あとシャルルさんに関しての作者の見解というか考察も入っています。
実習も滞りなく終わり、時間はすでに昼休み。ちなみに実習は実際にISの戦闘を見せる予定もあったのだが、この前のテロでショックを受けている人もまだいるだろうということで今回はやらなかった。
しかし――ボーデヴィッヒさんだけは不満そうだったなぁ……みんなの精神状態を考えれば当然ではあるとは思うのだけど、ドイツの代表候補生らしいし講習があったとは思うのだが……うーむ、軍人だから免除された?
まあ俺が気にしていても仕方がないか……何かあれば千冬姉がなんとかするだろ。教師なんだし、ドイツで面倒を見ていたんだろうし。
それよりも俺にとって重要なことが一つある。それは――
「い、一夏……その味はどう?」
「う、うまいぞ。うん、上手にできてる」
「そっか、よかった……よかったわ」
――屋上で鈴と二人きりで食事していることだ。
なぜこうなったんだろうと思うのだが――まあ俺が自分で誘ってしまったのだが。最初はただ酢豚を作ってきたから食べてくれと言われただけだったのだが、せっかくだから屋上で食べようと俺が鈴を連れ出してしまったのだ。そのせいで気まずいんだが……
「……あー」
「…………」
俺はこの前のことを何か言った方が良いのだろうかと思い、言葉を探すが見つからず……鈴もそわそわしていてどこか落ち着いた様子がない。
いや原因は分かっているんだけどな。ただ俺の方もあの時起きていたなんて言うわけにもいかないし……鈴にしたって話しかけにくいはずだ。
最近はセシリアや箒、のほほんさんに簪も一緒にいることが多いから間がもっていたのだが……今は二人きりである。しかしいつまでもこのままではいけない。ここはびしっと言うんだ織斑一夏!
「あのさ、鈴……あの約束のことなんだけど…………」
「――ッ!?」
やば、選択肢間違えた。余計に気まずくなる話題を出してどうするんだよ俺のバカッ!
こ、ここはもっと気の利いた話題を出すべきだろ……シャルルはなんで男装してまでIS学園に来ているんだろうなとか……ってそれはもっとマズいだろ!?
「や、その……」
「一夏!」
「はい!」
「そ、そのことはその……まだいいから」
「で、でも……」
「あたしもさ考えたの……まだ心の準備できていないから――それに、まだ自分で決めた目標を達成していないし」
「目標?」
「うん――千冬さんに勝つっていう目標が」
「料理の腕ならとっくに圧勝だぞ」
「そっちじゃなくて――ISでよ」
「正気なのか!? 殺されるぞ!?」
「あんた実の姉を何だと思っているのよ……そのぐらいできれば、流石の千冬さんでも認めるでしょ」
「――」
言葉が出なかった。鈴はそこまで本気なのか……俺の隣に立てるぐらいに強くなる――だけではない。あの更衣室での言葉や、夕暮れの校舎の約束のこともそこには含まれているんだろう。
だったら――俺ももっと真摯に向き合わなければならない。自分の、気持ちに。
「……わかった。鈴が良いと思えるまで待っているからさ」
「う、うん――あれ? なんか一夏にしては物わかりが良いような――」
や、やばい!? 急いで話題をそらさねばとも思ったが――俺にそんな気の利いたことはできない。というかシャルルの件についてしか出てこないぞ!?
待ってると言った手前、俺の発現を追及されたらものすごく恥ずかしい! きゅ、救世主よ来てくれ――そんな思いが通じたのだろうか。
――ガシャァアアアン!
そんな音と共に、ドアが開かれた。ちょっとデカすぎないかとも思うが――助かった。そう思ったんだ。
だけど……そこにいたのは救世主なんかじゃなかった。
「お、おほほ……いいムードのところ悪いですけど――鈴さんの一人勝ちなど許しませんわよ」
「セシリア!? なんでここに!?」
そこにいたのは……それはもうものすごくいい笑みを浮かべて優雅に佇んでいる彼女――セシリア・オルコットだった。なんかオーラが見えるんだが……
「まったく……油断も隙もあったものではありませんわ。一夏さん、このサンドイッチを食べてください。先ほど完成しました自信作です!」
「――なん、だと」
これは――瘴気ッ!? セシリアの料理は成功と失敗にムラがあり、酷い時はこのようになんか禍々しいオーラの様なものが見える気がする。
そう――これを食べてはいけない!
