イマドキ女子高生、幽霊の塾に通う。   作:月兎耳のべる

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五限目 イマドキ女子高生、授業をサボりかける。

 

 ──通い始めて早一週間が経っていた。

 

 奇跡的に、飽きることなくあたしは授業を聞き続けていた。

 

 念力。

 人間には縁がなかった未知の力。

 

 未だに出来る気がしない。

 けれど過去にないくらい真面目に授業を受けていると思う。

 自分でもびっくりだけど納得もしている。

 だってこの授業は好きでやっているから。

 

 よく分からない図形の角度を求める必要がないし。

 作者の気持ちを答える必要もない。

 赤の他人の歴史を覚える必要もないし。

 各県の名産物だって知らなくてもよければ。

 溶液のpHがどれくらいか計算する必要もない。

 

 頭ごなしにやれと言われてやるものじゃなく。

 知りたくて学んでいるからこそ楽しい。

 この恨みを果たすことに特化した学問を、全人類の中であたしだけが学んでるっていうのも痛快だ。

 

 ここに居ると家族のいざこざも。

 交友関係を気にする必要も、テストを気にする必要も。

 最近つれない彼ぴを考える必要もないのも気が楽だ。

 ……ま、個性が濃すぎる幽霊達に疲れはするけどね。

 

(──もしあーしが坊さんに出会ったらどんな反応するんかな~)

 

 闇夜にぱらりと散らした虹のネオン。

 千鳥足で練り歩く大人たちに紛れてあーしも出歩いている。

 

(『お主は何かに憑かれておる!』とか言い出すんかな。それとも案外無反応だったりして)

 

 路地裏に向かう足取りは今日も軽い。

 普通なら一発補導間違いなしだけど、多めに見て欲しい。

 世の中にはあーしより悪い事してる人が居るんだからさ。

 こんなJK一人くらい放っておいてよ。

 

(でも夜更けに廃ビルに通う女子高生ってどう考えても憑かれてるとしか思えないよねぇ……ってか、自分で言ってて大分ヤられてる感あるわ。実は今も幻覚見せられたりすんのかな?)

 

 群がってる幽霊達をかき分けて教室へ向かう。

 目は合わせてはいけない。

 声をかけてはいけない。

 見られても無視。

 何かされても反応してはいけない。

 刺激していい人はモザ姉とか、ハゲおっさんとかアフロだけにする。

 一度痛い目にあったから肝に命じている。

 

(幻覚が解けたら後戻り出来なくなってるとかは嫌だけど…………まあソレはソレで。楽しい幻覚見せて貰ってるからいいかな)

 

 上上下下左右左右B教室、A教室。

 お目当ての教室にいけるおまじない。

 ようやく覚えてきた道順をすらすらと進んでいく。

 

(んな事よりも今日こそは羽を動かそ。何か自分でもわかんないけど、後少しって気がするんだよねぇぇぇぇぇ……って口癖になってる。ヤベ)

 

 楽しそうな授業の喧騒を耳に入れながら、後少しで教室にたどり着くと思った……その矢先の事だった。

 

 狭い通路の先、ソイツは居た。

 

 壁に背中を預けていたのは金髪ガン黒イカニモ系の男。

 目元はサングラス。耳にはピアス。首筋に入れ墨。胸元の筋肉を見せびらかすようなシャツと忘れてならない咥え煙草。

 まさしく役満ともいえるステレオタイプのチャラ男だった。

 

(わぁ……こんなチャラ男も幽霊になるんだ)

 

 現世でも間違いなく見た事あるTHE・チャラ男だが、その腹には何十本もの包丁が突き刺さっててるから幽霊では間違いなさそう。絶対痴情のもつれで死んだな。

 んな事を考えながら素通りしようとすると、急に男がこっちに手を伸ばしてきやがった。

 

「っ!?」

 

 さっと避けると、その手はあたしの進路を阻む形になる。

 そして間髪入れずにチャラ男がこっちに顔を寄せ始めた。

 

『おっ、メチャカワ娘はっけーん。どったん? 迷い込んじゃった系? 帰り道教えてあげるべ?』

 

 サングラスをずらして格好つけるチャラ男。

 死んだのにやることナンパかよ。

 お前ホント予想を裏切らないな。

 

「……」

 

 こういうのは相手をしないに限る。

 腕をくぐり抜け先に進もうとすると、今度は片足を壁について進路を阻みだした。コイッツ……!

