「さあ、構えなさい」
「あのバ会長、なんですかこれは」
「誰がバカよ誰が――落ち着きなさい更識楯無。蜂矢博士にスルーされまくったり、おかげで簪ちゃんの見る目が冷たくなったり、なんか最近寂しいとか、色々とあるけど落ち着くのよ更識楯無! 今更その程度の罵倒でキレるほどあなたは子供じゃないはず――――一夏君、あなたは色々と狙われる立場にある。そのことは分かっているわね」
「うわぁ、なかったことにしたよ……」
正直、今朝のことと言い、色々と言いたいことは山ほどあるんですけど。
あとなんで戦わなくちゃならないんですか? 俺としては戦う理由なんてありませんし、訓練をしたいわけなんですが……
「それは――(言えない。なんか色々と後に引けなくなって接触しちゃったなんて。だって、簪ちゃんがものすごく冷たい目で見るんだもの……ここは姉としての威厳を取り戻さないと!)――稽古をつけてあげるって言っているのよ」
「いや、別に必要ないと思うんですけど……」
「問答無用よ。さあ、構えなさい。それとも、私に負けるのが怖いの?」
「怖いって言うか……大丈夫なのかなぁ」
結局、回避はすることができずに試合が始まってしまう。そういえば、無手の試合は初めてだな……いや、小さいころにあったか? それでも、鍛えたことがないわけではないんだが……余計なことを考えずにいくか。
ギャラリーが来ていないのは幸いかなとも思うけど、長引かせるとそのうちきそうだ。鈴なんてどうやっているのか俺のいる場所を的確に当ててくるし。いや、俺も勘でわかるようになってきたけど。
関係のないことを考えていると、会長がおもむろに口を開いた。
「IS学園の生徒会長は、最強であらねばならない。あなたに私が倒せるかしら」
「そっか――なら、手加減はいらないんだな」
「あれ?」
俺の主義としては女の人に持てるすべてを出し尽くすというのはしないんだが(非常時除く)、学園最強――つまり、千冬姉と同格! ならば手加減など失礼どころかバカなことだろう。
だったら、俺は全て出し切るつもりで挑むのみ。
丹田と呼ばれる場所に力をためるように呼吸を――
「はぁあああああああ!」
「あれ? なにそのオーラみたいな――え、ちょ、そこまでガチにならなくても」
「いえ、失礼に当たりますから――行きます!」
「ちょっ!? ええい! たっちゃんならできる!」
ぶつかり合う拳と拳――されど、拳は受け流されてしまう。これは、合気か!?
腰を落として流れを強引に俺の方に持ってくる。相手のペースになってしまえば勝機は薄い。ここは絶え間ないラッシュだ!
「オラオラオラオラ!」
「まって、こんなの私聞いてない!」
なんだかポンコツみたいになってきたが――まさか、これは俺の油断を誘う作戦!?
学園最強だと言うぐらいだし、そのぐらいはするよな。おのれ、侮りがたし……
「マズイ、完全に勘違いされているし――これは本気でやらないと」
「ハァ――――無拍子」
「え――――ちょもら!?」
掌底がきれいに決まったが――会長は宙で一回転して衝撃を受け流したのか、そのまま着地する。
そのまま何も言わなかったが、こちらを見ると一言。
「あまりそういう奥義みたいのは使わない方がいいわ。そういうのは、大事な時に取っておきなさい」
「――はい!」
そうだった。こんなところで柳韻さんに教わったとっておきの技を使うなんて――まだまだ未熟だな。
それがわかっただけでも、収穫があっただろう。
「それじゃあ、これからも精進なさい――私は仕事があるからもどるわ」
「ありがとうございました!」
会長の姿が見えなくなって、俺はなんで戦っていたんだろうかと疑問に思ったが……まあいいか。
これは一度鍛え直すのもアリかもしれない。
ちなみに、会長はというと。
「おなか痛い……あそこまで強いなんて聞いていないわよ。って言うか、拳が見えなかったんだけど…………うう、ぽんぽいたい」
予想外に一夏が強すぎて、あの場で帰らないと負けていたという――むしろ実質負けていた。
油断したのもあるが、色々と想定外だったのだ。最後の一瞬、完全に対応できない一撃が自身の体に叩き込まれたことで、会長の座を一夏に渡さないといけないかもしれないと……
