東方黒雲録〜Traveling Black Monster〜   作:文才の無い本の虫

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2「名前」

 

 

さて、僕が地上を旅し始めてから暫くが経った。

 

まだ人間には会えていない。

 

最近は妖怪という存在が現れるようになった。

【識っている程度の能力】によると妖怪とは人間が発生した結果、人間の怖れを元に穢れから発生したものらしい。

 

妖怪の使う妖力というものは僕の力に似ている。

僕も妖怪なのだろうか?と考えるが答えは出ない。

 

妖怪に襲われることもあるがパンチなりキックなりで倒せる。

多分僕の躰はスペックが高いのだろう。

 

・・・・・まぁ大気圏突入とか音速飛行に耐えられる位だしな。

 

そうして妖怪を倒したりしながら歩く。

妖怪の話によると人は遠くで神を中心に国のような集団で暮しているらしい。

 

遠くってどれぐらいだろう?と考えながら歩いていく。

暫くすると不思議な竹林に着いた。

何というか生命力に溢れている竹林だ。

 

竹林の中を歩いていると何となく眠くなってきた。

最近寝てなかったからだろう。

 

少々面倒くさいがこの竹林に妖怪や人間が入ってこない様に結界を張る。

結界とはいっても妖力で空間の流れを滅茶苦茶にするだけだ。

この結界を使っていた妖怪には感謝だな。

・・・・・襲ってきたから返り討ちにしたけど。

 

それはさておき、竹林に僕の妖力を広げて術を編む。

細かい部分は【識っている程度の能力】から空間に関する知識を持ってきて組み上げる。

 

 

「・・・・・これでよし」

 

 

5分程で結界の構築が終わる。

 

初めてにしては上出来だろう。

 

うん、結構疲れたな。

 

寝よう。

 

僕は能力で長方形の板を作り、地面に敷く。

 

板の上に転がると竹林の気もあり、僕は直ぐに意識を手放した。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

ザアザアと竹林の揺れるで目が覚める。

 

 

「うん、よく寝た」

 

 

僕は躰を伸ばし、体調を確認する。

 

・・・・・ん、視線が高い。

能力で寝ていたいたを材料に姿見を作り、自分の姿を確認する。

その姿見には黒髪の青年が写っていた。

 

どうやら僕は青年位に成長したようだ。

 

うん、何となくしっくりくる。

 

でも、何年位経ったのだろうか?

 

取り敢えず姿見を力に戻し、歩き出す。

 

暫く歩いていると倒れている人影を見付けた。

その人影は衰弱しており、直ぐにでも息絶えそうだ。

 

 

「大丈夫か?」

 

 

老人の横に膝を付き、声をかける。

すると老人はこちらを見て、口を開いた。

 

 

「・・・・・ずっと一人で死ぬものだと考えていた。ありがとう・・・・・貴方にお礼がしたいのだが、何分死に掛けなもので・・・・・何も無い。せめて、貴方の名前を教えてくれないか?」

 

 

名前か。

そういえば僕は名前が無かったなと思い、少し考える。

 

安易だけど髪が黒いから、黒でいいかな?

・・・・・何となくしっくりくる。

 

種族もわからない、名前も無い。

でも、僕は居る。

 

だから、今から僕は『黒』。

只の黒だ。

 

 

「うん、僕の名前は黒。ご老人、君の名前は?」

 

 

すると老人は目を見開いて何かに納得したように頷くと言った。

 

 

「・・・・・なるほど。私は・・・・・出雲。かつて・・・・・神と呼ばれていた者。・・・・・お礼になるかはわからないが、曖昧でしっかりとした八雲のような妖精よ。貴方の旅に祝福を・・・・・」

 

 

老人、いや出雲は笑って逝った。

 

出雲は一体何者だったのだろうかと考えるが今の僕にはどうでもいいことだった。

 

 

「ありがとう出雲。僕は君の冥福を祈ってる」

 

 

そういえば出雲は僕のことを「八雲のような妖精」と言っていた。

『妖精』か。

僕の種族はわからないし、妖精と言う事にしておこう。

 

「八雲のような」か・・・・・。

そうだな、『黒』だけだと味気無い。

苗字も決めよう。

 

 

「・・・・・よし、決めた。今から僕は『八雲 黒』だ」

 

 

自分を定めた僕は、出雲を丁寧に埋めて彼の墓を作った。

 

墓の作り方は【識っている程度の能力】が教えてくれた。

結構立派な墓が出来たと思う。

 

能力で作った墓石に『出雲』と名前を刻む。

 

 

「さようなら、出雲。僕の旅に祝福をくれた人間」

 

 

彼は神だったのかもしれないが、何と無く彼は人間として扱ってあげたいと思った。

 

僕は竹林の端にひっそりとある出雲の墓に背を向けて歩き出す。

 

さて、世界はどれぐらい変わって、人間はどれぐらい発展したのだろうか?

きっと僕が寝る前より知性的に文化的になっているだろうし、様々な考え方もあるだろう。

そしてきっと色んな人や色んな妖怪がいるだろう。

楽しみだ。

 

僕はどんな出会いがあるのだろうか?と期待に胸を膨らませて、竹林の外に向けて歩を進めた。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

「・・・・・くろ、クロ、黒。八雲 黒」

 

 

世界の狭間で彼女は『妖精』の名前を舌で転がす。

 

世界から逸脱している『俯瞰する編集者』たる彼女からすると『妖精』の名前というものは重要な意味を持つ。

 

名前とはそれ其の物の存在を定義し、関連付けるもの。

言い換えれば座標、存在証明だ。

 

座標がなければ干渉は出来ない。

本来であれば『俯瞰する編集者』でさえ『妖精』のことは感知出来なかっただろう。

今彼女が『妖精』――黒を見ていられるのは偶然だ。

 

だが黒が『八雲 黒』という座標を得たと言う事は、黒が神々に認識されやすくなる。

――そう、何かしらの変化が起きるということだ。

 

彼女はこれから黒が巻き込まれる運命の糸を垣間見た。

 

 

「くふっ。楽しみだ」

 

 

だが、神々が黒を排除しようとした場合は黒が死んでしまう可能性がある。

彼女はそれを懸念した。

 

彼女は目を閉じて黙考する。

 

 

「・・・・・期を見て彼に会いに行こう。折角の暇潰しだ、死なれてしまってはつまらない。せめて力の正しい使い方位は教えてあげようかな?」

 

 

そして彼女は頬を染め「それに・・・・・」と付け加えるように呟いた。

 

 

「君のことをもっと知りたいしね」

 

 

彼女は自身が抱いている感情に気付かない。

いや、理解できない。

 

 

「・・・・・どんな服で会いに行けばいいかな?」

 

 

彼女は姿見で自身の豊満な肢体を見ながら服を手に取る。

あーでもないこーでもないと外見的な年相応の少女のように悩み始める。

 

そうして彼女は期を待つ。

 

 




『八雲 黒』
:名前を得た。自身の旅に祝福をしてくれた出雲に感謝している。出雲のお墓は江戸付近の方式。

『俯瞰する編集者』
:黒のことを結構気に入っている。黒を鍛えるつもり。はしゃいでいるため未だに客観視は出来ない。

『出雲』
:どこかの里にいた現人神。老いて死に場所を探していた。黒が名前を考えるきっかけになった。

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