連合軍と呼ばれる部隊による作戦決行の当日までそれほど時間はかからなかった。俺たちは一旦、飛んできたスレイプニルに乗り込んで空へと上がり、そこからそれぞれの行く場所へ向かうことになるのだが……
「なんつーか、デカい船だよなぁ」
「噂には聞いておりましたが、特殊型ISの技術の粋を集めて作られたという宇宙船……凄いですわね」
「中は案外広いのねぇ……」
ポイントまで少し時間がかかるため、俺たちは中を見て回っているんだけど……色々片づけられているのはこれから最後の決戦に赴くからだろうか。
しかし、なんで大きな木が植えられているんだろう……
「一夏、お前は見たことあるだろ」
「流石にあんなでかいのを見たら忘れないと思うんですけど……」
「まあ昔は植木鉢サイズだったし」
「……え」
それって、10年ぐらい前から英さんが育てていたっていう……待ってください、十年でこのサイズ!?
「ちょ、成長スピードがおかしいでしょう!」
「普通の植物ではないのでは……」
「案外、ヘルヘイムの植物だったりしてねー」
「そうだぞ」
「「「……」」」
あいた口が塞がらない……
「まあ驚くのも無理はないかなぁ……束さんも、時々我が目を疑うから。正確には向こうの植物がこっちの環境に適応して生まれた亜種なんだけどね。詳しいことは分かっていないけど、この実を食べてもインベスにはならないんだよ」
「へぇ……」
「猛毒だけどね」
まあ、人が食べたら有毒なものなんて結構あるし……でも、なんでここに植えてあるんだろうか?
「そういえば、一夏たちにはまだアームズの生成プロセスを説明していなかったか……エネルギー供給はロックシードで行っているわけだが……物質化させているエネルギー、っていうか力の源はどこにあるかわかるか?」
「ロックシードで作っているんじゃ……いや、それじゃあアームズを展開するときにクラックが開く必要がないか」
「そういえば、なんでクラックが開いているんだろうな……毎度のことで気にもしていなかったけど」
「手に入れたロックシードはドイツ軍でも解析していたらしいが……研究所はことごとく潰されたからな……私も詳しいことは……」
「ドイツの方は、亡国とつながりがあった奴らだと思う。そういう奴らをつぶすのもうちの仕事だったし……話を戻すが、光合成みたいに向こうの植物が出している粒子が構成材料なんだよ。だから限定的なクラックを開いてアームズを呼び出しているわけだが……向こうの世界でアームズを呼び出すと、クラックは開かないでそのまま構築されるぞ。クラックが開く必要がない分、向こうの方が若干展開が速いな」
「それでは、この木はその粒子が無い場所でもアームズを――なるほど、宇宙空間ではアームズを展開できないわけですね」
「そういうこと。活動の拠点が宇宙になるとどうしても今までみたいにいかないことも多くて……この宇宙船の中は擬似的に向こうと同じ状態だから、クラックが開かずにアームズが展開されるぞ。今のうちに変身しておいた方が良いし、とりあえずやってみな」
なら――お言葉に甘えて。
「「「「「変身!」」」」」
俺たち五人は一斉にドライバーを動かす。そして、頭上にクラックが開かずにその場で鎧が構築されていくのがわかる。本当に、その場で構築されたのか!?
