今日も今日とて訓練終了。しかし、アリーナの方にトイレが無いのには困ったものだ。
「おかげで職員用のトイレ使わないといけないから、こんなところにまで……もう夕方だなぁ」
季節的にはもう暖かいを通り越して暑くなってきているから、普通に外を歩けるのは良いものだ。寒いのは結構きついし。まあ、夏は夏で暑いと言うわけだけど。
と、そんなことを考えていると誰かと誰かが言い争っている声が聞こえてきて――その方向に、見覚えのある影が二つ。
「あれは……千冬姉と、ボーデヴィッヒさん?」
まずいかなとは思ったが――俺はこっそりと近づいて会話を聞く。なるべくばれないようにしないと……
「なぜこんなところで教師など!」
「ハァ……何度も説明しただろうが、私には私の役目がある」
「このような極東の地でなんの役目があるというのですか!?」
ううむ……色々物申したいが、ここで出ていくとこじれるよなぁ……
二人の話はその後も白熱してゆく。千冬姉はボーデヴィッヒさんをあしらうっていうか、どう説明するべきかと悩んでいる様子だが、対する彼女は――その顔を苛立たせて声を荒げるのみだった。
「お願いです教官。ドイツに戻ってきてください。ここでは貴女の能力は半分も発揮されません」
「――ほう」
あ、マズイ……千冬姉の瞳が細くなっている。あれは、ちょっとどころではなくかなりイラッとしたときの顔だ。具体的には英さんや束さんが千冬姉をいじっているときと同じくらい。
相手に対して本気で斬ったりしないけど、キレることはする一歩手前である。
「大体、この学園の生徒など教官が教えるに足る人間ではありません!」
「……なぜだというのだ?」
「意識が甘く、危機感に欠けている。ISをファッションだと勘違いしているような輩です。先日もテロがあったというのにこの緩い空気。兵器を何だと思っているのか――」
彼女は逆鱗に触れてしまった。普段なら注意して終わる程度だったろうが――すでに色々と溜まっていた千冬姉はその一言で、キレた。
「そこまでにしておけよ――小娘が」
「――ッ」
凄味、どころではない。かすかにだが殺気さえもにじませて立っているのは――騎士か、侍か……それほどまでの気迫。正直、真正面には立ちたくはないな……わが姉ながら恐ろしいものである。
「弱い15にしてもう選ばれた人間気取りか? 偉くなったものだな……」
「わ、わたしは」
「それに、ISは兵器などではない。武器を搭載しようが――本質的にISは武器ではなく、宇宙開発用のマルチフォームスーツ。元来から戦闘には向いていない代物だ」
「なっ――そんなはずはありません! 現行の兵器は、ISの登場によって……」
「しかし撃破が不可能ではないのだよ。対IS用の兵器さえも存在するしな。それになボーデヴィッヒ……私はお前が考えているほど強くないよ」
「ぐっ――教官は、そんなことを言う人ではなかった。そんな発言をするような人ではなかった!」
「当たり前だ。教官が教え子になめられるわけにはいかないだろうが。ドイツでは仕事ということもあってあまり趣味やプライベートなことは口にしなかっただけだ」
まあ確かにな……しかも千冬姉の趣味って共感を覚えにくいのばかりだし。
「私と趣味の会話で盛り上がれたのはクラリッサだけだったぞ」
い た の か よ
「な、クラリッサがですか!? しかし彼女は日本のサブカルチャーばかり追いかけるような……」
「だから、私もそうなのだが」
「――う、嘘です! おのれ織斑一夏、教官に何をしたというのだ!」
「むしろ一夏に趣味もほどほどにと怒られているのだが……おーい」
「今日のところは引かせていただきます! ですが、私はまだあきらめたわけではありません……必ず、織斑一夏を倒して貴女をドイツに連れて帰ります」
「まて、どうしてそうな……行ってしまった」
……本当、どうしてそうなってんだよ。っていうか人の話を聞けよ……軍人なんだよね? なんていうか、思い込みの激しい子? というよりは子供っぽいというか……
「……ところで、そこの男子生徒。覗きとは感心しないぞ」
「あー……やっぱバレてたか」
「バレバレだ。しかしラウラのやつ、一夏の気配程度に気が付かないとは……後で鍛え直してやる」
「……千冬姉、案外気にいってんだなあの子のこと」
「まあ、最初の教え子だからな」
「そっか……」
色々とあるみたいだが……最初の教え子なら仕方がないな。
でも一つだけ言わせてくれ。
