ブラッドオレンジアームズ、開幕です。
シカインベス、もともとはそう呼ばれていた一体のインベスだった。
そもそもインベスには下級、上級、その他変異体などが存在していて、下級の時点ではそれほど強くはなく、色も三種類いるものの能力的に差はないらしい。
下級インベスが果実やロックシードを食らうことで、上級インベスへと変貌し、姿に違いが出てくる。下級の時点で赤、青、緑の三色に分かれており、同系統の色の上級インベスへと変貌するものの、どんな形へと変化するかはわからない。そして上級インベスの力は下級よりも飛躍的に上がり、攻撃方法にもバリエーションが生まれてくる。
そして特筆すべきは上級以上の姿が存在することだ。過剰な果実やロックシードの摂取などにより、さらに進化した姿……強化体や変異体といった個体後ことに際立った変化を遂げる。
「そして、こいつは失敗作や他のインベスを食らうことで進化してしまった暴走体。もともと共食いをしない奴らだったのに、こいつだけはそれをしてしまった……それ故に、こいつには判断能力の欠片もない。体中からは炎を吹きだして暴れるだけ。かろうじて緊急システムにより封印には成功したんだけど、内側からとかし続けるからね……あと、どれくらい封印できるかもわからない」
だから、僕を呼んでこいつを倒してもらおうとしたのか……荷が重いんですけど正直。
「……言ったでしょ、判断能力はない。あなたが今まで戦った奴等とは違って、ただ力任せにしか攻撃できないし、動き出したら最後死ぬまで暴れ続けるだけよ……まあ、それまでに出る被害が洒落にならないから封印したんだけどね」
人里に下りたら、それこそ地獄絵図。放っておいても自滅するが、いつになるかわからない……結局、僕がやるしかないのだ。
そのためにも、今まで危険だと思って使わなかったこいつを使うしかないわけだけど……
「準備はいい?」
「ええ、いつでもどうぞ……危ないからすぐ離れていてくださいよ」
「わかっているわ」
九頭竜さんは凍結封印を解除し、離れていく。徐々にではあるが氷が解け始める……さあ、始めよう。
「変身ッ」
【ブラッドオレンジ!】
ドライバーにセットするのは赤く染まり、禍々しい文様が描かれたオレンジ。本当に血の色みたいな不吉なロックシード……でも、今は頼もしく見える。
上にはいつものようにクラックが開かれ、赤いオレンジが浮いていた。そして、ブレードを動かすとともにもう慣れたソイヤッという掛け声。
【ブラッドオレンジアームズ! 邪ノ道オンステージ!】
「いざ、参る!」
◇◇◇◇◇
動き出したのはどちらからだっただろうか?
いきなり氷を砕き、飛び出してきたシカインベス暴走体。冠も手に持った大橙丸を握りこみ、暴走体に向かって走り出す。
「うおおおおおおおおおお!」
「――――――――――――!」
暴走体はもう、叫び声ともつかない音としか認識できない声を発した。口からは炎が漏れ、拳には赤黒い炎をまとっている。そして、その右こぶしを冠に向けて振り落したが、冠はそれを大橙丸を当てて、横に跳ぶようによける。そのまま右腰に下げていた無双セイバーを左手で握り、下から上へ振り払うように切り上げた。
「ッ!?」
「あいにくと、このアームズは体力の消耗が激しい……あまり時間もかけてらんねぇけど」
さすがに、硬い。切るというよりは鈍器で殴ったような気分だ。外骨格もない皮膚なのに、火花が飛び散っていた。スカッシュやオーレで一気にケリをつけたいところなのだが、もっとダメージを与えるかして弱らせないと倒しきれそうもない。
「とりあえず、こいつで、どうだ!」
大橙丸を無双セイバーに接続し、ナギナタモードにする。このモードは大橙丸のエネルギーを無双セイバー側にも流すことにより、通常よりも高い攻撃性能を発揮することができるのだ。
