IS学園食堂。近頃は色々とあったためにこうして会話することもなかったが、一夏、鈴、弾の三人は久々に三人で昼食を食べていた。
もうすぐ大きな戦いがあるというのに、嘘みたいに穏やかな時間。まるで、今までのことが夢であるかのような感覚もするが……この場に、生徒たちがいないことが夢でないことを教えてくれる。
「みんな、忙しそうだな」
「そうねぇ……IS学園の生徒は緊急時、炊き出しとかやったり色々と忙しいのよ」
「俺らはここにいていいのかって話だけどな」
「いいんじゃない――明日には、最後の戦いが始まるんだから」
鈴の言った通り、明日には再びムーへと突入する。今度は真正面から突っ込んでいくのだ。無事では済まないかもしれない。
隣人との永遠の別れかもしれないというのに……三人とも、悲観的とは言い難い表情だ。
「弾、蘭とか布仏先輩とかに何も言わなくていいのか?」
「安心しろ。もう話してきたさ……見ろこのひっかき傷。二人分だぞ」
「そりゃ怒られるでしょうよ。偶然巻き込まれただけなんだから、おとなしくお留守番していてもいいのよ?」
「ここまで来たら最後まで付き合うぜ。二人だけで行かせると危なっかしいし」
「どういう意味だよオイ」
こんな軽口を叩けるのも最後になってしまうかもしれない――そう思うと、不安が湧きでてくる。しかし、三人ともそれ以上にまたこの日常を過ごすために帰ってくる。その思いの方が強い。
だからこそ、いつものように笑っている。これが自分たちの守るものなのだと。
「なんていうかさ、あたし……中国に帰った時に、もうこんな日常を過ごせないんじゃないかって思っていたんだ」
「……鈴」
「そんなに離れているわけじゃないにしても、別の国なのよ? 実際の距離以上にはなれちゃったって思ったの……でもね、結局人ってのは自分から進まなきゃ変われないのよ」
ただひたすらに、またここに帰ってきたかったから頑張れた。自分の願いを叶えるには自分から動くしかない。どんな奇跡であろうと自分から呼び込むしかない。
降ってわいたような幸運にしがみつくのも自分の性に合わない――自分の未来を切り開いてきたからこそ、今の自分がある。
「俺だって、最初は流されるままだったよ……色々なことがあって、たくさんのものを見てきて…………クリスマスの時のことや、学園でセシリアやラウラたちとぶつかって……本当に色々な経験があったからこそ、今の自分がいるんだ。たとえ俺が何者だとしても――俺の過ごした時間だけは俺のものだ」
「一夏……やっぱり、あの千冬さんにそっくりな娘のこと気にしているの?」
「そりゃ、な……千冬姉も結局言葉を濁しているし…………確証がないのか、それとも教えたくないのか」
「千冬さんのことだから後者だと思うけどな。何か言えない事情があるんだろうけど」
「それでも、家族なんだから相談してくれてもいいじゃねぇかとは思うよ……たとえ、どんな事情があるにせよ、アイツとの決着は俺がつけなくちゃならない」
あの時、鈴はもしかしたら死んでいたのかもしれない――あの時のことだけは、自分でケリをつけなくてはいけないのだ。一夏にとって、もう一度ムーに向かう理由があるとすればそれが一番大きい。
「箒のこともあるし、正直両方は辛いところだけど」
「まあそっちは任せなさい。半年もいたわけじゃないけど、箒とは趣味も合うし、友達だと思っていたのよ……それなのに、あのバカ」
好意とは押し付けるものではない。強迫観念で抱くものでもない。
何が原因なのかは知らないが、本気で目を覚まさせてやらなくてはならないようだ。
「結局、ビンタの一つも入れてないんだから……あいつはあたしが止めてやるわよ」
「大丈夫なのか? エナジーロックシードを使っていてもキツイと思うんだが……」
「それは大丈夫よ。束さんから秘密兵器を預かってきているから」
「秘密兵器?」
「いつの間にそんなの貰ってんだよ……」
「まあ、箒と戦うのに策を練らないわけにもいかないからね。それに、一夏だけじゃなくてあの人たちだって箒のことを止めたいと思っているのよ。でも、二人は先に進まなきゃならない」
体力を温存して、マルスとの戦いに挑んでもらわなくてはならないのだ。
だからこそ――箒と戦うのは自分しかいない。
「――だったら、私も手伝うよ」
「え……シャルロット!?」
「怪我はいいのか?」
「別に、大きな怪我はしていないよ」
にこりと、一夏たちに笑顔を見せながら彼女は歩いてきた。手には適当にパンを持っており、彼女も昼食を食べに来たことをうかがわせる。
