しかし、一夏も英すらも出てきません。
……たぶん、IS4巻は次回で終ります。
場所はイギリス。セシリア・オルコットが帰郷してから数日が過ぎていた。
やらなければいけない仕事が多く、休まる暇もない所が彼女らしいと言えばらしいのであるが。
「正直、やっていられませんわね……」
「お嬢様。紅茶をお持ちいたしました」
「ありがとう、チェルシー」
小休憩に一服。一夏にとって幼馴染が箒や鈴というならば自分にとってはこのチェルシーが幼馴染に当たるのだろうかと、とりとめもないことを考える。
そういえば、小さいころから気心も知れているし、自分以上に両親のことを知ってるかもしれない……
前々から知りたかったことを知るにはいい機会だ。もう向き合ってもいいだろう。
「チェルシー、一つ聞きたいのですがいいでしょうか?」
「かまいませんが」
「お父様とお母様のことなんですけど」
「――――」
「チェルシー?」
「い、いえ……あまりにも普段通りのままお聞きになるので、驚きまして…………学園の方で何かあったのですか?」
「あったと言えばあったのですが……そうですわね、とても得難い経験と、出会いを」
「そうですか……以前より、良い顔をなさっておりますよ」
「ふふ、そう言われると嬉しいですわ」
まだ半年も経っていないが、とても濃密な時間だった。
井の中の蛙だった自分を見つめ直すことも出来た上に、好きな人ができた。
恋敵ではあるが、いい友人もいる。
大変なこともとても多いが――それも含めて自分の成長にできるのだ。
「それで、チェルシー……お父様とお母様ですが、仲が悪かったというわけではないのでしょう?」
「ええ……すれ違うことこそあれ、お互いが望んで結婚なさったことに後悔などしてはおりませんでした。些細な行き違いや、事業のこともあってお二人とも苦しい思いをなさっておりましたが……その」
「それ以上はいいです。大方、仲直りしようとして……あの事故が起きたのでしょう?」
二人が死んだ事故。その日、二人は一緒にいた。
セシリアにとって知りたかったのは、二人の間に愛があったかどうかなのだ。
「わたくしに心配をかけまいとして、逆に二人の仲が壊れたと思わせていたんでしょう……子の心親不知、親の心親不知。まったく、わたくしを甘く見過ぎですわ……」
「お嬢様…………ハンカチ、お使いになりますか?」
「何をおっしゃっているのか……これは心の汗です。タオルを持ってきなさい。顔を覆えるぐらいの、ね」
「……かしこまり、ました」
本当に、もっと話してくれても良かったのだ。
時には正面からぶつかることも必要だとあの学園で学んだ。
間違うこともあるし、常に正しい選択を選べる人などこの世にいない。
「すこし安心しましたわ……そうですか、嫌っていなかったんですね――――良かった」
家族で過ごした日々が、壊れてしまうのではないか。自分の中で砕け散るのではないかと不安だった。
だけど、そんなことはなかったのだ。もう、戻ってこない日々だ。もう二度と会うことは叶わない人たちだ。
いや、いつかは会うことになるのかもしれない――でも、それはずっと先のことだ。
「それまで――いえ、後世にオルコット家を残しておかないと、会うに会えませんわね……出来ればその時、隣に一夏さんにいてもらいたいものですが……」
正直、難しいだろうなとは感じている。
一番の強敵との差を実感してしまったのだ。あの臨海学校で、ずっと一夏を呼び続けて見事に声を届かせた彼女との差を。
それでも負けるつもりなどない――
「恋愛に、遅いも速いもありませんからね――最後に勝ったものが、勝者なのです。わたくしも、他の方もいますから――油断していたらかっさらいますわよ」
気がつけば涙は止まっていた。あとは、未来への期待と――覚悟。
「来月には学園祭がありますし、その時に――決着をつけましょうか」
自分も、もう正面から向き合ってもいいだろう。
これまでは本当に向き合うべきなのか悩んでいたが――もう迷わない。
「どのような結果であれ、あなたにこの思いを伝えますわ……覚悟してくださいね、一夏さん」
にこりと、その微笑みはあらゆる人を魅了するようなものであった。しかし、その場には誰もいない。
その微笑みを見せる最初の相手は決まっているのだから。
◇◇◇◇◇
シャルロットが学園に残ったのは、実家に帰りたくないというのが主な理由だった。たしかに強化合宿もあるが、実家に帰省しないで学園内で行っているので普段より部活の時間が多いだけみたいなものだ。
たしかに好きな人のそばにはいたいと思う。しかし、彼に顔を合わせたくないと思ってしまったために、どうしたらいいのかわからない。
(あいつの言葉が頭に響いている……ずっとこんな気持ちが続くの? 嫌だよ、助けてよ――お母さん)
心に嫌な音が響いているようだ。まるで、今にも沈みそうな船のような、そんな気分。
頭に浮かぶのは、なんで死んでしまったんだという母への恨み言と、母を求める気持ち。
「シャルロット、大丈夫か? 水を持ってくるか?」
「……ありがとう、ラウラ」
「気分がすぐれないようなら、保健室に連れていくが……本当に大丈夫なのか?」
「うん、横になっていれば大丈夫だから……」
嘘だ。ルームメイトになったラウラには悪いが……正直、こうして会話するだけの気力もわかない。
ありがたいことだとは思うし、自分は恵まれてるとも思う。こうして友人も出来たし、欲しいものは金で買えるものなら手に入るだろう……だからこそ、それが自分を苦しめる。
(なんで私は不幸じゃないの?)
