準決勝も(機体は)ほぼ無傷で勝利を挙げることができた。
千冬はその事実は事実として――次の決勝戦はこう、うまくいかないと思っている。
「何せ相手はあの……リスティだからな」
「そうですね……イギリス代表にして、フェンシングの達人。並み居る優勝候補をなぎ倒してきましたからね……先輩と同じく近接特化のIS、ガラティーンを使用。単一能力もシンプルな出力強化――ライジング」
「たしか、擬似太陽炉の解放だったか? また危険な能力だな……」
「先輩の零落白夜ほどじゃないですよ。あれはあくまでも擬似ですから。ただ、この試合映像を見てください」
映像では、アメリカ代表の起動速度特化ISレッドコメットとの試合が映されている――レッドコメットの動きもさることながら、ガラティーンは最小限の動きでレッドコメットの攻撃すべてをかわしている。
千冬が一撃必殺の研ぎ澄まされた刀ならば、彼女のは風に舞い敵の死角を突く剣だ。的確に、ピンポイントに弱い部分を狙っている。
「まるで針だな。ライジングは出力強化の能力……消耗も速いだろうに」
「ですが、使いこなしています……練度は先輩と同等でしょう」
「……私の方が上と言いたいところだが…………これはきついな」
「ですね……」
「考えていても仕方がない。残り時間まで体をほぐしておくさ」
「わかりました――それじゃあこちらも最終チェック済ませちゃいますね。スタッフさんたちも頑張っていますし」
「そうだな……負けられない。この戦い、勝つぞ!」
そして準備が終わり、千冬と暮桜は挑む――世界一への称号へ。
レースなど自分にとっては前哨戦に過ぎない。この直接のぶつかり合いこそ千冬の領域。ここで負けるわけにはいかない。
「じゃなきゃ――アイツらに笑われるしな」
少女から大人へと変わりつつある彼女は、今決意を新たにする。
絶対に勝利をもぎ取ると――
◇◇◇◇◇
――バトルスタート。その合図と共に二つのISは……動かなかった。
「……ふーむ、流石だな。隙が無い」
「そちらこそ――私も貴女ほどの腕の剣士とぶつかるのは初めてですよ」
リスティと千冬はお互いが動いた瞬間、拮抗が崩れることで自身の不利を自覚した。
動いた瞬間相手の領域に呑まれる。だからこそ動くことができない。
「普通にフェンシングで天辺を目指すのではだめだったのか? お前ならいけただろうに」
「……それでは意味がありません。私は、世界一になりたいんです――世界一の剣士にね」
「それこそ無差別級の戦いでもしろ。私よりも強いやつはそれこそ大勢いるぞ」
「語弊があるようですが――私は世界一強い女になりたいんです。貴女に勝利したのも男性だけでしょう?」
「…………いや、一人女がいるぞ」
具体的にはどこぞのバカ兎とか。まあ当然口には出さないが、相手には伝わったらしい。
「篠ノ之博士は剣士ではなく、戦士の空気を持っていました……そうではなく――互いの剣を交わらせ、その上で勝利する。それこそ私の求めるものです。彼女と私では勝利に対するスタンスが違います」
「……ただのバトルジャンキーか…………なるほど、ここまで勝ち残るだけある」
「うふふ、貴女も同類の癖に――ああこれほどまでに心躍る戦いがあるでしょうか……だからこそ織斑千冬、貴女に勝ちたい。貴女を私の剣で倒したい!」
「そうか……だが、私の負けるわけにはいかないんだ。弟の前で、姉が無様に負けるわけにはいかないからな!」
「ふふふ、話通りのブラコンですね」
「大切な家族だ――ブラコンの何が悪い!」
「あら開き直った――それでは、いざ!」
お互い、距離を取り眼前の敵を――倒すため全力を注ぐ。会話をしながらも互いの領域を詰めていたのだが、拮抗しきってしまったためにもはや領域の奪い合いは意味がない。
だからこそ――その考えは捨てる。
「「勝負!!」」
ここから先は――修羅の戦い。
「デリャアアア!!」
「――シッ!」
風をも切り裂く勢いの刃は、そっとあてられた銀の光にそらされ攻撃が届かない。雪片とぶつかり合ったガラティーン――万能型近接武器試作一号機ガラティーン。その運用機であるために機体もガラティーンと呼ばれる――は小さな火花を散らせるのみでその攻撃をそらしたのだ。
「受け流しか!」
「これで――こちらが優勢!」
「――甘い!!」
「なっ!? 分身!?」
千冬の姿がぶれて、何人もいるように見える。それは東洋の神秘、分身の術。
「い、いえ! これは高速移動による残像!!」
「やはり見抜くか!!」
「種が割れれば――怖いものなど!!」
「だが……甘いぞ!!」
ただの分身ならそうであっだろう。だが、これはリボルバーイグニッションブーストの応用で体をぶれさせることで作った分身。そうとは知らずにリスティは感覚を一点に集中させるのではなく、周囲に千冬がいるかどうか確認することに使ってしまった。
だが、千冬は動いていなかった。ぶれたように見せかけただけで実像は同じ場所にとどまっていた――そう、ぶれた場所の中心に!
