「あれ……モザ姉じゃん」
『──え? あぁあかりさん~。どうしたんですか~?』
「いや……どうしたはこっちの台詞なんだけど」
それは街を歩いていた時の事だった。
日が沈み始めた黄昏時。
会社帰りのサラリーマンたちの波の中、モザ姉の姿が見えてつい話しかけていた。
いつもは塾の中でしか見ないモザ姉が何でこんな所に?
買い物をするような存在でもないでしょーに。
『……確かに~何で私こんな所にいたんでしょ~……』
「あーしの方が聞きたいけどね、散歩でもしてた?」
『うーん……そんなつもりもなかったんですが~……あ~もしかして~……』
「?」
『ちょっと引き寄せられてしまっているのかもしれません~……』
指先で黒い靄をかいて照れを表現するモザ姉。
意味分かんなくて首を傾げていると、歩きながらぽつぽつと語ってくれた。
『地縛霊……って知っていますか~?』
「……唐突に爆発する霊?」
『へ!? 違います違いますよぅ~! その土地に縛られてる幽霊さんの事です~~!』
何だびっくりした。
まあ幽霊に爆発されても痛くはなさそうだけどね。
『幽霊は未練の塊って盛先生も言ってましたよね~? ですから、基本的に馴染みのある場所に現れがちなんですよ~』
「……長年住んでた場所とか?」
『それもあると思いますが、端的に言えば……一番記憶に残っている場所ですかね~』
どーやらモザ姉が一番記憶に残ってる場所は塾とは別のビルらしい。
そこはモザ姉が死んでしまった場所。
そこには忌まわしい記憶しかないと、寂しそうに呟いていた。
『私……ある不動産会社で働いていたんですよね~……そこがすっごく忙しい会社で……毎日朝8時には出社して、夜は2時まで働いて……土日もずーっと休めませんでした~』
「うっへぇ……超絶ブラックじゃん……」
『そう! そうなんですよ~! 私、知らなかったかもしれませんが~、とっても要領が悪くて~……それでみんなに目の敵にされて~……セクハラとか、パワハラとかいっぱいされてたんですよね~……それが辛くて辛くて~……!』
「最低……そんな変な会社辞めてやればよかったじゃん!」
モザ姉が要領悪そうなのは知ってたけど。
あたしだったらもうとことんやるとこまでやってやるのにな。
セクハラおやじは警察に突き出して、会社はろーき?とかに突き出してやるっつーの。
そう息巻いていると、モザ姉が苦笑いをしたように見えた。
『私も……あかりさんみたいに強気に出れたら良かったですよね……』
「モザ姉……」
『そう……辞めれば良かったんですよ~。それこそ無限の選択肢があったのに……流されやすくて馬鹿な私は、一つだと思い込んでいました~……』
「……あ、いやモザ姉を悪く言うつもりは」
『お前のせいでこんな事になった』
『お前が仕事が遅いから会社に損害が出た』
『社会人にもなってこんな事が出来ないのか』
『お前の代わりはどれだけでもいる』
『──やれ責任。責任。責任。その言葉に踊らされて。おかしい事にも気付かずただこき使われ……馬鹿にされ続けて。でもそれが社会人なんだ……当然なんだって言われると……納得するしかなかったんですよね~……』
人ごみの中。誰も彼もがモザ姉を無視して早足で移動している。
いや、いっそあたしの事も見てないし、何だったら他の人すら見向きしていない。
みーんな自分の事でいっぱいいっぱいで。
他人を気にかける余力なんて、どこにも無いように見えた。
『なのに、そんな私のことなんか社会は気にしてなくて、ずっと頭が痛くて』
「……あ。え、えーっと……?」
『毎日。頭痛で。吐き気が止まらなくて。でも。仕事はいっぱい。だから。私。やらなくて。でも。動かなくて。叱られて。何もできなくて。生きてる価値がないって言われて。楽になりたくて。私。私。空を。私。私……!』
「も、モザ姉カムバック~!」
深い闇を纏いだすモザ姉を必死に現世に戻そうとする。
努力の甲斐あってか、何とかいつも通りに戻った。
『すす、すみません~……! えっと……それで何でしたっけ。私が最後に死んだ場所が……その会社のビルだったんですよね~……』
「えっと……じゃあモザ姉ってもしかして、今日はそのビルから歩いてきたって事……?」