「なんか俺に被害が来てんだけど……」
「すまない、真実を話すわけにはいかなくてな……あの時のことも、お前が自分で対処したと知ったのは最近のことなんだぞ」
「それもそうか……俺も色々と隠し事してたわけだしなぁ…………ごめん」
「いいんだ。私にも色々と思うところはある。だが、近いうちにラウラが何かするかもしれない。その時は、頼めるか?」
「わかったよ……あと、趣味もほどほどにな」
「善処する」
◇◇◇◇◇
後日、アリーナにて訓練を行おうとしていた鈴たち――しかし、そこには鈴とセシリアしかいなかった。
「一夏の奴、今日はデータ取りだって」
「シャルルさんもメンテナンスだそうで……どうします?」
「模擬戦って気分じゃないわね。今日は瞬時加速だけでレースでもしてトレーニングしようって話だったし……二人だけだとなんだかねー」
「ですわね。簪さんもプログラムをちょっといじるとおっしゃっておりましたし、他の方も……」
「別のアリーナ使っているか、訓練機借りれなかったか。箒がいればよかったんだけど、怪我だし…………」
「ままなりませんわね。やはり模擬戦しかありませんか」
「それもそうね――で、あそこにいるのはどうする?」
「……逃げるのは性に合いませんし、話だけでも聞きましょうか」
二人が見上げた先――そこに、黒い機体を纏った彼女、ラウラ・ボーデヴィッヒが静かに立っていた。
ゆったりとした動きで二人に近づいてくるが、その顔はにやりと笑っている。まるで愉悦を我慢できないかのように。ひどく歪んで。
「イギリスのブルーティアーズに、中国の甲龍か……二次移行こそしているが、これならデータだけ見た方がまだ強そうだったな」
「……言ってくれますわね、ドイツのシュヴァルツェア・レーゲン」
「あんまり武器をのせりゃいいってものでもないでしょうに……これだからガチの軍人は」
「――――ッ」
「あら、怒った?」
「先に挑発してきたのはそちらのくせして、随分と沸点が低いんですわね」
「……ふん、くだらない種馬を取り合うようなメスが」
「――――あんた、いくらなんでも言っていいことと悪いことがあるわよ」
「同じ欧州の人間として、それは流石に見過ごせない発言です。訂正しなさい」
「何を怒っているんだ? あいつは教官に唯一の汚点をつけた人間、それがわかっているのか!」
「話になりませんわね……」
「あんた、千冬さんを神様か何かと勘違いしているんじゃない? 人なら失敗の一つや二つ当たり前、そんなこともわからないの?」
「うるさい――数だけが取り柄の国と、古いだけが取り柄の国がッ」
鈴としては、日本暮らしも長いため国の悪口を言われても頭に血が上るというわけではない。されど、むかつくことには変わりがなく……どうしたものかと思う。
(あたしがやってもいいわけだけどさ――やっぱ、ここは愛国心も持っている奴がやった方が良いわよね。正直、千冬さんの素を知っている身としてはなんか本気でやりあう気分になれないって言うか……)
「というわけでセシリア、任せてもいい?」
「ええわかっておりますとも――それに、こちらからお願いしたいくらいですわ。この井の中の蛙を懲らしめる役目は」
「……あんた日本人よりも日本語詳しいでしょ」
とりあえず、離れた場所に移動して戦いを観察する。トーナメントで役立つかもしれないと、案外ちゃっかりしている鈴であった。
「それでは――行きますわよ!」
「こい――ッ!?」
右手を振りかざし――AIC、慣性停止結界を発動したラウラであったが……その目論見はすぐに失敗した。
「あがッ!? な、フレキシブルだと!?」
「二次移行したおかげで、自由に使えますのよ――とはいえ、やはり最初の一撃しか通用しませんか」
「舐めるな――!!」
「そちらこそ、レールガンを撃てばいいというものではありませんわよ」
空中戦。まさにその一言に尽きるだろう。三次元的な位置取りを行うことで上下左右、あらゆる方向からの攻撃にお互いが対処して見せる。セシリアはビットとライフルから放たれる光を自在に操ることで。ラウラは音速をはるかに上回る速さと、とてつもない威力の弾を放つことに加え、ワイヤーをつかってセシリアの動きを阻害する。
らちが明かないと思ったのはどちらか――ラウラは手から放たれるプラズマをソード状に固定したうえでセシリアにとびかかった。
(この女の接近戦適正は低い――懐に潜り込めばお得意のBT兵器も満足には使えまい!)
