隣の部屋の前に黒ずくめがいたから金○を蹴り上げてやった   作:ハッピーエンド大好きクラブ

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握手とサイン

 

 

 

 

右を見れば美人、左見たらイケメン。芸能科といえど大したことはないと思っていたが、地元の中学とは明らかにレベルが違う。

教室の扉を開いたばかりの星野ルビーは顔面偏差値の高さに驚かされた。

とはいってもルビーも相当の美人の自信がある。ここで臆していては友達なんてできないと意気込んだ。

 

ルビーは座席表を確認して自分の席へ腰掛けた。その後、虎次郎が教室に入ると皆が息を呑み次々に「羅刹だ、あの虎次郎だ」と口にしザワつく。

大ヒットしたアクションドラマの影響か、SNSで虎次郎のことは頻繁に話題に出ている。

無名の役者が主演を喰らう演技を見せれば話題になって当然だ。

 

「わぁ、ホンマもんはえらいイケメンやなぁ〜」

 

すぐ近くから声が聞こえ隣の席へ目をやると、朗らかそうな子が虎次郎を見ていた。

ルビーの視線が徐々に下がっていく。そりゃそうだ、だって主張の激しい巨乳がそこにあるんだから。

思わずでっかと言ってしまいそうになったが、なんとか堪えて見つめるだけに留まる。

彼女が視線に気づいてルビーの方へ顔を向けた。

 

「あ、ごめんなさい……」

 

「こちらこそすみません、ジロジロ見てもうて。めっちゃ美人さんおるやんおもて……やっぱり芸能科ってすごいわぁ」

 

「いやいや貴女も凄いです……」

 

特にそちらの圧倒的存在感を放つお胸が。

 

「モデルさん?」

 

「あ、せやねん一応。うち、寿(ことぶき)みなみって言います。よろしゅー」

 

寿みなみ…………スマホでぐぐってみるとグラビアアイドルをやっていることが分かった。 

因みに胸の大きさはGカップだった。

 

「ひぇーエチエチじゃん」

 

「目の前でググるのは非人道的やない?」

 

「でもリアル関西弁初めて聞いた!大阪の人?芸能活動のために上京してきたとか!?」

 

芸能界に入るために遠くから上京することは珍しいことじゃない。

きっと彼女も芸能活動のために大阪から──────

 

「いや生まれも育ちも神奈川。喋り方はなんていうか……ノリ?」

 

「エセ関西弁だった!?」

 

まさかのノリだった…………。

 

入学初日でグラビアアイドルの友達ができたルビー。このクラスを担当する教師が自己紹介や授業についての説明をしている途中、ある生徒が扉を開けて入ってきた。

 

「すみません、今日朝の生放送で番宣があって…入学式位は出たかったんですけど…………」

 

教室にざわめきが起きる。

月9ドラマで大ヒット、歌って踊れて演技もできるマルチタレントとは正に彼女のこと。

 

不知火(しらぬい)フリル」。

 

芸能人揃いの芸能科でも別格の有名人。つい先程まで「虎次郎だ!」と驚いていたのが嘘のようにクラスの皆は不知火フリルの登場で衝撃を受けていた。

一番驚いていたのはルビーだ。今現在の最推しがまさかのクラスメイトだったなんて。

 

自分の席につく手前、フリルは頬杖をついて眠たそうにあくびをする虎次郎へ近づいた。

 

「あなた虎次郎さんね。ディアボロ見たよ。とても良かった」

 

「あー、お、おう?」

 

「応援してる。頑張って」

 

「あぁ……ありがと?」

 

急に声をかけられて戸惑っている虎次郎だったが、フリルは気にせずそのまま自分の席に座る。

 

 

 

────────昼休み。

 

 

 

世間話をしながら昼食を食べる虎次郎とアクアの二人。

コンビニで買ってきたパンを食べ終えると教室の隅にあるゴミ箱へ袋を投げ入れる。

やることもないし、アクアと校内探検にでも行こうかと考えていると廊下からこちらを覗き込むように有馬かながニュッと顔を出してきた。

 

「アクア、あそこに妖怪重曹ペロペロ女が」

 

「なんで有馬がここにって、ホントだ」

 

なんの用があって一年教室に来たんだろうか。有馬かなと目が合うとジト目になってこっちへ来いと小さく手招きをしてきた。

 

「俺行くべきか?」

 

「お前に手招きしてるし、行ってやれよ」

 

「えー、面倒くさぁ」

 

虎次郎は悪態をつきながらも席を立つ。廊下に出るとかなは一人で来ていなかった。

もう一人、腰まで伸びた茶髪の大人しげな子と一緒だった。

 