「そ、それだけは阻止しないと…………あ、でももうダメかも――――簪ちゃん、助けて」
「…………虚さんを呼んだから、頑張って」
「――――え」
顔を見上げると……写メをとっている簪が。
「えええええええええ……」
「ちょっと、すっきりした」
「か、簪ちゃーん! カムバーック!!」
◇◇◇◇◇
翌日、もう決めなくてはいけないということで学園祭の出し物を決めることとなったんだけど……これがうまくまとまらない。
クラス代表として俺がまとめることになったわけだが……
「なんだよ『織斑一夏とポッキーゲーム』とか『織斑一夏と王様ゲーム』って!」
「えー、だってこのクラスの売りと言ったらそれぐらいかなって」
「そうそう。集客効果ばっちりだよ」
「だとしてもそんな人身御供だれがなるか!!」
「しょうがないなぁ、鈴ちゃんに許可とるから」
「そういう問題じゃない――そもそもなんで鈴に許可とる必要が――――みなさん、その意地の悪い笑顔は何でしょうか? あと、セシリア、顔が怖い」
なんか目からビームが出そうになっているし……
そして、他のみんな。何を言いたいのかわかったからもう黙っていてください……そんなに俺ってわかりやすいのかなぁ……
「他にまともな意見は無いのか……」
「一夏、私からもいいか?」
「魔法少女関連以外で頼む。そして、教師が話し合いに入らないでください織斑先生」
「そんな!?」
「織斑先生、ちょっと向こうに行きましょうね……少しばかり教育についてお話があります」
「や、山田君!? その関節はそっちには曲がらな――うぼあ!?」
「こっちは月にいくつ胃薬を消費すればいいんですかね! そろそろきついんですけど!」
や、山田先生……あとで胃に優しい食事でももっていってあげよう。
とりあえず、あの光景は放っておこう。割と最近は見慣れているし。
「じゃあ他に意見のある人!」
「中華喫茶とかどう? 本格的な中華料理を出すの」
「いいと思うけど、たぶん二組とかぶる。あっちには鈴がいるからかなり本格的なの作れるだろうし」
「あーそっか……」
「織斑君は作れないの?」
「中華じゃ鈴には勝てない」
本当、中華だけは勝てない。アイツ、かなり努力したみたいで……
それは置いておいて、他に意見のある人はいないか?
「ならウエディング喫茶なんていいんじゃないかな。中々ないよ」
「でも、結婚しないのにウエディングドレスを着ると婚期が伸びると、クラリッサから聞いたことがあるのだが」
「「「「「……これは無しでお願い織斑君」」」」」
「お、おう……ラウラ、不用意な発言は控えような」
「嫁の頼みなら仕方がない」
「だから嫁じゃないって」
その後は、お化け屋敷でみんなのおもら――泣く顔が見てみたいと言い出す人がいたり、焼きトウモロコシを焼こうと言い出す人がいたり、色々と収拾がつかなくなってきた。
なんかもう変な意見も多いし。
「リコリン、この写真館って?」
「……そんなこと、恥ずかしくて言えないよ」
「却下」
「そんな!? なんで!?」
「自分の言動を思い出せ」
ほら、みんなも頷いているじゃないか。あの箒までうんうん言っているんだぞ。
だからな――
「もうちょっとまともな意見はないのか」
「す、すんませんっす」
「織斑君が怖い……」
「疲れているのかなぁ?」
ええ疲れていますよ。この状況に……正直周りは女子ばかりというのはキツイ。
なんにんか男性の職員もいるから良いけど……あの人たちはみな賢者のような顔をしていた。なんか一周回って性欲とかわかなくなるらしい。
俺もその境地にたどり着くとか嫌だなぁ……
「他に男性操縦者が現れてくれないのもか…………」
短期間で三次移行までしてしまったがために、たとえそうなったとしても俺はIS学園にい続けるしかないんだけどな! もうあきらめたけど。その後は就職にしろ進学にしろ有利だし。
とりあえず、意見を纏めないことには……
「なら、メイド喫茶などどうだろうか」
「――――え」
「喫茶店は確かに利益の面から見てもいいだろう。それに、それほど変わり種を使う必要は無いはずだ。最近はメイド喫茶もそれなりに知名度があるのだろう?」
「そうかもだけど――え、ラウラ?」
みんなが固まっちまったぞ……ラウラってそういうこと言うキャラだっけか?
