ようやく終わったわいな……今にして思うと、魔法少女ちふゆんは動かしやすくて色々と幅が利くんだよなぁ……
目が覚めると、そこは見知らぬ天井……いや、部屋の内装からどんな部屋なのかがうかがい知れる。ここは、IS学園の保健室という部屋か?
しかしなぜ私がここに――そこまで考えたところで、記憶が戻ってくる。そういえば……タッグマッチで見事に負けたのだったな……
「……結局、私はどうすればよかったのだ…………」
「そんなもの、自分で考えることだ」
「え――――お、織斑教官!?」
「だから先生と呼べと……まあいい。体の方はどうだ?」
「ど、どうと申されましても……とくに異常はないようですが」
最後に何があったのかはよくわからないが……体は本当に異常を感じることもない。むしろ寝てスッキリしたのか動かしやすいぐらいだ。
教官は、それを聞くと頷いて一つの資料を私に差し出してきた。
「おまえのISだがな、しばらくは使い物にならない」
「これは――VTシステム!?」
「シュヴァルツェアレーゲンに秘密裏に積まれていたようだ。先ほど知り合いに相談して、裏も取った。どうやら軍の上層部が独断で行動したらしい。ご丁寧に起動時まで気が付かないように細工したうえ、操縦者の精神状態がキーになっていた……まったく、何を考えているのやら」
「…………私が、望んでしまったから」
私は織斑教官になりたかった。正確には、貴女のような強さを手にしたかった。そのためにこの国まで来た。許せなかった存在には、自信の間違いを指摘されて……私は本当にどうすればいいのかわからなくなってしまったのだ。
結局、私がしたことと言えば勝手に暴走して、周りを巻き込んだこと。
「軍人としても、人としても失格ですね……周りに迷惑しか振りまいていないのですから……」
「まったくだ。おかげで事後処理も多いしトーナメントも中止だぞ」
「うっ……」
「だがな、おかげで面倒な閉会のスピーチを言わなくて済んだ。まだ考えていなかったからな。助かった」
「――――は」
「ん? どうしたそんな驚いたような顔をして」
「い、いえ……教官がそのようなことを言うとは思わず」
「私だって人間なんだぞ。そういう面倒なことを嫌って何が悪い。むしろ堅苦しいのは苦手なんだ……学生時代は色々と騒がしかっただけにな」
「……」
そんなことを話す教官は――自然体で、どこか親しみやすさを感じる。私の憧れた強さとは違うのだが――それでもその方がらしいと思うのはなぜだろうか。
結局、私は井の中の蛙だっただけなのか……織斑一夏に諭され、助け出された…………
「私は、これからどうすればいいのでしょうかね」
「さっきも言った通り、そんなもの自分で考えろ――お前は誰なんだ?」
「誰と、申されましても……」
「お前はラウラ・ボーデヴィッヒだろ――他の誰でもない、な」
「――!」
「それとな――一夏には気をつけろよ。鈍感だし、母親みたいな性格や趣味のくせして女を惚れさせることに関しては天才的だ。油断するとお前も危ない――まあ、今更アイツの心をを奪うのは大変だが」
「ふふ、そうかもしれませんね」
「なんだ、ちゃんと笑えるんじゃないか」
「ええ……私も初めて知りました」
それと教官、確かにあの間に入るのは大変でしょうが――もう遅いですよ。だって私はもう……織斑一夏に惹かれているのですから。
「…………ところで、ピンクのフリフリと言えばなんでしょうか?」
「魔法少女」
あと、一日で教官のイメージが崩れすぎて乾いた笑いがでてくるのですが、どうしたらよいでしょうか?