「なんか俺に用事か?」

 

「この子がね、アンタのファンなのよ。ほら、虎次郎を呼んであげたんだからあとは自分でやりなさい」

 

「わ、私……井上摩耶花(いのうえまやか)って言います。その、あ、貴方のファンなんです!サ、サインくれませんか!」

 

色紙とマジックペンを差し出された。

たった一回ドラマに出演して注目を浴びたくらいでサインを求められるなんて。

虎次郎は鼻を伸ばすことも、調子に乗ることもなく摩耶花の要求を断った。

 

「え……!?な、なんでですか?わ、私ファンなんです!?ディアボロを見て、貴方の演技に見惚れて……す、好きになったんです!」

 

「そうよ、サインくらい書いてやりなさいよ。別に減るものじゃないし」

 

かなから鋭い眼差しを向けられるも、それでも虎次郎は首を横に振る。

 

「だってまだサイン考えてねぇもん」

 

役者として有名になれば摩耶花のようにサインを求めるファンが増える。

ならば単純に名前を書くのではなく、おしゃれでカッコいいサインをかけるようにならないといけない。

虎次郎はかれこれ良い感じのサインを考えているものの、これといったデザインが浮かんでこない。

 

だから無理だと返すと、摩耶花はそれでも構わないと瞳を輝かせて言ってくる。

彼女の強い眼差しに押された虎次郎は、渋々サインを書くことにした。

 

「まだカッコいいサイン決まってないのに…………ほい」

 

ちょっぴり拗ねながらもスラスラとマジックペンを滑らせる。

出来上がったサインを摩耶花に渡すと彼女は頬を紅潮させて震える手で受け取った。

 

「わ、わあぁ……わあぁ…………かなちゃんサイン貰った!貰っちゃったよ!」

 

「ハイハイ、良かったわね。握手とかも頼んだらやってもらえるかもよ」

 

「あ、そうだ…!握手、握手もお願いできますか?」

 

「いいけど……」

 

右手を出すと摩耶花は両手で凄い勢いで包み込んできた。

 

「あったかい……!」

 

「井上先輩は冷たいんだな」

 

「私、冷え性だから………あ、もう、もう大丈夫!ありがとうございます!これで半年は生きていけます!」

 

摩耶花は自分の両手を見つめて気持ちの悪い笑みを浮かべる。

それもハッと我に返る表情をもとに戻し逃げるように走っていった。

 

「アンタも大変だな」

 

「もう大変よ。毎日毎日アンタのことばっかり話すんだから。摩耶花に付き合ってくれてありがと、それじゃあね」

 

「ああ、じゃあな。妖怪重曹ペロペロ女」

 

────上履きで引っ叩かれた。

 

 

 

 

入学初日も特に事件を起こすことなく終わり、アクアから話があるとのことで事務所へ立ち寄った。

壱護社長と奥さんのミヤコがソファーに座って待っていた様子だったので、これは仕事関係の話だなと虎次郎は予想を立てた。

 

「アクア、話ってドラマかなんかについてか?」

 

「まあ間違ってはないかな。鏑木Pのこと、覚えてるか?」

 

鏑木といえばアクアが随分前に出演した恋愛ドラマ「今日は甘口で」を担当していたプロデューサーじゃないか。

なんでそいつの名前が出てくる?と疑問に思っていると壱護社長が一枚の資料を見せてくれた。

 

資料には恋愛リアリティショー「今日からガチ恋始めます☆」についての詳細が載っている。

キャスト陣を確認すると、なんとそこに星野アクアの名前があった。

 

「お!アクアも出んのか!恋愛リアリティショーで彼女でも作る気か?このむっつりスケベめ」

 

「お前も出るんだよ、虎次郎」

 

壱護社長の言葉に虎次郎は石のように固まった。

 

「は?俺も?な、なんで?」

 

「鏑木Pにお前も出してもらえるように言ったんだ」

 

「………………………」

 

もう一度キャスト陣を確認すると、アクアの下にしっかり虎次郎と記載されていた。

 

 

 

 

「どうしても出なきゃだめ?」

 

「「「ダメ」」」

 

 

 

 

 

虎次郎に拒否権なんて存在しなかった。

 

 

 







井上摩耶花
重曹ちゃんのクラスメイト。ファッションモデルをやっていてスタイルは抜群。虎次郎のガチファンで好きすぎるあまりに虎次郎が出演したアクションドラマで口にした台詞を全部切り抜いて時系列順に整理して録音し、暇さえあれば大音量で聴いている。
かなり気持ち悪いガチ恋勢。



次回はついに黒川あかねちゃんが!?


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