なんかもうドッキリなんじゃないかと思って一日挙動不審になってもうたよ……
ふと思い出す光景がある。
あの頃はまだ父さんも母さんも生きていて――家族一緒に暮らしていたっけ。
僕が転んでも、母さんは助け起こすことができないから、父さんに一人でも立ち上がれる強い子になるんだって言われて育った。なんとなく、それがずっと心に残っている。
母さんは性格こそ破天荒な人だけど……体は凄く病弱だった。だから、いつも僕が車イスを押していたっけ…………何度も病院に行っていたから、薬品の匂いになれちゃって……嗅ぐとすっかり落ち着いてしまう。
それから――何があったんだっけか?
「――――」
声を出して、誰かを呼ぼうとしたんだけど……誰を呼ぼうとしたんだろう? 右手に、暖かい感触がするけど……真っ暗で何も見えない。
うーん……なんだか大切なことを忘れている気がする。
「…………」
あ――そういえば、勝手に父さんの書斎に入って怒られたこともあったっけ……なんだか、変な図面とかセフィロトの樹みたいな図形も見たような記憶があるんだけど……あれって一体なんだったんだろう?
大切な何かが出てこない――僕はそれを知っているのか?
大切な――母さんが死んだときのことだ。僕は一晩中泣き続けて、涙も枯れたころには表情が枯れていて――
『……』
ちょうど、あんな風に死人みたいな感じだった。
「……」
『――もう、どうでもいいや』
「――――――ほんとうに?」
『生きていたって、仕方がないよ……』
「そんなことはない――生きていれば楽しいことはたくさんあるよ、だって――」
――なんだっけ? 大切な、大切なことが――――
頭にノイズが走る。何かが欠けている。欠けたものを探しに行かないと。
次に見えてきた光景は僕が銀色の鎧をつけているところ。
えーっと……たしか…………なんだっけ?
「――」
すぐに倒れて、迷惑しただけだっけ?
僕は、一体どうしたんだっけか――何か大切な――
『なんのために父さんがこれを預けたのかはわからない。でも、今はあの人たちを助けることができるのなら、それでいい! 【シルバー! ロックオン!】――変身!』
――突如として光景が変わり、怪物相手に立ち向かうヒーローがそこにいた。
あれは――誰だ?
「――あ」
声が、出始めた。いや、声は出ていたのだ。
ただ僕が認識できていなかっただけで、声は出続けている。
そして――腰には大型のベルトの様なものが装着されており、中央部が銀色に輝いている。
しかし、まだ欠けている。何かが足りない。
次に浮かんできた光景は――海辺。なんだかとても懐かしい、そんな場所だ。
『……英君、君はきっとこの先つらいこと、苦しいことが待っていると思う。それでも、前に進むの?』
『はい。僕は……僕が立ち止まったり逃げることで泣く人がいる。その方がつらいですから』
『君が傷ついて、泣く人がいても?』
『…………それでも、です。僕は逃げることの方が嫌だから』
『そっか……なら、頑張れ、男の子――』
男女の会話。姉と弟だろうか――いや違う。あの女性に弟などいなかった。彼女は――
「そうだ――僕は……」
のど元まで出かかる。しかし、今一歩足りない。
でも――逃げることの方が嫌だから。
「だから、前に進むんだ」
足取りはたしかで、ふらつきもしない。
次の光景は、炎の騎士と戦う少年と、父と母との邂逅。
「――本当、僕は支えられてばかりで」
次の光景は――誰かを助けられなくて、誰か大切な人が泣いている光景。
蹲って、泣き叫んで――
「また――泣かせちゃったよなぁ……本当にバカ過ぎるぞ、僕」
だんだんと記憶が戻ってきた。欠けていたものはあつまり、ジグソーパズルのように組み立てられる。
猛が変身し、戦った光景。みんなで千冬の専用機を作ったこと。ヘルヘイムの森の謎を解明するために調査に向かったこと。百花さん相手にキレちゃったこととか――あれは失敗だった気がする。
一夏君たちと釣りに行ったり、遊園地に行ったり……そういえば、箒ちゃんは大丈夫なんだろうか……精神的に色々厳しいことになっているだろうし、フォローした方が……
学校のみんなとの思い出――たくさんバカやって、危ないこともあったけど――今となっては大切な僕の記憶。
それからスレイプニルのみんな。僕の仲間たち。サポートしてくれる人たち――
「――それから、僕の一番好きな人」
篠ノ之束が、手を握ってくれていた。
