あと、ちょっと次回につつくんじゃよ的な何か。
千冬姉に書類を持って行けと言われて、目的の部屋に来たのはいいんだが……なんだろう、入ったら面倒なことになりそうな気がするが……戻っても面倒なことになる気がするのはなぜだ?
仕方がない……ここで悩んでいても意味がないよな。覚悟を決めて中に入ると――うん、割と予想通りだった。
「おー一夏かー、この前ぶりー」
「あっはっは! いっくんおひさー!」
「やっぱりお二人ですか……いや、わかっていましたけどね」
「堅苦しい話は抜きにして、ほれちこうよれ」
「いつの時代の人ですか……それよりも、はいコレ。千冬姉に頼まれて持ってきました」
「ありがとありがと……うん、まあこれですぐに作業に取り掛かれるかな」
「だねー、とりあえず持ってきた『吾輩は猫である』にデータを入力しておくよ」
そういうと、束さんはISの様な何かを取り出してそこにものすごい速さでタイピングを始めた。っていうか相変わらず早いよな……
「あの、あれって……」
「束の移動用ラボ。昔使っていたISのパーツを流用しているんだが、あれ自体はISでもなんでもない。ついでに言えば、この資料はお前たちのISのデータだ」
「……それ本人の許可なく貰ってもいいものなんですか?」
「お前たちに関しては大丈夫だよ。一夏の白式は言わずもがな、僕たちが大部分を製作したから。鈴ちゃんとオルコット嬢は白式のデータを使って二次移行させたから、僕らが調整しないと不具合が出る可能性が出ちゃったんだよ。で、ラウラちゃんはこの前のこともあるから一度精密な調査をしないといけないんだ。コアに手出しできるのは束だけだし……まあ僕もできないことはないけど」
「できるんですか……」
「外部から端末使ってある程度診れるだけだよ。本格的なことは束にしかできない」
「まあそうなんでしょうけど……誰も複製できていないんだし」
「デッドコピーならあるけどかなり質の悪いものだし……流石に束もキレて全滅したしな」
「怖いわ!」
「で、最後にデュノアさんだけど……まあ量産機ベースだし他のパーツも全部既存品というか販売されているものばかり。容量がかなり大きいのは頑張ったと言えるけど、最新技術は使われていないから」
「あー……言葉にするとひどいですね」
事実なんだろうけどもうちょっと言葉を選ぶとか……
「どう言いつくろったところで、その事実は覆らない。まあデュノア社はいい線行っているんだけど……あと一歩大事なことが足りないわけだ」
「だ、大事なこと?」
「ま簡単に言うと思い切りの良さだな。第三世代の定義なんてイメージインターフェイスを使った装備をデフォで搭載していることなんだから、適当にぶち込めばそれで第三世代になるんだよ」
「な、なんて暴論!?」
「第四世代も似たようなものだぞ。単体で換装の必要がない万能機。むしろデュノア社は第三飛ばしていきなり第四を作れるだろうに……もっと頭を柔らかくしなくちゃな――というわけで、うちの新製品を持ってきた」
「え――なんですかこれ」
「脳トレゲームだ」
「むしろ古いですよ!」
「いい線だと思ったんだがな……」
「っていうか、こんなもの作っていたから忙しかったんですか」
「違う違う。これは息抜きにコツコツやっていたのが完成したから持ってきただけだ。ま、実際に売るわけじゃないし……資金は定期的に入るようになったし」
「スレイプニル玩具化していましたからね……なんか、千冬姉がなんで暮桜は玩具化していないんだって嘆いていましたよ」
「アイツ負けず嫌いだからなぁ……後で伝手から千冬に許可とれるかもって言っておく」
「頼みます……それで、他に何か用があるんですよね?」
長々と話をしているが本来なら書類を渡せば終わりだ。大事なことは明日言うんだろうし――それでも俺を帰さないのは、俺だけに言いたいことがあるから。他に聞かれたくない、大事な話が……
「一夏……単刀直入に言うぞ」
「はい」
英さんは、一瞬ためらったかのように口をつぐむがそれを束さんが手を握ることで次を促す。大丈夫、そんな頷きをもって英さんは迷いを捨て――
「ぶっちゃけ、もう告白はしたのか?」
「いきなり何を言い出してんですか!?」
何言ってんの!? あんたは何を言っているのですか!?
