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春を迎えてしばらく経ったある日のこと――英たちはドイツにある人体実験施設をつぶしていた。以前より情報を入手していたのだが、手を出しにくい非人道的とまではいかない施設がほとんどだったために動けずにいたのだが――
「ようやく、本命を見つけたな」
「だねぇ……インベスの素体にするためのアドヴァンスドとか笑えないんだよ…………ここは、別アプローチだったみたいだけど」
「ジョニーからの情報だと、資金繰りだったり配置の変更とかあったみたいだけど――とりあえず、救出作戦開始」
英と束は潜入――と言っても、真正面から蹴散らすだけだが。すでに変身は済ませており、インベスや自動迎撃システムをあっさりと撃破しながらである。
もはや手慣れたもの。各地の違法研究施設を数年がかりで殲滅しまくっているのは伊達ではないのだ。
「ふー……生存者いるのか?」
「生体反応は――向こうに一つ」
「そうか……とりあえず行ってみよう」
あたりには、インベスのなれの果て――キメラインベスたちの死骸が散乱していた。その全てが、実験と称した悪夢の産物。色は変質し、インベスとしての原型すらとどめていない。
「まったく胸糞悪い――ここまで来ると、介錯も難しいな…………むだに生命力が高すぎる」
「コアをぶち抜けばいいって相場が決まっているんだけど――複数のコアを持っていて、片方が破壊されても回復しようとしちゃうし……本当、頭おかしいなんてレベルじゃないよ…………これは束さんの矜持が許せない」
束もマッドサイエンティストの気があるのは自覚しているし、今更直しようもない。しかし、人命を軽視することはしてこなかった。白騎士事件を起こした時も、死者や重傷者を出さぬように細心の注意を払ったのだ。
それゆえに――このような光景を生み出す研究は彼女にとって許しがたいものである。
「それで……この子が唯一の生体反応…………束、いけるか?」
「うん。大丈夫……」
大きなカプセルの中に入っているのは一人の少女。液体で満たされ、いかにもな雰囲気を纏っているが――身体的な特徴が、アドヴァンスドと酷似している。
「銀髪ってことはやっぱりアドヴァンスドだよな……しかし、強化人間のクローニングとか人類は宇宙戦争でも起こしたいのか?」
「戦争なんて嫌だよねぇ……うん、命に別条はないし…………ヘルヘイムの影響もない。ただちょっと――この子の中からIS反応があるね」
「そっか――アイツら、いつかやると思っていたが……この子が完成体か?」
「うーん…………元々は別プロジェクトの子かな。たぶん、ちーちゃんが教官を務めたって子のプロトタイプか、前ロットの子だと思う」
「あーあれかぁ……完成していたし、そこまでひどいわけじゃないから見逃していたけど……それで、この子は言いたくはないけど失敗作の烙印を押されて、別プロジェクトに回されたってところか?」
「だね。どうする?」
「まあ――本人確認だな」
英がコンソールをいじり、スピーカーを接続する。そして、少女の意識が浮上した――それは、彼女の意思を確認するため。
「なあ――お前はどうしたい?」
『――どうすれば、いいのでしょうか』
「いきなり言われたらわかんないか……えーっと…………名前はあるのか?」
『…………それは……』
「ちゃんと自己認識はできている……なるほど、アイツら都合が悪くなったな――名前は無いか」
『すいません……』
「いいや、謝ることじゃない……となると――」
「束さんがつけます!」
「――ネーミングセンス大丈夫か?」
「大丈夫だよーえーっとね……」
束は彼女に似合う名前を考え――その名前はすんなりと、収まった。
「珍しくさえている……明日は雨か?」
「ひどい!?」
「冗談だよ――それで、クロエ・クロニクル――お前はどうしたいんだ?」
『…………ここから出て行っても大丈夫なんでしょうか――私が、望んでもいいのでしょうか』
「そりゃ――生まれてきたからには、当然。僕たちは君を歓迎するよ。今なら可愛い妹付きだ」
『ふふ――それは、楽しそうです』
実のところ、このカプセルに入っている影響で感情が単調になっているため、素直すぎる状態なのだが――それでも、クロエの心に何かが到来した。きっと、それは間違いではない。
「じゃあ――出すぞ」
『――あ』
水がなくなり、一人の少女が外へ出る。筋肉は弱っており、あまり動けないが――束に抱き留められ、スーツ越しに人のぬくもりが伝わってくるようだ……
「あたた、かい」
「うん、そうでしょ」
「さてと、他にめぼしいものもなし。研究員も全員逃げ出しているみたいだからあとはこの施設をつぶして終わり――――!?」
その時、とてつもなく嫌な感覚が英を襲った。何度も対峙し、英を苦しめた存在の感覚。しかも――以前より何倍も凶悪に。
(まさか――またアイツか!? くそっ!! クロエをスレイプニルに連れて行かないことには何ともならないぞ……どうする? いや、彼女の中にISがあるのならいける。だけど、足止めに僕が残らないといけないよな……仕方がない、やるしかないか!)
