ふと、母さんがいたころを思い出していた。
名前はアリサ。日系何世だったかは聞いていないけど、最初は海外で暮らしていたらしい。
母さんは体が弱くて、いつも車イスに乗っていた。父さんが仕事で家を空けることが多くて小さい頃から家事を手伝っていたらいつのまにか僕が家の家事をすることになっていたんだっけ……まあ、仮に元気だったとしても天然なところがあったからむしろ後片付けを僕がしていたかもしれない……
薄い、金色の髪に僕と同じブルーの目。体は弱いから細身で背も低め。いつもニコニコ笑っていて、一緒にいるだけで楽しい気分になれる。そんな人だった。
だからこそ、あの人がいなくなったときはとても辛かった。いつも肌身離さずつけていた腕輪を僕に託して、眠るように息を引き取った……ああ、人の死を見て、大きな喪失感を感じたからこそ、僕は戦う決意をしたのだろう。あんな思いはできればしたくない。母さんが死んだのは自然の摂理だ。納得はできないけど、病弱な母さんが僕を産んで、30近くまで生きていられたのは奇跡だと医者も言っていた。だから、母さんが死んだことを受け止められたのだろう。
たぶん、これが事故だったら受け止められない。回避できたようなことで人が死んだら、受け止められなかったんだ。父さんは直接死んだところを見たわけじゃないから、どこか生きているんじゃなんて考えていたのかもしれない。それも、今じゃそうは思えないけど。
僕が少し変わったのは花蓮さんのおかげだと思う。彼女が頑張ってくれたおかげで、僕は人の死を見つめることができた。だから、考えないようにしていたことにも向き合えるようになった。
父さんたちは、ヘルヘイムの森の果実を見ると異常な食欲に襲われることを知っていた。そして、人間が食べてもインベスになることを知っていた。さて、ならなぜ父さんたちはそれを知っていた?
マウス実験だけじゃわからないことだってある。でも、確実にインベスになることをなぜ知っていたのだろうか?
まあ、答えは簡単。誰かが食べてしまったのを見たのだろう。なら、そのインベスは? まあ、そいつがどうなったかなんて四択ぐらいしかないけど。
まず一つ。今も野放し。これはないだろう。初期ではインベスはそこまで凶暴ではなかった。だったら捕まえられるはず。
二つ目にすでに殺されている。いや、さすがに治そうとするからこれもないな。
三つ目。凍結された。まあこれが一番妥当だが……そうなるとすでに死んでいる。
そして四つ目…………シカインベス暴走体。アイツが、人がインベス化した存在だった。
…………果実を摂取したらインベスとなる可能性があった以上、心のどこかでは覚悟していたことだった。だけど、言葉にすると重みがつらい。
苦しい。体が、心が、重い。
父さんはなんで僕にこんなものを託したんだ。家を空けることが多かったけど、本当に母さんのことが好きで、変な癖がたくさんあって、僕に色々教えてくれる……そんな人だと思っていたけど、なんだかよくわからなくなってきた。
そこで、自分が真黒な空間で寝そべっていることに気が付いた。暗くて何も見えない……いや、自分の体は見えるから暗いわけじゃない。でも、真黒なんだ。
……視線を感じた。その方向を見ると、父さんと母さんがいた。
「なんで、何も言わずに死んじまうんだよ」
『……』
「なんで、二人とも、あっさりといなくなるんだよ……」
『……』
「…………言いたいことだって、たくさんあったんだよ」
気づけば、どうでもいいことから大事なことまでぽろぽろと言葉をこぼしていた。学校のこと。いつの間にか一緒にいるようになった天才や、そいつと関わるようになった苦労人仲間のこと。自分たち以上に苦労してるだろう先生や、今まで自分に影響を与えた人。新しく作れるようになった料理、なつかれたちびっこ。
最初に戦ったインベスのこと。自分でスイカアームズを完成させたこと。仮面ライダーなんて呼ばれていること。巨大インベスや、ISとの戦いのこと。
気が付けば、色々と語っていた。
語り終えたときにには、なんだか目が熱くなっていた……視界がぼやけて、父さんたちが何人もいるように見えた……いや、実際増えていた。
だけど、そこにいたのは花蓮さんだった。思わず、走り寄ってしまいそうになるが、三人は首を横に振った。
そうだ……この先は僕はまだ行ってはいけない場所だ。まだ、やるべきことは残っている。
名残惜しいが、僕は戻らなくてはいけない。
