とりあえず、原作一巻はもうクライマックス。
「一夏――ねえ、一夏? なんで……なんで一夏が、撃たれて――ええ」
空に舞い、一夏を見下ろす影――彼女が何者なのか鈴にはわからない。されど、そんなことよりも――目の前で倒れ伏す一夏のことしか頭になかった。
苦悶の表情で、もがいていて……自分は守れなくて、それで……
「いや、いや……」
「…………シャドウの奴、随分と勝手な真似をしおって……まあいい――これで、こいつの命を――」
謎の少女が今まさに、一夏の命を刈り取ろうとしたその時であった――いくつもの光が、少女をかすめる……いや、直撃だったものを避けたのだ。しかし、その光を撃ったもの、それすなわち外部からの手助け。
「……イギリスのお嬢様か」
「サイレント・ゼフィルス……BT試験機の2号機…………強奪されたという噂でしたが……本当でしたの」
「まだ慣らし運転しかしていないんだ――練習台になってもらうぞ」
「傲慢な……いいでしょう、わたくしが止めて見せます!」
光と光りがぶつかり合う。セシリアの放ったビームが少女の放つビームとぶつかり合う。互角の戦い――そう見えるが、実際は少女の方がとんでもないことをしていた。
(わたくしの放った攻撃に、正確に自身の攻撃をぶつけて防御している――いったい何者なんですか!?)
「どうしたどうした! 次はライフルも使うぞ!」
「――まさか」
奪われた時期から逆算しても、流石にありえない練度だ。いや、練度自体はそこまで高くないのかもしれない――だったら、この者の操縦技術は何だというのか。
そんな余計なことを考えたせいなのか――セシリアは、決定的な敗北を突きつけられかかってしまう。
「しま――でもかわしきれます!」
身体を回転させて、全てかわしきる。上空に飛んでいて助かった。せめて織斑先生が駆けつけてくるまで時間を稼がないといけないのだ。彼女に専用機がない現状、教職員用の機体を引っ張ってくるのに少し時間がかかる。
だからこそ、足止めだけでも――そう思っていたのだが……
「なら――一段階上げよう」
「え――まさか!?」
フレキシブル。BT兵器の特徴で……ビームを曲げることができる。しかも、自在にだ。
高い適性をもつセシリアでさえ、いまだ到達していない地点。それに、この少女はあっさりとやってみせた。
曲がり、セシリアを追い詰める光の帯。
(そんな――なぜこのような方が……)
くやしい。何よりも、その感情が頭を支配する。そして着弾――する直前、不可視の弾丸がセシリアを救った。
ビームは弾けて、いくつにも分散されてゆく。少女の背後に、影が迫ったかと思うと――殴り飛ばしたのだ。
「ぐ!?」
「正直殴り足りないけど――セシリア! 一夏のところに行って! こいつはあたしがやる!」
「で、ですが――鈴さん」
「大丈夫――頭に来ているし、正直我を忘れそうだけど……やるべきことを間違えたりしない。それよりもお願い…………一夏のところに行ってやって」
「……わかりました。鈴さんこそ、あまり無茶はなさらないでくださいよ」
「ええ――わかっているわ!」
その呼びかけに答えるかのごとく――セシリアは今まで習得していなかった瞬時加速で一夏の下まで降り立つ。想いが本来持っている力を越えて、状況を変える一手を産む。
されど――一手では足りないのも承知の上。
「とりあえず……時間稼ぎはさせてもらうわよ……」
「……ふふふ」
「な、なによ……」
「はは、ははははははは!!」
少女が何がおかしいのか、高笑いを上げた。顔は見えないが――すべてを見下したような、底冷えする声がその表情を物語っている。
やがて声が収まると――上を指さした。
「――な」
「…………どこまで耐えられるかな――いや、お前を殺せば織斑一夏を絶望で染め上げられるよなぁ………………ああ、楽しみだ」
「――――負けない、乙女として――想いを伝える前に死んでたまるもんですか!」
二つの光がぶつかり――そして……
セシリアはすぐに一夏のもとに降り立ち、ISを解除――する前に異変に気が付いた。
呻いている一夏だったが……意識が完全にとんでいるわけではないらしい。
(噂の仮面ライダーに変身したときは驚きましたが……やはり、かなり頑丈な作りだった? 傷はそれほどでもありませんが……他にも要因があったのでしょうか?)