「たくさん泣かせちゃったかなぁ……後で怒られるよな、絶対――でもさ、こんなにもたくさんの人たちが支えてくれて、僕は幸せ者なんだ。だから――決着をつけるよ。まあ怪我を治さなきゃだし、しばらく時間はかかるだろうけど――そしたら、ちゃんと言葉にするから――」
真っ暗な空間にはいつの間にか、みんながいた。
父さん、母さん、花蓮さん、花村、千冬、一夏君、箒ちゃん、鈴ちゃん、簪ちゃんに本音ちゃん、楯無さん、佐々木先生に旦那さんの我毛さん、クラスメイトたち、信二、かおりさん、ジョニー、ミシェル、谷川さんと瀬田君、フロンとリリー、それにクロエも加わってそこにいて――百花さんが先頭に立っていた。
「なんだかんだで、助けられたよなぁ……まあ、気持ちには答えられないけど、ありがとうぐらいは言わないとな……なんか後が怖いけど」
けど、それはそれで楽しいのかもしれない。
いつの間にか世界は真っ暗なんかじゃなかった。
「だからさ――大丈夫だよ」
『本当に、大丈夫なのかな』
「ああ。だってこんなにもたくさんの人がいてくれるんだか――それだけで、世界は輝いている。僕自身気が付いていないだけで、もっと大勢の人とつながっているんだから」
『そう――なのかな』
「そうだよ」
『そうだね』
「ああ」
『だから』
「絶対に」
「『大丈夫』」
◇◇◇◇◇
目が覚めると――スレイプニルの医務室だった……まあ、当然っちゃあ当然なんだかどね。
「……痛い」
「――英?」
「た、束――――?」
なんか、幽鬼みたいだけど……束だよな?
「――――この、バカぁああああ!!」
「びぶるち!?」
思いっきりビンタされた――痛いってレベルじゃない。一周回って冷静な思考ができる。
「このバカバカバカバカ! 心配したんだから! もう、目を覚まさないかと思った――花梨ちゃんみたいに、うう……ひっぐ」
「――ごめん」
ゆっくりと、頭をなでて――何度も謝る。そうだ……死ぬわけにはいかないんだった。
まったく……この大ばか者。
「はぁ……ただいま、束」
「うん、おかえり……このバカ」
「あはは……本当ごめん」
その後、落ち着いた束から聞いた話では――僕は一カ月もの間眠り続けていた。どうやら、炎の蛇にかまれた箇所でヘルヘイムの力による侵食が起こっていて、僕の再生力を妨げていたらしいんだ。
その危機を救ったのは、シルバーロックシードとノロシロックシード。二つとも膨大なエネルギー量を持つがゆえなのか、それとも違う理由なのか……結果としては、その二つが中和し続けていたおかげで僕は助かった。まあ、その影響で二つのロックシードもしばらく使えないんだけど……
しかも体中の骨も粉々で、全治一年だとか……リハビリとかも考えると色々とマズイわな。
「うわぁ……もしかしなくても今までで一番ヤバかった?」
「当たり前だよ……この一か月スレイプニルも大変だったんだからね」
「う……それはスマン」
「楯無さんが次の代に交代するってのも知らないでしょ」
「え――そうなの?」
「うん。挨拶に来てくれって話もあったんだけど英がその状態だったからね……ももちゃんが代理で行ってきたよ」
「そうか……悪いことしたな――あ、そういえばクロエは?」
「ああそれならもうすぐ来ると思うよ」
「来る?」
その言葉通りに、病室の扉が開き――ゴスロリ風の衣装に身を包んだクロエがやってきた。
「……あ」
「おー久ぶり、でいいのか?」
「――――わ、私のせいで……本当にすみませんでした」
「? えっと、何が?」
「だから言ったでしょくーちゃん……コイツ絶対に気にするどころか考えてすらいないって」
「ですが、それでは私のきが収まりません……英様にはなんとお謝りすればよいのか」
……様付けとか昔の百花さんを思い出すなぁ…………
まあその後聞いた話だと――クロエを助けるために重傷を負ったと思っており、気に病んでいたのだとか。
「別に気にしちゃいないって。っていうか、マルスを倒すのがスレイプニルの最終的な目的なわけだし……まあ実際のところ亡国機業が簡単に手出しできない拠点が欲しくてここ作ったんだけどね」
「それでも、謝りたいのです」
「まあいいけど――目を閉じていても見えるのかどうかってのが気になるんだが」
「そ、その……」
「大丈夫だよくーちゃん。英は……っていうかここの人なら」
「はい――では」
くわっと目を見開いて――その色は色々と異常だが……白い部分は黒く、瞳は金色か。