【ソーダ! メロンエナジーアームズ!】
【ソーダ! ピーチエナジーアームズ!】
【ソーダ! レモンエナジーアームズ!】
【ソーダ! チェリーエナジーアームズ!】
【リキッド! マツボックリエナジーアームズ!】
それぞれその姿を変えていく――もうずいぶんと体になじんだ、俺たちのもう一つの姿。
じっくりとみてみるのは初めてかもしれない。
「本当にその場で構築されたな……」
「へぇ、性能自体に変わりないのね」
「ですわね……ところで、まだ到着はしないのですか?」
「ちょっと待っていてくれ――」
英さんが通信機を取り出して、どこかに繋げているが――すぐにその返事が返ってきた。ただ、その声ってどこかで聞いたことがあるような気もするんだが……どこだっけか。
うーん、のどまで出かかっているんだけど……あ、思い出した。百花さんだ…………
「作戦の統括オペレーターから準備完了したと通信が入った。各地の部隊も合流しているから、みんなにはそっちに合流してもらう――最後に一言だけ言っておくぞ」
英さんは気を引き締めるように、俺たちの顔を見渡して言葉をつぐもうとする。しかし、なかなか形にはならない――そうして出てきたのは、本当に一言だけ。
「生きて帰って来い」
それは、この人が10年の間に見てきたものから来た言葉なのだろう……自然と、緊張が走る。
その言葉を胸に――俺たちはそれぞれの目的地に向かう小型の飛行艇に乗り込む。正直、心配なことなんていくらでもあるけど……
「絶対に、生きて帰るんだ」
◇◇◇◇◇
その日、世界各地で人類の反撃が始まった。今まで、少ない戦力が突発的に開くクラックや亡国機業の起こす実験と称した都市を狙ったテロから人々を守っていたが――そんな日々を終わらせるためにも、今まで進められていた計画を実行したのである。
IS部隊と量産型ドライバー使用者による混成部隊。それ以外にも、通常の兵士も多く含まれている。
「クラックを開かないようにするんだ! 封印作業開始!」
世界各地でその号令と共に――以前英がモンドグロッソの会場(現IS学園)に使用した空間に作用する特殊バリアー発生装置を改良したものが起動した。
一定の志向性を持たせることで、封印の際によどむエネルギーをムーと呼ばれている大陸に集める仕様。それは、かの大陸をこの世界に引きずりだす力を持っていた。同時に、不安定なクラックを安定させていく。
「――――強大なエネルギー反応です!」
「何っ!?」
だが、そんなことは彼らも予想の範囲内――その場に現れたのは、オーバーロードの一体。
今まで表舞台に出ていなかっただけで、オーバーロードはそれなりの数が存在しているのだ。
「テメェラ、覚悟はできているんだろうなぁ――――くそ!? なんだこれ目がいてぇ!!」
しかし――オーバーロードに対策もないわけがないのだ。元々、ヘルヘイム植物の除草剤として開発されたそれは――濃度を高めればオーバーロードだろうと通用する。巨大な水鉄砲が、強力な武器になる。
皮膚が焼けるように熱い。オーバーロードと言えどそれは体に毒である……もっとも、それで死ぬかと言えばそうではないのだが。
「舐め腐った真似しやがって――――お前ら、全員殺して――――ッ!?」
その時、空からその体を切り裂いた何かが現れた。
見た目こそ連合軍側のトルーパーと大きな差はない。しかし、その腰に巻いているのは――ゲネシスドライバー。
「結構距離があったように思うけど――俺が一番のりかよ……IS技術を応用した通信機がここまで精度いいなんて……と言うわけで、みんな! 俺が一番槍つーことで――――オーバーロード相手はきつそうだけど、なんとかしてみせる!」
五反田弾。偶然が重なってこんなところまで来てしまった彼は――しかし、覚悟はできていた。
自らを犠牲にしてでも誰かを守る覚悟ではない。
「生憎、死ぬつもりもないし――負けるつもりなんてもっとない!! 俺だって明日を生きたいんだッ!!」
その言葉に呼応するかのように、彼らの抵抗としてインベスが大群で押しよせてくる。それでも、弾は退かない。むしろ、その隣に多くの戦士が肩を並べた。
人種、国籍、年齢……みなバラバラだ。言葉が通じているのも怪しいのに――彼らはここに一つとなっている。
「なんでだよ、お前ら人間はもっといがみ合うような生き物だろ!?」
「たしかに、そういう部分もあるけど――だからって、お前らを野放しにしたら死ぬかもしれないってのに、いがみ合い続けるなんて誰が決めたんだよ……あんまり、人間舐めてんじゃねぇよ、人間から逃げたくせによ」
「誰が――――誰が逃げたっていうんだぁあああああ!!」
あるいは偏った見方なのかもしれない。しかし、オータムとの戦いで弾の瞳には彼らが人から逃げたような存在に見えるのだ。
強さと言うのならば人を凌駕しているだろう。空から援護してくれているISでさえ勝てるかどうか怪しい。それでも、不思議と負ける気はしなかった。
「ザケンナァ!!」
爪が伸びるように襲い掛かってくる――どういう能力なのかはわからないが、こういう時の対処法は簡単!!