 

『無視はかなしーじゃんッ、俺っち今ジーマーで暇だからさ、ちょっと話して……ウェイッ!? リンボーダンスで抜けようとすんのパなくねぇっ!?』

 

 普通の幽霊とノリは違うけど無視だ無視。

 相手するだけ相手の思うツボ。

 努めて視線を合わせずに先へ進もうとする。

 悪いねチャラ男。あたし彼ぴ居るからナンパNGなんだよね。

 せめて生まれ直してから出直してきて。

 

『俺が男十人と別れた時の話とか聞きたくね?』

 

「詳しく聞こうか」

 

 くるりと反転して向き直る。

 女ん子は三度の飯より恋話が好きだからね。

 仕方ないね。

 

『ちな俺の名前は茶羅雄ね。ラオって呼んでくれていいぜ?』

 

「あんたの名前はどうでもいいから早く話してくんない? 彼氏十人とどう付き合ってたのさ?」

 

『ひどくね?』

 

 チャラ男はタバコをぷわぁと吹き出しながら話だした。

 

『俺、結構モテんのよ。顔見て分かるっしょ? んでモテんのは女だけじゃなくて男もそーなんだよね~。割りと社交的だし、こー見えて料理うまいし? 色んな遊び知ってっからさ、向こうがコロってなっちゃうことばっかりだったんだべ?』

 

「自慢死ね」

 

『俺とお嬢ちゃんって初対面の筈だよね? 当たり強くね? んでさ、俺って世間的にはバイな訳よ。性別で態度変えたりとかしねーし、俺っちの中じゃ気に入るか気に入らないかって考えしかしてねえのよ』

 

「ふんふん」

 

『さらに言うと恋愛とか結婚は全然考えてねー。セックスとかもそう。俺っち的には気持ちいいからするってだけでさー』

 

「ふーん」

 

 そういうスタンス、あーしは結構好きだな。

 アタシもべったりよりかは気軽に付き合いたいし。

 

『したらさ、気付いたら何か浮気してた事になってた』

 

「……あー」

 

『俺は別にそんなつもりねーのに、一度抱いたりすると一気に重たくなるやつ多いんだよなー。俺としてはセフレぐらいでいいのにさ』

 

 いや、JKに同意求められてもなぁ。

 まあ気持ちはわからなんでもないよ?

 人によっては体を重ねるって大事だし。

 ゆうてあーしも……そんな数えるほどしたことないし。

 まあ、あれかな。相手が悪かったんかな?

 

「つっても彼氏はいたんだよね?」

 

『気付いたら彼氏になってたって感じなんだよ。こっちは別に欲しかった訳じゃねーし』

 

「刺されそうな台詞してんねぇ。もう刺されてるけど。んじゃ向こうが勘違いしてたってこと?」

 

『んだべ。俺っちは友人だって言ってんのにやれ別の男と話したとか、別の奴を見るなとか、知らねーってんだよ』

 

「メンヘラ気質だね……。でもヘラってんのが十人も居たってのは偶然にしては出来すぎじゃないの?」

 

『だべな~。お陰で俺を巻き込んで十人全員バチクソに喧嘩しまくり。路上で殴り合ったり、闇討ちしたり、嫌がらせの応酬しっぱなし。もー血みどろ』

 

「コワ~……」

 

『んで俺も巻き込まれて十人同時にぶっ刺されてコレもんよ。見てよこの腹。ひどいと思わねー?』

 

 そんな「うちん家の犬見る?」みたいな気軽なノリでグロイもん見せてくるのやめない?

