とりあえず、そのことを念頭に置いておください……
というわけで、最終章前篇、シャルロットさんでスタート。
EP171.彼女の決意
彼女――シャルロット・デュノアがなぜIS学園を離れたのか。
それを語るには、まず彼女の出生について語らねばなるまい。
彼女はフランスの片田舎で生まれた。母と二人暮らしだったが、それなりに楽しい人生を歩んでいた――しかし、それも長くは続かない。
突然の死。身寄りのなかったシャルロットはそのまま孤児院にでも入れられるところであっただろう。本人もそう考えていたが――そこで、じつの父親と出会う。
IS業界で大きなシェアを持つ大企業、デュノア。その社長が自分の父親だったのだ。
しかし、彼女の母と父親の関係は――愛人。
認めることができなかった。幸せな生活は突然終わりを告げて、過酷な人生が始まったのだから……そう、思い込むことで自分の心の均衡を保つしかなかった。
確かに本妻からは嫌われているだろうが――父親がそうとは限らない。会話こそ少なかったが、デュノア社の社長という立場を考えればシャルロットと会話するということ自体が難しいのだ。しかし、シャルロットにはそれが自分に対する言い訳になる。
だからこそ、証拠を隠滅して彼女のことを放っておけばいいのになぜ引き取ったのかを考えることはなかった。自分に大金が入ってくるのはテストパイロットをしているからだと、自分がこうして生きていられるのは自分が頑張っているからだと、そんな風にとらえて。
本来――彼女の様な少女が一人で生きていくことは難しい。整った容姿も相まって、身寄りがなかったのならば……きっと、筆舌にはしがたいことになっていた。
そんな中、IS学園に男装していけと言う命令を受けた――そんなもの、ばれたときはデュノア社が危ないどころの話ではないのに。シャルロット自身は学園に残れば身の安全は保障される。ハッキリ言って、メリットは彼女にしかない。しかし、社長はそんな命令をした……よく考えれば、彼が何を考えているのかわかったはずなのに。
いや――きっと彼女も心のどこかでは分かっていたのだ。それでも認められないことはある。
彼女は、どこまで行っても――母の死を克服できていない少女であった。
学園では頼りになる人――一夏に依存しかかった。誰かとぶつかり合うことがあれば、その悩みも解消されたかもしれない。しかし、自分と相対した人たちは自分よりも先に進んでいった。自分が追い付けないスピードで。
ISも長い操縦経験があったからこそうまくやれていただけ。むしろ、それでも二次移行ができていない自分に悩んでしまう。自分以外の代表候補生は才能豊かだ。癖のあるISを使いこなしている。一夏も、まだ数か月だというのにあの強さ……彼らがそんなこと考えるハズは無いというのに、自分の居場所はここにないと思ってしまたのだ。それだけで、自分はどうすればいいのかわからなくなる。
そして、話はなぜIS学園を離れたのかに戻る。
その悩みだけならばシャルロットはIS学園を離れたりしなかっただろう。しかし、彼女はある可能性に出会ってしまった。
オーバーロード。人を超えた存在。そして、黄金の果実……その力があれば、あるいは母をよみがえらせることができるのではないか?