身体をスキャン――すぐに原因は分かった。一夏の右腕、最後の力を振り絞ったかのように白式が一夏を守ったのだ。エネルギーは空であるはずなのに……いや、リミッターをかけられているし、形態以降のときに使用されるエネルギーなど予備は残っているはずだ。それを回したのか……そこで、白式の待機形態であるガントレットの上に何かが表示されているのを見つける。
「空間ディスプレイ? ……エネルギーを補充しろ、ですか…………普段なら無視するところですが、白式さんにかけてみましょう――バイパス、接続……お願い、ブルーティアーズ。一夏さんに力を――」
光がブルーティアーズから白式へ流れ出し、一夏の体自体をも包みだす。
傷が少しずつだが修復されていき――呼吸が安定したのだ。
「まさか――生体再生!?」
ごく一部のISには存在している機能だが――白式がそれを行ったことに驚きが隠せない。
これはどういうことなのかと驚いていると、空から何かが降って来てその思考を中断させてしまう。
「きゃあ!?」
「――――あ」
落ちてきたのは、鈴。驚きもあるが――セシリアが空を見上げると……そこには空を埋め尽くさんと大量のISが飛んでいるではないか。
機体の種類も国も様々。それ故に――強奪されたものであることが容易に想像がつく。
「……うそ、でしょう…………」
「生憎だが……現実だよ」
「そんな――」
無駄だったのだろうか。一夏に繋いだラインは彼を回復させただけで状況を好転させるには至らなかったのか、彼が助けてるのではと考えてしまい――ヒーローを望んだのは間違いだったのか?
そして――無情にもセシリアたちに攻撃が――――
「生憎だが、うちの生徒に手を出すというのなら容赦はしない――お前が、何者であってもな」
――――一瞬の斬撃で霧散する。
空に爆発がいくつも起きて、ISが散り散りになるが、ミサイルが逃げることを許さない。
「一夏たちをやらせはしない!」
ゲートを強引にぶち破った彼女――更識簪が、マルチロックオンによってとらえたISたちに爆撃の雨を降らせる。その援護に合わせて山田真耶が的確に狙い撃つ。距離が離れてていても関係は無い――その腕はいまだ現役で通用するほどだ。
「私の生徒は、私が守ります――守られるってのもいいものですが――――教師は生徒を守るんです!」
次々と空に舞う職員たち。全員がこの状況になった原因や、インベスとの戦いを知っているわけではない。事実簪もモニターが落ちたことで何か異変が起きたことぐらいしか知らない。しかし、今ここに彼女たちは一丸となっている。伝え聞いた概略しか知らないが――一人の少年が奮闘した事実だけでその士気は高まったのだ。
「おのれ――どこまで行っても、私の前に立ちはだかるのか――――だったら、全て消し飛ばす! 砲撃部隊!」
光の塊がいくつも迫る。教職員達も対処しきれずに運悪く流れ弾が一夏たちの方へ――
「しま――」
「はは……死ねぇ織斑一夏ぁあああ!!」
――だが、時間は十分に稼げた。
一夏の肉体再生は完了し、エネルギーも充填されたのだ――右手を前にかざした一夏は、その名前をコールする。
「こい――白夜!!」
エネルギー吸収盾。光の塊を呑みこみ――準備を完了させた。
一夏の右腕のガントレットから伸びるケーブルが、甲龍とブルーティアーズに接続され、次の段階への進化を始める。それは、ISの特徴であり、より強い力を発現させるための力。
「この感覚は――まさか」
「鈴、セシリア……ちょっと時間はかかりそうだけど――いけるか?」
「……とうぜんでしょ、頭ふらふらするけど――やられっぱなしは性に合わないのよ」
「ええ――一泡吹かせて見せましょう。先生方には悪いですが、少しばかり時間稼ぎをしてもらいましょうか」
光が三人を包み込み――それが始まった。
◇◇◇◇◇
一夏がいたのは、砂浜と青い海。白い樹が落ちているが……そこに腰かけずに目の前の麦わら帽子をかぶった小さな白い少女に話しかける。なんとなく彼女が何なのかはわかっているが、今はそこに触れる時間は無いだろう。
『……せっかく会えたのに、すぐに行っちゃうの?』
「時間が無いしなぁ……それに、いつも一緒にいるだろうが」
『……ふふ、そうだね――ねえ、一夏はなんで強くなりたいの?』
「守るため、って言いたいけど……自分でもよくわかんないかな。大切な人がいてさ、隣りで戦ってくれて――俺一人じゃできることなんか少ないってのを実感する毎日だ。それでも――大切な人をこの手で守りたい。あのクリスマスみたいに、零れ落ちそうになるなんて嫌なんだ――だから、俺は強くなりたい」
『そっか――それじゃあ、すぐに行かないとね』
とん、と背中を押されたときに見たのは……白色の騎士。その姿は、昔テレビ越しに見たことがある。
でも――言わない方が良いのだろう。
「は、はは――そういうことか」