グルグルと槍を回転させて爪を弾く。さすがに、全て弾かれると思わなかったのか、オーバーロードは驚いたような声を出した。何とか対処しようと動いてきたけど――それでも、遅い!
【マツボックリエナジースカッシュ!】
槍の先にエネルギーが充填されていき、奴の攻撃を弾いていく。その間にも、インベスがとびかかって俺を邪魔しようとしてくるが、それは空からの狙撃や地上で戦ってくれている人たちが止めてくれる。
「なんで、そこまで迷いなく向かってこられるんだよ!?」
「結局のところさ、みんなが自分のやるべきことをしっかりと自覚して動いていりゃぁ……言葉なんていらないし、背中も任せられる。そして、俺のするべきことは一つ。お前を倒すことだ!!」
振りかぶった拳は――その面に叩き込まれた。そのオーバーロードは驚くほど軽く、錐もみ回転しながらその体を何度もバウンドさせて倒れてしまう。
(――予想外に弱すぎる? いや、まだ何か隠し玉があるかもしれねぇ……)
油断はできない。周囲を警戒して、オーバーロードの動きをじっと見る……全く動かないようにも見えるが…………手がもぞもぞと……ッ!?
【マツボックリエナジースパーキング!】
右足に充填されたエネルギーを、すぐさま開放して止めを刺そうと飛び上がったが――その攻撃はかわされてしまう。だけど、これでいい!
その動かしていた手を奴は引き抜いて――その跡に残っていたおかしな穴。そして、のびていた爪……あいつ、地面の中に爪を通していやがったのか……漫画とかでよくある戦法だと思って注意していたら実際にやるなんて……
「狙いは、俺か……それとも後ろの機械か」
「クソッ――ふざけてんじゃねぇよ! 俺は人を越えし者! オーバーロードだ! お前みたいなガキに舐められてたまるかよ!! お前らみたいな下等人種なんてすぐに殺せるんだッ!!」
吠えるように叫び――その口から出てくるのは、矮小な言葉。正直、オーバーロードなんていうんだからもっと強靭な精神とかを持っていると思ったんだが……いまいち、条件がわからない。
他のみんながあったことのある中には、精神的に強靭な奴もいるらしいけど、こいつはそんな風には見えない。むしろ、自尊心で塗り固めたような……
「ガアアアアアア!!」
「――考える、時間は無いよなッ!!」
冷静さを欠いている今が最大のチャンス! 槍を使って相手の攻撃を受け流し――その威力を足に伝える。
「――――ッ」
「これで、しまいだ!!」
そのままハンドルを再び二回動かし、槍を地面に突き刺して上へと高く飛び上がる。
まるで、棒高跳びの選手のように――しかし、これから行うのはそんな生易しいモノじゃない。
「お前にだって、生きていたい理由はあったと思う――――だけど、それが他の人間の生を奪っていい理由にはならない」
「――ふざけるな、おまえぇら下等な生き物は黙って俺らに従っていれば良かったんだ――――なのに、なのになんで立ち上がるんだよッ!! 人を見下すような、愚か者しかいないっていうのにッ!!」
その叫びは一体、何だったのか。あるいは、人であった頃の名残なのか――それだけは、消しちゃいけないと思えるものだった。しかし、それでも言わなくてはならないことがある。
「だからって、そんなになって――自分が周りに同じことをしちゃ意味がないだろうがッ!!」
表情なんてわからないハズなのに――俺には、そいつが泣いているように見えた。もしかしたら、道を間違えちまっただけなのかもしれない。それでも、名も知らぬオーバーロードはここで止まるような奴じゃない。それだけは、なんとなくわかっってしまった。
だからこそ――ここで終らせてあげるべきだ。俺のエゴだろうと、勝手な意見だろうと、俺はそうするべきだと思ったから――――
【マツボックリエナジースパーキング!】
再び、右足に集まるエネルギー。今度は、外れなかった――ただ、最後にアイツがほっとしたような顔だったのは……俺の気のせいなのだろうか…………きっと、答えは出ない。
通信で、みんなも戦いが始まっている様子だが……後味、苦いなぁ…………思った以上に覚悟、必要だぜ。
先陣は弾君に。
さて次はだれにするか……