「……次に会うのは、ずっと先にする…………またね」
父さんたちは、いつもの笑顔だった。
◇◇◇◇◇
「……痛ッ」
あばらだけじゃなくて、体中が痛い。体を起こすと空には星が見えていた。どうやら結構長い時間気を失っていたようだ。
変身も解除されている……インベスとかに見つかったらヤバかったな、とりあえず僕は近くに落ちていたカバンから包帯や治療道具を取り出して応急手当をする。あばらの傷みがひどい。元々痛めていたけど、骨とか大丈夫だろうか……
とりあえずの手当てを終えて、持ってきていた食糧を取り出す。おにぎりにして正解だった……ぐちゃぐちゃでも何とか食べられる。ラップに包んでおいて助かった。水筒はへこんでいたが、中身は大丈夫……帰ったら新しいの買わないと……あ、荷物もけっこう血塗れだし、他にも色々……はぁ。
「とりあえず、装備の確認しないとなぁ……効果のあったのはパワー系の武器。パインとマンゴーだったけど、二つとも黒くなってるし……こりゃあしばらくは使えないな」
どちらもエネルギー切れとは厳しい。クルミやドングリもパワー系といえばそうだけど、あの騎士相手には通用しないだろう。ドリアンもすこし厳しい。あとはバナナかオレンジ……オレンジ、かぁ……
「そうだよ、ブラッドオレンジがあるじゃないか」
リスキーだが、あれ以上にパワーの出るロックシードは他にない。とりあえず、この崖を登らないことには始まらない。
すぐに変身して、スイカアームズへ切り替えたのちにジャイロモードで飛び上がる。そして、ブラッドオレンジアームズを装着する。
「……前よりは、慣れたしけるかな」
腕輪は相変わらず光っている。どうやら、先ほどの場所から移動していないらしい。
走ると、すぐにたどり着いた。炎の球……いや、今回は最初から騎士の姿だ。あたりにはインベスと思しき残骸が転がっている。爆散することなく、体のパーツが残っている?
『……』
「今度は、さっきみたいにはいかない。お前が何者か、僕は知らなきゃいけないんだ!」
最初から全力で行く……両手に持った刀を相手に向け、腰を落とし、一気に地面を蹴り上げ、相手へと駆け抜ける。騎士も歩幅を調節しながら、僕の攻撃を受け止める体制を作る。だけど、今回は小細工なし。正面から切りまくる!
「うりゃああああああ!」
『ッ!?』
「策なんて無し! 防御しきれないくらいの攻撃を浴びせまくる!」
攻撃は最大の防御。下手な小細工をしても倒しきれない。しかも反撃を食らえば一気にピンチになる。なら、相手に攻撃をさせないで攻撃し続ければいい。
右で切る。左で押し込む。蹴る、タックル。もう一度切って、突く。自分でもどうやって攻撃しているかわからないほど、ただひたすらに攻撃する。時に、ブレードをたたいてスカッシュ、オーレ、スパーキングの声が響く。だけど騎士にはそれでも通用せず、まだぴんぴんしている。
【ゴールデンオーレ】
【ブラッドオレンジスパーキング!】
騎士の盾に炎が収束していく。それと同時に、僕もスパーキングを発動させる。大橙丸に集まっていく赤い光。それが、花弁の様な形で漏れ出す……腰に刀を当てて、居合のように構える。
「はあああああああああああああああああ!」
『――!』
騎士から放たれたのは熱線。膨大な光と熱を放出しながら僕へと迫ってきた。それと同時、こちらが繰り出したのは花弁の渦。それが熱線とぶつかり、拮抗する。
どちらも、ぶつかり合って……このまま消える、そう思った時だった。
【ゴールデンスパーキング】
まだ、絶望の先があった。騎士は剣を盾にしまうと、熱線の放出を一瞬やめる。その瞬間は花弁が迫っていくが、騎士もまるで居合のように剣を抜き放った。
そして、炎の斬撃がとてつもない速さで放たれたのだった。気が付いたときには体が弾き飛ばされていて、強烈な痛みが体を襲う。
「あ、あがああああ!?」
ブラッドオレンジでも、だめなのか……どうすればいい? こうなったらダメもとで他のアームズを全部試してみてでも――そうして、他のロックシードをまさぐると、なんだか妙な形のロックシードに気が付いた。なんだか、熱をもっていて変な感触もする。
取り出してみると、それは血に濡れていた。だけど、驚くべきはそこじゃない。淡い色だが、全体が光っていて……機能停止しているハズの、エナジーロックシードだった。鮮やかな赤色の果実……番号は0となっていて、父さんが独自に作ったという試作品。地に濡れていたのは、怪我をしたときか?