自分がISを動かせる理由の一端でもありそうだが……別に無理に突き止める必要もないかと思い直す。
いまいかねばならないのは――みんながいるところなのだから。
『それじゃあ、行ってらっしゃい』
「だから――お前も一緒だろうが」
『ふふ、そうだね!』
鈴が立っていたのは、竹林の中。心地よい風の吹くその中において――龍の意匠をしたチャイナドレスを着た美女が鈴を見下ろしていた。美女は岩の上に座っており、扇子で自身を仰いでいた。
「……むかつく胸しているわね、寄越しなさいよ」
『いきなりなんじゃ、その口の利き方は……』
「まあ今はいいか……とりあえず時間もないんだし」
『まったくよのう……わらわとしても、もう少し語り合いたいものなのじゃが…………簡潔に聞こう、おぬしはなぜ強くなりたいのじゃ』
「当然――一夏の隣に立ちたいから」
『即答か。もうすこし――あーつんでれ? とやらをやってもよいではないか』
「それこそ今更よ――それに、こんな風になったせいで約束っていうか賭けがうやむやじゃないのよ。せっかく、チャンスだったのに……色々ムカついてんのよ。一夏を守れなかったあたし自身にも」
『まあ、そのようにまっすぐなところには好感が持てるが――よいじゃろう。力を持っていくがよい』
「一つだけ言っておくけど――あんたも一緒なんだから、そこんところ忘れるんじゃないわよ」
『候補生のみで上には上がらない契約を結んでおるくせに、もったいない――されど、それも男のためか。ふふ、嫌いではないぞ――では、ゆくかの』
セシリアは、暖炉の前で椅子に座っている少女の前立っていた。少女の格好はドレスのようで、掃除をするための格好のようでもあり、不思議な印象を受ける。特徴的なのは、頬に青色の涙の模様を入れていることか。
全体的に女性的なシルエットを持ち、落ち着いた雰囲気を持っている。一言も口に出さず、織物をしているためセシリアも話しかけていいのか悩んでしまうのだが……時間が無いことを思い出し、意を決して話しかけた。
「あのーすみません……よろしいでしょうか?」
『……それを決めるのは貴女。私はただ次の行動を待っているだけよ』
「…………なんというか、それでいいのですか? もっと自己主張なさっても……」
『私の場合は貴女の方が重要となるのよ。それで――男嫌いは治ったかしら?』
「いえ、元々男嫌いではないのですが……」
『あらそうなの。てっきり男嫌いだと思ったのだけど――では男好きと』
「そういう意味でもありませんわ……」
『ふふ、冗談よ――まあ言わなくてもわかっているから良いんだけどね』
「せ、性格悪いんじゃありませんこと?」
『それぐらいが、貴女に合わせられるのよ。恥も外聞も捨てないと――逃すわよ』
「なんかこう、色々とむかつきますわね……」
『ま、一皮むけたみたいだからこっちから歩み寄ってあげるわ。とりあえずその暖炉をくぐればいいから』
「どこの灰かぶり姫ですか…………はぁ、わかりましたわ――これでも暴れ馬を乗りこなすのは得意ですのよ」
『それぐらいでいいのよ。もっと全力で挑まなくちゃ――じゃあ、パーティー会場に向かうわよ』
千冬たちが空のISたちを食い止めて、生徒たちの安全を確保するために戦っていた。そんな中、一夏たちに光の弾が流れて行ってしまったが――結果的にそれは、彼らに思いもよらぬ幸運を呼び寄せることとなった。
光の繭に包まれた三人。何かの危険を察知したのかサイレント・ゼフィルスを纏った少女が突撃しようとするが――それもミサイルの雨が許さない。
「更識め、貴様も邪魔をするのか!?」
「当然――進化キャンセルとか無粋にもほどがある」
そして、変化は完了した。
光が弾けてその中から飛び出したのは――元の姿を面影に残すものの、決定的に違う三つの機体。
白き鎧は大型化した左腕をつけて、身体の各所にプレートの様な鎧をつけている。背中の翼もより強く、大きくなっていた。
桃色の姿はスリットの様な切れ込みが各所に見られ、背中に浮いている球体にも淡い光を放つラインが入っている。
青の衣は堅牢さがなくなり、まるでドレスのようだ。足が細身に変化し、先が透明になっている。そして空中に浮いている物体も12個に増えていた。光る粒子を巻きながら、悠然と立っているではないか。
「……白式・雪羅!」
「甲龍・夢幻……推参よ」
「行きますわよ、ブルーティアーズ・シンダー」
三つのISが二次移行し、再び空へと舞い戻った。
ここに反撃が始まる。
なんだろう。ラウラの勝てる要素がなくなっていくような……
というわけでここで一夏だけでなく鈴とセシリアまで二次移行させます。
雪羅については、白騎士のデータを引き出したっぽいので登場させますが、原作そのままだと思うなよ。
ちなみに千冬さんが無双できなかったのは機体の方がついてこれないから。あと怒った一夏が怖いので魔法のステッキを置いてきたのが原因です。