「っていうか鈴に告白とか……何を告白するって言うんですか」
「……あれ、僕は誰にとは言っていないけど」
「今の会話は既に録音済みだよいくん!」
「それに告白と言ったら一つだよ一夏君」
「個人的には箒ちゃん泣いちゃうかなとは思ったけど……やっぱり、アレは違うよね」
あれ? なんだか重い空気に……なんだろう、いじられて終わるかと思ったら――いやこれはある意味チャンスなのだろうか。ここで俺のことを有耶無耶に……
「ま、今はその話は置いておくか。どうせ明日には会うんだし」
「そうだね――今は目の前のいっくんだよ」
「ちくしょう、逃げられねぇ」
「しかし一夏君も成長したね……あんなに小さかったのにもうこんなに大きく……僕より身長大きくなりそうでむかつくんだけど」
「英は怪我ばっかりだったのと、日光ダメだったからだよ」
「わかっている。わかってはいるが……むなしい」
でも俺に言われても……
「なんか、針のむしろに座っている気分」
「まあそういうなって。コーヒー飲む?」
「この後寝るんですけど!?」
「いっくん、夜なんだから静かにしないと」
「だ、誰のせいだと……まあいいです。用事はそれだけですか?」
「ああもう一つあったわ――ドライバーをちょっと見せてみろ」
そうだよな……そっちがあるよな当然。
とりあえず英さんにドライバーを手渡すと、すぐにパソコンとケーブルでつながれる。どうやらアレで内部のデータを見ているようだ。
「そういえば、千冬にばれるのは想定内だったけど、案外ばれないもんだな。数年も隠し通せるなんて」
「ちーちゃん、いっくん以上の鈍感だから……最近はなんか恐ろしいことを考えているみたいだけど」
「その話は後にしよう」
なんだろう恐ろしいことって……ろくなことじゃないような気がするけど。
あれ? おかしいな……体の震えが、止まらないや。
「うーん、やっぱり弾君と違って一夏になじみ過ぎているな……ランクが高いロックシードを使い続けた影響か?」
「それともアレの影響じゃないのかな」
「そっか、一夏の場合はあっちが影響しているよな」
なんだろう? 何の話だか気になるけど……
「まあ気にすんな。今更いっても意味はないし、正直知ったところで何も変わらない」
「は、はい」
「見た限り問題はないみたいだし、動作が不安定とか変なことはあったか?」
「とくには無いですね。普通に使えていますよ」
「ならいいんだ。戦闘データもちゃんと蓄積されているし、一夏自身の経験値もかなり詰まれている……これならゲネシス側にデータを入力できさえすれば、そっちも使えるようになるな」
「え――新型のドライバーですか!?」
「今はまだ無理だけどな……下手すると体がつぶれかねないし」
「束さんも初めて使ったときは結構負担が大きかったんだよ。私じゃなかったら体中の骨が粉々だったね」
「そ、そんなにすさまじいんですか……」
「束のは一号機だったってのもあるが、色々と問題点も多いんだよ。今は大分改良できてきたが……やっぱり量産はできないな。使用者を選びすぎる。信二も使うために訓練を死ぬ気でやっていたし、かなり気合が入っていたなぁ……」
「…………中沢さんと、千冬姉ってどっちが強いんですか?」
「今の千冬はブランクがある――という言い訳を使わなくても信二の方が強いよ」
「――ッ」
「千冬は試合の中でこそは強いが……実際に命がけで戦ったことは数少ない。僕らはそんな戦いに身を置いていたから、経験値の差がでかいんだよ」
「…………それは、わかっています」
「っていうか、条件次第では一夏君だってタイマンで千冬に勝てるぞ」
「――――え!?」
「例えばだ、鈴ちゃんがトチ狂った千冬に真剣で斬られようとしている――さあ、どうする?」
「そりゃたとえ千冬姉でも殴り飛ばしますけど……なんでそんなありえない質問をするんですか」
「言っただろ。条件次第だってな」
「――――あ」
たとえば、俺が鍛えてもいなく実戦経験もなければそんな状況でも鈴の盾になることぐらいしかできなかっただろう。しかし、今の俺は――千冬姉を殴り飛ばせるだけの余地が存在していたのだ。明確に、その光景を思い浮かべられるほどに。
「…………」
「ある意味ショックなのはわかるが……正直、色々と規格外の身体能力の僕らもそろそろ落ち始めている」
「英は無茶のし過ぎ。束さんは元々不摂生だったからね……ちーちゃんはまだ大丈夫だと思うけど……精神的になんか反動がありそうでこわいよね」