やってはいけないことだろう。世の理を自分の都合で乱すのは――正しいとは言えない。しかし、そこに一縷の望みがあるのならば……彼女は藁にも縋る。
しかしISを持ってきてしまえば国際指名手配は確実。だからこそ、学園を通じて返還したのだ。
学園もテロ騒ぎのこともあってすぐに辞められるような状況。自分以外にも辞めた人はいただろう。だからこそ、彼女はあっさりと学園から離れて――ただのシャルロットになってしまった。
そして――自分に学園を離れるように誘導した人物と顔を合わせる。
◇◇◇◇◇
IS学園から大分離れた場所。荒れている海が見えるその場所に私はいた。
「時間通り……まだ、あの人は来ていないのかな」
今頃、みんなは心配しているだろうか……心配してくれているといいな、なんて考えるのはまだ未練があるからか。いや、未練が無いわけない……だけど、私の願いをかなえるためにはこうするしかない。
あの時、箒の言葉から推察するに黄金の果実とやらには願いをかなえる力がある。望みは薄いかもしれないが――そこに可能性があるのなら、私はつかんで見せる。
と、彼女を待っていたら――空間が歪むようにして現れた。今は、人の姿をしているが……私は知っている。そいつが、人間ではない別の存在であることを。
「久しぶり……でいいのかな? アンバーさん」
「うふふ、うれしいわぁ……あの厄介な連中を相手にするのに戦力は一人でも多い方が良いものぉ」
アンバー。幻覚能力をもつオーバーロード。亡国機業の中でも諜報などを担当している存在らしいが……自尊心と虚栄心の塊。それが私が彼女に持つ印象だった。
戦力が欲しいのなら直接さらえばいいものを……こいつは、自分が自由にでき、かつ秘密裏に動かせる戦力が欲しいらしい。
(まあ、亡国機業も一枚岩じゃないってことか…………大きな組織なら当然だけどね)
この女の性格はなんとなくわかっている――自分の目的のためなら、平気でボスを裏切る。友達というものすら信じていない、自分だけが良ければそれでいいという手合いだ。
私自身、そういった感情が理解できないでもないが……
「それで、覚悟はできているのかしら?」
「ええ、そのために私はこちらに来たのですから」
それを聞くと――彼女は満足そうに笑い、私に黒いドライバーとロックシードを手渡す。
ドライバーの方は戦極ドライバーと呼ばれているものだとは思うが……ロックシードは、出回っている情報でも見たことがないものだ。いや、形自体は見たことあるのだが……
「黒い、バナナ?」
「通常の物より性能を強化したバナナロックシードよ。まあ、熟れたバナナね」
「……青いものもあるのですか?」
「開発はしていたんだけど、実用には向かなかったわ。とりあえず、それがあなたの新しい力よ――これで、この世界を手に入れましょう。ねえ、シャルロット」
世界か……大口をたたくなとは思うよ。
完全に油断しきっていて、護衛すらつけないこの女が世界を手にできるとは到底思えない――しかも、私が洗脳されているなんて勘違いしたこの女には。
(生憎だけど……最初から、私を洗脳するために動いていたのは分かっているんだよね)
おそらくは、私の経歴から染めやすいと考えたのだろう。箒もその傾向があるとは思うが……個人的な戦力とするなら私の方が都合がいい。心の弱点がわかりやすく、訓練を積んだ人間。
即戦力になる上に洗脳にかけやすい。たしかに私はそんな人間なのだろう……だけど、この女は一つ忘れている。
「それじゃあ、私に見せて頂戴。あなたのその力を……うふふ、きっと綺麗な色なんでしょうね」
「そうですね――それじゃあ、変身!」
ドライバーに描かれたのは――赤色の騎士。空から降って来てのは、黒色のバナナ型の塊。だけど、禍々しさとかはそこにない。黒っていったら悪いイメージがあるけど……そんなこと言ったら、ラウラに失礼か。
そして、私の体にその塊が装着されて――
【バナナアームズ! ナイトオブスピアー!】
――変身が完了した。思ったよりも、体になじむ。いや、元々体になじむようにスーツが構成されているんだろう。それに体に力があふれてくる……ロックシードが私の身体能力を底上げしているのかな?
色々と興味深いけど……慣れも必要だと思う。手に持った槍は、バナナをイメージしているのだろうか……ただ、川と思しき部分が黒く、果肉をイメージした部分は黄味がかった白だ。
「素晴らしいわ! そこにいるだけで、力の圧力を感じる……エナジーロックシードにも対応できるでしょうね…………これで、あの憎き篠ノ之束にも……あはは、はははは!」
「……」
「どうしたの? あなたも笑いなさいよぉ! これであなたの望みにも一歩近づいたのよ? さあ、今日は新たな仲間が増えたことを祝うわよ。これから私たちのアジトで――――ッ!?」
それ以上は、言葉をしゃべらせなかった。正直、そろそろ聞くに堪えなかったし――それに、この女はとんだ思い違いをしている。
アンバーは呻くように、私を信じられないものを見るかのように見ていた。
「な、なんで…………私の体を、バナスピアーが貫いて………………シャルロット、あなた……なんで」
「悪いけど、あなたと一緒には行けないよ……生憎、ラピッドスイッチを習得しているおかげで洗脳されても客観的にそれはおかしいってセーフティが働くようになっているんだよね。いつも、複数のことを同時に考えられるようにしているから。私を操りたかったら……それこそ、もっと徹底的にやらないと。あなたみたいな小悪党じゃ無理だろうけど」
「こ、このおおおおおおお!!」
腹を貫かれているが、どこからその声を出しているというのだろうか。
その姿が、オーバーロードのものに変わろうとするが――そうはさせないよ。
【バナナスパーキング!】
バナスピアーから力が弾けて、内側からアンバーを串刺しにしていく。その力に縫い止められて、彼女が動けなくなってしまう。しかし、仮にもオーバーロード。これだけじゃ死なないか……
体も、オーバーロードの物に変化してしまっている。しかし、体が動かないのは変わらず。なんだ、てっきり拘束がとけちゃうかと思ったんだけど……そこまでの力はないってことなのかな?
