千冬がやけ食いしているのと時間を同じくして、会場内では英たちが想定外のトラブルに見舞われていた。
「ああもう!? なんでこうなるかな!?」
「キャー!? 怪物!? 嫌ぁアアアア!?」
「どうしたもんかねこの状況……いっくん、いいアイデア無い?」
「あるわけないでしょ!? 天才の束さんはどうしたんですか!!」
「いやぁ……ちょっと食べす――つわりがひどくてうぷ」
「こんな時に冗談言っている場合ですか!?」
「……来るよ!」
「こなくそ! 一夏君! 鈴ちゃん抱えて走って!」
「どこに?」
「行き止まりかよ!?」
大量のインベスに追われて、いつの間にか行き止まりにたどり着いてしまっていた。
すでに変身――マロンアームズ――を済ませている英はともかく、変身不能になっている束とちびっこズがいる以上、色々と不利である。
仕方がないと、英は拳を構えたが――どうしたものかと悩んでしまう。
事の始まりはそう、30分ほど前だっただろうか。
◇◇◇◇◇
千冬の出番もしばらく先だしと、会場内で食べ歩きをしていたのだが――一夏とフロンが食材などの分析を始めたものだから色々と食べ物を買いすぎて、それを束が食べすぎるという事態が発生。仕方がなしに、英がおぶって移動していたのだが……そこで、嫌な客と出くわしてしまった。
「はっはっは! 会いたかったぜ仮面ライダーさんよぉ!」
「え、誰?」
なんか美人だけど下品な女の人が現れた。年は同じくらいだろうか?
ただ――なぜ僕のことを仮面ライダーだと知っているのか……まあ答えは一つだろうけど、とそこまで考えたところで事情を知らない鈴が頭にはてなを浮かべたところで――糸で吊るされてしまう。
「え、え!?」
「油断すると――すぐに後悔すんぞ」
姿は変わる。女性から、下半身が蜘蛛の形に。皮膚は赤色だろうか……若干茶色がかっており、あんまり見ていて君のいい色ではない。そして、その特徴から英が相手の正体、というか自分にとってどんな相手なのか理解してしまった。
「さあおとなしく――びぶるちゃ!?」
「――潰す」
「あーあ……アイツ終わったなぁ」
「英さんがキレた……」
「とりあえず避難経路確認しておこう」
「うわーん!? 一夏ぁあああああ!!」
「ちょ、鈴!? 落ち着けって!」
「怖かったよぉ!!」
「……本当に怖いのはこの後」
「フロンも煽るなよ」
最近、英は蜘蛛を見ると条件反射のごとくぶち抜くようになっていた。まあ、この女が家をつぶした犯人なのは確定だから仕方がないよね。とグッドスマイルである。
オーバーロードを生身で圧倒するという謎の事態が発生しており、女性は名乗ることすらできずにフルボッコだった。
「テメェ!? 調子に――あがぁ!?」
「乗っているのはお前だぁああああ!! よくも! 僕の! 家を!! あんなことに!! オラァAA!」
「やめて英!? 人の言語を失わ――うぷ」
「わぁああ!? 束さん!?」
「束ちゃん食べ過ぎ」
「ちょ、だれかエチケット袋ー!!」
なんかしまらないなぁ……と英が考えていた時、女は懐(あるのか?)からロックシードをいくつか取り出して開錠した。英の瞳が驚愕に彩られ、女性は勝利を確信した。
…………何も起こらなかったのではあるが。
「は?」
「……スパイとかいたし、会場でロックシードを使えないのは知っていたと思ったんだけどなぁ……わかった。お前バカなんだろ」
「――――ふ、ふざけんな――うがぁ!?」
「しかも、見た目より弱い!!」
久しぶりに右の腕輪をソニックアローに変形させて、叩き斬る。インベス相手にも効果はあるが、オーバーロードでも効果はあったらしい。ただ、ダメージは少なそうだけど。
「はぁはぁ……ロックシードが使えないなら、お前も変身できないんだろ。なら耐えきって疲れるのを待てば――は?」
「まあ普通にやればな……だけど、僕ならできる!」
ドライバーを腰に巻き、ゲネシスコアを装填する。さらに、装填するのはマロンロックシード。そして、ゲネシスコアにはヒマワリロックシードだ。
これは、英が自身のオーバーロード能力にある仮説を立てた結果だ。限定的であったし、自由に使えるわけではないのだが……成功する自信があった。
「母さん、おかげで気づけたよ……変身!」