「ナノマシンの影響か? 融合しきっていて取り除くのは難しいな……」
「あの……それだけですか?」
「何が?」
「いえ、ですから……気持ち悪くないのかと」
「なんで?」
「……」
「だから言ったでしょ、気にするってこと自体考え付かないんだよ」
「あー色を気にしていたのか……そうか、そりゃそうか」
「ねえ英、いっくんの悪影響受けていない?」
「――やめて」
いかんいかん。気を付けないと……まあ、色々グロイもの見続けていたから今更その程度じゃなぁ……
「っていうか僕の方が凄いぞ。腕輪をつけて力を目に込めると――目が光る」
「いつの間に人間をやめたの!?」
「いや、昔力が一段階覚醒したときにできるようになったらしくてさ、暗闇でも見えるってだけ。腕輪なしだとできないしね」
「むしろなしで出来てたまるかだよ! ああ心臓に悪い」
「……ふふ」
「お、笑った……やっぱさ、そっちの方がいいよ」
「……そう、でしょうか」
「うんうん! 束さんもその方が可愛いと思うよー!」
「……ありがとうございます」
クロエは情報管理や、ネットワーク捜査に特化した能力を持っているため、今はその仕事を手伝っているらしい。あと束が僕の看病で無茶するから止めにきたりなど。
「束、僕が言えたことじゃないけど……少し寝て来い」
「うん――そうする」
目の下に隈が凄かったし……心配かけすぎたな。
その後は眠気もなかったので、ネットをみて地上で何が起こっているのか情報収集――まあめぼしい情報は無いけど。いつも通り、亡国も水面上には現れず。
「……ここまで静かだと不気味だけど…………向こうも準備中なのか、いや――マルスのフィードバックもあるし、迂闊に動けなくなったって思いたい……何にしてもまずは怪我を治さないと」
「でしたら――わたくしが全身なめまわして治療いたしますわ」
「――変態退散」
「ああん、これですわ、この罵倒が欲しかったんですわ」
「……はぁ、貴女は相変わらずですね」
「ふふふ、それが私という女です」
百花さん――威張って言うことじゃないよ。
「もうどこからつっこめばいいのやら」
「後ろからどうぞ」
「――――」
「ああ、その氷すらも凍らせるような眼光。素晴らしいですわ!」
「もう勘弁してくれー……あのね、百花さん」
「なんですか?」
「僕は貴女の気持ちには答えられない――でも、今まで支えてくてくれて感謝している。ありがとう」
「――――ふぁ!?」
「あれ?」
「ふぁ、ふぁ、ふぁあああああああああ!?」
百花さんはそのまま顔を真っ赤に染めると――走り去ってしまった。
「――――まさか、直球に弱かったのか?」
いや、なんていうか意外だった……早めに言おうと思って言ってしまったが…………早まったか?
前半部分が飛んでしまった可能性もあるし……
「まあ、いいか……いや束に知られたらまた怒られそうだけど――すねた顔を見たいと思ってしまう僕は悪い子でしょうか?」
「子って年でもないだろ」
「はっはっは! そりゃそうだ……で、信二はどうしたんだ?」
「あー……えい」
「いた!?」
「一発殴りに来ただけだ」
「殴ったっていうかチョップだよね」
「似たようなもんだ。あんまり無茶して周りに心配かけんなよ」
「それはもうわかっておりますよ……はぁ」
「それだけだ……お前がいないと最終作戦も始められないんだから、早く治せよ」
「最終作戦まで元々時間かかるけどね――でも、ありがとよ」
その後は、ジョニーや他のみんなの見舞いに来て――バカとかあほとか言われまくった。うん、わかっているけどさすがに傷つくんだよ。
そして最後にやってきたのは……
「はい、病人食。消化にいいよ」
「フロン……ありがとう」
「うー」
「ははは、リリーもありがとうな……早く普通の食事が食べたい」
「まだだめ。味付けは極限まで薄くしたから、反省してね」
「わかったよ――薄いっていうか、無味? 変な方向に成長したな」
「これは私からの罰」
「ああ、やっぱフロンも怒っているよな」
「ばかー」
「――ぐほ」
正直、リリーからの一言が一番効いた。
…………早く治そう。むしろ精神的にきつい。
というわけで、しばらく英は行動不能です。
次回から新章というか――ついに原作に入れます。そう、一夏がIS学園に入ることとなった原因のあの事件。
予定は未定とは言いますが、大きな変更もない限りそこらへんの話から進めていきます。