なぜだ――今の束さんの言葉に寒気がしたのは。
「ま、そういうわけで――いつまでも、自分の理想とか、目標の人物が前を進み続けていると思うなよ。追い越す可能性もある。自分が誰かに追い越される可能性もある。忘れんなよ――その力は、背中に背負い続ける力だ。誰かが、後ろにいるってことは……誰かが追い抜こうと走って来ているってことでもあるんだからな」
「……英さん」
「柄にもなくこんなことを言ったけど……まだまだ負けるつもりはないけどな!」
「最後の最後にそれですか……」
まあ、俺としてもまだ背中を見続けていたいかな。
◇◇◇◇◇
翌日。今日はISの実習。一般生徒は持ち込んだ機体で企業の人から直接色々と話を聞いたり、実際に動かしたりパーツを組み立てたりなどをするらしい。
そして専用機持ちはパッケージが送られてきたり、公開整備などをするらしいのだが……ちょっと問題が起きている。
「――――」
なんか、仁王立ちしている箒がいるのだ。
「ねえ一夏……なんで箒がいるのよ」
「さ、さぁ…………」
「そしてなんで目をそらすのよ」
「なんでだろうなぁ……」
「――――ッ!」
「痛ッ!?」
「目をそらさないでよ……もう」
そんなか細い声を出さないでください。昨日色々とあって顔を合わせづらいんだよ!
しかし、箒がここにいる理由か……なんとなくわかるけど、確証はない。
「あのー織斑先生、箒さんがここにいるのって……」
「じきにわかる――来たようだ」
やってきたのはいつものエプロンドレス。千冬姉と同じぐらいの裁縫スキルを持っているが、うちの姉よりはたぶんまともな服を作る天才博士。
そして、その隣に立っているのは――俺の目標であり、兄の様な存在。最近まで車イスだったが今は普通に歩いている……のだが、なんで弾き語りしながら歩いてきているんだろう? 束さんもタンバリン叩いているし。
「――というわけで、蜂矢英です」
「篠ノ之束でーす」
「……お前らは普通に出てこれんのか」
「終身魔法少女の千冬には言われたくはない」
「何が悪い! 終身魔法少女の何が悪い!」
「いやいや、いい年して魔法少女って……むしろちーちゃんの場合は、まほうしょj――」
「言わせるかぁ!! 事実婚のお前にはわかるまい私の悲しみが! 同級生が次々と結婚していくなか、私だけが一人ぼっちなのだぞ!?」
「いやいや、信二もまだ独り身だぞ」
「っていうか他にも結婚していない人はいるから」
「だとしても彼氏いない歴が年齢の女なんて私一人だよ……ちくしょう」
いかん、千冬姉が学生時代のノリに戻っている……そういえば、この前なんか荒れていたことがあったけど……もしかして結婚式の招待状でも来たのだろうか。
後で聞こうにも、聞いたら殺されそうだよな……
「……だめだ、やっぱ直球で言うしか方法はないんだよな」
「ざーわんには束さんから伝えておくね……むしろやまやあたりなんてどうって進めてみても――おぶ!?」
「束先輩、そのあだ名はやめてくださいって言いましたよね」
おお!? 山田先生のメガネが逆光で光って……怖い、なんか怖い。
「ご、ごめん……その、ゆるしてぴょん――――」
その一言を最後に、束さんは宙を舞った。それは、人が生身でも空を飛べるという証明だったのかもしれない。しかし、悲しいことに人は空を飛び続けることはできなかったのだ。やがて、重力という名の見えない手にとらわれて束さんは地面とキスをしてしまう。良かったことは、これがファーストキスでは無かったことだろう。
「と、ところがぎっちょん……束さんのファーストキスは地面だったりします」
「ナチュラルに心読まないでください……」
「っていうかそんなのノーカンよ」
「そう気を落さないでくださいな。今が幸せならそれでいいと思いますわ」
「よくは分からないが、気にする必要はないと思うぞ……しかし、何故だろうか? 博士から懐かしいにおいがするような……?」
「あ、あはは……噂にたがわぬお人だね」
「まったくこのバカ夫婦が……」
みな、それぞれ反応を示しているが、特に問題もなさそうでよかったな。
しかし――箒だけは、そんな束さんをとても複雑そうな表情で見ていた。それは、信じられないものを見たときという言葉がしっくりくる。そんな顔だった。
なんかもう千冬さんの面影が消えたような……これで本当に良かったんだろうか。