シャルロットだけがものすごい表情でラウラを見ているけど……ふむ、メイド喫茶か。
「案外いいんじゃないか? 衣装を用意するのもそれほど難しくないし、料理は何とかできるだろうしな」
「そうだね。妥当なところだと思うよ」
「織斑君は執事服で良いと思うしね」
「あれ? 俺は厨房に回ろうかと思ったんだが……」
「「「「「ダメ!」」」」」
「そ、そんな!?」
何だと? 俺が、俺が料理をつくれないなんて…………
「まってくれ、味を確かめてから判断してくれ!」
「おいしすぎて女のプライドがヤバいのよ!」
「色々と、辛いんだからね!」
「うう、なんであんなにおいしいのよ……」
「だったらいいだろう。作らせてくれ!」
「ダメッたら!」
「そんなこと言わずに頼む!! 俺一人でも回せるから!」
だとしてもダメだよ! こういう時に表に出さないと!
ええい、俺はフライパンを握らなければ――わうあああ!? 何をする!
体のサイズを計るのよ! 衣装を準備すればこっちのもの!
や、やめろぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
抵抗むなしく、俺は執事服を着ることに。だが、諦めていないからな――俺は、必ず最高の料理を作って見せる!! だからこれで終ったと思うなよ!
◇◇◇◇◇
その部屋では――三人の女性が集まっていた。
放課後のIS学園に置いて異質ともいえるその光景はしかし、その三人以外に知っている者はいない。
「それじゃあ、コードネームたっちゃん……首尾はどうだ?」
「万事抜かりなく。それで、灰かぶり姫は行っても?」
「好きにしろ……私の用意したものはどうなっている?」
「こちらに。コードネームちーちゃん」
「ふふふ、これはいいものだ…………心が躍る」
そう言って、少女の一人が取り出したのは大きなトランク。その中に入っていたのは――町中で着ていれば職質を受けること間違いなしな衣装――魔法少女のコスチュームだった。
それを切ることになるであろう女性は――ぐふふと嫌な笑いをもらすだけ。
「これさえあれば姉の威厳を取り戻すことなど簡単だ……ああ簡単だとも」
「いいわねぇ……私も着たいわ」
「こちらにございます――コードネームたっちゃん」
「あら準備が良いわね。水みたいなイメージのドレスかしら?」
「貴女にはピッタリでしょう……用意するのに苦労しましたよ」
少女の伝手を使って用意したのだが……これにはかなり苦労した。
実用性も組み込むのがかなり難航していたそうだが、完成したと聞いたときには小躍りしたものだ。
「水の中で自由自在に泳げるんです。しかも、空気のフィルターを作れるので酸素ボンベいらず」
「そ、それはすごいわね……そこまでする必要あるの?」
「その方が面白いじゃないですか。第一、コードネームたっちゃんが実用性もあるものと言ったんですよ」
「それはそうだけど、ガチじゃない……コードネームちーちゃんのほうは?」
「強化スーツと似たようなものですね。体の動きをアシストするので、戦闘能力が三倍に上がります」
「鬼に金棒過ぎるわよ!」
「いいではないか――それではコードネームリコリン、お前のあの計画はどうなっている?」
「ふふふ、愚問です……順調もいいところ。サマーボーイの動きが未知数ですが……そこはいくらでも修正がきくかと」
「たしかに、アイツは未知数な部分がおおいからな……だが、思考は単純だ。とりあえず人質に桃姫でも用意すればいいのではないか?」
「そうですね。ではハミルトンさんを買収します。桃姫に一番近いのは彼女ですから」
「交渉材料は任せなさい――例の彼とのデートをセッティングすれば確実でしょう」
「むかつきますけどね。それが一番確実か……」
「それでは、各自気が疲れないように作戦を進めるのだ――決戦の日までそれほど時間も残っていないぞ」
「「イエスマム!」」
「ところで、こんな格好する意味はあるのか?」
「やだなぁー雰囲気って大事ですよー」
リコリンが楽しそうで何より。
色々と遊び過ぎたかな……