イマドキ女子高生、幽霊の塾に通う。   作:月兎耳のべる

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三限目 イマドキ女子高生、幽霊の授業を受ける。

 

『我々は呪いから祟りまで幅広く教えております~』

 

 まんまと入会出来た今、あたしはビルの中を歩いていた。

 先導するのはモザ姉。

 曲がりくねった通路を音もなく移動し続けている。

 

『あかりさんの場合幽霊の事は何もご存知ないようですし、初級編がオススメではありますが~……確か未練は「彼氏さんへの恨みつらみ」ですよね。どういう感じにしたいですか?』

 

「どういう感じって……?」

 

『最終的に彼氏さんをどうしたいかですよ~。狂わせたいですか? 死んで貰いたいですか? それこそ地獄行きにしたいとか~……』

 

「い、いやいやいや!? 発狂も死ぬのも流石に!?」

 

 アタシの興味本位で地獄行きはとばっちりが過ぎる!

 努めて軽い感じでお願いします。いやまじで。

 

『脅かす程度ですか~……ならコチラのコースですね~』

 

 手渡されたパンフレット……は当然のように受け取れないので眺めてみれば『はじめてのポルターガイスト』というタイトルが書かれていた。

 描いてあるフリー素材っぽい子供は目玉が飛び出ており、皿やらボールをフリスビーよろしく空中で飛ばしている様子はシュールの一言だった。

 

 んでその講師はと言うと……。

 

 ………………。

 

 ……え、誰このおっさん……?

 

 なんで甚平着てるのにアフロでパーティメガネ着けてのさ……ウケ狙い?

 

曳子(ひきこ)(もり)先生です~。150年程前に同業に裏切られた挙げ句屋敷で孤独死した方で、元々は道外方(どうけがた)*1を勤めていらっしゃったんです~。こんなナリをしていますが念力では名の知れたお方なんですよ~』

 

「……すごく教わりたくないんだけど」

 

『み、見た目は面食らうかもしれませんが~、先生の中で一番癖がなくて良いと思いますよ~教え上手ですし~我々のイチオシです~!』

 

 これで癖がないってどの口が言うんだ。

 もしかしてエイリアンかプレデターみたいなナリしてないと癖があるって言わないんか。

 

「え、え~っとちなみに他の先生は……?」

 

『幻惑コースを務める、500年程前に処刑された元お姫様の誑樫(たぶらかし)美津地(みづち)先生や、つい5年ほど前に過労の挙げ句自殺した元ブラック企業サラリーマンの愛呈(あいてい)土方(どかた)先生などいらっしゃいますが~』

 

「お姫様いいじゃん! アフロより全然良さそうだけど?」

 

『誑樫先生は少し……いやちょっと口さがない方でして~……恨みを晴らす前に授業を受けたくない一心で強制成仏してしまった方が数名いらっしゃいまして~……』

 

「えぇ……」

 

『愛呈先生も少~し気難しい方でして、指摘や質問をされるとカっとなってしまう事が多いので慣れるまでは難しいかも……』

 

「……このアフロでいいや」

 

『良い選択かと~……』

 

 ため息をつきながらあたしは通路を歩く。

 上って上って下って下って。

 左いって右いって左いって右いって。

 B教室通ったと思えばA教室。

 更にそこすら通り抜けて──。

 

 ……。何か変じゃね?

 あたしはモザ姉に違和感をぶつけてみることにした。

 

「なんかさ、このビルすごい入り組んでない? 迷路か何か?」

 

『あ、気付かれました~?』

 

「いや気付くよ……こんなに右行ったり左行ったりする変なビル」

 

 勘違いとか構造上仕方なくとか、そう言うのじゃない。

 意図的に変な方向に歩かせてると確信出来る。

 なんだってこんな通路になってんのさ? 欠陥住宅?

