体が痛い。なんとか家までたどり着いたものの……体中包帯だらけ。血も大分流したし、家から出ることもままならなかった。今はヒマワリロックシードを使って点滴の代わりにしているけど……血が足りない。肉が食べたい。
一応、ヒマワリロックシードが増血してくれているけど何も食べないままというのもキツイ。とりあえず、近くのコンビニかファーストフードにいこうか考えるが、歩くのも痛い……あ、出前って手があるじゃないですか!
まあ、普通に宅配……ピザたのんでしまった。高いけど、後悔はしていない。胃が痛むけど根性で乗り切るんだ。ファイトだ僕。
「……いや、ここまでするのもどうかなぁとは思ったけど……むなしい」
体の傷みがひどいから、無理にテンションを上げようとしたけど……さすがにキツイ。まあ、空元気だけど動けるようにはなったから、向こうで採取した土や水などを調べることにする。
ネットで簡単な調べ方などを検索し、色々試したものの……あまり大したことは分からなかった。微生物は普通に存在しているようで、顕微鏡で確認はできた。むしろ、地球のものよりも高い品質を持っているようだ。
あとは木の皮とかなんだが……地球上の植物とは特徴が違いすぎる。葉っぱも見てみたが、なんか細胞からして若干違うような……父さんに貰った小さな木――世界樹の苗木と父さんたちは呼んでいたらしい――は地球の植物とはあまり変わらなかった。ブナに近いだろうか? 見た目は完全に盆栽である。
「なんだかなぁ……やっぱり植物以外はヘルヘイムの森と地球じゃ同じものなんだよな、基本的に。そういえば星はどうだったか…………あれ? そういえば普通に月が浮かんでいたよな」
模様も同じだったと思う。地球に戻る際も、無意識に方角を確かめるときに北極星を探していたし……普通に星座も地球と同じだった。これはどういうことだ?
地球に戻る際はGPSなどを使って座標を確かめて……まて、なぜ向こうでGPSが機能した? あれは衛星の電波をキャッチしたりしないといけないのに……それに僕の通信端末は父さんが世界中を飛び回っていた関係で衛星携帯の機能も持っていた……それが動いたってことは、宇宙空間は共通している? いや、ヘルヘイムの森が地球と同じ場所、同じ時間、同じ空間に存在しているってことになる。SFとかでよくある、次元の先とかそういう感じの世界ってことなのか? というより、異界といった方が正しいか?
「……つまり、今この空間と重なるようにヘルヘイムの森は存在している。感覚では分かっていたけど、言葉にするととんでもないな」
黄金の果実はあらゆる神話に出てくる不老不死の果実や、食したものに強大な力を与える果実の元となったものらしい。父さんたちは最初のうちはなにか、強大なエネルギーを持った物質とか、進化を促す作用を持った植物だとか考えていたみたいだけど……いつの間にか、とんでもないものを研究していたことに気が付いたらしい。
結局のところ……僕一人じゃ限界がある。まだ僕一人でもできることは多いけど、先行き不透明なのは変わらずだなぁ……黄金の騎士はとてつもなく強そうだし、話し合いが通じる相手かどうか自信もない。インベスはそれなりに相手できるようになったけど、暴走体クラスが出たらヤバいな。ホオズキエナジーは正直二度と使いたくないから、自分の力を鍛えないと……やっぱり、剣道とか習うべきか? いや、相性を考えて武装を変える以上、それも逆効果になりうる。
「……実戦形式で稽古つけてくれないか聞いてみるか…………篠ノ之がうるさそうだし、どうするかなぁ」
仕方がない。それは怪我が治ってからにして、今日はロックシードの整理をしよう。スイカは……しばらく使えないな。予備もないし、巨大インベスが来たらブラッドオレンジしかないか……ホオズキは一度じっくり調べてからにしないと使いたくないし……あとは、血が固まって…………洗浄だな、これ。マンゴーは、ある程度回復したか。でも……パインがエネルギー切れたままだ。
