オンドゥルラギッタンディスか?!
最初に動いたのは誰だったのか――それは分からないが、一つだけ言えることがある。
「「蜂矢英ぅううううううううううう!!」」
僕が、同時に二人から狙われたということだ。まあ、6対6の構図ではあるのだが、それが1対1の構図になるとは限らないわけで、何を言いたいかというと……非常に厄介だということだ。
「猛は分かっていたけど、箒ちゃんまでこっちにくるかよ!」
「当然だ。私の得るハズだった幸せを取り戻す。そのために、必要なことだ!!」
「小娘が……男同士の戦いに水を差してんじゃねぇよ!!」
「そちらこそ引いてください。これは、私の戦いです」
お互いに一歩も引かぬ。仲間割れもほどほどにしてほしいところだが……こちらにとっては好都合。
【ノロシオーレ!】
拳にエネルギーを集めて、一気に地面に叩きつける。巻き起こる砂ぼこりに気が付いたときにはもう遅い。
「クソッ! 目くらましかよ……」
「小癪な――」
あいつらが動きを止めている間に、僕らは固まって円陣を組む。お互い背中を合わせて、隙を作らないように。
ちゃんと全員そろっているな……なら、作戦を決めるか。
「視界もすぐに晴れる。どうするか決めたから心して聞けよ」
「分かってます――まあ、なんとなくわかっていますけどね。マドカって奴は俺が相手します」
「それじゃあ、あたしは箒に行くわ。蜂矢さんが相手をするよりかはいいでしょ。それに、お姉さんは別のを相手しないとダメみたいだし」
「ごめんね……ちょっと、あのデカブツと話をつけたいから」
「ならば、私とセシリアであの炎と氷か」
「ですわね……時間稼ぎぐらいにしかなりそうにありませんが」
「弱気になっていると、後がキツイぞ――僕は、猛と戦う。それじゃあ、行くぞ!!」
まっすぐに、自分の標的に向かう。
驚いたのが何人かいるが、僕たちの目的は一つ。先ほどの動きを見た限り――こいつらにチームワークはない。
「ってわけで、決着つけようぜ。稀代の不良」
「ぬかせ――長かった。この日をどれだけ待ち望んだことか!!」
「勝ったつもりになるなよ。勝つのは、僕だ!!」
ブースターを細かく動かし、猛の拳を避ける。クロスカウンターに持っていきたいが、隙がほとんどない。深追いすると危険だというのがわかる。
しかも、奴の拳が通った痕はまるで空間が歪むように見えている。もしかしたら……一撃でも食らうとかなりマズいのかもしれない。
「ちょこまかと躱しているんじゃねぇ!!」
「無茶言うなって!!」
時折、ハーモニクスカノンで受け止めることも考えるが、ダメだ。一撃でも受ければそれでアウト。
ステゴロで挑むにはかなり厳しい。
「クソッ! オーバーロードの中でも規格外になったよなぁ!!」
「褒め言葉として受け取っておくぜ」
◇◇◇◇◇
束は、プロテアブルームにまたがりながら、巨竜と対峙していた。
この女を一目見たときから気が付いたこと――いや、ある種同業者故に気が付いたというべきか。
「お前……亡国機業の科学者だろ」
『ご明察。さすが篠ノ之束だ。同業者には気が付くのか』
「……一応聞いておく。グリフォノイドを作ったのは、お前か?」
『はっはっは! たしかにそれはわっちが作ったものだよ。よくできていただろ?』
「――――潰す」
『やれるものなら、やってみろ』
直後に、巨大なブリキの腕がインベスの頭を殴りつけた。
さすがにその一撃には予想外だったのか、女――ミランダは緊急回避する。
『なんだその大きさは!? データにないぞ!?』
「束さんはね。かつてないほど怒っているんだよ……箒ちゃんにあんなもの与えられて、ISたちは苦しめられて――しかも、あんな代物を作られていた。ああ、はらわたが煮えくり返る!!」
元来、束もマッドサイエンティストのタイプだ。しかし、彼女はむやみに人体実験などを行うような人物ではない。それは、ISを完成させた当初からそうであり、人道を大きく外れた行為は他人を認識していないころからしていなかった。
束にもその一線を越えない矜持がある。しかし、この女はそれを越えた。そのせいで、何人もの人が傷つき――リリーのような子供が生まれた。クロエみたいに悲惨なことになるかもしれなかった子が生まれた。フロンのように奪われた子供が生まれた。
「許せるわけ――ないだろうが!!」