通常ならばクラックが開けないこの状況で変身はできなかった。シルバーアームズなら使えるのだが、武器の長さがあるため子供たちを巻き込んでしまう。
そこで、この状況で有効なのがこのマロンアームズだ。だが、変身は不能。ならば――
「なんで、アームズが構築されているんだ!?」
「それが僕の能力ってことだ!!」
英の持っていた能力は構築。限定的であるため自分の体力を削ることでシルバーアームズを構築することしかできなかったが……そこはヒマワリロックシードを使うことで克服した。ドライバーを経由して、ヒマワリロックシードのエネルギーを使用することで構築に必要なエネルギーを確保したのだ。さらにエネルギー変換も行うことで通常ロックシードなら構築可能にした。
【マロンアームズ! バトルオブグラップラー】
展開されたのは栗型のアームズ。何よりも特徴的なのはその手に武器が無いことだ。籠手のところには棘が追加されているが、無手である。無双セイバーすらもオミットされており、その異質さが際立っている。
「ふざけてんのか!? 丸腰で挑んできやがって!!」
「よくみな……こいつは、アームズそのものが武器のアームズ! 舐めていると痛い目みるぞ!!」
急加速。アッパー。その一瞬で行われた攻撃に女は理解が追い付かなかった。
「なっ!?」
「コンボ!」
「うぐぅ!?」
掌底をぶつけることで、女の内部にエネルギーが残留し――弾けた。
「あがっ!?」
「肉弾戦特化のアームズ。さらに、ロックシードのエネルギーを感覚的に使用するためのアームズでもある……舐めていると、いくらオーバーロードって言っても危険だぞ」
「…………どうやらそうらしいな、だけどそれだけじゃ倒せねぇぞ」
「どうかな、あんた弱いし」
それでも決定打が足りないのは分かっているのだが……
仕方がないのでヒマワリロックシードを爆発でもさせようかと思ったとき――女は考えうる最悪の方法をとった。
「…………本気になればいいんだろ。お前が、本気にさせたんだからな……後悔するなよ」
「なに? ――――え」
ISの反応。何かが展開されてゆく光景がそこに広がっていた。いくつものポットが出現し――中から子供が飛び出してくる。性別はばらばらだが、瞳に光を宿しておらず、どの子も意思が感じられない。
そして、その手にはカプセルが――
「お前ら、行きな」
「――」
――カプセルを食べた? おそらくは薬みたいなものだったんだろうけど…………その後は、子供たちの体から緑色の光があふれ、ツタが生えてくる。植物に覆われ――その姿が変質していく。
小さな体躯、角の様なものが頭に生えている。凶暴な見た目で……
「ゴブリンインベス。さあ、やっちまいな!!」
「ガァ!」
「ギィー!」
数が多すぎる。さらに、鈴が腰を抜かして倒れてしまっていた――ならば!
「いったん退避する。お前らしっかりついて来いよ!!」
英が鈴を抱え、一目散に逃げ出した。
そして冒頭に戻るわけである。
◇◇◇◇◇
ああもう、どうしたものかなぁ……
「……行き止まりか…………」
「うぐっ……ひっぐ」
「鈴……英さん、なんとかならないんですか?」
「信二に連絡を取りたいところだけど……せめてそこのバカが動ければなぁ」
「うぼえ」
「束ちゃんはグロッキー……英おにいちゃん頑張って」
「だよねぇ……束、もうちょっと考えて食べような」
「ごめん、本当ごめん……」
そして、女も追い付いていよいよピンチだぞ。
「はぁ……はぁ…………追いついたぞテメェラ」
「……あれ?」
なんでこんなに疲れているんだ、アイツ。いくらなんでもおかしいよな……インベスたちもなんか様子がおかしいし。ちょっと息が上がっているぞ……
それに対して、僕は特に息も上がっていない……一夏君たちは息が上がっているけど。
「うーん……」
しいて言うなら、アームズの性能がっていうか、思ったより力がでない? インベスたちもあんまり対処できていないし……
「ごちゃごちゃうるせぇし……とっとと終わらせるよ」
「うるさい? ……ああ、そういう」
そういえば、ロックシード――というよりヘルヘイムの力は人の意思に影響されるんだった。そして、ここには大勢の人たちが集まっている。なら――その意思がこいつらに流れることで負荷が与えられていると仮定できないか?