「……無茶させ過ぎたかなぁ? なんだかんだでこれもよく使っているんだよな」
元々、和風アームズはよく使っているのだが……それでもパインの使用度は高かった。鎧は硬いし、武器は強力でリーチもある。欠点はスピードの遅さだけど。それでも十分優秀だと思う。
だからこそ、こいつが使えないのは結構痛い。
予備あったかなぁなんて考えていると、電話が鳴り響いた。パインロックシードを懐にしまい、電話に出ると織斑がなんだか落ち込んだ様子で出てきた。
「ど、どうしたんだ織斑?」
『束に……束に料理で負けた』
「あきらめろ。篠ノ之も料理下手だけど、お前よりかは何万倍もマシなんだよ」
『あきらめられるかッ! 一夏に、一夏にも束の方がいいって言われたんだぞ!?』
「……で、僕にどうしろと?」
『今からこい。私に料理を教えろ』
なんという、暴君ッ
「ええぇ……大怪我していて体中痛いんだけど」
『おととい見たときはぴんぴんしていたじゃないか! しかも自宅で普通に電話に出ている時点で嘘だと分かるわッ! いいから来いッ! 女にはなぁ……負けられない戦いがあるんだよ!』
「……わかったよ。いくよ、いくから静かにしろ」
仕方がない。行くしかないか……一応、最低限のロックシードとドライバーも持って織斑の家へと向かう。というか、大怪我は本当なんだけどなぁ……
◇◇◇◇◇
「すまん、まさか本当に怪我をしているとは思わなかったんだ」
「こっちこそ悪いね、まだ血の処理が完璧じゃないから、臭いがきつかろうに」
「本当にすまん。だからそんな目で見ないでくれ……一夏も、一夏もそんな冷たい目はやめてくれ」
一夏君、マジで冷たい目をしている。そりゃそうだよね、姉が大怪我したパシリ呼び出したりしたら、そんな目でみるよねー
「本当、悪かった……」
織斑が地面に突っ伏したところで、簡単なレシピを書き出す。今日はオムライスである。まあ、こんなもの味付けさえ間違えなければ食べれないモノなんて完成しないんだが……
「とりあえず、卵とご飯と、塩コショウ。あとは玉ねぎが基本となる材料だ」
あとは味付けは自分の好みだ。ケチャップとかデミグラスソース……はビーフシチューで代用できるからいいか。
ちなみに、織斑はどうやったのか……ご飯が黄色で卵が赤かった。なぜ、こうなったんだ? 卵の減りが異常だったから、ご飯に卵を混ぜたものに、ケチャップを大量に投入した卵焼きをのっけたんだと思う。え、味? 一応食べれなくはなかった。進歩したはしたけど、オムライスではないから点はあげません。
ちなみに一夏君はオムハヤシを完成させた。末恐ろしい。
◇◇◇◇◇
涙目だったが、織斑にお礼を言われてのろのろと帰宅する。織斑、良かったじゃないか……一夏君がお姉さんのために家事を頑張るって言っていたぞ。え? そういうことじゃない? なんて一幕もあったんだが、それは割愛する。
「あー、体いてぇ……」
夕飯どうしようか悩んでいると……なんだか、商店街の方が騒がしい。近くに行ってみると……巨大なインベスが爆走していた。
見た目からしてイノシシだな、あれ。と、のんきなことを考えているヒマはない。幸い、直線的にしか動かないから大怪我をした人はいないみたいだけど、とっとと何とかしないとマズイ。急いでドライバーを装着し、ロックシードを取り付けようとするが……あれ? 赤いからブラッドオレンジかと思っていたんだけど、これヒマワリ(血塗れ)じゃん。どうやら間違えたらしい。仕方ない。じゃあこっちのイチゴ……ヒマワリ(血塗れ)だった。
ダメじゃん! どうすんの!? 銀のリンゴは家においてきちまったし……持っているのは……パイン(エネルギー切れ)……こうなったら!