【パンプキンエナジースカッシュ!】
【ペアーエナジー!】
杖の先端にエネルギーが集中し、更に光が集束する。
二つのロックシードのエネルギーを一点に集中させることで巨大なインベスさえも消し飛ばそうとしているのだ。
『いいのか? 私は人間だぞ。お前にそれができるのか――――まて、何故止まらない』
「言っただろ。許せるわけがないだろって……それに、対インベス弾だから死にはしないよ。五体満足かはわからないけど――死なないように治療してやる」
『まずいな――――ならば、下の奴らを盾にッ!?』
ミランダが見たのは、更に光が大きくなる光景だった。
その少し前、鈴と箒はつばぜり合いを起こしていた。
「ああもう! この分からず屋!!」
「黙れ!! お前なんかが――なんでお前が一夏の隣にいるのだ!!」
「そんなの、自分で考えなさいよお子ちゃま箒!!」
黒色のロックシードは、膨大な力を持っている。それこそエナジーロックシード以上の。しかし、つばぜり合いが起きているのは――精神によるものか。
鈴は、その心に思い描いている者のために。箒は、自分だけのために。
「うおおおおおおお!!」
「思いの強さは私の方が上のはずだ!! なのに、なのにっ!!」
「思いだけじゃないのよ――その先にいる、アイツをどれだけ想っているっかってことでしょうが!! あたしは胸を張って言えるわ!! 一夏が好きだから、あたしは頑張れる。今ここにいるすべては、あいつが好きだからよ!! 箒! あんたはどうなの!? 無煙を張って、言えるの!?」
「――――だ、黙れぇえええええ!!」
武器によるつばぜり合いではもう意味がない――いや、勝てないと悟ってしまったのか、箒は無双セイバーを投げ捨てて肉弾戦に入る。
それに合わせて鈴も武器を投げ捨てて応戦するが――箒は一つ間違えた。
「あたしは、素手の方が強いわよ」
「――――ガッ!?」
掌底。体を円運動のように動かし、箒の手首をつかんで地面に叩きつける。そのまま、足で薙ぎ払って、上に蹴り上げ。更に、ひじで突く。
「言ったでしょ! 頑張れるって――あたしが代表候補生になったのは、ISの操縦技術だけじゃないのよ!」
「く、くそ……ありえない。ありえない――私が、負けるなんて……ふふ、ははは…………やはり、こいつを使うか」
薄暗く笑った箒は、新たなロックシードを取り出し――――
「温い攻撃だな、織斑一夏!!」
「そっちこそ、最初に戦ったときの方が強かったぜ」
一夏とマドカ。その動きは似ていると言えるだろう。
もしかしたら、家族として育ったかもしれないからこそなのか、それとも他に何かがあるのか。
「――ッ!?」
「一人きりで戦って意味なんかあるかよ、そのままでいいのかお前は!?」
「黙れ!!」
それでも、必ずどちらかが上回ってしまう。
そして、今回は一夏が上回ることとなった。
「黙れ黙れ!! 平和を享受したお前などに、与えられたものに満足していたお前などに、この私が負けるものか!!」
【マスカダインオーレ!】
手に集めたバスケットボール大の光の塊を、殴りつけるように一夏へと叩き込むが――その一撃も手首をつかまれてしまえば当たらない。
驚愕に支配されるが、そのまま終わるはずもなく、一夏はまっすぐにマドカを捕えていた。
「助けてほしいのなら、そう言えよ――俺も、千冬姉だって答えるぜ――――だから、頭冷やせよ」
「――ッ!? 何も、何も知らないくせに、知った風な口を聞くなぁあああああ!!」
それは、諦めにも似た感情だったのか。
それとも別の何かだったのか。もはや、彼女にさえもわからない。
「ラウラさん! 右から来ますわ!!」
「了解!」
セシリアとラウラは、二体のオーバーロード相手に戦っていた。
かたき討ちとは言うものの、スコールと名乗っていたオーバーロードは理性的だ。そのため、シャーベットと名乗る女性型のオーバーロードと連携してくる。
それに対抗するために、セシリアたちも連携しているのだが……
「やはり、地力の差が大きいですわね……」
「それはそうよ。いくらロックシードの力で強化しようと、私たちとはスペックで大きな差があるわ」
「ならば――一部でもそのスペックを上回ればいいこと!!」
「越界の瞳か……厄介なものをッ!」
お互いの隙はカバーできる。その上で、ラウラは敵の動きをよく観察して、先手を打つ。