その判断はある意味なら正しかったのだろう――そう、二次移行をする前のセシリアならば、
「そんなもの――予測済みですわよ!」
「な――!?」
インターセプター。近接用ナイフ。ブルーティアーズに最初から搭載されているそれは、以前のままならばコール無しには呼び出せなったであろうもの。
されどセシリアは呼び出して見せた。もはや、以前の弱点など存在しない。
「今度は――こちらの番です!」
ビットがスカートのように装着され、さながらドレスのように変形してゆく。アーマーが、身体の各所のラインに合わせて開いてゆく。ブルーティアーズはそのシルエットを変化させてゆき先ほどまでとは異なる性能へと変化していった。
「さぁ、ダンスのお時間です――魔法が解けるまで、わたくしと踊っていただきましょう!」
開かれたラインからキラキラと輝く粒子がまき散らされラウラを取り囲む。振り払おうとするものの思うように飛んでゆかない。これは、一体なんだというのか。
「いきます――!!」
「なっ!?」
セシリアが、宙を駆けた。足先に光が集まっており、ハイヒールのようなパーツで空を駆けているのだ。
疾走。ラウラも対処しようとするが、あまりの速さになんども切り付けられてしまう。
「――こ、これはいったいなんだというのだ!?」
(一夏さんの白式と接続したことで得られた、高速戦闘形態。近接攻撃しか使えなくなるのは難点ですが――加速力なら現行ISでもトップクラス!)
何度も何度も、ラウラはその身に攻撃を浴び続けてゆく。やがて、こと切れたかのように地面に落ちて――心の中に黒いものが湧き上がってゆくのを感じた。
(なんだこれは? こんな、こんなことがあってたまるか――力が、力が欲しい)
空には足を光り輝かせてとどめの一撃を放とうとしているセシリアがいて――直後、流星が落ちてきた。
そして――決着はつかずに終わってしまう。
「あまり、無茶をするな」
「え――きゃあ!?」
「な――――教官?」
織斑千冬が、セシリアの最大の一撃を受け流してアリーナの壁に放り投げ、ラウラを守ったのだ。
その人間離れした動きに鈴は唖然としてしまう。ああ、やっぱあの人色々とおかしい。
「まったく、これ以後トーナメントまでの私闘は禁止とする! 決着は後日にしろ。先日の篠ノ之のこともあるのだから、あまり苦労を増やさないでくれ」
「……わかりましたわ」
「教官が、そこまで言うのならば」
「では今日は解散しろ。凰、一夏たちにもよく言っておいてくれ」
「わかりましたー……まあ、今日のところはいいか」
「不完全燃焼ですわ。せっかく、簪さんから借りた資料を参考にいたしましたのに」
「……見たのね特撮」
「結構面白いですわねー」
あっさりと日常に戻る二人をみて、ラウラは茫然としていたが――やがて心に苛立ちが戻ってくる。
なんでそんなに簡単に笑えるんだ。なんでそんなに気にしないんだ。
「戦いとは、もっと崇高なものだ……あんな、ファッションか何かと勘違いしたようなものではないのだ――ヒーローなど、くだらない」
そうだ、くだらない。
世界はもっと凄惨だ。悪意などそこらに転がっていて、生きてゆくというのは戦いそのものなのだ。
都合のよい奇跡など夢物語。
「だから証明しなくてはいけない――あの男、織斑一夏は私がこの手で倒す」
いつだったか、ラウラが千冬から聞いた一言。それを覆さねばいけないのだ――弱い教官など、教官ではないのだから。盲目的に、彼女はそればかりを頭に思い浮かべる。
自らを弱いと言った、彼女のその言葉を否定するというのがどういうことなのか気が付かずに。
この頃のラウラさんは本当、色々と……残念。
精神年齢が低そうだからなぁ……
某ツインテールアニメ。なんで作画があそこまで崩れてしまったのか……
アレのパロディを鈴ちゃん主人公でやろうかと思ってしまった私は色々と終わってる。時間があれば短編でやるかもダケド。