 剣山みたいになってる腹から目を逸らしながら考える。

 まあ……気の毒かもしんない。

 本人はその気がないのに周りが勝手に勘違いする。

 その結果死んじゃったって言うなら同情の余地はあるかも。

 

『ちょっと抱いてる時に「誰よりも愛してる」「お前しか居ないんだ」って呟いたぐれーなのにすぐ勘違いすっからな~』

 

「明らかにそれだろ」

 

 前言撤回。

 こいつの自業自得だわ。

 

『え……いや、そんなの言葉の弾みっしょ!』

 

「アンタはそうかもしんないけど向こうにとってはそれが本気だったっつーことっしょ? 多分言わなきゃもーちょい穏便に過ごせてたんじゃない?」

 

『ヤッてる時言うと盛り上がるんだよ! そんくらい演技だって分かるっしょ!』

 

「脳みそチンポ野郎か?」

 

 やっぱコイツ同情出来ねえな。

 刺されるべきして刺されたって感じがするわ。

 

『毎日差しつ差されつも楽しいもんだべ? これ、先輩からの助言』

 

「全然役に立ちそうにねぇ~!」

 

『ま~ま~ま~。そんで、今度はそっちのターンだべ? あかりんはどうして死んじまったん?』

 

「あかりん言うなし。死んでねーし」

 

 ……何その『ナイスジョーク』みたいな顔。

 この場に坊さん100体召喚してやろうか?

 

『ジーマー!? 何で生きてんのにココに来てんのよ!』

 

「何でって……暇だからだけど?」

 

『それで学校ブッチしてここ来てんの? っちゃべー……俺よか自由謳歌してねぇ?』

 

 彼氏十人と刺しつ刺されつしてんのとどっちが自由かは諸説あるけど……言われてみればそうかもしんない。

 退屈だからって幽霊に紛れて。

 そんで祟りを習ってるってのは相当イカれてる。けどさ。

 

「だって……毎日つまんないし」

 

『つまんねーって? どこが?』

 

「家も。学校も。何もかも。毎日毎日同じ事の繰り返しはもう飽き飽き」

 

『……』

 

「同じ時間に起きて。同じ場所で勉強して。同じ人と話して。同じ人と遊んで。そんで寝る。ソレの繰り返し」

 

 これが普通、これが当たり前だって言われれば、そうなのかもしれないけど。

 あたしはそんな巻いた数だけ揺れるメトロノームなんかにはなれない。

 

「こんなつまんない当たり前が続くと……何か、あーし自身がすり減る感じがしてさ~……」

 

 すり減る。

 あぁ、この言葉がしっくり来た。

 卸し金じゃなくて、スポンジでゆっくりゴシゴシされてる感覚。

 滅多に無くならない。けれどじんわりと消えていく。

 薄くなったあーしは、一体どうなるんだろう。

 そう考えただけで何か怖くなってしまう。

 

『やー若いねぇ~……』

 

 ……って語ったら生暖かい目で見られたんだけど。

 ウザ。真面目に話して損した。

 率直に言って死んで欲しい。

 

『死ねとか気軽に言うもんじゃねーべ? 俺っちもう死んでるけど』

 

 じゃあ召されろ。

 

『まだ見ぬカワイコちゃん達と会うまで成仏できねーんだよな~』

 

 死んでも尚煩悩にまみれやがってよぉ!

 ってかさっきから何!? あーしの心読んでる!?

 勝手に読まないでくんない!?

 

『わりーわり~、俺っち実は幽霊の才能ありすぎてさ~、念力とかマジ余裕なんよコレが』

 

 証拠だと言わんばかりに落ちてた紙くずを浮かせて、鳥のように飛び回らせるチャラ男。

 ぐっ……こいつマジであたしより出来る。

 

『ってかさっきのあかりんの話さ~、気持ち分からんくもないけど俺っちからすりゃ羨ましいってもんだべ?』

 

「羨ましい……どこがぁ?」

 

『俺。親は失踪。中学中退。20までずっと少年院』

 

「あ……」

 