赤く染まった町中で、恐らくは、とモザ姉が頷いた。
『地縛霊は同じ場所に戻ってしまう習性があるんです~。そのつもりはなくても、無意識に~』
「そうなんだ……縛られたらずっとそこに居なきゃいけないって訳じゃないんだよね?」
『う~ん、余程強い記憶でない限りはそうですね~。生前の習慣がそうさせるのか、未練がそうさせるのか良く分からないですが~……私は基本的にこの塾にずっといますので~』
「……死んだ場所にわざわざ戻らされるってのも嫌だね。家とか、もっと遊園地とか楽しい記憶がある場所に戻れればいいのに」
『あははは~。本当にそうですね~……。私も実家に出られたら、お母さんやお父さんと会えてたかもしれないのに~……』
顔は見えないけど。きっと見るだけで寂しくなる表情をしてると思う。
あたしまで切ない気持ちになっていたら、気付けば二人、馴染みある路地裏に立ち入っていた。
『あかりさんは、私のように間違えないでくださいね~』
「……モザ姉。重いって」
『あははは……でもでも、これは私の偽らざる本心ですので~……死んでる私が言うのもおこがましいかもですけど、後悔だけはして欲しくないんですよ~』
塾の入口であたしたちは別れる事になった。
口調こそ柔らかなモザ姉の言葉は、大人達のありがたーいお説教より、ずんと私の心に重く伸し掛った。
他人の死にざまなんて全然気にしてなかったのに。
他人にもあたしと同じ、いや、それこそあたし以上の足跡があるんだって。分からされた気分だった。
「……私、恵まれてるんだろな」
少なくとも死んでないって点では全然、他の人よりもかなりマシなんだと思う。
退屈しのぎで始めたこの幽霊教室も、通い過ぎも駄目な気はしている。
何だか知らないけど、あのババアの顔が無性にチラついて仕方がなかった。
「とりま……ブラック企業に入る事だけはやめとこ」
……とりあえずは目先の事を考えよう。
幽霊でごった返すビルの中を、慣れた足取りで進む。
今日こそは羽の一つや二つくらい動かしてみたいし。
皆目動かせないけど、ちょっとだけ掴めるような感覚はあったもの。そろそろじゃない?
そしたらあたしは超能力JKとして少しだけ面白おかしく毎日過ごせるかも。
死人達がふよふよと通路を行き来する中で、
確かな足取りで先をすすんでいくと、あることに気付く。
(なんでこっちにだけ幽霊が寄り付かないんだ……?)
そこに教室がないから。
そこが目的地じゃないから。
そういう理由じゃないのは一目でわかった。
何故なら一瞬立ち入った幽霊が慌てて回れ右をするからだ。
何? 何かお札でも貼ってあるとか?
恐ろしい化け物でもいるってか?
知らず知らずのうちに足を運ぶあたし。
先にあるのは他と変わり映えのない教室だった。
かすかに人の喋り声が聞こえてくるから、どうやら授業中のよう。
しかも珍しい事に他の教室より格段に静かだ。
まるで気難しくて怖い先生がやってる授業のような、そんな感じの……。
『茶羅雄さん。私の教えが至らぬようで申し訳ありません。ですがもう少し授業に興味を持っていただけると嬉しいのですが?(発情犬。こんな事も分からないなんて心底憐れみますよ。頭の中精液しか詰まってねえのか?)』
『ウェイ……』
……そんな感じじゃねえ。まさしくそうだわ。
見ればあの姫とチャラ男が対面で授業をしていた。
それは授業というか面談だ。
いや面談というか圧迫面接だ。
だだっ広い教室の中にぽつんと置かれた机。
そこに委縮しまくったチャラ男が体を小さくしながら座っていて、壇上の姫がニコニコと微笑みを見せている。
『貴方程の人なら決して難しい話ではない筈ですよ。一度コツさえ掴んでしまえばすぐです。さぁもう一度やりましょうか?(穴ぐらにぶち込む事しか考えてないシコ猿が。これだけやって何一つ出来ないなのは逆に才能です。とっととやり直せゲボカス)』
『ウェ……ウェェェイ……ウェイ』
『そうです。想像を蓄えて。意識を集中させて……違います。それではダメです。(は? 何やってんだボケ。赤ん坊からやり直せよクズ)』
目の焦点が定まらないチャラ男が両手を上げて念じ始めると、一瞬教室のレイアウトが変わった。