それに合わせるようにセシリアが援護することでオーバーロードとも渡り合っているのだ。
「そろそろ、邪魔くさいから――薙ぎ払うわよ!!」
「――とどめだ!」
「ラウラさん――――今ですわ!!」
「了解!」
【レモンエナジースカッシュ!】
その音声が流れると同時に――セシリアとラウラの体が何人にも分身した。
「なに!?」
「これは――いえ、ただの映像よ!」
「だが、攻撃を出してしまったぞ――――ッ!?」
「炎と氷がぶつかって――キャアッ!?」
相反している能力だったからこそ、二人はそこに勝機を見出した。
一瞬の隙を狙って、攻撃をぶつけ合わせる。
「上空にも注目していてよかったですわ――ラウラさん、避けますわよ!」
「わかっている!!」
空から降ってきた光は――あたりを包み込んだ。インベス体である彼らには効果は絶大だが、自分たちにも影響が出ないわけではない。
束の打ち込んだ光が炸裂したことで、オーバーロードたちは吹き飛ばされてしまう。
「やりましたわ……反撃開始と、しゃれこみましょうか――――――ッ!?」
「せ、セシリアぁああ!?」
一瞬、何が起こったのかわからなかった。気が付いたときには宙を舞っており――地面に落ちた。
みんなが駆け寄ってくるが……体が動かない。
「ゲホッ!? い、一体何が……」
「……最悪の事態みたいだな」
英の言う通り、その場には――黄金の騎士が一人。
炎を纏って、ここに降臨していたのだ。
「久々の再会だというのに、挨拶もなしかね……まったく、気がめいるよ」
「そりゃこっちのセリフだっての……マルス、復活かよ…………」
「あと、ほんの一息というところだが――私の城の前で騒がれるのも嫌なのでね――――ここで、死んでもらうよ」
剣を掲げ――力を集めていく。完全復活はしていないようだが、消耗している上に、動けないセシリアをかばいながらでは戦えない。
それに、一度吹き飛ばしたとはいえオーバーロードたちもまだ残っている。
絶体絶命のピンチ――――されど、この状況をじっと耐えて待っていた者がいた。
戦いに巻き込まれないように、マルスに隙ができるのをじっと待っていた者が。
【バナナスパーキング!】
マルスは最初、何が起きていたのかわからなかっただろう。
自分の腹からバナナの形をしたエネルギーが生えていたのだから。
「な、何だこれは!?」
「悪いけど――黄金の果実はいただくよ」
「――――その声、シャルロット!?」
いつの間にか現れた彼女――いや、彼はずっとこの機会をうかがっていたのだ。
一縷の望みだろう。かなえられないかもしれない――だが、黄金の果実を確実に手に入れるにはこのタイミングしかなかった。
「ずっと待っていたんだよ。この大陸に潜入してからずっとね!」
「ぐ、アンバーの連絡が途絶えたのは……」
「ああ! 僕が倒した! その後は、栄養もロックシードからだったから正直つらかったけど……これで、僕の願いもかなう! もう一度、お母さんに会うんだぁあああ!!」
押し込むようにバナスピアーに力を入れ、マルスの息の根を絶とうと――――
「いい覚悟だ。私自身が言えたことではないが――後方注意だ」
「え――――ッ!?」
――――何か強い衝撃が、シャルルを襲った。
全員がそちらを向くと、黒い鎧に身を纏った箒がそこに立っているではないか。ただし、その鎧はどこか見覚えのあるものだったが。
「……黒い、ノロシアームズ?」
「いや……たぶん、あれはカチドキアームズ…………データでしか見たことはなかったけどな」
「私にこいつを使わせるとはな……ははは、ハハハハハハ!」
「まだ時期尚早かとも思ったが…………やむを得ない。少々、相手をしてやれ。今の一撃で、まだ数日は復活にかかりそうだ……」
それだけ言い残すと、マルスはスコールとシャーベットを引き連れて戻っていく。城自体が自走し、どこかへと走り去って行ってしまったのだ。
「というわけだ……他にも残った奴はいるが、まずはシャルロット――――もう少しで、望みがかなったというのに……邪魔をしてくれた礼をしないとなぁ」
箒の心情を表すかのように――彼女の体から、闇が噴き出した。
まるで、怒りが噴き出すかのように。
もうすぐ、最強フォームを出せるな……
うちのビス子、ドライに。
長かった……