仮面ライダー冠 インフィニット・ライジング   作:アドゥラ

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また時系列は少し飛びます。



EP115.涙を止めるために

 結局のところ、何かが変わるかと思っていたのだが――表面上は何も変化はないわけである。

 この町にインベスがちょくちょく現れ始めているのは気になるが――英さん曰く、元々地球上でもクラックが開きやすい場所のためいつそうなってもおかしくないんだとか。

 今まではスレイプニルのクルーたちで見まわっていたりしたのだが、時間も割いてられないとのことで……

 

「俺がパトロールすることになるし……いや、一応バイト代貰えるからいいんだけど」

 

 と言っても、ロックシードやロックガジェットの試験運用の報酬扱い。あまり危険なインベスの場合はすぐに誰かが駆けつけるらしいし……あ、そういえば新しいガジェットを試すの忘れていた。

 うーん……ヒーローってこういう地味な仕事だっただろうか? いや、そもそも仕事か?

 

「……まあ、慈善事業みたいなもんだよな」

 

 誰かが傷つくのが嫌だから。そんな感じの単純な理由でいいんだろう。

 ただまぁ、もう一つ気になることと言えば……なんで俺が駆けつける前にインベスが倒されていることがあるんだ? 英さんたちに連絡を取ろうにも……なんだか忙しいみたいで、しばらく連絡が取れない。

 

「政治とか俺にはわかんねぇし……とりあえず、今はこうしてインベスを倒していくしかないか」

 

 変身を解除し、一息つく……近くに自販機がないか探そう……コーヒーでも飲みたいぜ。

 すぐに自販機は見つかったが、こんなに自販機がある国なんて日本ぐらいだろ。数も種類も多すぎる……

 

「たまに変な中身のやつがあったり」

「なにブツブツ言ってんだよ一夏」

「おうっ!? な、なんだ……弾かよ…………驚かせんなよ」

「いや、すまん……どうしたんだこんな時間に」

 

 あー……やべぇ、インベス追っていたらこんな場所まで……弾の家の近くじゃないか。

 

「と、トレーニングだよ……そういう弾こそ、なんでこんな時間に?」

「え、えーっとだな……たまには夜風に吹かれてみたくなったのさ」

「……中二?」

「言うに事欠いてそれか!? っていうかリアル中二!」

「それもそうか……じゃあな」

「まってくれなんで優しい目をして離れていくんだ!? おい、おいぃぃぃぃ!?」

 

 そっか……そりゃそういう気分にもなるよな。うん。

 しかし――蘭が泣かなければいいけど。

 

 

「「あせったぜ……てっきり見られたのかと思った」」

 

 

 そんな風に、俺たちが同じこと言っていたのにはついぞ気づかずにいた。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 結局、現れては倒し、実際に体も鍛えて木刀を振り、盾の扱い方を覚えて、インベスと戦い――気が付けばもうクリスマスが間近に迫っていた。

 誕生日がきたり、千冬姉がしばらく海外に行っていたり色々あったものの、大きなトラブルはなかったんだ。今日、この日までは。

 

「いやぁ……今年はホワイトクリスマスになりそうだな……寒い」

「そりゃ寒いでしょうね…………ね、ねえ一夏……クリスマスって予定ある?」

「そりゃあるだろ。今年もみんなでパーティーするって決めていただろうに……鈴、忘れていたのか?」

「そ、そうじゃなくて……ええっと、デキれば二人っきりで渡したいものが――」

 

 結局のところ――そんな会話は日常の一コマでしかなかった。だから、俺もそんな日常がいつまでも続くと思っていたんだ――それが間違っていることとも知らずに。

 

『――!』

『ッ!?』

 

 ほんな怒声が聞こえたのは、偶然か必然か。鈴が青い顔をして――その場所を見ていた。

 そこは俺もよく行っていた――鈴の家の、中華料理屋。

 

「え――」

「ッ――なんで、こんな時に……!」

「鈴!?」

 

 鈴は駆け出し――走り去っていく……当然俺は追いかけたが――その眼に浮かんでいたのは…………

 

「涙?」

 

 思わず、足を止めてしまう。いつも気丈に振る舞う彼女が、涙を見せることなんて滅多にない。

 この異常事態に――どうすればいいのか悩んでしまい――それが決定的な失敗。

 

「あ――」

 

 鈴は運動神経がとてもよく、すばしっこい。まるで猫みたいな身のこなしで見えなくなってしまう……ああもう!