 

『実はこのビルのオーナーさんがオカルト好きだったんですよね~。兎にも角にも神頼みで経営を良くしようと考えてたらしくて~』

 

「はぁ」

 

『それで風水やら陰陽道やら龍脈やら、そういった様々な学問を元に作られた最強に運勢が良くなるビルとして作られてるんですよね~』

 

 ほら見てください~、指し示した方を見れば、

 やれ鳥居のマークが書かれていたり。

 やれ神棚があったり、仏像が置いてあったり。

 やれ十字架がぶら下がってたと思えば、

 ルーンが刻まれていたり……と。

 様々な宗教のごった煮って印象を受けた。

 

『この通路もですね~、確か五行相生*2~でしたか~? ありがたい陣をなぞるような形になってるんですよ~』

 

「ふーん……ん? じゃあ何でここ幽霊ビルになってるのさ」

 

『あははは……流石に神様も経営は助けてくれなかったようでして~、むしろこの特注ビルの借金が嵩んでしまったようで、社長さんは借金苦で病んで自殺してしまい~……』

 

「うわぁ……」

 

『ただ社長さんには悪いんですが、我々幽霊にとってはとっっっても住心地が良いビルなんですよね~、ですので成仏した際に譲っていただいたんです~』

 

 不良がゲーセンやコンビニ前、ドンキに集まるように。

 幽霊にとって居心地のいい場所がやっぱりあるんだなぁ。

 なんとなしに納得していると、不意にモザ姉の足取りが止まった。

 

『と、つきましたよ~。ちょうど授業が始まるところですので~……先生~? 盛先生~?』

 

 入り組んだ通路の先。

 元は会議室っぽい部屋の扉をノックするモザ姉。

 ノックすれどもすれども返事はない。

 

『……あれ~? おかしいですね~先生~?』

 

 お互い顔を見合わせて首を傾げ。

 しびれを切らせたモザ姉が扉を開けた。

 すると──、

 

 

『遅刻ですよぉぉぉぉおおおぉぉおおぉぉぉぉおおおぉぉおおぉおおぉぉ!!!!』

 

 

 ──その矢先、あたしらの視界に飛び込んできたのは。

 アフロにパーティ眼鏡をつけた、逆さまのおっさんの顔のドアップだった。

 

「~~~~~ッ!!!!!」

『~~~~~ッ!!!!!』

 

 あたしとモザ姉は同時に飛び上がり。

 同時にビンタを見舞い。

 モザ姉のビンタだけが不審者の頬を的確に捉えた。

 

『オゥグレェェェェェイィィィィィィッ!!!!?』

 

 とどろく叫び。吹き飛ぶ不審者。

 忘れていた呼吸を再開し、あたしは大きく息をつく。

 

 も、モザ姉これで癖ないって本気で言ってる!?

 マジで心臓止まるかと思ったけどぉ!?

 

『盛先生~~ッ!!! 人を驚かすのは大概にしてくださいって何度言えば分かるんですか!』

 

『ハハハハハァァァァァ! いつでも私はエンターティナーですからねぇぇぇぇぇっ! おっ、その子が噂の生きてる子ですかぁぁぁ?』

 

 壁まで吹き飛んでいたのはパンフ通りの恰好をした幽霊。

 甚平姿でアフロにパーティ眼鏡をつけているそいつは……膝から下の両足がどこにも無かった。

 

『ようこそ念力講座へッッッッ! この曳子盛が教えれば明日からでも君は超能力者になれますよぉぉぉぉぉっ、さぁLet's Poltern!』

 

 途切れる事ないハイテンションを見せつけて、

 尚足りないと不意にふわりと浮かんだアフロは、ロープもなしにサーカスのように教室内を飛び回る!