覚悟を決め、ジンバーエナジーアームズへと変身する。束とクロエを抱きかかえ、一気に加速。
「うおおおわわあ!? ど、どうしたの!?」
「な、なんですかこの速さ――!?」
「舌かむぞ口とじろ!! ヤバいのが来る!!」
脱出。その直後だった――研究所が、謎の炎に呑みこまれたのは。赤く輝くそれは――数秒ののちに灰すら残さずに燃やし尽くす。
「あっぶね……」
「なに、あれ――」
「嫌、嫌…………」
「クロエ?」
「くーちゃん? どうしたの?」
「くる……アイツが――アイツが……」
そういえば、アイツも科学者だった――英の感じた気配の正体、やはりと思うと同時に……この子を逃がさなければとも思う。
「束、ジャバウォックを展開してスレイプニルまで行ってくれ。空中に待機させているグラニとドッキングすればすぐに戻れるだろ」
「でもそしたら……」
「安心しろ。こっちは大丈夫……それより、クロエを一刻も早く連れて行ってやってくれ」
「う、うん!」
束たちが空へと登り――クロエの内部のISを、束が作動させることで防御フィールドを展開させている――英は彼女たちを見届け、気配へと向き合った。
「さあ、出て来いよ! マルス!」
炎が形をとり、ヘビの様な姿へと変貌したのち――騎士の姿に変わる。
「ほう……気が付いていたか」
「まあな……何度もあっているわけだし…………で、今日は戦極博士じゃないのかよ」
「……やはりお前は危険だな。いつから気づいていた?」
「うーん……いつだったかな…………最初とその次の戦闘でお前と剣を交えた感覚が微妙に違ったから……」
「ふむ――お望みとあらば入れ替わろう――なあ、私の甥よ」
「うるせえ――誰がお前なんかと……まあ、そこはどうでもいいか。大事なのは――お前は、どっちなんだ?」
黄金の果実に宿る意思なのか、戦極博士なのか。
「――今となってはどうでもいい。幾人もの愚かしき者たちが手に入れようとした。幾たびもの闘争があった。その度に――ああ、その度に私は届かなかった! 今度こそは! 世界をこの手につかむ!」
「どうでもいいや――やっぱ小さい。執着は誰の感情なのか知らないけど……色々と安っぽいか――いや、どうせお前も分身体だ。本体は、よほど用心深いらしい」
それでも、厄介なのには変わりないし――逃げたら背中にドカン、だよなぁ……結局のところ英は戦って勝つしかない。
(万が一逃げ切れたとしても、近くの町が被害に遭ったら洒落にならない)
杖を構え、目の前の騎士と対峙する。
ここから先は――死闘となるだろう。
「覚悟はいいか? 金メッキのおこぼれさん」
「――お前こそ、遺言ぐらいは残せ」
今度のは理性的とか、笑えないわ……英にとっても、このタイプはやりにくい。
しかし――やるしかない。
「――うおおおおお!!」
「吠えるだけが、強さの証ではない」
杖が盾の突きつけられ――剣が英に迫る。それを――杖を起点に飛び上りかわしてゆく。まるで、大道芸のように。
「――ほう」
「何年戦っていると思ってんだ! お前の対策も考えてあるんだよ!」
「だが――これはどうだ?」
「な――アガァ!?」
炎が、英の体をからめとる。それはマルスの足元から伸びていた――炎のヘビだ。
「ようやくなじんできたというところか……長かった。実に長い。完全復活まではまだ遠いが――お前を倒すなど造作もない」
(グ――ジンバーエナジーはスペックこそ高いが……ベースはジンバーアームズなんだ、どうしてもアームズの強度に問題がでる――くそっ――――あんまし使いたくはなかったけど――)
カッティングブレードを無理やり――四回たたく。
「何?」
バチバチと火花が飛び散り――強制的に鎧が閉じることでヘビを弾き飛ばした。
それは裏コマンドのような物。本来であれば過負荷がかかることで危険であるのだが――英はそこに目を付けた。
(大型で内部に色々組み込めたエナジーフルーツだから出来たことだけど……強制解除プログラムが役に立った)
過負荷により、強制的に鎧が閉じるためのプログラムをジンバーフルーツ内部に搭載していたのだ。しかし、一度の使用でしばらくジンバーエナジーは使用できない。
(だから、ここはこれで決めるしかない!)
