隣の部屋の前に黒ずくめがいたから金○を蹴り上げてやった   作:ハッピーエンド大好きクラブ

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心に届いた本音の言葉

 

 

 

 

思えば否定ばかりだった。息子が「世界一のハリウッドスターになりたい!」と夢を語っても、立川明美の口からは「無理ね」の一言。

虎次郎に演技の才能があることは母親の明美が一番よく分かっている。だからこそ、怖いのだ。虎次郎の演技が世界に通用するのか否かが。

 

役者の世界は綺麗事や甘い夢で出来てはいない。世界に足を伸ばした途端、周りの才能についていけず心を折られる者も多くいる。

明美もその一人だった。日本国内ではトップレベルの大女優でも、ハリウッドでは素人に毛が生えた程度。

そう、明美の夢はハリウッド女優になることだった。しかしあまりのレベルの高さに自分の演技に疑問を抱く。結果、挫折。

虎次郎にはそんな挫折知ってほしくない。

 

きっと病んでしまう。心が傷つき、自ら命を絶ってしまうかもしれない。

 

そんなことはさせない。そんな辛いことは経験してほしくない。

 

だから否定した。虎次郎に夢を諦めてほしかったから。役者以外の道を歩んでほしかった。

けれどそうはならなかった。

 

 

 

 

 

 

虎次郎は自ら茨の道を突き進むことを決めた。

 

 

 

 

 

 

────舞う血飛沫。刀鬼は何が起きたのか理解できなかった。いや、理解を拒んだ。守るべき人に庇われ、鞘姫は斬られてしまった。

倒れ込む鞘姫に手を伸ばす。既のところで受け止め、ゆっくりと床へ降ろした。

 

「刀を抜け。女を斬られて、黙って引き下がるのか」

 

ブレイドの言葉に刀鬼は返事をしなかった。代わりに傍にあった刀を拾い上げ、鬼の形相でブレイドへ襲いかかる。

 

響き渡る刀鬼の唸り声。何度も何度も刃を打ちつけ合う。シーンはクライマックス。ここから先は全てアドリブ。

獣のような動きでブレイドを翻弄する刀鬼。だが鞘姫を失ったことで感情の整理が追いついておらず、一瞬の隙を突かれて刀を弾き飛ばされてしまった。

刀が無いのなら拳だ。刀鬼は握りしめた拳を振り被る。

 

それでも、ブレイドには届かなかった。

 

 

守る者を失った刀鬼の目に戦う意志が消え失せていたからだ。

 

 

 

 

戦いはブレイド率いる「新宿クラスタ」の勝利で終わった。ケガ人が多くいるため、ブレイドは早く医者に連れて行くよう動ける者たちへ指示を出した。

 

 

 

 

 

 

客席に緊張が走る。

この直後、ブレイドとつるぎは鞘姫が所持していた「傷移しの鞘」の力を使い、彼女が負った傷を自分達に移し替えることで命を救う。

奇跡的に息を吹き返した鞘姫を前にした刀鬼は、彼女を抱きしめ泣き叫ぶ。

作中屈指の名シーンをどう表現するのか、刀鬼演じる虎次郎へ客席の期待が押し寄せる。

 

刀鬼は目を覚ました鞘姫を労わるように起こす。何が起きたのか困惑した様子の鞘姫を見つめる刀鬼の瞳から、ぽろぽろと涙が溢れ始めた。

 

 

 

 

    

 

 

 

 

──────「頑張れ」って言われた。

言葉は無くとも、心に伝わった。夢を否定ばかりしてきた母親から、初めて応援された。

それが無償に嬉しくてたまらなかった。我ながら単純な性格をしていると思う。けれどコレでいいんだ。母親はやっと、背中を押してくれた。

なら頑張るしかない。全力で、死に物狂いで夢を叶えるだけだ。

 

 

 

虎次郎は腹の底から叫んだ。もう二度と言葉を発せられなくなるくらい、思いっきり泣き叫んだ。鞘姫への気持ちを、息が続く限り叫び続けた。

劇場全体を包む虎次郎の叫び。

 

 

余りの感情演技に観客全員が震え上がる。頭が真っ白になって何も考えられないほどの衝撃。泣き叫ぶだけの演技に客席全員の(ただ1人を除いて)心が揺れ動いた。

 

 

 

 

 

 

明美は溢れる涙を止められず、顔をグシャグシャにしたまま虎次郎を見つめる。

幕切れとなり、客席へあいさつをしている出演者達。すると、虎次郎がこちらへ視線を向けた。明美は驚いて思わず背筋を伸ばす。

 

虎次郎は軽く微笑んで手を振った。それに対して明美は恐る恐る手を振り返した。

 

『ありがとう』

 

声に発していなくても、明美の耳にはそう聞こえた。否、心に届いた。また涙が溢れる。

 

虎次郎の夢を否定し続けて、ろくに愛情も注げずそれが正しいと勘違いして。いつか諦めてくれると思い込んで冷たく接した。

それが虎次郎にとってどんなに辛いことだったか想像もせずに。

 

 

だから、もう虎次郎の邪魔はしない。これからは全力で虎次郎の夢を応援する。許されようとは思わない。親のエゴに付き合わせてしまった責任を取りたい。

過去の罪は消えない。だからこそ、その贖罪を背負って虎次郎を支える。だって虎次郎は近い将来、世界で一番のハリウッドスターになるのだから。

 

隣に座るミヤコはそんな彼女の背中にそっと手を置いた。

 

「凄かったわね、虎次郎の演技」

 

「………ええ。100点満点って言葉すら侮辱に聞こえるくらい極まっていたわ」

 

これからは虎次郎ともっと話そう。本音に蓋をせず、全てぶつけるんだ。明美は涙を拭い、席を立ち上がる。

 

「あ、明美さん?」

 

困惑気味のミヤコが声をかけた。突然席を立った明美は覚悟を決めた表情で虎次郎へ目をやった。

 

「おいちょっと待てまさか────」

 

嫌な予感が過ぎった虎次郎。肺一杯に空気を吸い込み、明美はありったけの声量で叫ぶ。

 

「虎次郎ぉおおおお!!愛してるぅうううううう!!!!」

 

「バカ野郎ォオオオオオオオオ!!!!!!」

 

 

 

 

 

かくして、「東京ブレイド」の舞台は虎次郎の絶叫によって幕を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 






えー、はい、マジですみません。僕自身この作品が本当に面白く出来ているのか、今後の展開が皆さんにとって満足してもらえるクオリティで出せるのかが分からなくなってしまって長い期間休んでいました。

次の更新はいつになるか分かりませんが、今月中には更新します。絶対に。

さて、「東京ブレイド」編もあと2話ほどで終了します。虎次郎と明美の親子の関係はどうなるのか、乞うご期待!
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