 上へ行ったと思えば下へ、左へ行ったと思えば右へ。

 床をすり抜けたと思えば天井から頭だけ出してきたりと、本当にやりたい放題。

 

 でもこの振る舞いこそ私が考えるTHE・幽霊。

 思わず拍手をしようとしたら、モザ姉にそっと止められた。

 どうやら褒めると無限に調子に乗るらしい。

 

『はいぃぃぃぃ。では早速ですが授業をはじめていきましょうぅぅぅぅぅ。席はそこの六車さんの隣にぃぃぃぃぃぃ~~~ッ!』

 

 最終的に新体操選手のように綺麗に壇上に乗り、ビシィッ!って音が聞こえるくらいにわざとらしく指をさす。

 その指の先には落ち武者がいた。

 ……落ち武者ァ!? いやまじかよやだよ。

 もっと話し通じそうな幽霊とかが良いなぁ……。

 って思いっきりやな顔してたんだけど……よくよく見るとこの落ち武者、何だか見たことあるような……。

 ……あ。

 

「あーっ! あの時の!」

 

『っ!?』

 

 コイツ!

 初手で私を刀で切り裂こうとしたあのハゲ武者!

 

『んんんんんん? お二人は前世でお知りあいでしたかぁぁぁぁぁ?』

 

「誰がこんな奴と!」

 

『……』

 

 条件反射で叫び返したあたしに対して、ハゲは首を真横に向けてシカトするだけ。

 おい無視すんな。

 言っとくがあたしは根に持つタイプだぞ。

 

『時間が押しているので早く座ってくださいぃぃぃぃぃぃぃぃ~!』

 

「ギリギリギリギリギリ……」

 

『……』

 

 ガンをつけながら隣の席に座りこむあたし。

 ハゲは出会った時と比べて借りてきた猫みたいに大人しく、無視を決め込む事にしたのか切られた首を180度真反対に向けてダンマリ決め込んでる。

 どんだけ念入りに無視すんだコラ。

 おいこっち向け。やっちまうぞコラ。

 

『何か……どこかの漫画でみたことあるような展開ですね~、青春ですか~?』

 

『遅咲きの青春って奴ですねぇぇぇぇ』

 

「死んでから咲いてんのは手遅れすぎんだろ」

 

 そもそもがハゲ、おっさん、背中に矢が刺さっててなおかつ死んでる奴はタイプじゃねえ。

 

『あっ、で、ではではあかりさん頑張ってくださいね~。盛先生後はよろしくおねがいします~』

 

 モザ姉は付き合ってられねえとばかりに逃げるように退散。

 あたしはとうとう珍獣の檻に一人ぼっちになってしまった。

 

 これからクソハゲの隣でアフロのハイテンションに付き合わなきゃいけないとなると泣きたくなる。

 あーもう、しゃーないから我慢して聞くよ。

 聞けばいいんでしょ?

 ……ってかずっとこのテンションなの?

 マジでキツイんだけど。

 

『お任せあぁぁぁあぁぁぁぁれぇぇぇぇぇぇ! ……はい。では改めてポルターガイストについて学んでいきましょう。まだ初めてのあかりさんもいらっしゃいますので。最初から』

 

 うわぁ! 急に素に戻るな!

 

『世間一般に言われるポルターガイストは念力を用いて行われております。念力は大雑把に言えば思い込みの力です。動け、と念じること。こうしたい、こう出来ると思う事。それ即ち念力です』

 

 アフロがそう告げると同時に、机の上に置かれた空き缶がひとりでにふわりと浮かび始めた。

 

『今こうして浮かせているのは念力によるものですが、実の所念力を必要とするのはポルターガイストだけに限りません。人間に聞こえるように声を出す事。姿を現す事。自分自身が空に浮く事や、ラップ現象、幻覚を見せる事や、物理干渉、これも全て念力によるものです』

 

「……そうなの?」

 

『そうです。私がこの教室内で飛び回った事も念力によるものです。と言うより……今この場にいる皆さんが、この教室で座っている事もまた念力によるものです』

 

「……?」

 

()()()()()()()()()()。だから実現するんです。今あなた達は椅子に座れるのが当たり前だと思っている、だから座れているんですよ』

 

「え。何何? つまり幽霊って念力の集合体……?」

 

『察しがいいぃぃぃぃぃ!! 大雑把ですがその通りです。我々の体は()()()()で出来ている。貴方が貴方としてこの場に存在すると信ずる、故に貴方は今ここに居るんです』

 

『吾思うが故に吾在。納得である』

 

 したり顔でハゲが頷いてるけど、そう言うもんなの?