簡素なオフィステーブルが、公園の椅子に切り替わり、ある筈のない遊具が急に出現したのだ。
けどあたしが目を擦った後には元に戻っていた。
今の……何? あたしの幻覚だろうか。
思わず見とれているとゾンビみたいに俯いていたチャラ男と目が合った。
『あ……あぁ? あ。あ。あかりんんんんんん~~~~~!!! 来てくれたん!? ヤバめっちゃ歓迎!! 先生先生、授業中断っしょ! 先生の授業に新しい生徒! 生徒来た! ──ウェイッ!?』
そして生気を取り戻したチャラ男は、一瞬にして天井に張り付けになった。
『授業中ですからお静かにお願いしますね、茶羅雄さん?(誰が辞めろって言った? ウスラボケが)』
人も殺さぬような天使の微笑みでエグイ事をする姫。
だから、あたしが見つめられて跳ねてしまうのも無理はない話だと思う。
『先日ぶりですね風前さん。どうかしましたか? 私の授業を受けに来たのでしょうか?』
「あっ、えっ……あ~……! あははは、いや。聞いた事のある声だったから何をしてるかな~って……興味本位で~……」
『あかりん! あかりんも授業受けてよマジでいい授業だから!? ねぇぇぇぇ!? ねぇぇぇぇぇ!?』
天井に張り付けられてるのにィ?
あーしは断然パスするつもりまんまんだが!?
ただ……何の授業をしているのかだけは気になるかなぁ。
「あ、あの~……また興味本位で申し訳ないんですけど……確か幻惑術でしたっけ。それってどういううものなんですか?」
読んで字の如く幻惑だから、幻覚っぽい物を見せるんだとは思うけど……。
そんなあたしの疑問に答えるかのように、姫が手招きをした。
『簡単に言えば幻を見せる力ですね──仮初の世界に誘い、騙す。祟りを成就しやすくする補助の技と考えれば良いですね』
「あ、やっぱりそうなんだ」
『無意識に恐怖心を抱く物を見せたり、想い人を登場させたり……あとは、そうですね。こういう事も』
「え? ──え?」
不意にあたしの視界が沈んだと思えば、浮遊感に包まれる。
視界から遠ざかる、遥か上空の教室。そしてアタシの落下地点は……奈落の底!?
「わ、わ、わあああぁぁあぁぁああぁぁぁあぁ~~~~~ッ!?!?!?!」
お、落ちる!? 落ちてる!? なんで!?
えっ! いやこれ幻覚って言ってたよね?
マジで幻覚なんだ! でもこの肌に感じる風も、お腹がひゅっとなる感覚も! 本物にしか見えない!
そうこうしてる間にあっという間に終着点が近付いているのが分かった。
深い暗闇を抜けた先に急激に広がったのは私達の街だった。……いや、街ぃ!? ひっ! 人が見える、ビルが近付いてくる! 屋上、タイルの細かい模様が一瞬で近づいて……あ。私。死ん──。
「ぁぁぁぁぁぁぁあああっ!?!?!? ……ってあ、あれ? あれぇ?!」
『おかえりなさい。とまあこのような形です』
──気付けば、その場で尻もちをついていた。
床に穴が開いてる訳でもなく、潰れたトマトみたいになってる訳でもない。
ただ落ちたという実感だけが、あたしに残っていた。
『申し訳ありません。どうやら驚かせ過ぎたようですね。実際に見せた方が早いかと思いまして』
口元を袖で隠して優雅に笑う姫。
それに見とれる余裕なんてあたしにはなかった。
確かに、あたしは落下していたんだ。あれはまるで幻には思えなかった!
「で、でも風を感じたよ!? 落ちる感覚だって! それに、潰れた感触も……!」
『視覚。聴覚……最低限の情報を与えれば、他の五感は自ずと補ってくれるものなのですよ。人間の体というのは面白いですね?』
面白いですね?って……。
いやいや流石にやる前に一言欲しかったんだけど……!?
『あるはずのない匂いに緊張し。あるはずのない世界に驚愕し、あるはずのない感触に身悶える……まんまと術中にハマってる相手を見るのは──本当に胸がすくんですよ?』
見てるこっちが声を漏らしてしまうほどの良い笑顔。
その笑顔を見て唐突に理解する。
何故、この教室に幽霊が近寄らないのか。
何故、この教室にチャラ男しかいないのかを。
この姫様。マジでドSがすぎる。
これじゃ幽霊も逃げ出す訳だよ……!