「手伝うって、どういうことよ」
「私にだってできることはあるよ……蜂矢さんたちに頭を下げてきて、明日の作戦に参加させてもらったから」
「……まだ、勝手なことをしたことについては納得できていないけど、それでもついてくるの?」
「うん……色々と、間違ったことをしていたこともわかっているし、結果的に皆の手だけ助になっただけで私が裏切ったことには変わりない。それでも、今度はみんなと一緒にいたいから……だから、お願い」
「…………まあ、一人でも戦力は多い方がいいし。でも勘違いしないでよね、別に全部許したわけじゃないんだから」
「おお、久々のツンデレ――――ゲフッ!?」
「弾、口は災いのもとよ」
「いえっさ……」
最近はデレが多くなってしまい、油断していた……弾は少し意識が薄れるなかで、そう思った。
一夏としては久々にコントをみたなと考えていたが、ふと気になることを思い出してシャルロットに尋ねる。
「なあ、シャル。オーバーロードの一人を倒したって聞いたけど本当のことなのか?」
「うん。幻覚能力を持っている奴だよ……まあ油断していたからってのもあるけどね」
強さ的には猛やシャーベットといったクラスよりは一歩劣るものの、一夏たちが封印作業中に現れた者たちよりは強い。それを、シャルロットはゲネシスドライバーよりも出力の劣る戦極ドライバーを使って倒しているわけだから……
「あれ? シャルって俺たちよりも強い?」
「不意打ちとはいえマルスに一矢報いているわよね……」
「…………なんだか、自信がなくなった」
「そ、そんなことないと思うんだけど」
◇◇◇◇◇
スレイプニル船内、最後の調整をスタッフ総出で行っているが――なかなか終わらない。
「ウガァ!! シールドの出力調整が面倒すぎるだろ!!」
「英、叫んでいないで手を動かして……束さんでも大変なんだから文句言わないの」
「分かったよ……ところで、そこで伸びている百花さんはどうする?」
「放っておいて」
ムーに張られてしまったバリアを突破するために色々と準備を進めているのだが、なかなかどうして終わらない。備えあれば患いなしとも言うが、備え自体ができるかどうかも怪しくなってきた。
こんな調子で終るのかとも思ってしまうが……
「ハァ、どうしたものかねぇ…………ん?」
そこで、誰かがこっちを見ているのに気が付いた。懐かしい気分になるこの視線は……
「簪ちゃん?」
「……お久しぶり、です」
「懐かしいねぇ……遊園地に行ったときはまだこのぐらいだったっけ」
束が腰のあたりに手をやって見せた通り、一緒に遊びいったときはまだ小学生だった。
あの頃はこんな宇宙船を作ったりするとは夢にも思っていないころだ……本当に懐かしい気分になる。
「それで、どうしたの?」
「えっと、お手伝いに来たのと……あと、あの神話なんですけど」
「解読できたの!?」
「いえ、私はこの方が好きかなって順番を変えてみたら……こんな風になったんですけど」
「そ、それでいいのかな?」
「まあ別段解読しなくちゃいけないものってわけでもなかったし、気楽に考えてくれるだけで良かったんだけど」
それでも、それっぽい文章になったのならそれはありがたい。プリントアウトしてきただろう紙を読んでみると――――
黄金の果実は世界を創る力 食したものに全知全能の力を この星の王とする
力あるものを戦いに導く蛇王あり 継承者と裁定者を選び出すものなり
裁定者となりし始まりの少女 継承者の戦いを見つめる者なり
されど始まりの少女 それを許さず自らが王となった
邪悪が運びり黒き民生み出す
武に優れるは紅き民 智に優れるは蒼き民
生み出されるは人の手により生まれし黄金の果実
使われしは光やどす腕輪
二つの力用いて黒き女王封ずる
されど紅き王 力におぼれ果実を飲み込む
二つの果実合わさりて心をやどす
全てを飲み込み蛇王すら飲み干した
腕輪 果実を封じ願い眠りにつかせる
そして紅と蒼の民互いに袂を分かつ
目覚めの時は来る
飲み込みしヘビの力用いて傀儡を探し出す
黄金の果実に魅入られしもの達 互いに傷つけあい殺しあう
黄金の果実 自らの思惑通りに事を運ぶ
されど黒き女王その意思を目覚めさせる
黒き女王その力を用い世界を支配せんとする
二人の若者 果実の力取り込みわがものとした
蒼の末裔 始まりの男
紅の末裔 始まりの女
二人力を合わせ黒き女王を撃ち滅ぼす
黄金の果実分かれて欠片となる
世界が分かれ二つとなった
世界が濁流にのまれしとき我ら大いなる箱舟にて飛び立った
そして年月が経ち黒き女王の名は地獄を意味している