暮らしていくのに不自由はない。友人もいるし、寂しい思いもしない。
しかし、だからこそ自分はなぜ苦しむためのものを持っていないのだと思ってしまう。
(違う! お母さんはもういないじゃないか! 苦しむ理由ならそこにあるじゃないか!)
半ば無理やりに作った理由だ。もう、前に進まなければいけないのに。いつまでも引きずっていてはダメなのに。シャルロットの心の中に出来た膿は膨らんでいくばかりだ。
頭では分かっているのだ。あの女の口車に乗せられて、こういう思考をさせられていることは。
ようは洗脳。聡明な彼女はそれを理解している――しかし、心の奥底の不満や求めているものを刺激されて、それがあふれてきてしまった。もう、自分では止められないのだ。
(お母さんに会えたらいいのに――――お母さんに、会うことができればいいのに)
そうしたら何かが変わるかもしれない。
だけど、そんなことは不可能だ。そんな奇跡のようなことは普通、おこらない。
(私は……どうすればいいんだろう)
前に進まないといけないのに――過去ばかりを見ている。
誰かに縋り付きたい。しかし、一夏は前に進み続けていて――縋り付くことはできない。一夏と一緒にいたいのなら、自分も前に進まなければいけない。
(鈴やセシリアは前に進んでいる……ラウラだって、普段は抜けているところがあるけど…………強い)
簪にしたって、折り合いをつけて前に進んではいるのだ。自分と同じ手合いでありながら、どこかが決定的に異なる。むしろ自分が一番近いとすれば……
(箒は、どうするつもりなんだろうか)
人のことを言えないが――彼女はどこか危うい。
自分の考えが間違っているというか、本当は何をすべきなのか理解しているかどうかの違いだとは思う。それ以外は似ている。
「あってみようかな……でも、あまり近づかない方が良いかも」
なんというか、より鋭い空気が増したのだ。
時折泣きそうな顔を見せるが……もっと研ぎ澄まされている。
しかし、一夏だけでなく他の面子と顔を会話しているときはそれなりに穏やかになっているような気もするのだが…………自分と似たような何かを――――似たような?
「あれ? もしかして、箒も…………」
確証はない。しかし、箒も誰かと会って何かを言われた?