『いさかか応用はいりますが、コツが掴めればすぐに出来ると思いますよ。幸いにも今日は茶羅雄さんしかしいませんし、一緒に如何ですか?』
「や……あ、あたしまだ羽も浮かばせられないし……出来るかな~」
『姫の幻覚はマジ再現度半端ねえべ!?!? だからあかりんも姫に学ぶの推奨。俺っちと一緒にどう?! マジでどう!?』
「曖昧な返事してすみません。この人がいるのでやっぱり遠慮しておきます」
『ちょいちょいちょいちょいちょいぃぃぃぃ!』
チャラ男はどうしてもマンツーマンが嫌らしい。
しきりに参加を促すけど、何かむかつくのでパス。
あたしは根に持つつったろ?
前のこと忘れてねーかんな?
『……無理もありませんね。この方は少々忙しないので、どうしても委縮してしまうかもしれません』
『ウェィィィィィッ!?』
天井のチャラ男が壁に押し付けられる形で何度となく行き来する。
まるで巨大な腕で大根おろしされているような光景だ。
そして直後、雑巾をしぼるようにきゅっと横に縮められたと思えば、無理やり元の席に戻されていた。
『しかし大丈夫ですよ。五月蠅くなったら私が静かにさせますので。ではそこにお座りください』
「え?」
『……?』
「──あ、はい。座ります。座ります」
これもしかしなくても拒否権ない奴だな?
はい、分かりました。あかり受けます……。
『さて、喜ばしい事に私の授業に新しい生徒が増えたので復習をかねて最初からやりましょうか』
気持ち嬉しそうにする姫が黒板にチョークを走らせる。
当然念力だ。一人でに板書されていく。
『幻惑術に必要な力も当然念力です。この術で肝要なのは、念力で相手に情報を与えると言う事……では何の情報を与えるのか? それは視覚と聴覚。その2点だけです』
「ふんふん」
『例えば林檎を見せたいと思ったら、想像の林檎を相手に直接伝えます』
「うぇっ!?」
気付けば林檎があたしの机に乗せられてビビる。
林檎だ。どこをどう見ても林檎。
何の遜色もない、本物の林檎……そうとしか見れない。
「え!? 嘘持てる!? 何で!? これ幻覚じゃないの!?」
『幻ですよ。今、貴方が林檎を持っている……という幻を見せています』
「……え!?」
嘘。このあたしの行動まで幻なの!?
『……驚くのわかんべ。姐さんにかかったら、俺達の生死なんて自由自在よ。どんな奴も勝ち目なんてねえべさ』
『姐さんはやめてくださいね』
『ウェイ』
ちいかわみたいに潰れたチャラ男が一瞬で黙った。
『例えば鳥の声を聞かせたいと思ったら、想像の音色を相手に伝えます』
途端、教室に響き渡る場違いな春の音色。
ウグイスだ。
しかも私の間違いじゃなければこの声、林檎から聞こえてくるんだけど……。
「……もしかして幻覚の中でも食べれたりもするのかな? あー……あれ? 消えちゃった」
『今、本気で食べようとしましたね?』
あんまりにもリアルだったから……つい。
『……まあいいでしょう。今林檎が消えたのは私が術を解いたから、ではありません。解いたのは貴方です』
「あたし? あたし何もしてないけど……」
『正確には貴方の違和感が術を解いたのです。唐突に現れた林檎。ウグイスの不自然さ。そして私自らが幻だと伝えた事。これにより貴方は「偽物なんじゃないか?」と疑いましたよね』
「……まあ。そりゃね」
『それですよ。その疑う心こそがこの術への対抗手段なのです。つまるところ、強い精神力と疑り深い方には、この術は効きづらいという事になります』
ははぁ……ようするに可能な限り違和感を出さないようにしないと、簡単に術が溶けちゃうのか。
『
「むむ……なるほど」
『当然ですが、最初のうちは風景を見せる事すら難しいでしょう。ですので、まずは念話から行きましょうか』
「念話って……念じて会話するってこと?」
『えぇ。おっしゃる通りです。丁度そこに茶羅雄さんが居るのでやってみましょうか。さぁどうぞ』
「……え?」
『念話です。試してみてください』
……え。いや何をすればいいのさ。
念話なんて生まれてこの方一度もやったことないが?