 だったら幽霊ってめちゃくちゃヤバイ事出来るんじゃ?

 

「じゃあさじゃあさ。念じるだけで相手を殺したり、空から隕石を降らせたりする事も、その念力で出来るってゆーの?」

 

『イエスでありノーです。思い込みの力は残念ながら微々たるものです。例えば念力が無尽蔵にあればもしかすれば出来るかもしれません』

 

 途端、空に浮いていた空き缶が変化が起こる。

 軽快な音を立てて潰れ、小さくなっていくのだ。

 

『その現象が起こせるかどうかは、思い込む力だけでなく現実に起こしやすいかどうかにもかかっています』

 

 まるで見えない誰かが握りしめたかのよう。

 見る見るうちに小さくなった空き缶は、

 最終的には一つの塊になって机に落ちた。

 

『教室の扉を閉める事と、人を殺すのでは必要な念力は大分違います。それは現実でも同じでしょう?』

 

「まあ……そりゃそうだよね」

 

『極論、めちゃくちゃ強い念力があれば何だって出来ます。出来ますが、そんな強い念力を持っているのはそれこそ名のある怨霊程度でしょう。なので貴方達にはまず現実でも簡単に起こせるものからやりましょう』

 

 ぱちんっ。アフロが手を叩いたのと同時に。

 居並ぶ生徒全員の机に小さな羽がふわりと落ちてきた。

 ちょっと幻想的な光景だ。

 

『こちらの羽は霊的な者ではなく実体のものです。羽を浮かばせるのは簡単ですね? 手に持つ、息を吹きかける……何をしても動くでしょう。そう考えた上でさぁやってみましょう!』

 

 羽かぁ……正直楽勝じゃない?

 ってか私だとちょっと息を吹くだけで吹っ飛ぶ。

 かといって息や手を使って堂々と念力です!って言うわけにもいかないので膝上に手を固定し、勤めて息を吹きかけないように念じてみた。

 

 ……。

 ………。

 …………!

 ……………~~ッ!!

 いや分かってたけど無理! 

 ぴくりともしないんだけど!

 そりゃ超能力者じゃないんだから出来る訳ない!

 

 ふと気になって他の人がどうなってるのか見ていたら、周りも似たりよったりだった。

 

 黒髪長過ぎお姉さんは手で何度も掴もうとして失敗し。

 ハゲショボおっさんは必死にフーフーして。もち失敗。

 モツ見えヒョロ長兄さんは血管千切れそうな程の鬼気迫る顔で何事か念じてるけどぴくりとも動かない。

 

 正直そんなムズいの?って感じだった。

 なんとなく幽霊ならそれくらい出来るもんだと思った。

 ちなみに隣のハゲはぬんっの一言で羽を浮かべてた。

 そしてあたしに気づくと、得意げな顔をしやがった。

 

 ……。

 

「フーッ!!」

 

『ぬぅぅぅっ!?』

 

 ムカついたのであたしの()()で思いっきり羽をぶっ飛ばしてやった。ザマァ見ろ。

 

『素晴らしいあかりさぁぁぁぁぁん! 初日ですぐにそんなに出来るなんてセンスありますよぉぉぉぉぉぉぉぉ!』

 

 うわっ、ちょ。顔近いウザい!

 あとそのテンションどこでスイッチ入るんだよマジで!

