「どうやったら勝てると思う?」

 

「知るわけないでしょ。ていうか勝負の土俵にすら立ててないわ。すっごく癪だけど」

 

「……よし有馬。次でアイツから虎次郎を引き摺り出すぞ」

 

「え?アンタ何言って……」

 

「俺は刀鬼じゃなくて、虎次郎に勝ちたいんだよ」

 

 

 

シーンはハイライト。「新宿クラスタ」と「渋谷クラスタ」が衝突。

つるぎは鞘姫(あかね)(朔夜)キザミ(メルト)と、そしてブレイドは刀鬼と刃を交える。

 

終盤に近づくにつれてブレイドと刀鬼の殺陣はより迫力の帯びたものへなっていく。

 

 

 

刃がぶつかり、火花が散る。

 

 

 

 

鍔迫り合いとなり、刀鬼の正面が客席へ向く。

 

 

 

 

 

何故かは分からない。刀鬼の目線が上へ泳いだ。その視線の先には、母親が居た。

 

 

 

 

 

 

目が合った。母親は泣いていた。口に手を当て、必死に涙を堪えていた。もう、ボロボロと流れているのに。

 

 

 

 

「────────」

 

 

ブレイドは刀鬼に起きた異変に気づく。念の為に距離を取り、刀を構え直す。

刀鬼は客席を見上げたまま動かない。

 

 

 

 

 

"なんで…………泣いてんだよ"

 

 

 

 

"そんなに俺の演技は見てられないか?泣くほど酷い演技してるか?俺頑張ったんだぜ?めちゃくちゃ努力したのに…………なんで…………なんで泣くんだよ…………ふざけんじゃねぇよ"

 

 

 

 

 

母親が口元から手を離した。そして、言葉を発した。

 

 

 

 

 

 

────────『頑張って』と。

 

 

 






はい、えー長らくお待たせしました。ほんとすんません。月1、月2くらいのペースで投稿できたらなと思っています。
原作が完結したけど、この作品の最終的な着地は原作基準にしようと思ってます。
ん?つまり何が言いたいかって?

カミキは惨たらしく死ぬってことですよ。
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