「いくぞぉ! まずはかかとをつぶす!」
大きなゴリラのような姿をしている以上、こいつの体重を支えるかかと、アキレス腱を狙うことは有効のはずだ。まずは行動力を削ぐことでこちらを有利にする。
武器を回転させて、相手の股をくぐる。そのまま両方のかかとを切り付けると、暴走体はくぐもった声を上げて、前のめりに倒れる。
大きな体があだとなり、足元が見えにくかったようだ。
「次ッ……いない?」
すれ違って、再び攻撃を加えようと後ろを向くと……暴走体は消えていた。
思わず動きを止めた、その一瞬だった。
いきなり視界が暗くなったと思ったら吹き飛ばされて壁に激突していた。
「ガ八ッ!?」
簡単な話だ。体がばねのようになっているシカインベスが元であったのなら、その暴走体も同様に体中の筋肉がばねのようになっているのだ。それにより、たとえ足にダメージを受けても、手で、腰で、膝でジャンプをすることができるのだ。
「うかつ、だった……落下速度と、その筋力のパンチ……いくらブラッドオレンジでもダメージがでかすぎる」
すこし意識が飛びそうだ……だけど、ここで倒れたら九頭竜さんはどうなる? そのあとこいつは町に出て何をする? そう考えると、どんなに体が痛くても倒れることはない。僕は、倒れない……僕の歩む道はこいつ以上の化け物と戦うことになるかもしれない道だ。だったら、こんなところで、こんな奴に負けるわけにはいかないんだ。
「ちょっと、無茶かもしれないけど……アイツを倒すにはやっぱ短期決戦の方が有効だ」
力を温存して長期戦に持ち込めば、間違いなくブラッドオレンジの負担で僕が倒れる。そもそも、このアームズは長期戦に向いていない。なら、とる方法は簡単。たとえ無茶でも力を出し切って勝つ。それしかないんだ。
「まずは、隙を作る!」
「――ッ!」
まるでブレイクダンスを踊るかのように体を回転させて、暴走体は上に飛び上り、炎をまとわせた拳を僕に向けてたたきつけてきた。それを今度はよける。やはり、考える頭はないらしく、拳は地面へとめり込んだ。
そうだ、落ち着いて対処しろ……チャンスは一回だけ。今の僕の実力じゃ普通に戦っていちゃダメなんだ。
「まずは、一撃!」
「ッ!?」
相手の目に飛び込んで、刀を突きさす。さすがに、この部位は柔らかかったのか頭を激しく振って僕を吹き飛ばした。いや、その予想がついていた僕は頭の動きに合わせて跳んだのだ。
これで、さらに頭に血の上った暴走体はもっと単純な攻撃しかできない……たとえば――
「――――――!」
「攻撃が、単調すぎる!」
――体当たりとか。
さすがにスピードが速いが何をするかわかれば対処も簡単。僕は全力で横に跳び、体当たりをかわした。角に引っかかる恐れもあったが、かろうじてかわすことに成功する。そして、暴走体は地面にめり込んでしまい、隙ができた。あの怪力ならすぐに抜け出すだろうが……このタイミングならやれる。地面にめり込んだことで、せっかくのばねの様な筋肉もいかせていない今なら!
ブレードを素早く一回、スカッシュを発動させる。
「無頼ッキック!」
「――ッ」
まだ、ダメだ……体を弾き飛ばされて上へと飛んでしまう……だが、それも計算済み。
今度は二回、ブレードを動かす。
【ブラッドオレンジオーレ!】
「はああああああ!」
素早くナギナタモードを解除し、縦に切り付ける。やはり火花が飛び散るが、少し入ったのか血が噴き出た……そして、角が折れた。
「――ッ」
「次!」
【ソイヤッ! ブラッドオレンジスパーキング!】
鎧を再び閉じて、高速回転させる……そのまま相手の腹に突撃し、頭突きを当てる。単純だが高速回転した鎧の一撃は強烈である。しかも、それが通常のアームズよりも硬いブラッドオレンジならどうなるか?
