東方黒雲録〜Traveling Black Monster〜   作:文才の無い本の虫

50 / 54

私が殺す

私が生かす

私が傷つけ私が癒す

私は貴方を見守り続ける



貴方を想う

貴方を愛する

貴方が居て私が居る

貴方を私は想い続ける



3「月を見上げて」

 

 

此処は、博麗神社。

 

忘れ去られた楽園と外を隔てる結界の外側。

 

山奥にある古ぼけた神社の屋根の上で黒髪の青年が寝ていた。

 

その傍らには白髪赤眼の少女が座っており、黒髪の青年の体を揺らしている。

 

 

「主様、朝ですよ」

 

 

ゆさゆさと誰かに揺すられて、目を覚ます。

 

ああ、梅が起こしてくれたのか。

 

 

「うぅーん・・・・・梅、おはよう」

 

 

「はい、おはようございます」

 

 

「あー、亡霊はどうなった?」

 

 

「主様が祓ったので全てだったようです」

 

 

「なら良かった」

 

 

僕は昨日のことを思い出す。

 

昨日は紫のお願いで博麗大結界の点検をしていた。

 

点検は無事に終わり、補修と強化も施しておいたのだが、夕方まで掛かってしまった。

 

その時に放った神力に救いを求める亡霊が殺到し、昨日は徹夜で亡霊を祓っていたのだ。

 

 

僕は道士服に付いた砂埃を払い、立ち上がる。

 

そして昨日、頑張ってくれた梅の頭を撫でる。

 

 

「さあ梅、帰ろうか、幻想郷へ」

 

 

「はい」

 

 

そう言って、僕と梅は博麗大結界に向かって歩き出した。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

風の音にがする。

 

深い森を通り抜ける。

 

振り返ってみても道はない。

 

・・・・・うん?

 

 

「・・・・・もしかして迷った?」

 

 

かれこれ数十分は歩いていると思う。

 

周りは何時の間にか竹林になってるし・・・・・?

 

あれは建物かな?

 

 

「主様、あれを」

 

 

梅がその建物の前に立ててある看板を指し示す。

 

此処の名前だろうか?

 

僕はその看板の文字を読み上げた。

 

 

「永遠亭・・・・・って永琳が居るって言ってた所じゃん」

 

 

「どうやら永琳様の招待があったようですね」

 

 

「ええ、そうよ」

 

 

懐かしい友人の声。

 

僕は後ろを振り向き、彼女に声を掛けた。

 

 

「数日振りだね、永琳」

 

 

「ええ、一日二日待って来なかったから招待させてもらったわ・・・・・限界でしょう?左腕」

 

 

「ははっ・・・・・永琳にはバレちゃうか」

 

 

「数十年も同居していれば気付くわよ・・・・・さ、着いてきて。歓迎するわ」

 

 

永琳が歩き出す。

 

彼女の後に続いて僕と梅も歩き出す。

 

僕は彼女の左手首にあの勾玉が揺れているのを見つけた。

 

・・・・・ははっ、嬉しいものだね。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

「黒、この左腕消せるかしら?」

 

 

「了解」

 

 

「ふむ・・・・・成程ね、魂の変形を治して腕の分を補填するだけならコレで大丈夫そうね」

 

 

「コレが前言ってた?」

 

 

「ええ、特別製の万能細胞よ。魂の変形は私が整形するから、貴方はコレを拒絶しなければ大丈夫よ」

 

 

「わかった・・・・・って魂の整形ってどうやってやるの?」

 

 

「こうやってよ」(ドスッ・・・・・ぐりぐり)

 

 

「・・・・・(物理的に)胸に手を突き刺してかき回すと永琳がマッドサイエンティストにしか見えないんだけど?」

 

 

「あら、序に解剖してあげてもいいわよ?」

 

 

「遠慮しておく・・・・・ってか昔僕のこと解剖した事あるよね?!」

 

 

「それはそれ、これはこれよ・・・・・はい、整形は終わったから、注射するわよ」

 

 

「何か太くない?5mmあるきがするんだけど?」

 

 

「7mmよ」(ザクッ)

 

 

「痛く無いけど見た目が凄く痛そう」

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

と、いう訳で永琳による施術が終わり、腕が生えた。

 

ポンって。

 

・・・・・マジックかな?

 

それに全身の感覚が少し違う。

 

何と言うか、"誰か"が動きを効率化している感じ?

 

 

「どう?左腕の調子は」

 

 

「左腕っていうか全身の感覚が違うんだけども?」

 

 

「ええ、万能細胞が外付けの演算領域の役割をしてるからだと思うわ(それに私の魂の一部も埋め込んだしね)。直ぐ馴染むと思うから少し我慢して頂戴」

 

 

「ありがとう、永琳」

 

 

「ええ、どういたしまして・・・・・(私を信頼し過ぎた貴方がイケないのよ?そんな無防備にされたら貴方のことをずっと見ていたくなっちゃうじゃない。もう、逃さないわよ。もう退屈は懲り懲りなの)」

 

 

「永琳、どうしたの?」

 

 

「いいえ、何でも無いわ(どうやらちゃんと定着して同化したみたいね・・・・・複数の視点があるのもまた新鮮ね)」

 

 

その後、永琳にお茶を出して貰い、部屋が綺麗な事で永琳をからかったり、料理について話したり、新薬についての話をしたり、しょうもない事で笑ったり。

 