「ヒマワリのエネルギーよ! パインに、パインに流れ込め―!」
思えば、この時の僕は予想外のうっかりミスに混乱していたんだろう。なんだか妙なことをしてしまっていた。だけども、天は僕を見捨てていなかった。
突然、腕輪が輝いたと思ったらロックシードが輝きだして、光がパインロックシードに流れ込んでいく。
変身のために路地裏に入っていなかったら誰かに見つかったかもしれない。それほどの強烈な光が病んだと思ったら……ヒマワリロックシードは崩れ去って、後には見たことない色のパインロックシードがあった。パイン部分はクリアになって、色も全体が銀だったものが黄色というか……なんか、輝いている。
「な、なんじゃこりゃぁ!?」
驚きも通り越して、口が開いたままふさがらないが、今は驚いているヒマはない。とにかくダメ元で開錠する。
【フレッシュ! パイン!】
ふ、フレッシュ? 気にはなるがとりあえずセットして、ブレードをはじく。
いつもの通り、空にはパインが浮かんでいるんだが……なんだか、いつもより輝いている。いつものように装着すると、両手にはそれぞれパインアイアンが握られている……なんで?
【フレッシュ! パインアームズ! 粉砕デストロイ!】
なんだかドライバーもいつもよりテンション高いし、でもまあ使えるなら何でもいい! とにかくインベスを止めようと商店街へと出る。しかし、驚いたのは自分の足のスピードだ。いつものパインアームズの三倍は早い。イチゴアームズに匹敵するレベルだぞ……
とにかく、これは幸いといそいでインベスを追いかける。どうやら商店街を抜けて広場の方へと向かっているらしい。これはチャンス。あそこなら人に被害が出にくい。
一気に加速してインベスに並ぶ。そして、パインアイアンを足もとへ投げて巻きつける。二つある分拘束力も上がって、インベスの突進を止めることに成功した。
「ブモオオオオオ!」
「鳴き声まんまかよッ! ええい! 今日は速攻で片付ける!」
まず、右手のパインアイアンで頭を叩く。次に左手で持ったパインアイアンで叩く。予想以上に威力があるのか、頭を揺らされてイノシシインベスはふらふらとよろめいていた。
一気に決めるため、最後のコンボを決める。まず、両手のパインアイアンを横方向から挟み撃ちで頭を叩く。さすがの巨大なインベスもこれには参って、意識が飛びかけている。そこでさらに頭上に左手のパインアイアンを叩き込み、頭を地面へとつけさせる。
「止めだ!」
【フレッシュ! パインオーレ!】
今度は右手のパインアイアンで下から叩き上げるが、かなり巨大化していて……大きさはイノシシインベスと大差ないな……ちょっとやり過ぎかもしれないが、スマン。加減できない。
空中に吹っ飛んだイノシシインベスは、そのまま爆散して消えた……周りの人たちが呆気にとられている隙に、走って路地裏に入り込んで変身を解く。やべぇ……サクラハリケーンまで忘れるとか……今度からはもっと気を付けよう。
◇◇◇◇◇
織斑一夏はその日、姉の知り合いの男の人から料理を教わった後、商店街へ買い物に来ていた。昨今のネット環境や、テレビもあって彼はいい野菜の見分け方などを知っている。千冬が家事全般苦手な分、彼は家事がとても得意であった。しかも、教えてくれる人がいるためその実力は伸び続けている。
今日も、使い切った卵や足りなくなっている野菜を買いに商店街まで足を運んだのだが……そこで彼は見たのだ、巨大な怪物と、それを倒すヒーローを。
「すっげぇ……」
少年はその姿にあこがれるだろう。周りを見ると、他にも目を輝かせてみている子供たちがいた。やんちゃそうな男の子、眼鏡をかけた気弱そうな女の子、裕福そうな男の子、男女問わず、色々な子がいたが……みんな同じように目を輝かせていた。
テレビの中だけじゃない。目の前にいる、ヒーローに。
残念ながら怪物が爆発したことに目を奪われて、そのヒーローは消えていたが……子供たちの心には残り続ける。
いつの日か、その思いが大切な力となる日が来る。でも、それはまだ先の話。
書き始める前から、いつかやろうと思ったフレッシュ。
すまねぇイノシシインベス。公式サイトでも紹介がない不遇のインベスなのに、ここでも不遇にしちまった。
いつかまた出します。
次の話は高校編突入までのダイジェスト風味の予定。