「ハァアアア!!」
「――自分自身を囮にした!?」
零落白夜の光刃が届く。その一瞬――の前に余白が生まれた。
「――な!?」
「ですが……私もそう甘くありませんよ」
炎の刃がスラスターを破壊する。千冬初めての、機体の損傷。
いままでこんな攻撃は使ってこなかった。ガラティーンからは炎が飛び出して千冬を貫いたのだ。機動力が失われてしまい――圧倒的に千冬が不利になってしまう。
「そうか――ライジングで!?」
「ええ、擬似太陽炉を攻撃に転用いたしました――これでフィニッシュです!!」
炎が剣に集まり――極大の刃となる。
彼女はフェンシングの達人でありながら――大剣すら自在に操って見せる剣の申し子。
「ハアアアアア!!」
「――――!」
「え」
だがそれに相対するのは、ISの申し子――織斑千冬だ。
零落白夜を一瞬だけ発動し、炎を消し去り地面に降り立つ。
「……なんのマネですか」
「なーに……飛べないなら、跳べばいいだけだ」
「は――ええ!?」
ぐっと腰を落とし、一気に飛び上がる――PICの補助があるとはいえ、脚力だけで空高く飛び上がったのだ。
千冬はアリーナの上空バリア近くまで飛び上がり、リスティよりも高い場所で彼女を見据える。
「無茶だ、無理だ、そんな戯言は切って捨てる。勝てぬのなら、勝てる方法を模索し続ける。人の最大の強みはあらゆる手段を使えることだ。その多様性こそ最大の武器!」
「ぐっ――ですがスラスターもないのならかわすだけです」
千冬が落ちてきて、難なく交わしてしまうリスティ。一度極大剣を使用したためチャージに時間がかかっているがすぐに次の攻撃に移れるだろう――その油断が命とりだった。
「だから――甘いんだ!」
「なっ!? 剣から出したビームで飛んだ!?」
「零落白夜を使用しなければいいだけのことだ!」
「――うぐ!?」
切られた。左腕のガントレットで防いだが――ダメージが深刻だ。それでも零落白夜を使用されなかったことでリスティのシールドエネルギーはまだ残されている。
(いえ、今のはたまたま運が良かっただけ! もしも零落白夜だったなら私は負けていた。次は油断しない。持てるすべてをつぎ込んで彼女を倒す!)
ISから光があふれる。炎のようなエネルギーが機体を包み、その能力を爆発的に高めていく。
単一能力、ライジングの完全開放だった。これにより現行のISを凌駕するスペックをたたき出す。暮桜はおろか、一時的にではあるがあの白騎士すらも上回れる。それが彼女のISの力だ。
「アアアア!!」
「――ならば――――」
それに対して、地面に降り立った千冬はまるで居合いの格好だ。
こしに雪片を腰に構えて――目を閉じる。
(――バカにしているのか!? いや、違う。神経を研ぎ澄ませているんだ! ならばその知覚外のスピードで突撃して切り裂く!)