確認した方がいのだろうか……だけど、下手につついてヘビどころかとんでもないものが出てくる気もするし、共感というか、お互いのネガティブな部分がシンクロしたらそれこそ厄介だ。
もう少し、自分が落ち着いてからの方がいいだろう。
「…………やっぱり、少し寝ていよう」
寝ると悪夢を見そうだけど、脳をスッキリさせた方がよさそうだ。
ゆっくりと、意識を落そうと試みる…………そういえば、ラウラが戻ってこないが……
「うふふ、やっぱり可愛いのう……なんでみんな女の子だって気が付かなかったんだろう? こんなに可愛いのに…………とりあえず写メ写メ」
「んー! んー!!」
「あとでラウラちゃんも可愛く着飾ってとってあげるからねー……夢がひろがリング。この本音ちゃん監修の猫パジャマで二人のツーショットを撮るよ!」
「んーッ!!」
なんだろう? ラウラが猿轡をかまされているかのように、声を出そうともがいている。
そして、この聞き覚えのある声は……いや、そんなはずはない。しかし、確認しなければ――
「――――き、岸原さん」
「いやぁん。リコリンって呼んで☆」
「ん――――ぷはっ! しゃ、シャルット! 逃げろ!! そいつは――そいつは変態だ!」
「モチコース! だけど逃がさないわ! 捕まえて着せ替え人形にする!」
「う、うわああああああああ!?」
この後滅茶苦茶写真撮られた。
しかし、おかげでぐっすり眠ることができて少しありがたいと思ったのは、秘密である。
◇◇◇◇◇
弾は妹から聞かされた話がにわかには信じられなかった。
「マジで一夏と鈴がデートしていただと!?」
「みたいよ……本当、っていうか一夏さんのほうから…………うう、どうしようお兄! 泥棒猫に一夏さんを取られちゃう!」
「この場合、泥棒猫はお前の方になるんじゃ――――あべし!?」
「なにか言い増したか? お兄様」
「いえ、なんでもないっす…………ハァ、もう素直に告白しろよ」
「ええ!? そんな恥ずかしいことしなくちゃいけないの!?」
「お前はどうしたいんだよ!? むしろそこを乗り越えなくちゃだめだろうが!」
「お兄の言うことももっともだけど……やっぱり恥ずかしいし」
「確かにな。だけど、そこを乗り越えなくちゃ意味はないんだぞ。悩んで苦しんで、そうやって答えを出さなきゃいけないんだからな」
「……お兄に教えられるとは、屈辱」
「なんで!?」
「ロクに恋愛経験もないくせに!」
「ひどい!」
確かにロクに恋愛経験があるわけじゃないが、人を好きになったことがないわけではないのだ。今も、気になっている人というか……また会いたいなと思っている人はいるけど。忙しいらしく、メールのやり取りは少しある程度だけど。
「そういえば、来月はIS学園の文化祭なのか」
「あ――鈴さんが入場券くれるって言ってた」
「俺も一夏がくれるって言ってたな……数馬は…………無理そうだしいいか、なんか修羅場が続いているみたいだし」
「チラッとみたけど、執事服に着替えさせられてお嬢様っぽい人に引きずられていたよ」
「アイツ、一体どうなるんだ……」
「そういえば例の国のお姫様って、妹とお兄さんがいるみたいだね。後継者ってどうなるんだろうね」
「やめてあげろ。普通にお兄さんが継げばいいじゃないか。色々と重いって」
「でも珍しい国旗だよね。リンゴのデザインがしてあるなんて」
びくりと、弾はその動きを止めた。
リンゴと聞いて、少し嫌な予感がしたのだ。
(まさか、関係ないよな……)
リンゴと聞くと嫌な予感がするのは、やはり仮面ライダーとして戦う以上付きまとうのだろう。
詳しい話を英に聞いているため、色々と不安が募る。
「なんでも、建国した人が無類のリンゴ好きで、毎日リンゴを食べていたそうだよ」
「そ、そうか……よかった」
「なんで?」
「いや、こっちの話。こういうところで無駄なフラグを立てなくていいんだよ。数馬の事情に首を突っ込むことになったら、こっちが疲れそうだし……アイツの建てた旗は自分で処理してもらいたい」
本当に、一夏だけでもフラグ体質な奴は手いっぱいだというのに数馬までそうなるとはおかしいだろう。
感染するのだろうかとも思ったが――それはないな。だって自分はモテないから。
「モテなくて良かったとは言わないが、何事もほどほどが一番だよな」
「…………ソウダネー」
「蘭?」
「な、なんでもないよ」
「そうか、ならいいんだけど……なんか妙な反応だったような?」
蘭は一瞬、反応してしまったが……これがばれてはいけないと思う。
(学校で、お兄にラブレター渡してくれとか言われるんだよね……見た目はいいからなぁ…………で、でもあの子たち評判悪いし――じゃなくて、お兄に実際にあったら幻滅。そう幻滅するから! 決してお兄が心配だったとかそういうんじゃないから!)
五反田蘭。実のところ、彼女も意外とブラコンだったりする。本人は決して認めないが。
兄妹というのはどこか似ているのだ。どこぞの姉弟みたいに。
もう原作通りに進めるつもりのない4巻。
流石に、次回は原作でもあったイベントがベースです。
ゴッドイーター2レイジバースト注文したぜ……ソフマップで。
理由は分かる人にはわかるので言いません。
たまーにガンダムブレイカー2でネットにもぐっていますが、別の名前なんで気づかないかも……いや、ある意味わかりやすいか。
超高速戦闘仕様にしているんだけど、ウザいだろうか……スコア荒稼ぎしているみたいな感じになっちゃっうんだけど…………しかし、速さが足りないと思う自分がいる。