「このッ! 恩知らず! ダレがその力をあげたと思っているのよッ!!」
「それについては感謝しているよ――だけど、あなたのその力は誰に貰ったモノなの?」
「――――ッ」
「あなたも、裏切ろうとしていたんでしょ――だったら、人のことは言えないよ」
「ま、まって! あなた一人じゃ首領には勝てない! 黄金の果実はそう簡単には――」
「そんなことは分かっているさ――でもね、だからと言って……私はIS学園のみんなと戦いたくはないんだ。こんな私だけど、友達になってくれた大切な人たちだから」
「――――」
「あなたと私を分けたとすれば――きっとそこなんだろうね」
そうして、私はブレードを四回たたいて――ロックシードを暴走させる。
火花が飛び散っていて、今にも爆発しそうだ。私はそれを、ドライバーから外して強く握った。
「なっ!?」
「さあ、このロックシードを直接体に入れられたらどうなるのかな? たとえば、この槍で貫いた大穴とかに」
結果は、すぐに現れた。
いくらオーバーロードといえど、体の内側からの爆発には耐え切れなかったのである。
◇◇◇◇◇
案外、あっけない終わりだった。その場には、アンバーだったものが転がっているだけだが……すぐに空気の溶けるかのように消えていってしまう。
人をやめたことで、残りすらしないのか……最後はどんな顔だったんだろうか……人をやめてしまったせいで、その表情は分からなかった。
「なんで、人をやめたりしちゃったのかな」
考えていても仕方がない。それぞれに、望みとかやらなくてはいけないこととかあって、その結果オーバーロードになる選択をしたんだ。
それについて私が何か言うわけにはいかない――だからと言って、他者を踏みにじるのが正しいことなんて思わないが。
「……色々言ったけど、まだ私も未練がましいか…………よし」
ナイフ――以前、ラウラが護身用にとくれたもの――を取り出し、自分の髪に当てる。ここから先は、ただの田舎娘のシャルロットは捨てる。シャルル・デュノアも、シャルロット・デュノアもだ。
自分も目的を達成するまで――僕はシャルル。ただのシャルルとして戦おう。
男装して入学する時、女の子でありたかったからそのままにしていた長い髪――自慢でもあった、長い髪を私は切り払った。本当ならもっとちゃんと斬りたかったところだが……そんな考え自体捨てないとね。
「ここから先、僕はシャルルだ。みんなには頼らない。一人きりになるけど……みんなと戦わずに、それでも自分の願いをかなえるためにはこれしかないんだよね…………ごめんね。でも、僕にだって譲れないものはあるんだ」
風に金色が舞い――僕の戦いが幕を開けた。アンバーが落したいくつかのロックシードを拾い、僕は前に進む。
まずは……ヘルヘイムに行ってみようかな。行く方法はいくらでもあるだろう。代表候補生はインベス関連の情報も手に入れやすい立場だったし……まずは情報収集から始めないとね。
先行きは不安だけど、もう立ち止まらない。
シャルルがバロンです。
しばらくはシャルロットじゃなくてシャルルとして扱うので。
シャルロットがバロンと言うのは、割と予測された方がいましたね。
ちなみに、この物語は最終章から話を作っています。