答えは簡単、いかに巨体の暴走体といえど、吹き飛んでいった。
「――――ッ!?」
「とどめだぁあああああああああ!!」
限界を振り絞って、腹の底から声を出す。大橙丸と無双セイバーを接続し、ロックシードを装着する。
一気に駆け抜けるため、腰を落として相手を見据える。
【ロックオン! イチ・ジュウ・ヒャク・セン・マン! ブラッドオレンジチャージ!!】
「でりゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
まっすぐに、暴走体へと跳んで刃を横に切り付けた。硬かった皮膚に、入り――いや、込められたエネルギーにより真っ二つにした。そう表現する方が適切かもしれない。
だって、切りつけた場所から上が宙に跳んでいた。
それも一瞬のことで、暴走体はすぐに爆散してしまい、僕も壁に再びたたきつけられて……意識が遠のいてしまった。
◇◇◇◇◇
気が付くと、空には星が輝いていて頭の後ろになんかやわっこい感触があった。
「あら、目が覚めた?」
「……えっと、どういう状況でしょう?」
さすがにわかります。夢のひざまくらですねありがとうございますじゃなくてッ!? 一体全体何がどうなってこんな状況になっているのだろうか?
「あなたが暴走体を倒した後、気絶して変身が解除されて倒れていたの……そのまま、しばらく起きないからびっくりしたわよ」
「そっか、倒せたのか……あ、すいません足しびれませんでしたか?」
「大丈夫、それほど長い時間ってわけでもないから……それにありがとう。アイツを倒してくれて」
「いえ……それはいいんですけど」
「ううん、お礼言わせて……それじゃあ、疲れているところ悪いけど日本に帰りましょうか」
結局、その日はそのまま空港に向かって日本に帰ることとなった。空港に着くころには始発の便にちょうどいい時間で、飛行機の中でぐっすりと眠っていた。まあ、そのあとすぐに乗り継ぎで日本へ向かうんだけど……アメリカからだと半日空の上だからつらい。
◇◇◇◇◇
なんだか帰る時はあっという間だった気がする。
荷物を家に置き、九頭竜さんは見せたいものがあると僕を連れ出した。さすがに国内では緊急時以外ビークルを使えないからタクシーだったけど。
そしてたどり着いたのは近くに島がある海岸……夕日が沈みこんでいてなんだか幻想的でもある。
「本当にありがとう。アイツを倒してくれて」
「いえ、僕にしかできないって言われたらそりゃあ頑張りますよ。男なら九頭竜さんみたいな美人に頼まれたらことわれないんじゃないですか?」
「ふふ、本当にそっくり……そういう風に茶化すところとかお父様とそっくりよ」
「なんだか、恥ずかしいですけど」
ただ、なんとなく九頭竜さんの存在感が薄くなっていることに気が付いた。
最初はなんだか生き急いでいるというか、必要以上にあせっているというかそんな感じだったが、暴走体を倒した後は穏やかな感じになっている。でも、なんだか薄い。そんな気がする。そして、ソレがとても嫌な予感をさせる。
「ねぇ……さすがに、取り調べにしては長い間拘束されていたとは思わなかった?」
「それは気が付いていましたけど、僕にはよくわからないですし」
「……本当はね、入院していたの。最初のうちは」
「入院?」
「ええ……アイツを凍結封印したのは私だった。あの日、爆発事故とは言われているけど実際は研究員の誰かが金のリンゴロックシードを使用したことによる暴走。おそらく、緊急手段で蜂矢博士が封印処理を施したのだとは思うけど、その余波で研究所は大破。たまたま外にいた私はシステムが壊れたことで封印が解除されたであろう第二研究所へむかったの」
「え、じゃああなたはあの場所にいたんですか!?」
「ええ……そして私は見たの。あそこで狂暴化をし始めた、インベスたちを……おそらく、金のリンゴの影響を受けたせいね。アレは黄金の果実から作られたロックシード。私たちの常識を超えて、とんでもない機能を有しているわ……製作者でさえ予想のつかない何かが」
「あなたは、いったい?」
「……もう、何だったか覚えていないわね…………だから、今残せるものを残したいの」
そういって、彼女は僕にバラのロックシードを渡してくる。
これは、彼女が使っていたローズアタッカーだろうか?