あの時のようにお互いの此れ迄の事を掻い摘んで話したりして過ごした。

 

・・・・・楽しい時間は直ぐ過ぎていくなあ。

 

今度【仙界】に誘ってみよう。

 

 

 

 

「じゃあ、また来るよ」

 

 

「ええ、何時でも来ていいわよ。今度は久し振りに黒の料理が食べたいわね」

 

 

「ははっ。そうだね、その時は永琳の手料理も食べてみたいな」

 

 

「手料理・・・・・私も少し気になります」

 

 

「!・・・・・ええ、期待して良いわよ。じゃあ、黒、梅、また何時か」

 

 

「うん。永琳、また何時か」

 

 

「はい。永琳様、また何時か」

 

 

僕達はあの時の様に「また何時か」と言い、笑い合った。

 

さて、帰ろうか。

 

 

 

・・・・・あ、連絡忘れたから諏訪子達に要らん心配掛けちゃった。

 

諏訪子、キレてないと良いなぁ・・・・・『主様、ふぁいと、です』・・・・・うん、頑張るよ・・・・・。

 

 

 

まぁ、そんな感じで僕はとぼとぼと永遠亭を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遠ざかって行く黒の背中に永琳は自身のモノではない(八雲黒の)魂との繋がりを感じながら口を愉しそうに歪める。

 

永琳は(愉快な物語)に英雄譚を読む少女のように思いを馳せた。

 

 

「・・・・・何があっても死なない様にしてあげたんだから、これからずーっと、末永く私を退屈させないでね?私の旅人さん?」

 

 

退屈は蓬莱人を苦しめる。

 

そして、彼女に対等に接したのは彼女の永い時間の中で黒だけだった。

 

彼女の世界は汎く、余りにも狭い。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

霊夢と諏訪子に叱られたあの一日から早一年が経った。

 

その一年で僕の一週間のルーティンは守谷神社→博麗神社→永遠亭→仙界→博麗神社→紅魔郷→守谷神社・・・・・とまぁ、永琳に「何時か刺されるわよ」(n回目)と爆笑される生活を送っている。

 

自分でもどうかと思うんだが、最近「まぁ、悪くない」と思っている自分がいる。

 

そういえば何時の間にか皆が仲良くなっていたのだがどうしてだろうか?(エディとパチュリーによる「(意訳)囲っちゃおうZE☆」によるもの)

 

閑話休題。

 

今日は【仙界】に来ている。

 

屋敷の自室で早朝から【仙界】の景色を眺めてぼおっとしていた僕は自室の扉が開かれたので、景色から意識を戻し、僕に向かって微笑んでいる彼女に朝の挨拶をする。

 

 

「純狐、おはよう」

 

 

「ああ、黒。おはよう・・・・・む、寝癖が付いているぞ。少し動くな、直してやろう」

 

 

純狐が僕の寝癖を直してくれる。

 

暫くして「ほら、直ったぞ」と純狐が僕の髪を軽く撫でてくれる。

 

 

「ふふっ、ありがとう」

 

 

「ふっ・・・・・これも妻の務めというやつだ」

 

 

「主様、純狐、朝ご飯が出来ました。イチャついてないで降りてきて下さい」

 

 

「「ああ、今行く」」

 

 

僕と純狐の言葉が重なる。

 

 

「ははっ」

 

 

「ふふっ」

 

 

僕と純狐は顔を見合わせて笑い合う。

 

少し笑い合ったあと、僕と純狐は下で待っている梅の下へ階段を降りて行った。

 

因みにその後で僕と純狐は梅の料理に舌鼓をうつのだった。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

「黒、向こうはどうだ?」

 

 

「うん、ちゃんと今を謳歌してるさ」

 

 

「うむうむ、黒が楽しそうで何よりだ・・・・・ほれ、黒。膝枕をしてやろう」

 

 

「ふふっ・・・・・お言葉に甘えて」

 

 

「黒に愛でられるのも良いが、私が黒を愛でるのも良いものだな」

 

 

「そうかな?・・・・・まぁ、純狐に撫でられるのは心地良いけどね」

 

 

「他のモノも味わってみるか?」

 

 

「・・・・・溺れそうだから止めとく。それに前の一件でたっぷり味わったし・・・・・飽きが来ないってのが一番恐いんだよなぁ」

 

 

「ふふふ・・・・・私に溺れても良いのだぞ?」

 

 

「それは隠居した時にでも取っておくよ・・・・・今はこれが心地よいからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、純狐」

 

 

「どうした?私が居ないと駄目にでも成ったか?」

 

 

「ふふっ・・・・・そうだね、君がいないと駄目になっちゃったかもね・・・・・・・・・・少し、待たせても良いかな?」

 

 

「愚問だな。待つとも。それが妻の務めであるし、私はお前を愛している。愛ほど重い呪縛は無いぞ?」

 

 

「うん、そうだね。純狐、愛してる」

 

 

「私もだよ、旦那様。ずっとずっと愛しているよ」

 

 

彼女は捨てられる事が恐ろしい。

 

だが、其れよりも彼女は彼を愛している。

 

彼女にとっては其れで充分。

 

 

 

 

 

 

 

 

「黒、行って来い」

 

 

「うん、行ってきます」

 

 

彼女は想い、待ち続ける。

 

其れが彼女にとっての幸せなのだから。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。