清澄高校、麻雀部、部室。
清澄のメンツがそこにいるのは当然だが、少し変わった光景なのは、風越のキャプテン、福路美穂子がそこにいた事だ。
「ねえ……上埜さん」
福路がそう呼ぶのは、清澄の部長、竹井久のことである。
「正当と、言えるのかしら」
それを受けて、久は天を仰ぐ。しかしすぐに向き直り。
「正当とは言い難いでしょうね」
「うう……」
「でも、そんな事、言ったって」
いったいどういう話なのか。
県予選。清澄は優勝した。という事は当然、他のチームは敗退している訳で。例にもれず風越もそうだ。そして、その事に一番悔しさを覚えたであろう雀士が、風越の大将を務めた、池田華菜。何しろ、あの龍門渕、龍門渕の天江衣と同卓し、一気挽回、四暗刻単騎を手にするも、超特殊な条件戦ゆえテンパイ放棄。そして、結局は清澄の宮永咲に、お得意の嶺上開花入りの数え役満でトップを取られ、終局。県予選には勝てず、その上、二体の怪物。宮永咲と天江衣のどちらを狩るにも至らなかった。
悔しい、悔しい、悔しい――!
そんな時、清澄及び風越の皆へ連絡が入った。赤木しげるという男から。無論、直接電話に出たのは赤木本人ではない。が、ともかくそういうベテラン雀士がいるという事を、少女たちは理解した。
赤木に、勝てば、池田華菜を、もう一度天江と当ててやる、というのだ――
しかも、天江と戦う席になったら、しっかりとキャプテンの福路の席もある。
やりたい。言うまでも無く挑戦したい。でも、しかしそれって?どこの誰とも分からぬ男との麻雀勝負で、勝ったら天江に会わせてやるだと?それってさ、危ない話だとか、そういうのはまあいいにしても。
道理として、正当なのか?
そんな訳、ないよね。
暑い夏の昼過ぎだった。清澄高校麻雀部員、風越からは福路と池田。それと、赤木しげる、井川ひろゆき、それと沢田という男。その面々は麻雀部の部室に集まった。
「えー、では」
沢田が前に出て説明をする。
「これより今回の勝負の説明をします。皆さましっかり集中してお聞きください」
「……」
黙りこくる少女たち。
「赤木軍、清澄軍という二軍の戦いです。赤木軍からは、赤木しげると井川ひろゆきの二名が固定。そして、清澄軍の打ち手については、ここに呼ぶ事ができるなら誰でもよし。何度でも選手交代はOKとします」
四人麻雀の闘牌を基本として、都度都度赤木側がゲームのルールを提案する。それに対して清澄側は、多少の範囲であれば注文を付けてよし。また、ルールのベースを作るのが赤木側である代わりに、清澄側は、後出しで都度都度、その卓に座らせる選手を決められるものとする。
ただし、その一回のゲームの途中での代走、交代は無しとする。
両軍は、最終成績として【200万点】の点棒、ライフポイントを持つものとする。
「例えば、です。分かりやすくワンスリーのウマが付いた麻雀で、赤木しげるがトップ、そしてそっちの宮永さんがラスだとするでしょう。その場合、素点も大体で加味して、両者の差が十万か十一万点くらいあるとする。そういう結果になったなら、清澄側の200万点から11万を引く。このような減点の方式です。これにより、色々なゲームで戦い続け、総合のライフが0になった側が負けとなります」
基本のルール説明はそれくらいだった。
そこで、赤木しげるが口を開く。
「じゃあ、いいか?早速最初のゲームを始めようかと思うが」
しかし、そこで、なんと赤木の仲間であるひろゆきが待ったをかけた。
「あ、あの、本当にいいんですか?その、赤木さんはまあ……そういう人だとしても、清澄高校の皆さん、それとあなた、池田さん。いいんですか?敵の僕が言うのもですけど、僕はこの勝負、おすすめしません。やって誰が得するんだか僕には分からない。仮に始めてしまったら、僕たちは手を抜きません。こっちにも責任がありますから。でも、それで清澄のあなたたちが負けてしまったら、どうなってしまうか、忘れていませんよね?」