◇◇◇◇◇
結局私が出来たことなど何もなかった。一夏の盾になったのも意味がなかった。むしろ、私自身が怪我をしただけ。大失敗。明日からは授業に出れるが……一夏に合わせる顔などない。
それに――今日のタッグマッチトーナメントを見る前はケガさえなければ一夏のパートナーになれたはずだと思っていた。だがそれは間違いだった。今の私では、凰鈴音のように一夏とあそこまで息を合わせることなどできない。それがたまらなく悔しい。
「力も足りない。意思の疎通もできない。私は……」
『でも――力ならもうすぐ手に入るはず』
「あのような連携は一朝一夕で出来るモノじゃない……単に練習しただけじゃ不可能だ…………心からわかりあっていないといけない――なぜ私じゃないんだ! なぜ、なぜ……」
『時間さえあれば――なんて幻想よ。どうしようもなく合わない場合もある』
「だが――絶対ではない。まだチャンスはあるのだ……」
『だったら行動しなくちゃ――そのための手段がここにある』
私の手は、使うことのなかった携帯電話へと伸びていた。そこに記されている電話番号は数少ない。その中で今も使えるものなど……この学園にいない人ならば一人ぐらいだ。
私は――そこに電話をかけた。声も聞きたくないと思っていた、姉へと。
数回のコールののち、彼女が電話に出てくる。きっといつもの変なテンションでくるのだろうと思うと憂鬱だ……だが、私の予想は裏切られると都となった。
『あぁ……もしもし箒ちゃん…………天才の束さんだよー』
「……あの、なんでそんなにテンションが低いのでしょうか……てっきりもっとはしゃぐかと思ったのですが」
『久々に箒ちゃんの声が聞けてうれしいよ。でもね、いま仕事が忙しい……っていうかデスマーチなんだよ徹夜しまくりでもう限界』
いや、仕事? スレイプニルとかいう宇宙船の技術スタッフというのは聞いているが……具体的に何をやっているんだろうか? 宇宙開発関係だったと記憶しているが……
『はっはっは――ちーちゃんから連絡がきてドイツでVTシステム使っているところあったから調べてくれと言われたときには死ぬかと思ったさ! だって他にも色々立てこんでいるんだよ! もう限界! 寝させて英――』
電話の向こう側からは複数の声が聞こえてきて――みなとてつもなくおどろおどろいい声をしている。なんか一人だけ逃げようとするなとか、特製ドリンクであと24時間は戦えますとか、HAHAHAと笑っているだけの奴とか……賑やか? はて、姉さんは賑やかなの苦手だったような気がするのだが……あの人はいつも賑やかだったが。
「えっと、今日は話があったのですが……また今度にします」
『いいよいいよーわかってるから。専用機のことでしょ?』
「――!?」
『箒ちゃんの立場的にも必要だし、怪我もしたそうだしねー』
「…………なぜ、それを知っているのですか」
『箒ちゃんの学費払っているの私だよ』
「――え」
『いや、お父さんたちがまだ保護プログラムを受けているんだから払える状況じゃないのは知っているでしょ。箒ちゃんは自主的に行っているんだから学費は払っているんだよ……』
なんか声が不機嫌に……あれ? たしかに色々と選択肢はありましたが――あれ?
『箒ちゃんには迷惑を色々かけたし、まあそこらへんのことは置いておいて……臨海学校の時に持っていくからねー…………束さんはデスマーチに戻るよ――遺書だけがそっちに行くかもしれないけどね』
「ちょ、姉さん!? ――切れた……何が何だかわからないんだが」
記憶の中にいる姉と、今の姉がどうもつながらない――本当にそうか? 記憶にあるのは、私が小学校に上がる前か上がったばかりの姿だ。その後の姉がどうも浮かばない。
あと先ほど聞こえた名前……英。たしか、蜂矢英。姉と同じ職場にいるらしい人物。
「記憶がどうもぼやけている…………」
何か、大事なことを忘れているような……しかし、思い出そうとは思えないしそこまで重要な記憶ではないのか?
とりあえず、臨海学校にくるらしいしその時まで待っていればいいかと思い直した。
「まずは怪我を治さねば……」
違和感は確かにあるが……先にやらなくてはいけないことを片付けよう。
◇◇◇◇◇
タッグマッチから数日後。俺たちは普通に授業を受けていた――箒も復帰したが、ここにはある二人がいない。
あの戦いの後、色々と調査などもあったおかげでタッグマッチは一回戦のみを行うだけとなってしまった。あと、簪がそのうっ憤を晴らすかのごとくアリーナを爆風で埋め尽くしたせいで先生方に大目玉をくらっていたことも印象深い。
「しかし、何事も平和が一番。ああ、お茶が旨い」
「一夏さん……なんで教室に湯呑を…………皆さんも、机を自由にカスタマイズし過ぎじゃありませんか?」
俺の机はポット完備。のほほんさんはお菓子がすぐ取り出せるようになっているし、リコリンはデコりまくり。他のみんなもそれぞれ個性豊かな机となっている。
「いいじゃないか、すぐに片付けられるんだし。リコリンを除く」
「学年上がる時が大変なのにねー」
「まったくよね」
「ははは! 絶賛後悔中だよ!」
「すこしは静かにしてようよ……ところで、デュノア君が来ていないよね」
「そうだねー」
「……」
「あれ? リコリン顔赤いよ」
「…………私、今日こそは言おうと思うんだ」