「そのようなゲテモノを一夏に食べさせるだと? 恥を知れ!」
「あら篠ノ之さん、ゲテモノとは失礼ですわよ。貴女こそその手に持っているのは――手の込んだおせち?」
「箒、流石にそれは食べきれない。なんで重箱が5つぐらい重なっているんだよ」
「成長期の男子はこれぐらい食べるかと思ったのだが…………それに、ここまですれば私のお弁当成分で体が作られて、ふふ」
なんだろう、後半は聞こえなかったんだが……寒気がするのはなぜ? 鈴にセシリアも顔が青いし……箒は一体なにを言ったんだ?
「さあ一夏――食べろ!」
「ごめん鈴の酢豚でおなかいっぱいだから」
「あ、あたしも食べ終わったところだし……それに次の授業があるから行かなくちゃ!」
「そうだな! 俺も予習しないと……」
「……なん、だと」
「そ、そんな……」
そういうわけで俺たちはそそくさと自分の教室に戻っていくことに。悪いな箒――なんか味とは別の理由で瘴気が見えたんだよ……毒でも盛っていないよね?
ただ一つ言えるのはお弁当の交換をしてお互いに食べあったらしいセシリアと箒なのだが……セシリアは顔を真っ赤にして瞳が充血していたし、箒は――意識が飛んでいた。
そして、そんな俺たちをずっと見ていた存在がいたことに俺はついぞ気づかなかった。彼女――ラウラ・ボーデヴィッヒが氷の様な瞳で俺たちを見続けていたことなど。
◇◇◇◇◇
夜、今日の訓練も終えてシャワーで汗を流していると部屋のそとが騒がしいことに気が付いた。
みると、どうやらシャルルの荷物を運んでいたらしい。そりゃ一応男ってことになっているんだし当然男子用の部屋だよなぁ……一応一人部屋になるみたいだ。
「織斑か、ちょうどよかった。デュノアのことを手伝ってやってくれ」
「わかりましたけど……織斑先生、そのメモ帳は?」
「……そういえば書類がまだ残っていたな。あと頼んだ」
「待てぇええ! そのお腐れメモを置いて――ってもう姿が見えなくなった……廊下は走るなよ」
「えっと、一夏? どうしたの?」
「いや何でもない……何でもないんだ」
とりあえずそのままにしておくわけにはいかないだろうと、荷物の整理を手伝うことに。
なんか下着類を触ろうとすると顔を赤くして拒否するし、色々とやりにくい。なにより、内装がその……男っぽくない。いや、超合金的ななにかを飾った時には男だよなとも思ったが――フランスってとあるロボアニメが視聴率100パーセントになったこともあるらしいし、フロンとかそういうの好きだったし別に女の子でもおかしくないか。
「そういえばシャルルってさ、デュノア社となにか関係があるのか?」
「……うん、社長の子供なんだよ僕は」
その一言はどこか言いにくそうではあったが、社長の子供で代表候補生か……よほどの実力がないと候補生には選ばれないだろうし、色々と大変なこともあったかなぁとも思う。
ただ言いにくそうってのが妙に引っかかるが……普通、子供を男装させるか? いや、どのような事情があろうと……ぼろが出やすい状態で送り込むだろうか?
まあダメ元で聞いてみるのも一興だろう。警戒されたらそれはそれでハニートラップとかの危険はなくなると思うし、直接的な手段に出たら千冬姉に言えばいい。
浅はかだとは思うが――とりあえず冗談みたいな感じで言ってみるか。
「それにしてもびっくりしたぜ。まさか男装してIS学園に入るだなんて。やっぱり大変なのか?」
「そりゃね、コルセットもキツイし。視線ってあそこまで強烈なんだ――あ」
「……」
「えっと、じょ、冗談だよ?」
「……」
「そ、その――えっと……ご、ごめんなさぁあい!!」
いや、そうじゃないんだ。怒っているわけじゃないんだ――たださ、亡国機業って奴らのこともあるし、危険人物じゃないだろうなとか疑っただけだから。
いや逆にそこまで素直な反応されるとこっちが罪悪感にさいなまれるって言うかね。うん。どうしようコレ……
そこからが大変だった。いや、主にシャルルをなだめる方向に。落ち着いてから話を聞くと――彼女はデュノア社の社長の愛人の子で、母が亡くなるまでそのことを知らずに育ったらしい。母が死んだのちに会ってみると、それはそれで会話することはほとんどなかったし、本妻からは泥棒猫の子と殴られる始末。
「お母さんも言ってくればよかったのにね……本当、知っていればそこまでショックを受けなかったのにさ」
「……」
デュノア社は幅広く使われている第二世代IS、ラファール・リヴァイブを作っているため経営がうまくいっているかとも思っていたのだが……どうやら、第三世代の開発がうまくいっておらずに、開発権利を失いそうなのだそうだ。
「それで、男装して俺に近づこうとしたってところか?」
「鋭いね……うん、その通り。白式のデータを取って来いって言われているんだよ」
「……」
うーん……以前の俺だったら鵜呑みにしていただろう。いや、シャルルの言葉に嘘は無いんだろうけど……何かが引っかかる。なんだろう、この違和感は。
「……シャルルはさ、代表候補生なんだよな?」
「そうだけど、それがどうかしたの」
「いや……」
おかしい。やっぱりおかしい。なんで男装してはいっているのに――代表候補生になっているんだ?