「これも改造ロックビークル。走行時の時空転移機能はオミットしてあるけど、ドライバーを使用することでクラックを開くことができるわ。あと、免許を取ったら普段はこれを使うといいわ。これにはナンバープレートが登録してあるし、ちょっと色々取引して保険とか税金とかも大丈夫だから」
「でも、これも大事なものなんじゃ?」
「安心して、私にはもう必要のないものだから……」
必要のない? どういうことなのだろうか? 先ほどから嫌な予感が止まらない。
「あと、あなたに言わなければならないことが一つ……あの黒ずんだロックシード。あれはおそらく蜂矢博士が作ろうとしていたエナジーロックシードの試作品」
「エナジーロックシード?」
「ランクとしてはSに相当する、現行のロックシードの性能を上回るものよ。でも、まだ未完成でいくつかの試作品と専用のドライバーのパーツができていただけだったの……それも失われたけどね。でも、どうやらその試作品の一つがあなたがの見つけたものだったみたい」
「エナジー、ロックシード」
「でも、機能は停止しているし、たとえつかえたとしても戦極ドライバーじゃエナジーロックシードを使うことはできないわ。あれは一部を除いてAまでのロックシードしか使えないのよ」
「じゃあ、なんのために?」
「私にもわからない……でも、いつかきっとわかる日が来るわ」
ヒントをたくさんもらったはいいものの、今度はヒントが多すぎて全貌が分からない。ただ、最後に待ち受けるのはきっと……あの黄金の騎士。クラックは金のリンゴを使用したときから開くようになったのだと思う。それに、インベスもその時に狂暴化したらしいし。
「それと、私が入院していた理由はまだ話していなかったわね」
「え、爆発事故じゃ……いや、あなたは爆発自体に巻き込まれていない。だからこそ凍結封印ができた」
「そう。私はね、暴走体を封印する際にインベスたちの攻撃を受けたの。幸い、深手ではなかったんだけど……どうやら、インベスに攻撃されると毒なのか、植物の種なのかはしらないけど変な物質を入れられてしまうみたいね」
そういいながら、彼女は上着を脱いだ。思わず目を背けそうになるが、その肌を見て驚愕した。
緑色に変色し、表面はツルが絡んでいるようにも見える。というより、所々木のような質感になり……人間の肌には見えなかった。
「アイツらの攻撃を食らうと、こうなってしまうようね……これは私の体を徐々に蝕んでいって体の感覚や記憶もどんどん消すの……もう、あのころの記憶と、ここが私の故郷だということしか私にはわからない」
「……九頭竜さん」
「最期くらい、名前で呼んでくれないかしら?」
「花蓮、さん……なんで、もっと早くいってくれなかったんですか?」
「ふふ、男の子が泣くものじゃないわよ……それに、あの人の息子に心配されるってのも、なんだかね」
この人が何を考え、何を思ったのか知らない。それに、僕にはどうしようもできないことなのだろう。
彼女は憑き物が晴れたかのような顔になっているが、その存在感はどんどん消えている。
「ああ、夕日がきれいだなぁ……ここで先生と会ったんだっけ…………親ばかで、愛妻家で、いつもおかしな感じの人だったけど、楽しかったんだ」
ゆっくりと、彼女は海の方へ歩き出した。その先に誰がいるのかはわからない……でも、会えればいいと思う。彼女が見つめる、その先にいる人たちと。
「……英君、君はきっとこの先つらいこと、苦しいことが待っていると思う。それでも、前に進むの?」
「はい。僕は……僕が立ち止まったり逃げることで泣く人がいる。その方がつらいですから」
「君が傷ついて、泣く人がいても?」
「…………それでも、です。僕は逃げることの方が嫌だから」
「そっか……なら、頑張れ、男の子――」
そう言って、彼女は空気に溶けるように消えていった……今まで、ただ気力だけでもっていたんだろう。凄い人だと思う。そして、僕はこのことを一生忘れない。僕が、助けることができなかった人を。
笑って、消えていったあの人のことを――
ある意味、第一部の終わり。かなぁ?
原作のこともあるし、一気に時系列飛ぶかも?
少なくとも次回で第一部エピローグのつもりです。