 

「俺のバカ野郎……」

 

 何か手がかりがないかと……中華料理屋の方に戻るが――聞こえるのは怒声だけで、店は閉まっている。入るには入れない、そんな空気……

 

「……はぁ…………えっと、こんな時は――」

 

 友人に相談するべきだよな――なんて思うのだが……

 

「言いふらすのもダメだよなぁ」

 

 弾や数馬にも相談しにくい……同じ女の子なら…………蘭? いや、俺とはまともに会話してくれないし……挨拶もするし、嫌われているって感じじゃないんだが……やっぱ兄の友達ってのは話しかけ辛いのか?

 俺も千冬姉の友達には話しかけ辛いし……となると、ここは年の功。

 以前、住所は聞いていたし――ちょっと相談しよう……

 

 ◇◇◇◇◇

 

「それで、私のところに来たってわけ?」

「すいません……他に相談できる人がいなくて」

「……話に聞いていた以上に鈍感ね、あと、すぐにでも探しに行きなさいよ」

「分かってはいるんですけど……電話にも出ないし、姿を見られたらすぐに逃げられそうで」

「猫か」

「近いです」

「……はぁ」

 

 俺が相談したのは――我毛恵さん。現在妊娠5カ月である。

 

「でもまぁ……友達や知り合いじゃなくて私に相談したことは誉めてやろう」

「なんで上から目線……」

「そりゃ、君が度し難いバカだから」

「うぅ」

「まず第一に、女の子のデリケートな部分には無理やり踏み込むものじゃない……時と場合によるけどね。今回は、家族の問題みたいだからよほどうまくやらない限りは、踏み込まない方が良い」

「じゃあ、追いかけるのは悪手なんですか?」

「いやそうじゃないな……うーん、なんて言えばいいのかしらね…………そうね、問題そのものには踏み込んでほしくないけど、支えにはなってほしいってところかしら」

 

 なんとなく、わかる気がする……俺も、鈴に支えてもらったことがあるから。

 

「……今度は、俺が支えてやらないとな」

「お? 良い顔するねぇ……むふふ、青春青春――私には、そんな青春なかったけど」

「結婚しているんだからいいじゃないですか……」

「そうなんだけどね……禁酒しているから、こう娯楽が欲しくて――まあ、この話は娯楽って言うには苦そうだけど。さすがに、どういう理由かはなんとなく見当ついているんでしょ?」

「はい――鈴の両親は……」

「言わなくてもいいよ。断片的にもわかる。思春期の女の子には酷なことよね……」

 

 少しで良いから、相談してほしかった。

 何よりも――鈴が悩んでいることに気が付けなかった俺自身が許せない。

 

「なにがヒーローだよ……女の子一人助けることができないで……」

「どうしたの?」

「いえ……なんでもありません」

 

 少し浮かれていたんだろう……本当に、情けない。

 

「鈴ちゃんはあまり会ったことないけど、直情的だけど頭のいい子よ。少し頭が冷えたら……家に戻るでしょうね」

「……じゃあ、待っていれば会えますかね」

「うーん、一度逃げた以上……家に帰った後は日を改めたほうがいいわね」

「…………そうですかね」

「まあ、どうなるかは君次第よ……一つアドバイスるなら――自分の気持ちには正直になること。それが、どんな結果であれ……ね」

「正直に?」

 

 ふむ、いつも正直に生きているんだが……もっと正直になればいいのか?

 

「いや、君はそのままでいいか」

「あれ?」

「なんとなく……蜂矢君たちが君のこと気にいっている理由が分かった気がする…………いまどき珍しいわねぇ……お姉さん好きよ、君みたいな熱血君」

「そうですかね――あと、お姉さんって年じゃ頭がもげるように痛いぃぃぃぃぃぃ!?」

「そして、正直すぎるのは君の悪いところね。ちゃんと直しなさい」

「わわわわ、わかりました――だからアイアンクローは勘弁ッ」

 

 あ、頭の形が変わるかと思ったけど――なんとなくどうすればいいのかは分かった気がする。

 とりあえず、メールで「落ち着いたら連絡をくれ」とだけ書いておく。

 ……翌日、イブの日に話したいことがあるという返信が来た。千冬姉の分の夕飯は作っておくか……電子レンジを爆発させないか心配だけど。いや、湯銭に――だめだ家事になる。機械の操作は出来たんだし、電子レンジで大丈夫のはず……メモ残しておくか。

 

 そんなこんなで、あっという間にイブの夜。

 俺は鈴に指定された場所で待っていた。

 

「うーん……遅いなぁ」

 

 だけど、アイツが約束破るとは思えないし……何かあったのか?