(男装してから候補生になるのに噂になっていない時点でおかしいんだ。男初の代表候補生になるとかマスコミが黙っているわけがないだろ! フランス政府もグル? いやそれはリスクが大きすぎる。だとしたら何がある? デュノア社もなんでこんなにばれやすい方法なうえに、自分の首を絞めるような真似を……シャルルが本当のことを話したらそれこそ終わりだし、シャルル自身はIS学園の特記事項があるから3年間の身の保証はできるんだぞ? 制度をフルに使えばフランス政府だって簡単には手出しが――あ)
そこまで考えて気が付いた。いや、俺の勝手な憶測だし、そうあってほしいという願望も入っている。
だけど俺にはそうとしか思えなかったのだ……
「なあ代表候補生の給料って言うかさ、そういうお金って国から出ているのか? それとも企業?」
「両方かな……僕の場合、専用機が出ているから実家のデュノア社からだけど」
シャルル自身は苦虫をかみつぶしたような表情をしているが――この子はとんでもない思い違いをしているのではないか? だけどそれには確証が持てないし……かと言って、このままにしておくこともできない。
うーん……
「なあ、これからどうするんだ?」
「良くて本国に強制送還。悪くて刑務所かなぁ……」
「いや、特記事項があるから3年間はここにいれるぞ。代表候補生なんだから色々と融通は利くだろうし」
「――え」
「知らなかったのか?」
「う、うん……読んでおくべきかとも思ったんだけど、色々といっぱいいっぱいで」
……俺の考えが正しいとは限らないし、本当に色々と大変な背景があるのかもしれない。だが、俺の考えていることが事実ならば――シャルルはその事実に耐えられるのだろうか?
一日程度の付き合いだが、この子の内面の弱さみたいなものは理解できた。だからこそ俺一人じゃどうしようもないな……
「仕方がない。気が付いている奴には相談してみるか……」
「え、一夏以外にも気が付いている人がいるの!?」
「……正直、なんでみんな気が付かなかったんだろうな」
「――――そ、そんな……これならばっちりだって言われたのに」
うーん……どこまでが本当なのか、いや全部本当のことを話しているんだろう彼女は。
しかし、今は情報が足りない。
「とりあえず気が付いているのは、鈴と山田先生と……あとは誰だろう…………のほほんさんあたりは気が付いていそうだし、セシリアは……それとなく確認するか」
「そ、そんなに……あれ? 織斑先生は?」
「いや千冬姉が気が付くわけがない」
「ごめん、一番最初に織斑先生が気が付くかと思ったんだけど……どういうこと?」
「いや千冬姉って――いわゆる残念な美人だから」
「実の姉に言うことなのソレ!?」
本当のことだから仕方がないんだ。今も俺とシャルルで妄想しているはずだし。残念だけど千冬姉、片方女だぞ。まあ知らぬが仏か。
「……ねえ、なんで一夏はここまで親身になってくれるの?」
「うーん……なんかさ、ほっとけなかった。それだけだよ」
「……優しいね一夏は」
そう言って、にこりと笑った彼女は――本当に男に見えるわけもなく、ただの可愛らしい女の子だった。
それだけに……本当にハニートラップじゃないんですよね。信じていいんですよねと思わずにはいられなかった。英さんの警告のせいで邪推しているのかなぁ……
冷静に考えるとツッコミどころが多い人物。
この作品は割と親子の絆とかをしっかり書いていきたいので、ここらへんも掘り下げていきますよー
既に色々な親子の話はやったけど、彼女の場合は扱いにくさが半端ない。
ある意味一番扱いやすいのはラウラというのはどういう皮肉なのか……