【清澄軍が負けた場合、赤木軍に、一年分の麻雀部の活動費と、プラスアルファ―で50万円を支払うものとする】
「分かってますか?周囲に多大な迷惑をかけるんですよ?特に、池田さん、あなたが鍵を握っているんですよ。あなたが天江衣と戦いたいばっかりに、僕たちと勝負をして、もし負けたら。そんな事になるくらいなら、もっと真っ当な方法で天江衣と戦う事はできますよ!むしろそっちを僕は応援したい!それくらいだったら大して金もかからない。少しなら手助けできますから――!」
沈黙。そして。
「嫌です」
宮永咲が、応答した。
「私はもう、赤木さんと勝負をすると決めたんです。今の私はただ一人の雀士。それしか考えていません」
それなのに。それなのに難癖を付けて、貴重な勝負の機会を反故にしようとするなんて。
以ての外である。
「いっ、いや、そうは言っても!池田さん!あなたはどうなんですか!あなたは中心人物だが、しかしこの戦いのリーダーではなく権限は特に無い。事によってはあなたは、一回も卓に付かずに、仲間が負けてゆくのを眺め、そして色々なものを失うんですよ!」
池田華菜は、ひろゆきに答えた。
「それが、麻雀です」
「え……」
「ははは」
赤木が笑った。
「もういいじゃねえかひろ。そこの嬢ちゃんたちは、ひょっとしたらお前より麻雀が分かってるかも知れんぞ」
やるぞ。時間が惜しいんだ。
「一つ目のゲームのルールを説明する。簡単に言えば、満貫縛りの麻雀で、満貫をアガる度に卓の外からチップを獲得して、50枚用意されているチップが無くなったら終了、というゲームだ。獲れるチップは、満貫で一枚、跳満で二枚、倍満なら三枚というように増えていく。また親番の場合なら一枚増える。それと、一応点棒も使うぞ。誰かが飛んだら点棒はリセット。飛ばした者は一枚獲得だ。最後に。チップは一枚1万点。ただし10枚目、20枚目、30枚目、40枚目、50枚目だけ2万点とし、最終的に獲得したチップが多かった側が、相手の獲得チップとの差を、相手の総合ライフにダメージとして与えるのだ」
選手交代可能なタイミングは、東場、南場の終わり毎と定められた。
「はいっ!はいっ!一番手やるじぇ!やりますやりまーす!」
立候補を聞いて竹井久は、まあまあ妥当だろうと考えた。
東場で強いうちの子を、赤木さんに当ててやろうじゃないの。
「分かったわ。じゃあまずは、優希と和にお願いしようかしら。あ、和が上家ね」
「はい」
「はーい!」
起家
片岡優希
南家
井川ひろゆき
西家
赤木しげる
北家
原村和
東一局――
{一一一二二二四五六七八九九} {三}
「ツモっ!!メンチンツモ!6000オールと!親っぱねはチップ3枚!」
軽快に滑りだした優希。そして一本場。
「ローンっ!赤木さんから直ったじぇ!親っぱねはチップ3枚!」
二本場。赤木軍、ひろゆきがリーチ。が、それに対して。
「リーチ」
「ロン」
原村和←井川ひろゆき
{123789①②③二三九九} {四}
「千点です」
東二局。
「ロン」
井川ひろゆき←赤木しげる
{②③④⑤⑥⑥⑥789} {⑤} {裏白白裏}
{裏裏中中裏裏裏}
「24000。それと、親倍は4枚。赤木さんのトビと合わせて5枚です」
あれ――?
「ちょっ、ちょっと待った!」
清澄麻雀部の部員、須賀京太郎が声を上げた。
「よく見ろ優希っ!今の5枚は実質6枚だ!10枚目のチップを取られた!つ、つまり!」
優希の親番はもう終わっている。
このゲームは優希に有利なゲームではない。今更ながらそれが分かった。
東二局一本場。
「ツモッ」
赤木しげる
{56778②②} {6} {横二一三} {中中横中}
「三本五本だ」
「東場はまだ半分残ってるぞー。嬢ちゃん」