「え――本当!?」
「うん――今日こそ、デュノアさんに告白する!」
――――いかん、止めなくては。っていうかいつもの冗談ではなくマジっぽいんだけど!? この後に待ち受ける大惨事を考えて俺は彼女を止めようとするのだが……セシリアがそれを阻んだ。
「なぜだセシリア!」
「いけませんわ――たとえ悲惨な結末しかなくても、止めてはいけないのです」
「だけど――ごめん、なんでリコリンは百合の花を持っているんだよ!?」
「あら? ……あの一夏さん、なんかわたくし今日は学校を休みたくなったのですが……」
「いやいやいやいや、旅は道連れ――一人だけ逃げようとするんじゃねぇよ」
「逃がしてください! あと旅ではないですわ!」
とそんなコントをしていると――ああ千冬姉が来ちまった。山田先生も来ているが頭を抱えている。うん、何があったのかわかっているよ。
そして、話を切り出したのは……山田先生か。
「あの……今日は皆さんに転校生というか、改めて紹介というか……っていうかなんで気が付かないんでしょうかねぇ……織斑先生」
「う、うむ――まったくだな」
「分かっている生徒さんもいたのに、なんで気が付かないんでしょうね織斑先生」
「まったくだな。うむ」
あれ!? なんか立場が逆転してるぞ!? いや、まさか……千冬姉、今まで気が付いていなかったのか……
扉を開けてはいってきたのは予想通り、女の子の格好をしたシャルル――いや、シャルロット。
「えっと、改めまして……シャルロット・デュノアです!」
「というわけでシャルル君はシャルルさんでした。っていうか本当にみなさん気が付いてなかったんですか? 織斑君とかオルコットさんとかは気が付いていたというのに……この数日胃が痛かったんですよ!?」
「「「「え、ええええ!?」」」」
「はい、改めてよろしくね――はいこれプレゼント」
「あ、ありがとう……岸原さん」
「あとね――大好きだよ」
「――――ふぁっ!?」
――――言いおった!? その直後に驚愕で言葉も出なくなるクラスメイト達。っていうか気が付いていたのか!? それでもなお好きとかいうとかわけがわからないッ……だが、彼女はさらに上をいく。
「――匂いが」
「ああ、なんだ……匂いか――って匂い!?」
「うん!」
「えっと……それだけ?」
「それだけ」
「なんで百合の花を……」
「しいて言うなら――そのリアクションが見たかったから――――ぴゃ」
そして、哀れにも――いや自業自得だが、千冬姉の出席簿は彼女の頭を直撃したのだ。
一体彼女は何がしたかったんだ? なんかやりきった顔をしているけど……幸せそうだし、いいか。
「まったく騒がしいぞ……」
「はぁ、ホームルーム始めるので席についてくださ――」
言い切る前に、再び教室のドアが開く。そこには――ラウラが悠然と立っていた。うん、嫌な予感がする。
「アイキャン、フラ――ひでぶ!?」
「なにをしているのだお前は」
「まってくれ千冬姉! なんか逃げないと修羅がやってくる予感がするんだ!」
「お前は何を言っているのだ?」
「おお、織斑一夏! ちょうどよかった!」
「いや君が良くても俺は良くないんだ! っていうかなんな嫌な予感がするから後にしてくれませんかね!」
なんかこの前の更衣室での鈴と同じ空気を感じるんだ。
「物理的に行きたいところだが……魔法少女にとってそれは最後の武器だからな。おいそれとは出せない」
「ん?」
え、魔法少女――そこで彼女の体が光り輝いてIS姿に――いや、それ校則違反……しかし、千冬姉の瞳がその姿をみて光り輝いたことで、それも意味がないだろう。
「どうだ! 余ったパーツで作ったこの姿は!」
「なんで黒のゴスロリ!? っていうか魔法少女って――千冬姉!」
「詳しく聞かれたのでつい……しかし、良い出来だろ!」
「やっぱり千冬姉の自作かよ! それって前に言っていたISスーツも兼ねているっていう……」
「自信作だ!」
ああ、嫌な予感はしたんだ……だけど予想の斜め上過ぎる。しかし、そこで終らないのが俺が俺であることのあかしなのも知れない。
「それと、織斑一夏――お前は私の嫁にする! 異論は認めん!」
「――――え」
え、ええ? 普通婿じゃないでしょうか……えっと、ええ!?
「まずは宣言しておこうと思ってな――皆の前なら、逃げられまい!」
「あ、あはは……ははは」
なんかクラス内から殺気が二つほど――いや三つぐらい感じるんだが……一夏の軟弱者とか、一夏さんまたですかおほほほほとか、ふぅん一夏ってそういうふぅんとか、そんなつぶやきが聞こえる。それと、教室のドアが少しだけ開いて――特大の殺気が漏れている。そこには、見慣れたツインテールの持ち主が……
――マタ、旗建テタナ――
俺の絶叫が上がったりもする今日この頃だが――テロ騒ぎよりかはずっと平和なんだろうなって思う。平和、なんだよな? 頼むから平和だと言ってくれよ……誰でもいいから。お願いだから……
見上げた空は、憎らしくなるくらいに青く澄みわたっていた。
ラウラは魔法少女を継承しちゃいました。
そしてひそかな千冬さんの野望がまた一歩前進してしまった。
というわけでIS二巻は終了。
いよいよ三巻に突入。
書いていて思ったのは、一夏は結婚したら尻に敷かれそうだなぁ…………