『少なくともあかりんより明るい青春じゃなかったべ。院出た頃には天涯孤独。そしたら世間の仕組みなんて何も知らねー馬鹿一匹が世に解き放たれるだけ。空しいもんよ』 

 

 つまらなそうに紫煙を吐き出すチャラ男。

 口に咥えた煙草も実在しないのだろう。

 ふわっと広がった煙からは何の匂いも漂わなかった。

 

『不幸自慢なんてするつもりもねーけどさ、世間一般の当たり前って結構ありがたいもんだべ? 俺っちは母さんも父さんも全然記憶にねーけど、今の日常は大切にしたほうがいいって絶対』

 

「まあ……そうかもだけどさ」

 

『ま、ソレとは別にはっちゃけてー気分は分かっけどな。俺っちも学校毎日通えって言われたら絶対ぶっちする自信ある!』

 

「……」

 

 頷く。というか頷くしかない。

 これがあーしの、子供の我儘なのは分かってるし。

 今を大事にした方がいいのも正しいと思う。

 つまんねーって思った日々は、きっと他の人が喉から手を出す程求めた日なのかもしれない。

 

 でも……何となく釈然としないままだ。

 

 あーしの心は間違いなくすり減ってる。

 それがそっけない彼ピのせいか、やかましくてウザい友達のせいか、つまんねー学校か、口うるさいオカンのせいかは知らない。

 着実にあーし自身が薄くなっている。

 そんな気がするんだもん。

 

 ……まあ。今の幽霊教室に飽きたら。

 また当たり前に戻ってやってもいいかな。

 

『そーいやあかりんってこれから授業っしょ? 何の授業受けるんよ?』

 

「え? アフロ……いや、盛先生の念力講座」

 

『やっぱ? まあ最初のうちは盛先生だよな~。先生は喋り方とかマジうぜーけど教え方はピカイチだかんな。俺っちも先生にはマジ頭あがんねーべ』

 

「確かにあんたと同じくらいウザイかも。でもまだあーし念力全然出来ないんだよね~」

 

『お、マジ? なら先輩がアドバイスしてやっ』

 

「それはいいです」

 

『食い気味~!』

 

 んなの授業で聞けばいいし。

 お前が教えると変なセクハラされそうだし。

 っつか、ここでぐだ巻いてそっちこそ何してんのさ。

 授業とかいかないの?

 抗議の目を向けたら、チャラ男は気まずそうに眼を逸らし始めた。

 

『……んーあー……まぁね』

 

「何その反応」

 

『いや……授業はあるんだけどさ? ちょっと行きたくね~っつーか』

 

「え、何で」

 

『先生が苦手なんだよ。マジおっかねーんだコレが』

 

 冗談めかして言ってる……って訳じゃなさそうだ。

 まるでピーマンを目の前にした小学生のような顔。

 正直、幽霊なのに今更怖がるものってあるの?

 少なくとも死の恐怖とかいらない訳じゃん。

 

『幽霊だって怖いもんは怖いべ! 所長とかマジ怖だし、言葉通じねー奴とかおっかねー奴とか神様だとか、あと犬! あかりんだって同じ人間でも怖いって思う人いるっしょ!?』

 

 ……まあ確かに居るけどさ。 

 それにしても犬て。犬て。

 

「んで、何の授業なのさ。その怖い先生がいるのって」

 

『……げんわく』 

 

「げんわくぅ?」

 

 現国じゃなくてげんわく?

 幻を見せて惑わすって書く方の?

 あー確か、その先生って確かお姫様じゃなかったっけ?

 え。めっちゃ綺麗な人ならむしろチャラ男的にはご褒美なんじゃないか?