 

「あ……あははは。ま、まあちょっとズルしたけどね」

 

『ほほう! なるほどなるほどぉぉぉぉ? まだ教えていないテクを無自覚に使っているのですねぇぇぇぇ。ソレもいいでしょう~!』

 

「テクじゃないけど? いや、出来るなら息とか使わずにやりたいんだけど~~」

 

『では手をこちらに伸ばしてくださいぃぃぃ』

 

 では、って何だではって。

 あたしの突っ込みも待たず、アフロは数メートルくらい離れると、いきなり右手だけ『前ならえ』のポーズを取り出した。

 仕方ないのであたしも真似してやった。

 

『その伸ばした右手で、私の左手にある羽を掴んでみてくださいぃぃぃ、おっと座ったままですよぉぉぉぉ』

 

「いやそれは無理」

 

『諦めるの早いですねぇぇぇぇぇ!? あかりさん、全ては思い込みですよぉぉぉぉ!』

 

 思い込めつってもなぁ。

 どうあがいたってあたしの手じゃ羽まで届きそうにない。

 何だったら数歩ぐらい歩かないと無理だ。

 

『では目を瞑ってみてください。そしてもう一度やってみてくださいぃぃぃぃ!』

 

 目を瞑っても変わるもんじゃなくない?

 そう思いつつも可能な限り手を伸ばしていく。

 勿論手の先に何かが触れる事なんて当然訪れはしなくて、無理って思った途端アフロが喋り出す。

 

『絶対に手は届かないって考えを捨てましょうぅぅぅ。念力は自由ですぅぅぅぅ』『当然だとか、勿論だとか、常識的にとか、固定観念に囚われているうちは出来ませんのでぇぇぇぇ』『頑張れ頑張れできるできる絶対できる頑張れもっとやれるってやれる気持ちの問題だ頑張れ頑張れそこだそこで諦めるな絶対に頑張れ積極的にポジティブに頑張る頑張るシジミだってトゥルルって頑張ってるんだから』

 

「つっても……あーうるさいって! 考えないようにするからちょっと待ってよ!」

 

 何すればいいかは大体分かってんだよ!

 でもこの16年間培った常識がそう簡単に取れる訳もないじゃん。

 固定観念を努めて捨ててうんうん唸っても、あたしの指先は空を切るばかり。空し……いや、出来るって信じてやってみせろよあーし!

 えぇぇい手伸びろ伸びろ伸びろ伸びろ伸びろぉぉぉ某ラバーメンみたいにぃぃぃぃぃぃぃぃ。

 

『手が伸びるものだと考えていますかぁぁぁぁ!? もしソレで駄目なら逆に考えましょうぅぅぅぅぅ、その手の届く距離に私が居るぅぅぅぅそう思うのですぅぅぅぅぅ!』

 

 引き寄せるうぅぅぅ!?

 ならアフロ近づけアフロ近づけアフロ近づけアフロォォォォォォォォ。

 アフロォォォォォォォォォォ………!!!!!

 

「アフロぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉおぉ……どあっ!?」

 

 熱中していたら気付けば椅子から落ちていた。

 どうやら知らず知らず自分から乗り出していたようだ。

 

『そのまま練習あるのみですねぇぇぇ、繰り返しやって常識を消していきましょうぅぅぅ!』

 

 覗き込んだアフロが楽しげにする様子にイラつきながら、あたしはささっと椅子に戻る。

 本物の幽霊と出会って少なからず常識が壊されたと思ってたけど……どーやら先は長いらしい。

 馬鹿っぽいけど……もーちょい頑張ってみようかな。

 

『全ては思い込みです! 常識を捨て、非常識を取り入れていきましょうぅぅぅ。ひとまずはこの羽が動かせられるようになるまで、皆さん頑張ってくださいねぇぇぇぇ!』

 

 ただ……寄生をあげて教室を飛び回るアフロを見て、常識壊しまくってこうなっちゃうのは大分嫌だなぁ、とは思った。

 

 

 

 § § §

 

 

 

 授業は続いている。

 羽特訓はもとより、ポルターガイストの注意点、そして有名な幽霊が起こした事件などをアフロはボディランゲージ豊かに教えてくれる。

 時々入る謎テンションを除けばかなり分かりやすく。

 確かに良い先生なのかも……って錯覚してしまう。

 