なぜこれが使えるようになっているのかわからない。専用のドライバーが必要らしいが、ダメで元々。他に手はないし、僕はおもむろにこのロックシードをドライバーにセットしようと開錠した。
「いくぞ」
【ホオズキエナジー!】
頭上に形成される鬼灯の形をした鎧。そういえば、見ていなかったからわからなかったが、ヘルヘイムの森にいるからクラックを開くタイムロスはないのか。ということは鎧はヘルヘイムの森の中で形成されるってことなのか……まあそういう考察はあとだ。
ドライバーにセットし、ブレードをたたく。いつもと違った感触だったが、問題なく開いた。どういうわけか、いつものように輪切りじゃなくて、カバーが開くように、上へと開いている。ちょうど、真ん中で二つにわけて、左右が斜め上に開くような構図だ。長い耳にも見えるような形。
そんなことを考えていると、頭上で展開された鎧が下りてくる。いや、鎧というよりは服にも見える。前掛けのように展開され、腕や背中の方にも垂れ下がっている。頭には本来の鬼灯の果実が降りてきて、兜となる。展開されて、頭の上に伸びた二本の角……鬼のようにも見える。
そして、格好は陰陽師などが着る服ににているだろうか? 手には赤い骨剣――鬼灯刀――をもっていた。禍々しい形で、赤と黒のそれは妖刀にしか見えない。
【ホオズキエナジーアームズ! 一刀両断!】
「反撃、開始だ!」
地面を蹴り上げて、とびかかる。思ったよりも距離が出て、騎士の後ろ側に来てしまった。なんと、騎士も目が追い付かなかったようで驚いている。思わぬチャンスができた。すぐさま剣で切りかかると、騎士はくぐもった声を上げて倒れる。
え? と驚いていると騎士が立ち上がって切り付けてきた。だけど、見た目以上の強度を誇るのか、まったく熱くなく、それどころか騎士の攻撃がはじかれた。
「……ブラッドオレンジ以上の性能かよ。まあ、無双セイバーは展開されないみたいだけど、ね!」
再び切りかかる。騎士は盾で受け止めるが、盾はやすやすと切り裂かれ、攻撃が届いた。予想以上の性能で、逆に怖いが……今は、こいつを倒す方が先決。こんどは刀と剣がぶつかる。おくれてゴールデンスカッシュの声が聞こえてきたことから、スカッシュを使うことで威力の底上げをしたらしい。
だけど、こちらはそれでも拮抗どころか押している。恐ろしいまでの性能。思いっきり力を込めて、刀を押す。すると、耐え切れなくなったのか騎士は後ろへ飛んでいった。
そこで、止めとばかりに僕はブレードを動かす。
【ホオズキエナジースカッシュ!】
「はあああああああああ」
刀に赤いエネルギーが集まっていく。そして、体を回転させて、斬撃を放った。
「ぜりゃああああああああああああ!」
刀から放たれた斬撃は、一瞬で騎士までたどり着き……騎士の体を引き裂いた。
そして、切られた箇所から……膨大な炎が漏れ出していく。
「な、なんだ!?」
『ウ、ウオアアアアアアアアアアアアア!?』
傷口から徐々に体が炎へと、変わっていく。それでもまだ騎士の形を保っているが、やがて、ひときわ大きく燃えたかと思ったら……そのまま消えていった……
死んだのか、なんて思ったけど……腕輪はどこか遠い場所を指しているようにも見える。夜だから薄っすらと輝いているのが分かった。
最後に燃えたのは、僕のつかった力じゃない。あれは、騎士自身が形を保てなくなったとか、そう言う感じだ。というか、炎の塊が騎士の形をしていただけだった?
「え、じゃあなに? 今のは分身とかそういうこと?」
一気に気が抜けて変身が解除される。今のが分身だとしたら、本体はどんだけ強いんだよ……改めて、自分が戦っているものの強さと、先の長さに驚く。
だけど、そんなことも考えていられなくなった。
「う、ぐご……ゲプァッ」
急に、のどを熱いものが通って口から吐き出される。黒いような液体……いや、血だ。なんか体中も痛いけど、戦ったことによるダメージとは別種の傷みが体を駆け巡る。
もしかして、ホオズキエナジーのせいか?
「ま、まさかブラッドオレンジ以上のリスクがあるなんて……これ、とっとと帰って治療した方がいいよな」
ボロボロになった体に鞭打って歩き出す。
収穫はあったと言えばあったのだが、まさかこんな諸刃の剣が手に入るとは夢にも思わなかった。
というわけで、モデルはホオズキ。感じで書くと鬼灯。ちなみに武器はフィフティーンの色違いのイメージ。
死者の霊を導く提灯に見立てて使われることがあるので、そこからオカルトチックなイメージで一風変わったアームズにしてみました。
試作品故に戦極ドライバーでも開錠は可。ただし、本文のようになる設定。