僕の場合は、機械を間に挟んでいるから影響が少ないけど……こいつらはダイレクトだ。まあはっきりと断定できないけど……無駄に体力が削れているから何かが影響しているのは間違いないんだろうけど。
「なら!!」
【マロンスパーキング!】
手を合わせ、栗のイガの形をした光球を生み出し、一気に放つ!
「波ぁ!!」
「がぁ!?」
「ぐごぉ!?」
「ちょ――危なッ!?」
やっぱりオーバーロードには避けられるか……だが、ゴブリンインベスは一掃できた。行き止まりに行くほど通路が狭まっているから相手も密集していて助かったわぁ……爆発が連鎖して想定以上のダメージが出たし。
「お前……人間相手に何のためらいもなく……」
「いや、ためらってたよ。だからすぐに潰さなかったんだし……でもな、そのままにしておく方が救いがない。しかもお前ら……人工的に生み出した子供を使っただろ」
「――へぇ、それで? それがどうしたよ」
「やっぱり下種だな……このためだけに、生み出して使ったってことだろ」
「ああそうだ……まあ一体作るのに結構手間とか金かかるし、面倒なんだけどな」
「……やっぱ、お前大嫌いだわ」
「安心しろ、こっちもだ」
拳と、糸がぶつかり合い――糸がはじかれる。
「――なっ!? 通常アームズのハズだろ!?」
「ああ……確かにそうだ。だが、こっちははらわた煮えくり返っているんだ。生きて帰れるなと思うなよババァ!!」
「――殺す。殺しつくす!!」
【シルバーアームズ! 白銀ニューステージ!】
杖で戦うのではなく、掌底でさらに吹き飛ばす。女はその一撃を受け止められずに、遠く離れた位置まで吹き飛ばされてしまった。
(冗談じゃねぇぞ!? 前に取ったデータより数段強くなってやがる!? いったい、こいつに何が起きたって言うんだ!?)
それは通常アームズの出力ではなかった。もはやジンバーアームズのレベルすらこえている。
英にとって、命をただの兵器として生み出すことなど許せることではなかった。しかも、ただの消耗品として生み出している。そこに心があって、人権も認めているなら許容できよう。実際、きな臭さを感じたドイツを調べたとき、人工的に生み出された子供たちにも一定以上の人権はあった。まあ、一部のバカは色々と潰したが。
「ハァアアア!!」
それでも、亡国機業のやっていること以上の外道はいなかった。人として生み出されておきながら人としての生は与えられていない。そんな呪われた命を生み出すことなど。
【シルバースカッシュ!】
棒高跳びのように杖を地面につき、とびかかる。
青色の光が――燃え上がり銀色に染まる。
「な!?」
「ハァアアアア!!」
光があふれてオーバーロードの体を燃やし始める。
その一撃は、確実に命を奪うほどだった。
(これはマズイだろ!? この場で一段上にパワーアップしたってのか!? 冗談じゃねぇ! こんな規格外がいてたまるか――だけど、ここは逃げるしかない!!)
自身の腕を切り、糸で分身を一瞬で構築し――トカゲの尻尾がわりに腕を囮にして自分は物陰へと消える。
英は頭に血が上っていてしまい逃げることには成功したが――
(ちくしょう! 絶対、絶対に殺してやる!!)
――一人の女性が逆恨みをした。
そして、英たちの下にも静寂が戻ってくる。
「……はぁ…………逃げられた」
変身を解除し、ふぅと息をつくが……頭が痛い。
「これは頭に血が上り過ぎだな。やっぱ、目の前で見たら結構くるものがある……あ、みんなは大丈夫かな」
急いで戻ると……束がマーライオンになっていた。
「…………一夏君、どうしたんだ?」
「束さんが、ゴブリンインベス? が爆発するところをみて……」
「ああうん。わかった。グロかったからなぁ……束にはきつかったか」
「っていうか英さんが耐性強いだけです。正直俺もキツイ」
「……すっぱい」
「ひっく、ひっく」
「あー……どうしたもんかなぁ…………一夏君は鈴ちゃんの相手して、束は僕が何とかするから」
なんだかんだでしまらないのは、僕らの基本スタイルなんだろうか……
「それにしても……事後処理がめんどくさい」
爆発痕とか、オーバーロードの血液とか、体の一部とか――体の一部?
「…………研究材料ゲット」
「本当あんたもマッドだなぁ!?」
一夏君はツッコミレベルが上がった。
でもしまらない。
オータムさんは本作のオーバーロード中で最弱です。
ようやくマロンを使用できた……