 逆に今気になっているのは他の幽霊たちだ。

 彼らも生徒なのだし全員が全員真面目に授業を受けている……かと思えば、実の所話を聞いてないやつのほうが多い気がしてならない。例えば、

 

『という事でですね。幽霊が起こす事件の大半は超常現象として片付けられてしまって──、よし子さんどうしましたか?』

 

『幸三さんですか?』

 

『違いますよ。曳子盛です』

 

 5回くらい同じ質問してるお婆ちゃんの幽霊がいたり。

 

『筋肉……筋肉が足りないのでは……! 筋肉……筋肉ゥ!』

 

『狂坂さーん、ナイスバルクですが授業中は座っててくださいねぇぇぇぇぇ』

 

『ナイスバルクゥ!? ソレは俺をバカにしてるのか!?』

 

 ガリガリの体でウザポーズを取るパンイチ幽霊がいたり。

 

大礼拝が起こしたマクドナルドの変化が後輩の背中に写り込んでいるから頭の中の石鹸が泡立たない。泡が出ないと城中の蝋燭が足りなくなる明かりが足りないんだそうだ明かりが、どうすればいい。俺に何が出来る何が出来る何が……

 

『ミッシェルさん~~~、大丈夫ですかぁぁぁぁぁ? 羽は動かせそうですかぁぁぁぁぁぁ?』

 

緩く動いていた馬車から落ちた臓物が剣に塗ってない。ヒヒイロカネを手に入れなければ煙が経たぬゆえ魔物との結婚式が急務となってしまう。認められなければいけない、判子はどこだろうか俺は一体……

 

『ミッシェルさぁぁぁぁん?』

 

 机に頭叩きつける挙動不審残念イケメン幽霊がいたり。

 

 ……とまあ、大体生徒のうちの8割くらいはこんな感じでほとんど授業を聞いてない。

 と言うか学級崩壊してない? 

 うちの学校も相当だったけど、こんなに酷くないぞ。

 

 ただ隣のハゲ武者。コイツは意図的に私を無視してるけど、その振る舞いには他の幽霊と違った明確な意思を感じる。

 ……何が違うんだろ? 

 気になったあたしはたまらず話しかけていた。 

 

「ねぇ、聞きたいんだけど」

 

『……っ!?』

 

 いやそんなビビんないでよ。

 取って食ったりしないし、単純に質問したいんだってば。

 

「幽霊ってみんなあんな感じなの?」

 

『あんな感じ……とは?』

 

「いや、だからさ。みんな授業中なのに結構自由だったりすんじゃん?」

 

『……』

 

 好き放題している幽霊を指させば、ハゲおっさんはどうしたものかと首を傾げ、ぼそぼそと呟き出した。

 

『……心囚われているのだろう。生前の所行が魂にへばり付き、まともな思考が出来なくなる。ともすればまだ死んだと理解出来ていないのやもしれぬ』

 

「じゃあおっさんは何で普通に会話出来てんのさ。結構サバサバしてるタイプなの?」

 

『おっさ……!? ……時が経てば否応なく分かる事。吾輩は死んだ事を理解しておるし、己が為すべき事も分かっておる』

 

「ふーん」

 

 つまり年季の入った幽霊ほど意思疎通できるって事?

 となるとまともに思考出来ない人は自分の意思で入塾したんじゃなくてこのビルに誘われただけ?

 

「ってかそもそも、最初の時と話し方違うんだけど何で? 前はもっとテンション高い感じだったじゃん」

 

『…………何のことだ?』

 

「ひょっとしなくても格好つけてた?」

 

『……否。あれは吾輩の本性』

 

「嘘。何か難し~い言葉遣いで私の事脅かしてたじゃん! 南無阿弥陀仏とか何とか言って!」

 

『五月蝿い。興味本位で釣られた子供を取って食おうとしたのだ、荼毘(だび)るぞ!?』

 

「タピオカみたいに言うなや!」

 

『授業中ですよぉぉぉぉぉお二人共ぉぉぉぉぉ!』

 

「どわっ!?」

 

 机を透過して顔を飛び出させるアフロに、また度肝を抜かれる。

 コイッッッッツ!!!! まともに登場出来ないの!?