かつての森は地獄の森 我らの星の生き物を拒む森
ここに神話を我ら碧の民が記す
――あれ? これって……
「お二人から聞いた話と、なるべく矛盾が出ないようにしたんですけど……どうですか?」
「これ……」
「……確かに矛盾が少ないし、ほとんど正解に近いかもしれない――でも、これって」
ああ……黄金の果実のメカニズムを解説するための文章にも思える。
「元々、伝承そのものの黄金の果実があったとして――それは人工的につくられた黄金の果実とひとつになったってことだ。そうなると想定以上に厄介な相手ってことになるけど……」
「それに裁定者と継承者って……たぶんセーフティみたいなものなのかな?」
「おそらく。蛇王ってのが人間の代表に果実を預けて、その人物がこの人ならば渡してもいいという奴に黄金の果実を渡すってことなのか?」
でも、その裁定者が自分で黄金の果実を使ってしまった――それも、悪い方向に。
「あ、あの……間違っているかもしれないけど……」
「いや――裏付けるようなものはいくつか見ているんだよ……」
僕と束が見た太古のオーバーロード。話の内容からするに、おそらくはアダムとイブのモデルのような存在なのだと思う。ヘビに諭されて、果実を食べてしまったあたりなど……しかし、その後はどうにか自分の意識を取り戻して逆に封印したようだが。
その後の世界が割れた出来事は……ノアの大洪水か? もしくは、神話の終末の光景か。
「しかし――これは色々と厄介なのが絡んでいるように思えるんだが…………」
なんていうか、マルスだけを倒せば済む話なのかどうか……
考えていても仕方がないことではある。僕にとって――伯父が引き起こしてしまった問題、父が残した研究、彼らが何をしていたのか今では知ることもできないが……家族の残した問題だ。僕が解決するべきだろう。
だからこそ――今は、マルスのことを第一にするべきである。
「とにかく、ありがとうな。女王らしきものは見ていないし、そう気にすることはないと思うけど……気を引き締めてかかった方がよさそうだ」
「……余計な気苦労をさせたでしょうか」
「別に問題ないよ。むしろ、束さんたちはいざとなったら英の腕輪に頼るしかないんじゃないかって思っていたから」
「いざとなったら、こいつに頼りきりで――でも、ご先祖様たちが、自分たちの力で何とか出来たってなら僕たちにだってやってやれないことはない。自分の力で、何とかしなくちゃな――それじゃあ、さっさとこいつの作業を終わらせるか」
「だね。かんちゃん、時間はある?」
「大丈夫、です――私だって、手伝いに来たんですから」
それに、と前置きして――続々とIS学園の生徒や先生たちが集まってくる。
皆、自分に手伝えることはないかとやってきたのだ。
「これでも、足りませんか?」
「ふふ、容赦はしないから……時間との勝負だぞ!」
「朝までに終わらせるよ! 図面は引いてあるし、しっかりお願いね!」
オオーと、元気のいい声と共にみんなが動き出す。
例え戦えなくても、出来ることはある。
未来を掴むために自分ができることを、精一杯頑張るのだ。
そして、朝がやってきた。
天気は快晴。この先、何が起こっても不思議じゃない。
どんな困難が待っているかわからない。もしかしたら、誰かと永遠に会えなくなるのかもしれない。
「それでも、ここから先は自分で行くか行かないか決めてくれ――ってのは、野暮か」
束、百花さん、信二と僕を含めたスレイプニル所属のメンバー。
スレイプニルの操縦のこともあるから百花さんには苦労を掛けるけど……本当に感謝している。信二だって大変だったろうに……束も、楽しいことだけじゃなくて――辛いことも苦しいことも、共有してきた。これからだってそうなんだ。
一夏、鈴ちゃん、弾君、シャルロットさん、ラウラ……彼らだってここまでついてきてくれてなくてもいいのに……止めても、無駄なのはこの前のことでよくわかっている。
「本当に危ないことが待っているし、何が起こるかはわからない――それでも、必ず生きて帰るぞ!!」
応ッ、という掛け声と共にスレイプニルは発進する――行先は、太平洋に現れた大陸。
最後の戦いが、始まろうとしていた。
というわけで、次回より最終章後篇をお送りいたします。
それと、ゴッドイーター5周年生放送ですね。
無印体験版から遊んでいますが、初期の鬼畜なミッションが懐かしい。
バトスピ関連だと運が跳ね上がるくせにそれ以外だと「うわぁ……」とリアルに引かれる私ですが、後篇も頑張っていきます。