 

『いや、マジでそうよ? 絶世の美女! あかりんとは逆立ちしても勝てねえくらいの!』

 

「ぶっ祓うぞ」

 

『何で読むんだそれ? まーその人顔も良ければ仕草も良いし、なんつーか魔性の女ってこの先生のことを言うんだってくらいにはマジやばたんなんだけどさ~……』

 

 そういやモザ姉がその先生は超毒舌だって言ってたね。

 でも美人に罵られるのもバリおっけーってコイツなら言いかねないと思ったけど……。 

 

『ま、んな事はどーでもいいんすよ。もう授業始まっちまったし、今日は気分が乗らねーからパスって事で』

 

「サボリか~?」

 

『あかりんはリアルの方でサボリじゃん。ここはお互いサボり同士っつーことで一緒にサボんね?』

 

 それはまーそうなんだけどさ……。

 でも今のあーしは学習意欲バリ高の高須クリニックなんよ。

 残念だけどまたの機会に~って断ろうとしたら、ずい、とチャラ男が距離をつめてきた。

 

『毎日勉強とかすぐ飽きるべ? 合間合間に刺激を適度にいれねーとさ!』

 

「いや、距離近い近い」

 

『距離詰めてるんだもん、当然じゃね?』

 

「あーし彼氏いるから近寄んな祓うぞ」

 

『生きている彼氏でしょ? 幽霊の彼氏はまだいないんだったらセーフっしょ』

 

「訳分かんねー事言う……ひゃっ!?」

 

 こいつ、今あーしの髪触った!?

 ちょ。マジでやめろ!

 咄嗟に出した拳。

 しかし何度やってもすり抜けてしまう。

 

『ん~俺結構優等生ってさっき言ったべ?』

 

「っ」

 

 チャラ男は暴れるあーしを意に介することない。

 手首を掴まれ、壁に押し付けられる。

 あーしの視界一面に、チャラ男が広がった。

 

『幽霊とスるの初めてっしょ? 俺っちもこの体でスるの初めてだしさ。まー初体験同士楽しもーぜ?』

 

 流石にそんな体験は御免なんだけど!?

 いや。ちょ、マジ? やめ。ダメだって!

 コラ! 顔胸に近づけんな! 殺すぞ!? いや祓うぞ! ま、まって。待ってってばぁ──!

 

『──ここで何をしているんですか?』

 

『ウェイッ!?』

 

 直後。廊下に転がり込んだ鈴の音と共に。

 急に空気が慎と、静まり帰る。

 あーしとチャラ男、同時に振り返ってみれば……本当のお姫様がそこに居た。

 

「え……ヤバ……!」

 

 身長はあーしより少し下。

 その目はぱっちり見開き。

 目鼻際立ち、長いまつ毛は濡れている様。

 背中に流した艶やかな黒髪は床につくほど長く。

 値段なんて想像もつかない、美しい模様の入った赤い着物がまた絵になっていた。

 

 『美人』という言葉では足りない。

 クレオパトラとか楊貴妃とかそう言う人もきっと目じゃないと思う。

 多分世界中のどんな美辞麗句を並び立てても表現できない美しさと儚さがそこにあった。

 

『やば……? 私の何がヤバイというのでしょう?』

 

「や、ち、違うっす。こ、言葉も出ない……す、すごいって意味で……」

 

『……またワカモノ言葉と言うものですか。同じ日の本の言葉の筈なのに異界の言葉のようですね』

 

 すすす。

 お姫様が音も無く近寄ってくる。

 その間チャラ男は、幽霊だっていうのに滅茶苦茶汗を流していた。

 

『それで茶等雄、私の授業を放ってここで何をしているのでしょう?』

 

『あ、いや……そのですね……、み、みちに! 道に迷ってまして!』

 

『十年も通ったこの塾でですか?』

 

『ま、迷いこんだ一般人が居たので助けてあげようと!』

 

『この子は確か盛先生の教え子でしょう? むしろ彼女もこれから授業では?』

 

『そ、そうなんですよ! だから俺っちが盛先生の所へ連れてこーとして』

 

「全部嘘ですー。コイツ次の授業は先生が苦手だからサボりだって~。しかも授業行こうとしたあーしを無理矢理手籠めにしようとしてました~」

 

『ちょっ、シーッ! シーッ!』

 

 女子にセクハラする存在許せる奴おる? おらんよなぁ!

 って事で秒で真相をバラしてやった。

 やったんだけど……。

 

『──なるほど。そうでしたか』

 

 あれ。何もお咎めなし?