 探しに行こうにも、行き違いになるといけないし――と、そこで俺の携帯に着信が入った。

 

「お――噂をすれば」

 

 表示されているのは鈴の番号。なんだろうと思い、電話に出ると――

 

「おい鈴、約束の時間はとっくに――」

 

 

 

 

 

『織斑、一夏だな』

 

 

 

 

 

 ――知らない誰かが、話しかけてきた。

 

 

 

 

「お前、誰だ」

『……それはどうでもいい話だ。ただ、お前の大事な彼女は預かった』

「別に彼女じゃないんだが――テメェ、鈴に何をした」

『ふふふ、話以上にバカな奴みたいだな……だが、安心しろ。今はまだ無事だ』

「――今は?」

『もしかしたら、無事じゃなくなるかもなぁ…………』

 

 頭に血が上りそうになる――落ち着け、気を抜くな。考えることをやめるな。力を使うに当たって、教わったことを思い出せ。

 

(そうだ――頭に血が上ったら、勝てるものも勝てなくなる)

 

 今は鈴の無事が最優先。もう、間違えたりはしない。

 

「……それで、何が望みだ」

『おおっと、冷静だな――そうだな、町はずれに廃工場があるだろ? お化け工場とか呼ばれている』

 

 たしかにあそこには廃工場がある。その名前も聞いた覚えがある――肝試しするには危険物が多いため、不良もあまり近づかない場所だ。

 ホームレスなども、寝ている間になんか爆発したら嫌だとか言って近づかないらしいが……

 

『そこで待っている。30分以内にこい……でないと、どうなるかわかっているな?』

「ああ――鈴に何かあったら、承知しないからな」

『ふふふ――怖い怖い。あ、それと――助は呼ぶなよ? その時点で――ドカン、だ』

「――――首洗って、待っていやがれ」

 

 通話はすぐに切れた。

 くそっ――助は呼べない。相手はボイスチェンジャーで男か女かもわからない。

 

「無事でいてくれよ、鈴!」

 

 がむしゃらに、目的地まで走り出す。

 転びそうになるし、信号機が煩わしくなる。事故を起こしたりしてたどり着けなかったら、本末転倒だし――

 

「ああもう!」

「あれ? 一夏さん?」

「ら、蘭?」

「こんなところであえるなんて――って、どこに行くんですか!?」

「スマン! 今はお前にかまっている暇ないんだ!!」

「ちょ――流石にひどいです!! ――ああ、行っちゃった……でもどうしたんだろう、切羽詰って…………お兄ならなんか知っているかな?」

 

 ◇◇◇◇◇

 

「え――蘭? すまんお兄ちゃんちょっと手が離せない!」

『でも一夏さんが鬼気迫る感じで走って行ったんだよ!』

「そりゃ鈴がらみじゃないかな……最近、様子が変だったし」

『それは知っているけど……うーモヤモヤする』

 

 だが妹よ――俺も本当に手が離せないんだ。

 

『っていうかお兄何してんの?』

「うーん……害虫駆除?」

 

 なんでこんなにインベスが発生しているんだよ!!

 幸いザコばかりだけど――数が多い!

 

「クソッ! せっかくのクリスマスイブだってのに俺は何してんだろうな!! でも――お前らのせいで誰かが泣くのなんて嫌だからな!!」

 

 

 

 

 

 

 ああ、あたしはまた間違えたのかな……

 

「一夏……ごめんね」

 

 なんであたしは弱いんだろう……

 変な覆面に捕まって、縄で巻かれて――クレーンに吊るされて……ここまでされると笑っちゃうわね。

 

「……なんでこんなことになっちゃったのかなぁ」

 

 一夏に、両親が喧嘩している声を聴かれて――頭が真っ白になって気がつけば逃げていた。

 結局その日は真っ白のまま寝て……メールで聞かれたのは幸いだった。たぶん、アイツのことだから誰かの入れ知恵だろうけど……こじれないような相手に相談するなんて進歩したみたいね。前までだったら、弾とかに相談していたたまれない空気になっていただろう。そしたら、一夏と喧嘩していたかなぁ――両親みたいに。

 

「それは嫌だなぁ……」

 

 一夏とそんな空気になるなんて、嫌だ。だってあたしは――

 

「……そういえば、最初は険悪だったっけ」

 

 それがいつの間にか……人は変わるものだ。

 でも、一夏のいいところは変わらない――大変なことがあっても、悩むことがあっても、迷っていても――あたしの……あたしの好きな一夏の一番いいところは――変わらない。

 

「――鈴!」

『――ようやく来たか』

 

 泣いていたら――ちゃんと来てくれる。ちゃんと、誰かを助けるために立ち上がれる――そんな奴だから、好きになったんだ。

 

「一夏ぁ!」

『ふふふ――それじゃあ始めようか……お前を殺す戦いを』

「ほざけ――鈴は返してもらう。絶対にだ!」

 




原作開始までの大きな山場は残り数個。

というわけで、次回に続く。
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