鎧が消え――大きな鎧が新たに出現した。
【ノロシアームズ!】
そして、その鎧が装着される――一瞬前の出来事だった。
「――――ベースとなったカチドキの弱点と同じだな、装着されるのが他のアームズよりも遅い――そこが、お前の敗北するポイントだ!!」
「――――ガ」
ヘビの形をした炎が、英の体を焼き尽くそうとした。本来ならばアームズがその体を守るのだが――
「アガアアアアアアアアアアアア!?」
――鎧は装着されておらず、最低限のエネルギーしか持たなかったライドウェアしか彼の身を守るものは無い。そのため――英の体に激痛が走る。ヘビの牙が、その腹部に突き立てられていたのだ。
焼けた臭いが充満し、英は風に飛ばされるごみのように、投げ捨てられて転がり――動かなくなってしまう。
「うぐ――あが」
「脆いな。強靭な肉体スペックを持っているお前でさえ――この脆さ、人は脆い――――ああ、やはり世界はヘルヘイムとひとつになるべきなのだ。行きとし生けるすべてを、インベスに変えるのだ」
「――さ、させるかよ…………そんなこと、絶対に」
「なに?」
英は変身も解除され、息も荒く……体はボロボロ。血も流しているのに――まだ立ち上がる。
「――ありえない。あの攻撃をほぼ生身の状態で喰らってもなお――立ち上がるというのか!?」
「どうせロクなことを……考えていない、とは――思って、いたけど……インベス化とか、冗談じゃない!」
【ノロシ!】
空中に現れるのは、大型の鎧。今再び、その姿を現す。
「ぐ――!」
「――!」
鎧は――装着されずに、回転しながらヘビに突撃し――弾き飛ばした反動で英の頭部に着地する。
「――!?」
「変身!」
「させるかああああ!!
炎が噴き出し、今度は英の体を燃やし尽くそうとする。確実にダメージはあった。もしかしたら、皮膚が焼けただれているかもしれない。それでも、英は膝をつかなかった。堂々とした姿勢で、変身を完了する。
重厚な鎧。背中に存在する巨大な砲門。かつて、友人たちが繋いでくれた力。
【ノロシアームズ! 反撃開始! アンコール! アンコール!!】
直後、加速と共に英は――マルスを殴り飛ばした。
「――ッ!?」
「最初っから――最高速度突っ走っていく!」
「だが――やはり拳に力が乗って――――あが!?」
「そんなもん――背中のブースターを限界以上に解放すればいいだけのこと!」
まるで、砲弾。今までの戦略重視の戦い方ではない。英は状況に応じた戦法の変更を基本としていた。しかし、今度ばかりはその手の小細工は通用しない。
(体がヤバい――意識も朦朧としている……正直、どこまで耐えられるかわからないけど――限界なんて関係ない、身体は幸い痛まない。だから、全力で――!)
それは普段ならば気が付いたのだろうか。体が痛まない――それはつまり……
(一気に決めるしかない。だから――持ってくれよ!!)
ハーモニクスカノンに無双セイバーを連結。ノロシロックシードを装着し、エネルギーをチャージさせる。
【イチジュウヒャクセンマンオクチョウ! ナユタ!】
さらに、ヤエザクラタイフーンを斬馬刀形態で展開し、そこにシルバーロックシードを装着。
【シルバーチャージ!】
大剣の二刀流。体への負担は恐ろしく高いが――短期決着にはこれしかない。
「――貴様、死ぬ気か!?」
「生憎と――お前を倒せば、色々と時間稼げるってのはなんとなくわかった。最初のころみたいに、身体が炎にならないってことは――分身が本物に近すぎるんだ。お前、復活が近いほど手ごろな分身を作れなくなるんだろ」
「――――!?」
「図星か――なら、お前を倒せば本体にもフィードバックが入るってことだろ――なら!」
「ぐっ――」
「一気に!」
「――がっ!?」
「決めて!!」
「――!?」
「終わらせる!!」
二つの大剣は確実にマルスの体を破壊し――消し去ってゆく。
蒼と銀の光が、マルスの黄金の輝きを塗りつぶし――そして……
「うおおおおおお!!」
「おのれ――この借りは必ず――――」
◇◇◇◇◇
「英――いや、嫌アアアア!?」
戦いは終わり、すぐに束が戻ったが――そこにいたのは……
「――――」
血にまみれて、地面に倒れ伏す英の姿だけだった。
まさかの展開過ぎたかなぁ……
とまあ、クロエちゃん登場。ワールドパージも公開したようなので時間があれば見てみようと思います。
正直、この作品でワールドパージをやる理由は無いので話には盛り込みませんが……
昨日のうちにあらすじをまたちょいと変更しました。