 バラしてもぴくりとも表情変えない。

 確か結構毒舌な人だって聞いたけど……もしかして誑樫先生じゃないのかな。

 

去勢されてえのか(それは残念ですね)ゴミクズ(茶羅雄さん)

 

 うぇ。

 

『玉無しのイカレホモチ●ポ野郎が、貴様の臓物を全部ぶちまけて犬の餌にしてやろうか(優秀な貴方が居ないと寂しいです……皆さんも茶羅雄さんを待っていますよ?)』

 

『次サボったらテメェのゲロと糞で煮詰めた酒を全部飲ませるつったよな、聞こえなかったか(体調がすぐれないのなら飲み物を用意させて頂きますが、如何しますか)?』

 

 ──く、くくくく口悪ぅ!?

 

 虫でも殺しそうにない表情しながらなんつー事言ってんの?!

 

『ウェ、ウェイ……』

 

マス掻きシコ猿が(茶羅雄さん)

『どう考えたら私の授業をサボるって結論が出るんだ? 言ってみろよ。え?(私はとても悲しいです。不満があれば教えてください)』

 

『ウェウェ……ウェウェーイ……』

 

ついに人の言葉も忘れたか(どうかしましたか?)

『これだから竿でしか物を考えない脳みそチンポ野郎は嫌なんだ(もし特に問題なければ授業に戻って頂きたいですが)』

『輪廻から外れて無を彷徨いたければすぐに言えよ?(まさか今日は出席できませんか?)』

 

 見た目とギャップの在りすぎる罵倒の数々。

 それは直接言われてない私ですら思わず引くほど。

 あっという間にチャラ男がしなびて『ウェイ』しか言えなくなってるのも無理はないと思う。

 

『はぁ……そこの人』

 

「は、はひっ!」

 

『貴方も授業に行きなさい。盛先生が首を長くして待っていますよ』

 

「は、はい……そうします! そうします!」

 

『何を畏まってるのやら……』

 

 長い袖で口元を隠して笑う。誑樫先生。

 身長はこちらの方が上だからか、その様子はまるで子狐が悪だくみをするような印象を受けた。

 

 ……って首を長くして待ってるって誰を?

 

『貴方をです。久々に教えがいがある生徒が来たって張り切ってましたよ』

 

「……マジ?」

 

『馬路……?』

 

「あ、あー。本当にって感じです」

 

 そっか。あーし教えがいがあるんだ。

 何か……ちょっと嬉しいかも。

 今までテストとか全部赤点だったし、褒められたことないし。

 

『まさかその方が生きてる方とは私も思っていませんでしたが……覚悟はいいか犬糞が(さぁ行きますよ。茶羅雄さん)

 

『ウェィィィ!?……ちょ、ま、イヤァァァァァァッ!?』

 

 その折れそうな程細い指先できゅ。

 中空を掴むような仕草をすると、チャラ男の首に手の痕が現れた。

 そして物凄いスピードで廊下を引きずられて視界から消えていった。こわっ。

 

『あぁそうそう……盛先生だけでなくて私の授業にも是非来てくださいね? 幻惑術もとても楽しいですよ』

 

「は、はい……」

 

 同性でも赤らめてしまう極上の微笑みを見せた先生は、行きと同じく音もたてずに消えていった。

 後に残されたのはただ生きてるだけの普通のJK。

 胸は高鳴り、恐怖と快楽でどうにかなってしまいそうな気分だけが残っていた。

 どうやら、まだこの塾を飽きるには先は長そうだ。

 

 




【楽しい!幽霊名鑑④】
 茶羅雄(ちゃらおす)(享年:27)
 
 THE・チャラ男。見た目はチャラ男。中身もチャラ男。
 金髪ガングロ軟派気質。でも男も女もオッケーのバイセクシャル。
 仲の良い男とつるんでたら男を十股していた脳みそチンポ野郎。
 そして最終的に十股してた男全員に刺されて死んだ。
 ナンパスキルと念力スキルに長けている。
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