 

『相すまぬ。小娘が周りと吾輩が違う事を疑問に思いまして』

 

『ははぁぁぁぁ……。やはりあかりさん、いい目の付け所をしてますねぇぇぇぇ。まるで生きてるみたいですよぉぉぉぉ!』

 

「いや生きてるんだけど」

 

 この調子だと念力覚えるのにめっちゃ時間がかかるんじゃないの? 

 当然の疑問をぶつけると、アフロは苦笑いしだした。

 

『致し方ない所もあります。幽霊とはそも、然るべき場所に還れなかった迷い人。自分が何故ここに居るかも分からない方も多いです』

 

「……迷い込んだだけで授業受けてる事にも気が付いてないってこと?」

 

『そういった方もいらっしゃいます。ただ我々はそんな方々にも別け隔てなく手助けをしたいと考えています。訳も分からずに現世に留まり続け、怨霊になるよりかは未練を解消し輪廻に回っていただきたい。そう願うのです』

 

 偏差値30の馬鹿学校でも見られない、壊滅的な授業風景。

 一見して手に負えない問題児ばかり。

 

『多大な時間がかかるのは承知の上です。幸いにも幽霊にとって時間はかなりある。ですから我々は何度でも教えます』

 

 しかしそんな問題児達を見るアフロの目は。

 とびっきり優しいものだった。

 

『何度間違えても。何度同じ質問されても。何度でも。何度でも。何度でも答えましょう。それで成仏出来るのなら我々にとってこれ以上に嬉しいことはありません』

 

「アフロ……」

 

 癖強なアフロに対するイメージは、一瞬にして変わった。

 傍迷惑な目立ちたがりだと思ってたけど、その実ちゃんとした先生をやってたなんて、思いもしなかった。

 ……うん。もうちょっと真面目に受けてみようかな。

 成仏する気はこれっっっっぽっちもないけど。

 単純に学びたい気分は出てきたかも。

 

 ……あれ?

 でもそうなると先生はいつ成仏するのさ?

 

「そう言えばアフロ先生はどうしたら成仏するの?」

 

『成仏……? あぁ、私はパスです。成仏したらこの力が使えないじゃないですか』

 

「……えぇ?」

 

『念力、実に素晴らしい……この力があれば誰だって簡単に、それも格段に驚かせられるんですよぉぉぉぉぉ! 私はこの場所で皆様に念力を教える! そして私の教えが全国に広がるという事は、私が様々な人を驚かせたと言っても過言ではないではないですか! あぁぁぁぁ考えただけで脳汁が出てくるぅぅぅぅぅ!』

 

「……」

 

『私の天職は生前ではなく死後にあったんですねぇぇぇぇぇ!』

 

 ……人間と違って幽霊も色々だね。

 いやマジで。

 内心の評価をぐっと引き下げ、大きくため息をつくのだった。

 

 

 

*1
歌舞伎の役どころのひとつ。 いわゆる和風ピエロ。物真似や滑稽な口上で人を笑わせるたり、解説役を務めたりする。

*2
木は火を生み、火は土を生み、土は金を生み、金は水を生み、水は木を生む。相手の力を増やす関係のこと。五行の徳を中国の歴代の王朝の変遷に当てはめて、その流れを理論化した学説の一つ。





【楽しい!幽霊名鑑③】
 曳子盛(ひきこ もり)(享年:67)
 アフロでパーティ眼鏡をつけた甚平姿の男。この塾の講師を努めている。
 目立ちたがり屋で他人を驚かす事を生きがいとしている。
 元々歌舞伎役者で道外方として人を笑わせてきたが、それだけじゃ我慢できず大金を投じて人を驚かせることに特化した屋敷を作成し人々に人気を博した。
 しかしある事件を切欠に両足を無くし、屋敷で孤独死してしまった。
 念力を愛しており、成仏する気がない。
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