もはや炎の塊と言っていいだろう。それが千冬に迫り――かわされた。
(――え)
簡単なこと。最後の最後で決着を急いでしまった。真正面からのぶつかり合いと思ってしまったことで――千冬がかわす可能性を考慮できなかったのだ。先ほどの脅威的な脚力があるなら、かわすという選択肢もあるというのに。
(しまった! 彼女は真正面からの激突なんて考えていなかった! なぜならば自分にとって不利であるから……ならば、次に彼女が取る行動は――)
直後に、攻撃後の硬直で動けない彼女の背後から光の刃が襲ってきた。かわすことも防ぐこともできない。
勝敗は決まった。あとは、バトルエンドの声を待つのみである。
◇◇◇◇◇
格闘部門ヴァルキリー……手に入れてみれば何ともあっさりした称号だろうか。
しかし、これは明日のバトルロワイヤルは出れるのか心配である……スラスターが壊れてしまったのは痛かったしなぁ……足も痛いし。
「ハァ……」
「あれ? どうしたんだ……勝ったのに浮かない顔して」
「む……中沢か。久しぶりだな」
「えっと、うん……久しぶり」
「いやな……明日どうするかと思って」
「ああ……大丈夫だと思うよ。マッド二人も手伝っているから」
「あの二人か? そういえば来ていたな……っていうかスレイプニルはいいのかアイツらは」
「まあ今はちょっとした休暇ってところかな。さすがに年がら年中宇宙で仕事しているわけじゃないし。それに、こっちに来るのも仕事のうちだよ」
「そういえば曲者がどうとか……そうか。まあありがとうな」
「どうして?」
「案外、会話するだけでも気は楽になる」
「それなら良かった。それじゃあ、俺は行くね。一夏君たちはちゃんと家に送り届けておくから」
「すまないな」
「いいって。俺が好きでしているだけだから」
それだ絵いいのこすと、彼は行ってしまった……ジュースでも奢れば良かっただろうか?
「さて、私も頑張らねばな」
「っていうか先輩、今の人って彼氏ですか?」
「――ぶほっ!?」
「わぁあああ!?」
「いきなり何を言い出すんだお前は!?」
「だってぇ、なんか親しそうでしたよ」
「……高校の時のクラスメイトだ。それに、お前もあったことあるだろう」
「…………ああ! そういえばスレイプニルの!」
「はぁ……本当お前は――ただ、男子の中では英の次に会話が多かったぐらいだな」
印象に残っているのは、ミコノスのことだろうか。
あと私をまともに女扱いする稀有な男と言うことぐらいだな。
「――先輩、一度豆腐の角に頭をぶつけたらどうですか」
「なんでそんなことを言われなきゃならない」
「いや、先輩をちゃんと女扱いって……いえ、あえて言いません。気が付かなかったら私が貰っちゃいますから」
優良物件ですしって、どういう意味だ? 将来住みたい部屋でもあるのか? 私は家があるから別にいらないが……
「……やっぱ先輩は一夏君のお姉さんですよ」
「何を当たり前のことを」
「――――ハァ」
「なぜそんな思い溜息をつくのだ?」
まったくもって、意味が分からない。
◇◇◇◇◇
その頃一夏は。
「……」
「えっと、一夏君」
「年収はスレイプニル職員だからかなりいい。英さんに認められる程度には強い」
「この状況はいったい何なんだろう」
「気にしないでください。シスコンこじらせているだけですから」
「本当、似た者姉弟」
「でもやっぱり重要なのは千冬姉の気持ちだし、千冬姉が認めたなら――だとしても最低限このぐらい強くて欲しいというのがあるわけで、俺としては――ああどうしたらいいんだ鈴!」
「なるようになる。当人たちの問題なんだからあんたは口を出すな」
「一夏、これはあなたが口を出していい問題じゃない……だから温かく見守るべき」
「だからって、だからって!!」
弟として、中沢信二に対しての葛藤と戦っていた。
いい加減にしろと鈴のツッコミが入るまであと一分。
とまあそんなアホな一幕があったころ……英と束はというと。
暮桜の修理をしながら、もう一つある作業をしていた。
「うーん、やっぱりなんかおかしな流れがあるなぁ」
「どうしたのー?」
「いや、クラックが事前に開くのを察知できないか探知する機械作っただろ」
「試作をいくつか作ったアレだね」
「それがさ、妙な反応してんだよ」
「どれどれ……ホントだ。針が行ったり来たり」
電力測定器みたいな機械に表示されている針が右へ左へ。
いったい何が起きているのか。
「うーん……明日は何事もなければいいんだけどなぁ…………もしもの時は、コイツの出番かな」
念のために持ってきた、新たなロックビークル……出来ることなら使いたくはない、使いどころの難しい新たな力であった。
「まあ先に作業を――あべし!?」
「あ、ストレイチアガジェット」
「……回収するの忘れてたわ――ひでぶ!?」
「怒ってるねぇ」
なんだかんだでいまいちしまらないのである。
なんか風邪が治らないんですが――一か月以上。
いっそのこと熱が出てくれればいいのになぁ……そしたらすぐに治るのに。
こう長く続く方が体力をごっそり持っていかれます。
あ、何回か質問というか提案喰らっているんで改めて言いますが、この作品ではライダーアームズは絶対にやりません。