隣のチャラ男が意味深にニヤけてる中、どうしたものかと迷ってしまう。
すると、姫から少しイラついたような雰囲気が伝わってきた。
『……早くやってみてください』
「ひゃいっ」
ひっ、ドSモードに入りつつある。
慌てて念話に入るあーし。
えーっと……スマホで連絡みたいにするんかな?
まずは番号をかけて、んで相手の応答を待ってもしもし聞こえますかって感じで~……。
──ちらっと伺ってみる。
──チャラ男は首を振るだけ。
あーあー聞こえますか。本日は晴天なり。
あたしは風前あかりです。
好きな食べ物はうなぎゼリー。
聞こえますか。聞こえますか~。
──ちらっと伺ってみる。
──チャラ男は肩をすくめてみた。
赤巻紙青巻紙黄巻紙。
最強★トンガリコーン。
隣の客はよく柿食う客だ。
超本格的パンツレスリング。
東京特許許可局局長。
ワープロもできるレスリングもできるビキビキビキニ123……いや待て待て待て!
「何か思考に変な雑音入ってくるんだけど!? 何このガチムチの男!」
『俺っちの好みでーす』
──ギン目で睨みつける。
──チャラ男はまた天井に突き刺さっていた。
『ウェイ……』
『
「えっ、は、はい!」
うわ~……ただ姫さんを見るだけで緊張する。
い、いやそれよりも念話だ。念じろあーし!
……こんにちわ姫さん。ご機嫌如何でしょう?
最近のあーしの趣味は人間観察です。
学校クソくらえ。毎日昼寝してたい。
この間見た猫がめっちゃ可愛かったんですけど、姫さんは犬派ですか猫派ですか?
──うんうん唸って30秒。
──ちらりと姫さんを見てみると、こっちを呆れ顔で見ていた。
『……あかりさん、本気でやってますか?』
「はひっ!? や、やってる……つもりです……」
『そうですか。出来ていませんね。今の貴方のは念話というより、脳内で一人語を呟いてるのと一緒です』
「う、うぅ……って言ってもどうすれば?」
『話し相手は頭の中ではなく目の前の私。それを意識してください』
「目の前の姫さん……」
『そうです。そして口を使わずに話すと思ってください』
目の前の相手と口を使わずに話す……。
それも念力で、だよね。
念力のスマホを作ってそれで会話するってこと?
それで相手にも念力スマホ持たせる……?
いやいやいや。非効率過ぎっしょ。
ってか姫さんってもっと昔の人だしいっそ糸電話とかの方がいいんだろうか。
ただ、それだと──。
『……はぁぁぁぁぁ~……』
姫さんの超でっかいため息を聞いて、あたしは思わず飛び跳ねそうになった。
『
うぐぇぇぇ。このステレオボイスマジでキツイぃ。
ダイレクトにあーしの心が潰されるぅ!
『姐さん。まだこの子、ポルターガイストできねーんだべ? ちょい厳しいって』
『ですが茶羅雄さん。貴方は出来たじゃないですか』
『それは俺っちが天才だからさー! ……ウェイィッ!? 潰れる! 潰れる!』
『
見えない手でモチをこねるようにして引き延ばされるチャラ男。
うー。どーせあたしは才能無しですよぅ……。
ってガチヘコミしてたら急にチャラ男が声を張り上げ始めた。
『と、ところで姐さん! もうちょいほら、別のアドバイスとかあったらやってみてもいいんじゃね!?』
『あどばいす……。…………憎しみや怒りの気持ちを持つ事などでしょうか』
「え……?」
『腹が立ったり、殺したい相手に『殺してやる』という気持ちを伝える事は、比較的容易です。いわゆる「殺気」と呼ばれているものですね』
チャラ男をこねくり回し、ろくろ回しをするような感じで弄ぶ姫。
潰して伸ばして丸めて弾ませて遊びながら。
姫は何でもないように答えてくれた。
『憎んでいる相手を思い浮かべながら練習するのはありでしょう。あかりさん、そう言った相手はいらっしゃいますか?』
「え、えーっと……あー……」
憎んでる相手なんていないし、なんだったら退屈しのぎでこの授業受けました。って言える訳もない。
そう慌てていたら白けた目で見る姫様と目があった。
『……次までに探しておいてください』
「はい……」